1.出会いは財布が落ちた時
9/13 結構前に誤字、助詞抜けのご指摘をいただいたので修正しました。
2028年12月19日 (火)
とある高校の教室内、生徒たちが和気あいあいでこれから来る冬休みの予定を話してた。
「もうすぐ冬休みだよねー」金髪のギャルが教室の前にある、自分の席に座って足を組んだまま、退屈そうに窓を見てる。
「いや、クリスマスが先だろう。」その左側は窓に一番近い席。そこに座ってる若干マッチョな男子が呆れた感じで答えた。
「そんなリア充のイベント、知らないー」
「女の子のお前が言うと違和感しかないな。」
クリスマスの後は年末年始、世界中有名で且つ大きいイベントが連続来るという状況で、それは誰でも気持ちがワクワクするだろう。
ただ、ここの教室に、一人だけを除いて。
自分の前の席でリア充の話をしてる友たちをガン無視して、ひたすらノートになにやら書いてる少年ーー暁海 照は、『そんなことどうでもいい』と言わんばかりに、手を止めることはなかった。
「ねぇねぇ、照はなんか予定あるー?」
「いや、ないよ。」
「即答ー!相変わらずだね、小説を書くこと以外に、他はあまり興味がないところ。」
「コイツ、昔からずっとそういう感じだから、簡単に変わらないよな。」
「それは一成も同じだよね。運動しか興味ないから、成績ずっと悪いままだよねー」
「そうだぞそうだぞ。」
「ぐ…!なに二人で連携してるんだよ!卑怯だぞ!大体、照と璃紗みたいに、勉強できるわけじゃないから、運動ぐらいしっかりやってもいいだろう!」
「はいはい、言い訳ねー」
「コイツ…!」
三人がツッコミ交じりながら話してるシーンは、この教室の名物。
そう、まさに漫才。
ただ本人たちに言うと怒られるので、みんな遠くから見物する…もとい、見守ることを選んだ。
三人は幼馴染で、仲がいいということは、クラスメイトだけではなく、学校内でも知られている。
その理由は、金髪のギャルーー金盛 璃紗、綺麗な容姿を持った上に、成績も学年一位、運動もまあまあ上手、さらにハーフということで(入学式に親が学校に来たことでバレた)、いいところばかりを持ってる、理不尽な存在。
もしこれが小説であれば、設定がモリモリといったところかな。
そして、真条 一成、運動したら汗で髪が濡れるのが嫌で、髪をめちゃ切った運動男児。彼は成績悪いものの、運動だけ言いようがないほど強い。県大会に出て賞を取ったこともあった。
そんな二人がいるから、嫌でも目立つと、照はずっと考えてた。
そしてみんなが自分たちに対する評価も、もちろん知ってる。
『何であの二人が、あの根暗と一緒にいるのが不思議よねー』
それは誰でもそう思ってるし、何より自分もそう思ってる。
特別に強みもない、取柄もない、ただの凡人の自分が、何で二人といるだろう?
幼馴染でも、未だにそれが理解できない。
それはそれとして、
「お昼の時間だから、そろそろご飯を食べないと。」
「あ、そうだ!話すぎで忘れてた!」
「やべ!」
一成と璃紗は急いで弁当を取り出し、机を照の方に回転、話しやすいように移動した。
「毎回思うけどさ、回す必要があるの?」
『ある。』
照の質問に、今度一成と璃紗は、息ぴったりで返事した。
「こっちの方が話しやすいし?」
「なにより照の弁当がな…いや、なんでもないぞ!」
二人は何故か獲物を見つけたライオンのように、照の弁当を見つめた。
そしてこれもいつものこと、だから、
「はあ…食べさせないとは言ってないから、そんな飢えた獣みたいな目をしなくてもいいよ。」
そう言いずつ、自分の弁当を開けた。その瞬間、弁当から強い光を発した…訳もなく、ただシンプルに展開された。
が、
「あ~この匂い~」
「今日は唐揚げか!でもすげぇ!まるで揚げたての感じだぞ!どうやって作ったんだ!?」
二人に弁当のことをめちゃ褒められた。それもいつも通り。
「どうやってと言われても、普通に作ったよ?」
「それでこの状態…照はやはり料理の天才じゃない?一個いただき!」
「あ、お前、ズルいぞ!」
「今日も多めに作ったから、ケンカしなくていいよ、もう。」
例え自分が普通と思ったことでも、他人から見ると実は結構すごいこともある。ただ今の照は、やはり理解できなかった。
そして放課後。
仲良し三人は、家へ帰る時、途中まで基本いつも一緒のことは多いだが、
「一緒に帰ろう!」
「悪い、今日は部活があるんだ。」
「一成に聞いてない。」
「はあ!?」
「はいはい、冷静に。でも僕も今日はスーパーに行って、買い物をしないとだめだから、ごめんね。」
「えーー時間かかる?」
「かかると思う。いつも三日分を買ってるから。家族の分もあるし。」
「そうだった。照っちは買い物が当番あったー」
「まあ、好きでやってるけどね。」
「一緒に行きたいけど、うち、親ばかだから、あまり遅くなると心配させちゃう。」
「無理しなくていいよ、こっちの用事だしね。」
たまにこういうこともあり、三人バラバラで帰ることもある。
『じゃあ、またねー』
教室で一成と別れた後、照と璃紗は学校の校門まで一緒に歩いて、お互い別れの挨拶をした。
三人の家は隣近所じゃないが、学校に着く前の道中が同じの関係で、一緒に帰ることが多い。
ただスーパーは逆方向だから、買い物をした後に、家へ帰るとすると、どうしても遅くなる。
照はゆっくりとした足取りで、スーパーを目指して歩き始めた。
途中、周りの景色を楽しみながら、今日の晩ご飯と小説のネタなどを考え始める。
「昨日はもつ煮込み、今日はなにしよう…鍋?」
『照が当番だから、好きなものを買っていいよ。あ、でも高いのはダメ。』
脳内に母の言葉を思い浮かぶ。
小学校の時から、専門主婦の母の負担を減らしたいと思って、買い出しに行くと、自分から言い出した。最初は何を買えばいいのが、もちろん分からなかった。母と一緒にスーパーへ行って、買い物の仕方を教わった。
そして中学校、高校二年生の今も続いてる。買い物が好きじゃないけど、このゆっくり何かを考える時間が欲しかった。
家がいや、でもなく。友たちがうるさい、ということでもない。
ただただ、一人の時間が欲しい。たまに。
授業のことを考え。テストのことも考え。小説のネタを考え。将来を考え。
考えるべきことがありすぎて、そのための時間が、欲しい。
でも今は、とりあえず晩ご飯のことを一番最初に考えないと、死ぬ。
「そういえば今日、雪降る予報だっけ?」
そういう風にあまり深い意味のないことを考えながら、スーパーのある大通りに着いた。
後百メートル歩けば着く。そして考えことをする時間も終わる。
名残惜しいと感じながら、歩みを続く照。
だが、
ポン。
前を歩いてる男性のポケットから、何かが落ちた。
「あ、ちょっと…」
それに気づいて、呼び止めようとした時、男性の姿はもう消えた。
大通りだけど、人が少ない時間帯だ。何の障害もなく、照はそのままさらに前を歩いて、落ちた物の場所に止まった。確認したところ、
財布だ。それもちょっと高級そうなもの。真っ黒だが、ツヤがあって、陽射しを多少反射できるような外観。
折り畳み式のせいが、落ちた時の衝撃で開いた状態になった。その関係で中身も丸見え。
そう、だから証明写真とか見られても、不可抗力だ。
照は開いてる状態の財布の中にある、身分証明書を見て、目を丸くした。
(え…これで…)
信じられない気持ち。ただもし本当にそうだったら…!
照は走り出した。スーパーへ行くことも、晩ご飯のことも全部後ろに投げて、ただ全力で、
自分の疑問を晴らすために、走る。
夕日を背に、財布を背中のリュックに、足を前に、躊躇なく、前方に全速で走った。
●
「はあ、はあ、はあ…」
とあるマンションの三階。照はある一室の前に止まって、力なく頭を垂れて、息を大きく吸っていた。
その呼吸が乱れてる様子から見ても、結構走ったことが分かった。
どれぐらい走っただろう。十分?二十分?それともただの五分?
もうどうでもういいや。
今重要なのは、時間じゃない。
照は無理に顔を上げて、目の前の鉄のドアを見つめた。
そこは、何も書かれてないし、塗装も通常のどこでもある色。
そう、普通。その一言で終わる。
(ただもし、これは写真通りの人物が住んでいたら…)
そんな淡い期待を、そしてもし人違いだった時の緊張感や不安が混ざり合った気持ち、照の中に混沌を作った。
そして、またどれぐらいの時間が立ったか分からないほど、照がやっと決意をして、右手の人差し指をインターホンに伸ばし、ボタンを押した。
ピンーポンー
部屋の中から、インターホンの反響が聞こえて、機器が壊れてないのを確認できた。
後は財布の持ち主がいるかどうか、だけ。
しばらくして、今度はドアのカギを開ける音が鳴った。
(…!)
照は元々緊張してる体をさらに硬直状態にし、石像並みの硬さでまっすぐに立った。
そしてドアが開けて、
「どちらさまー?」
ドアチェーン外さないまま、ドアと壁の間の僅かな隙間から、ダルそうな声が伝わったきた。その後、声の主は顔をちょっと出した状態で、外の様子を確認してる。
しかし、それで充分。
細いスペースから見えた、あのイケメンな顔立ち。そして何より、色が入ってる眼鏡を掛けても分かるぐらい、あの死んだような魚の目。あれほど特徴の目の持ち主は、自分が知ってる人の中で、その一人しかいない。
「あ、あの!財布を届けに来ました!」
相手の声が聞こえて、照はやっと我に返って、そして慌てて用件を伝えた。
「ん?財布?財布…?ちょっと待って。」
男性は財布という単語を聞き、ちょっとわけわからない様子になって、一回部屋の奥に戻った。
(たぶん財布を確認しに行ったよね…)
家に帰っても、財布を無くしたということに気づいてなかったらしい。
(それ程大事じゃないってこと?)
もしくは鈍感?いやいや、あの人に限って、そんなことはない…と思いたい。
数分後、男性は玄関に戻って、照に声をかけた。
「財布は確かになくなった…もしかして君、それを拾った?」
「は、はい!」
照は緊張気味で答えながら、自分のリュックから財布を取り出した。
「うお、マジか。本当だ。」
財布を確認できた関係か、男性は照が言ったことは嘘じゃないと理解して、ドアチェーンを外した。
照はそれでやっと男性の全身の姿を見ることできた。
無気力な声と同じように、着てる服も袖が広いもので、普通の人がスーツを着る時の凛とした姿とは真っ逆の、ゆるゆるな格好。
(でもたぶん、これは部屋着だから、格好良くなくても問題ない。)
多少、引いた感じだけど、『大事なことやらないと』と思い出して、照は両手で財布を男性の前に捧げた。
「ありがとうな。」
男性は素早く財布を取って、何事もないように部屋に戻ろうとしたが、
「あ、あの!」
照は気持ちを抑えきれず、彼を呼び止めた。
「うん?まだ何が?」
「あの、あ、あなたは、神野 境…さん、ですか?」
「違います。」
照はおどおどする声で尋ねたが、男性は迷いなく否定した。でも照はあきらめずに、
「いや!本人ですよね!?証明写真見たから!」
「はあ?何勝手に見るんだよ。」
「勝手じゃなく!神野さんの財布を拾う前に、もう開いてる状態だったから、いやでも見えてしまいます!」
「僕は神野じゃない。写真を見られたのはしょうがないことが分かったから、君はもう帰っていい。ありがとうな。」
男性はドアを閉じようとしたが、照は慌ててドアノブを引っ張って、彼を何としても引き留めようとした。
「ちょっと待って…!神野さんは!あの大手ライトノベル作家の神野先生だよね!?何回もサイン会に行ってるから、嘘ついても分かるます!」
それを聞いた瞬間、男性はドアを閉めようとする動きを止めて、照に顔を向いた。
「君、神野のファンか?」
「はい、神野先生のファン…あなたのファンです!」
照は躊躇いなく、まっすぐに男性の顔を見て答えた。
その目は、透き通った水晶のように、キラキラして、まさに自分が崇拝してる有名人やアイドルと出会った時の、希望に満ちた目。
その目で感化されたのか、男性はため息をついて、めんどくさい顔して伝えた。
「ああ、僕は神野 境というヤツだ。それで、そういう人になんか用事か?」
本人の口から『自分が本人です』と聞けて感動したが、照は『ぱぁー』と明るい顔になって、そして自分の用事ーー願いを言った。
「先生!僕を弟子入りさせてください!」
「弟子?うん、いい響きだ。」
「じゃあ…!」
「だが、断る!」
「えーー!?」
その願いを、神野は考える時間もせずに、秒で、光速でぶった切った。