22.W.L.C.開幕!④
その後、神野は紫咲に、照の小説が完売したと報告をした。『じゃあ、もう遊んでいいですよ。』と、許可を貰った4人は、会場を回した。
ありとあらゆるジャンル。各国の参加者。所々聞こえてくる違う言語。
まさに異文化交流会。
「まあ、でも極論でいうと、小説も一つの手段しかない。漫画化、アニメ化を期待しながら書いてる作家も、割といるからな。」
「そうなんですか?」
「だってさ、自分が書いたキャラが動くのは、感動しない?」
『『『感動しますね。』』』
小説を書かない璃紗と一成も、その気持ちが分かるように、賛同した。
「で、日本はそういうサブカルチャーが強く、且つ世界中で有名だから、みんな日本に来るわけ。実際『なんで日本に来た』と聞いたら、7割が『日本のアニメと漫画が好きだから』と答える人が多い、という統計があったな。」
『『『なるほど!』』』
こういう雑談を交わしながら、彼らは目的地に着いた。そこは、
西ホールにある『スカーレットエリア』だ。
元々コミックマーケットで数多くの企業ブースに使われたその場所は、今は世界トップ7人の小説家に
『均等に』配分された。神野は参加してないことで、実質2位から8位の7人。
ルールなしではあるが、『平等』は大前提だ。ランキングが上だから使えるスペースも広い、ということはここにはない。
エリアごとに、作家が考えた、読者を楽しませるイベントは行われてる。それが作家ーーエリア支配人の特権であり、責務でもある。しかし、自分も楽しめるから、彼らの顔に、疲れの様子はない。
読者にとって、小説を買って終わりではなく、作家と心通じ合える場所ーー
作家にとって、売り上げではなく、自分の作品が、人を本当に喜ばせたことを実感できる空間ーー
そこは、現実を忘れられるエリア、ある意味、『楽園』そのものーー
その中に、神野たち4人は、スカーレットエリアで行われたイベントを見学することにした。
スカーレットは、売り子を雇って、販売カウンターを任している。自分の人気を理解した上の対応だろう。目の前の数十行に渡る行列は、もう人と人の肩が触れるぐらい、ギッシリ並んでる。ざっと数えても1000人はいる。そして最後尾は現在進行中で人がどんどん並んでいく。
いくら早くさばいても終わりが見えないーーという地獄の状況だ。
でも誰も文句言わない。売り子も、並んでる人も。
そこはやはり、情熱と、愛があるからだろう。
「どうだ?この光景は?」
「すごい…これが大手作家の力…」
「照もいずれ、こういう感じになるかな?」
「いやいやいや、無理、絶対無理!」
「照だったらできると俺が信じてる!」
「根拠なしじゃん!」
「まあ、できるかできまいか、今は分かるはずがない。ただ、君の夢、理想は、少なくともそこにいるだろう?」
「ーー」
神野は販売カウンターの隣に、何故か読者を踏む付けてるスカーレットを指差した。
「どうだ!気持ちいいか!?」
「ああ…気持ちいいです!女王様!」
「自分から踏んで欲しいと願うなんて、とんだいかれた野郎だな!」
スカーレットは読者を罵倒し踏みつけてなお、顔はまんざらでもない感じ。
「…あんな夢は持ってないですけど?」
「照!ああいうこと好きだったら、私はいつでも…!」
「落ち着いて!?」
二人を止めるために、神野は軽く咳払いした。
「スカーレットがやってることはともかく、有名になったら、ここでそういう風に読者と交流できる、と言いたいのだ。自由で、楽しそうだろう?」
「それは…」
照は有名になった自分を想像した。
尊敬される自分。愛された自分。読者を導いてる自分。
なるほど、楽しい。楽しいがーー
「でも、先生がいないと、楽しめないと思います。」
「ーー」
絶句。
予想外の返答に、神野は固まった。
「僕、先生に憧れました。でも、今は、先生と一緒の舞台に立ちたい。そしていつか、先生を超えたい。それが先生に恩を返す、一番の方法だと思います。」
「…生意気な。でもまあ、夢があるってのはいいことだ。」
いつの間にか、ただ自分の後ろ姿を追いつく子供だった彼が、自分を追い越そうと、その思いを抱くようになった。
成長した、か。
では、自分は?
「とりあえず目標達成したし、残りの4日は、好きに遊んでいいぞ。」
「はい!あ…でも先生は?」
その質問に、神野はわざと眼鏡を取った後に、照に近づいてから答えた。
「俺は、別の用事あるんだ。3人で仲良く遊んでくれ。まあ、でも、なんかあったら、俺に、もしくは紫咲にいつでも連絡していいぞ。」
「…はい…」
言いたいことが終わり、神野は人群れに消えた。その姿を眺めたまま、照はしばらく動けずにいた。
すると璃紗と一成は心配そうに声をかけた。
「照、どうしたの?」
「悪いもんでも食べたか?」
「何言ってるの。照は先から何も食べなかったでしょう。」
「先生の、目が…」
数秒後、照はやっと反応を起こした。
「先生の目?どうしたの?」
「あの目…」
銀河、星、それは数カ月前に見た時と同じ、無限に輝いてる。
しかしそれ以上に、言いようのない神秘が、圧力が、見たものを飲み込むような深淵がーー
表と裏、現実と嘘。そのすべてを作品に取り込むのが、神野 境の作品だ。
あの時見た目は、銀河と無数の星だけだった。でも今は、それ以外のものも存在してる。
だとすればーー
あり得ない可能性に期待して、照は何事もなく、璃紗と一成3人で、W.L.C.の最終日まで目いっぱい遊んだ。




