20.W.L.C.開幕!②
W.L.C. 朝9時前 開場まであと数分
主催者・天道の演説が終わって、作家たちも自分のブースに戻った後に、今度は一般参加者の入場が始まった。
一番先頭から、乱れなく、一定のベースで歩いてる、まるで訓練された軍人のように。
W.L.C.の基本動線とルールは、コミックマーケットに因んだものだが、そのコミックマーケット自体も、数年前から、一般参加者とサークルも明らかにどんどん増える傾向はあった。彼らを受け入れるため、そしてより莫大の利益を得るため、その将来を見込んで、東京ビッグサイトの拡大計画が実施された。
そしてその計画は、2028年6月に竣工した。結果、元々人気だったコミックマーケットは、予想通り売上が伸びただけではなく、初回開催のW.L.C.の方にも、驚く成績を出した。
照と璃紗、一成は、自分たちのブースで、その「成果」をーー完全リフォームされた東京ビッグサイトの内装を、途轍もなく広い空間を、高ぶる感情と共に、見回した。
作家たちは、自分のブースをコミックマーケットと同じようにテント型か机で設置するもいるけど、一部は机を使わなく、逆に地面に魔法陣が書かれた絨毯を敷いて、その上に小説を置くような、主張が激しい作家もいる。
「すげぇーー、俺、人生初のビッグサイトだぜ!」
「僕も!」
「私も!」
「ていうか、トイレ行ったら迷子になって、戻れそうにないな。何かマップねぇか?」
「あ、あるよ。」
照は「W.L.C.カタログ」と書いてる分厚い本を自分のカバンから取り出して、マップを確認した。
「えっと…僕たち今は東1いるから、トイレはこのあたりかな。」
「おお、マップにもちゃんと載ってるか?ありがたいやー」
「まあ、こういう広い場所で、人が多いと、迷子になりやすいからめ。でもマップなくても、問い合わせセンターもあるから、問題あった時にそこに行けば、助けてくれるよ。」
「ね、マップの事より、なんかおかしい感じしない?」
璃紗は神妙な顔で通路を見つめてる。
「おかしい感じ?んん、何も?」
「何の感じだ?気のせいじゃないのか?」
「気のせいじゃないわ。これは、地震…?」
璃紗の言葉と共に、床が、揺れた。
『『え?』』
この時点で、照と一成やっと気づいた。璃紗が言った『感じ』。
しかし、あれは決して地震ではなく。
そう、自然に起きたものではなく、床が揺れ、建物も震動が起きて、そして外から聞こえる、緊張感溢れる声。
それは、
『来た…!!』『備えろ!!』『やってやるぞ!!』
照たち3人は、状況をまだ理解してないが、周辺ブースの作家たちは全員、「何か」と戦うための準備を用意してる。
『『『何…これ?』』』
「あ、アナタたち初めて?」
隣ブースの、晴天のような青く長い髪を持ち、唇以上の部位を仮面で隠してる女性が、照たちに声を掛けた。彼女のブースはテント型で、海をイメージしたような印象で、彼女の穏やかな雰囲気に彷彿させた。
「あ、はい。そうです。」
「道理で状況分からない感じですネ。もうブース内に戻った方がいいですよ。まもなく彼らが来ます。」
『『『彼ら?』』』
「ほら、ここ、W.L.C.の会場でしょう?なら来るのは、私たち作家以外、あと一種類の存在しかない。それは、」
『『『それは?』』』
女性は手を通路に指差し、その答えを伝えた。
「本に飢える獣です。」
その言葉と共に、影が。波が。何かが、湧いてきた。
『うおおおおおおおお!!!!!!!!』
雄叫びが。怒声が。競争が。
人の形をした獣たちが、通路を埋め尽くし、そしてそのまま各ホールに入り、目当ての作家のブースへと走った。
『走らないでくださいーーーーー!!!!』
というアナウンスあるにも関わらず、彼らは待ちに待ったこの日を、今まで溜めてきたストレスを、幻想を通して、解消するために、走る。
『4冊ください!!!』『はい!』『もう売り切れ!!??嘘!!!』『私、先生に会うために海外からキマシタ!!』『ありがとうございます!!!嬉しいです!!!』
会場のいたるところまで、歓声、悲鳴、ありとあらゆる感情が、爆発した。
「これが…W.L.C.…!!!」
「アナタたち?ぼーっとしないで、自分のブースをちゃんと見ないと。」
「あ、はい!すみません!」
3人は急いでブース内に戻り、椅子に座った。彼らの目の前は、普通の机の上に置かれた小説20部。その中に、英語版と中国語版それぞれ2部ずつ混ざてる。英語と中国語に翻訳すれば、大体の国に売れるという紫咲からのアドバイスだ。
一成は周りの人混みと照が販売する予定の小説の量を見て、得意げに笑った。
「これだけ人がいれば、20部なんて一瞬で売り切だ!な?照。」
「いや…『1部も売れない可能性ある』と先生が言ってたけど…」
「はあ!?そんなわけないだろう!!?」
「バカだね、一成は。」
「な!?じゃあお前分かるかよ!」
「ええ、私、長い時間、照と一緒に先生の下で勉強してきたから、分かるわ。」
「くっ…僕が部活あるからと言って、仲間はずれしやがって!」
3人の話内容を意図せずに聞いた女性は、好奇心で声をかけた。
「あの、ちょっといいですーか?」
「はい?なんでしょう?」
照はケンカしてる璃紗と一成を放置して、女性に返事した。
「アナタたちが言う先生で、どの方で聞いても大丈夫ですか?」
「あ、えっと、その、」
言えない。それに言っても信じないだろう。
そう考えた照は、言い淀んだが、
「もしかして、カミノさん?」
女性から意外な名前が聞こえた。
「え、何でそれを…あ!」
しまった。無意識に反応して答えた。
照は手で口を隠し、後悔しながら、あとで神野に叱られる覚悟を準備した。
しかしそんな照と真っ逆で、女性は何故か綺麗な笑顔になった。
「やっぱり、目が似てるから…」
「え?」
「んん、何も。そうだ、せっかくお隣だし、アナタたちも初めてということで、私、手伝いまショウカ?」
「え、そんな…お姉さんも結構な量を売りますよね?」
照はテントの中に置いてる段ボールの数を見て、汗をかいた。
ざっと数えても30箱超えてる。そしてそのテントにいるのが、お姉さん一人だけ。
つまり、彼女は自分の力でそれぐらい売れると自信を持ってる。
「お姉さんなんて…オーロラっていいですよ。私の事は大丈夫、ダイジョウブ。これぐらいはいつものことだから。でも、そうですネ。手伝うの代わりに、アナタの先生、紹介してもらえマスか?」
「え?」
オーロラの言葉に、また一波乱が起こると、照が予感した。




