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19.W.L.C.開幕!①

2029年 7月 東京ビッグサイト


ステージ上に天道(てんどう)領主(りょうしゅ)が演説してるのを、ステージからちょっと離れた場所に、神野と照が見てる。璃紗と一成も来たが、小説家として参加した人だけが、ステージ周りに入場していいというルールがあるため、今は別行動中。


そのルールは、参加した小説家の中に、見込みのある(しょうひん)いるかいないか、天道が自分の目で確かめたいと、神野は思った。

そして天道は、その神野の存在を確認した瞬間、気持ち悪い笑顔になった。

「相変わらずたぬきじじいだな。」

「え、先生、その言い方、まさかあの方と知合いですか!?」

「知ってるも何も、あいつ、紫咲のおやじだから。」

「あ、なるほど、紫咲さんの…え?えー!?本当ですか!?だって全然似てないですよ!!?」

「まあ、顔は母譲りで、性格は父親に似てる、というところだ。あ、ちなみに二人は親子の事は、秘密だからな。バレたら君と僕も殺される。」

「え、そんなにやばいことですか?親子のことが…」

「紫咲はそれを嫌がってるんだよ。たぶん恥ずかしいだろう。何せあのテンションにあの服装だから。」

「あ…」

天道は今、ヒーローをイメージした服を着て、マントを翻しながら、ステージ上で高らかに演説してる。その後ろに、頭を完全に別方向へ向いてる紫咲がいた。明らかに見ないようにしてる。それで照は納得した。


そして突然、会場が一気に静かになった。

天道の演説が終わった。彼は無言で右手を空に上げて、そして、

「諸君、待たせた。時間だ。」

その言葉と共に、会場に人の心を動かす(物理)大声量BGMが流れ始めた。

「さあああああああーーーーーーー!!!戦士たちよ!入場の準備しよう!第2回ワールド・ライトノベル・クラシックの開幕だーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」

『おおおおおお!!!!!!!!!!!!!!』

天道の言葉の関係か、音楽のせいか、ステージ周りの小説家、そして会場の外まで並んでる一般参加者たちは、一斉に咆哮を上げた。


その状況を、ニュースで中継された。

上空で、会場を回しながら映像を取ってるヘリコプターは数台いた。

「みんなさん!聞こえましたか!?すごい轟声(ごうせい)です!第2回ワールド・ライトノベル・クラシック今、始まりました!小説家たちはステージを離れ、自分の販売ブースに戻りました。彼らの準備終わり次第、一般参加者の入場が始まります!」

その中継は、日本だけではなく、世界中にも放送されてる。

現場に行けなかった人は、テレビか、スマホか、街中に設置された大型デジタルサイネージで、彼らを見てる。


元々通常の小説を販売するだけのイベントのはずが、世界的に有名な作家を招くことで、注目度が数倍に上がった。

そして何より、今回は世界2位・スカーレットも参加してる。それだけでも充分話題になった。

で、そのスカーレットは、


「よう、来たか。」


火炎女帝が、館内の自分たちのブースへ繋がる通路の真ん中で、神野と照の前に立っていた。髪を束ねてポニーテールの形にして、全身血のような赤い恰好。その姿は、情熱そのものだ。

「あ、スカーレットさん!久しぶりです!」

『うおおおい!?マジか!あのチビ、女帝に挨拶したぞ!』『殺されるじゃない?』『何という無謀な。』

照の何気ない挨拶は、周りに大きな反応をもたらした。どうやら、スカーレットは周りから見て、結構怖いというイメージがあるらしい。しかし本人はまったく気にせず、照に大声で挨拶を返した。

「お、テル!元気にしてたか?」

「はい!」

『あれ?普通に挨拶した?』『なん…だと?』『これ、夢じゃないよね?』

周りの評判がちょっと変わった、気がする。

そしてスカーレットは視線を神野に向けて、

「で、おまえは相変わらず、死んだ魚のような目をしてるな。」

容赦のない一言。

「君も変わらず、暑苦しい激情をばら撒いてるな。今夏だから、すこし控えたらどうだ?」

「は!ざけんな!この日を待っていた!お前を倒す日をな!今のあたしは!」

スカーレットは両手を広げて、深呼吸して、


「最初からクライマックスだぜ!」と、叫んだ。


「そうかい、そうかい。頑張れよ。」

ただ神野は塩対応で、彼女の隣を素通った。

「おい、待ってよ。」

しかし、スカーレットはそれを許せなかった。

「また何か?」

「お前、小説は?」

「…さあ、どこに行っただろうね。」

「はっ、書けなかったか。じゃあこの勝負、もうあたしの勝ちでいいよな?紫咲。」

いつの間にか、紫咲は3人とちょっと離れた場所に立っていた。

「…まだ分からないですよ。W.L.C.のルールの一つ、『途中参加も問題ない』。今日から最終日までは、後5日間もありますね。」

「ケッ!そんな奇跡起こるか!まあ、せいぜい足搔いてな!ははは!」

スカーレットは悪役っぽい笑い声を出しながら、自分のブースへ行った。


「やる気満々ですね、スカーレットさんは。」

「それはそうだろう。このイベントで一番売れたら、名実ともに『世界一』だからな。」

「先生…結局書けなかったんですね。」

照は悲しそうに神野を見つめた。

「まあ、しょうがない。『障害』は越えるのが難しいからな。」

「…ダジャレ?」

「そのくだらない人は無視していいですよ。照君、そろそろブースに戻らないと。」

「あ、紫咲さん、おはようございます!」

「おはよう。璃紗と一成君も待ってるわ。」

『『照!』』

外で待っていた璃紗と一成は、先ほどの演説が終わった後、すぐに合流しに来た。

「あ、じゃあ、すみません、先に行ってきます!」

「いってらっしゃい。事前に打ち合わせた通りにやれば、大丈夫と思うから。」

「はい!」

照は元気で二人のところへ走っていった。


照を見送るーー


いつぞやと似たような光景に、紫咲は神野に、わざと同じ質問を投げた。

「で、どうするの?」

すると神野も覚えているかいないか、

「何が?」

あの時と同じ返事を返した。

「結局、間に合わなかったね。」

「まあ、僕に才能あるが、運がなかったということで、諦めるしかないな。」

「はあ…どこまでポジティブな人なの。境。」

「ネガティブの方が好きかい?」

「いやよ。ただでさえ目がネガティブなのに。」

「目がネガティブってなんだよ…」


その時、会場にアナウンスが放送された。


『まもなく一般参加者の入場始まります。作家のみんなさん、自分のスタイルで、読者たちを歓迎しましょう!』


その放送と共に、会場にいる作家たちは、それぞれ『特徴あるもの』をブースに展開した。

あるものはサイン入りハンカチ、あるものはぬいぐるみ、あるものは自分が押してるアイドルの写真。

「小説の他に、『特典』として渡すものについても、R指定でなければ、全部無制限。デタラメのルールだな。」

「同感だわ。それに、皆、慣れたのか、前回よりぎりぎり規制内のものも出してるわね。」

神野と紫咲は各ブースに置いてる、作家を代表するものを見て、呆れた。


その場面は、まさにカオス。


しかし、小説は文字だけのもの。集客するために、表紙のイラストで興味を引き起こすか、特典は一番。実際、特典が目当てで、小説を買う人も結構いる。神野はもちろん理解してる。ただそれでも、予想を上回った。


「さて、後は計画通り進むか…とりあえず回ろうと。」

「そうね。私も仕事終わったら、すぐ行くから。」

「お、じゃあ、また後でな。」

神野は目星を付けてるブースへ移動を始めた。

その後ろ姿を見て、紫咲は不安を感じて、彼を呼び止めた。

「境!」

「ん?どうした?」

振り返った神野は、顔も、目も、いつも通り。だが、雰囲気が、形容しがたいものになった、気がする。

「…無理、しないでね。」

「…ああ、分かってるよ。」


そして、神野は再び足を動かし、紫咲も一旦彼のことを置いて、仕事に取り掛かった。

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