18.成果
『キャラの感情描写薄い。』
修正。
『シーンの構成が曖昧。』
修正。
『どこにいるのが、場所が不明すぎ。』
修正。
『そのように人類の発展が凄まじいスピードで…』
歴史。
『ここの文法は…』
国語。
『うりゃーーー!!!!』
体育。
『明けましておめでとうございます!!』
新年。
そして、1ヶ月の約束の時間が、あっという間に来た。
が、
「38.5度。」
「ううっ…」
照の自室で、彼は苦しそうな様子で、ベッドで布団を被ったまま横になってる。その隣に璃紗が体温計の数字を見た。
「風邪ね。完全に。」
「でも書かないと…」
無理に体を起こそうとしてる照を、璃紗がすぐさま彼を押し返した。
「バカ言わないでよ!こんな状態になるまで書けと、先生は言ってなかっよね!?」
「う…頭に響く…声もうちょっと…小さく…して…」
「あ…ごめん。」
新年を迎え。冬休みが終わり。そこから授業と小説の投稿を並行して行う照は、約束の前日の夜に倒れた。
風邪だ。ただ自分はあまり風邪を引かない体質で、冬で風邪になったこともなかったのに、新年に入って早々風邪になった。その原因はもう、明らかに一つしかない。
「疲れが溜まったよね、きっと。照は、学校いる時、授業の間の休憩時間も、小説のこと考えてたもん。」
璃紗は『照が自宅で倒れた』と照の母からの連絡を受け、その翌日・約束の日の当日の朝、
つまり今、看病のためにここにいる訳だ。
「うん…でも、そこまで疲れを感じてなかったけど、ね…」
むしろ書けば書くほど、どんどん書きたくなる。ある意味バーサーカー状態になってた。
「それは集中し過ぎてるから、体の異変に気付いてなかったじゃない?」
「そう…かも?」
「とりあえずもう休んで。今日は休日でよかったよ。先生の方は私から言うわ。」
「璃紗…あり…がとう。」
璃紗はちょっと嬉しそうに笑って、そのまま部屋を出た。
その後ろ姿を見送った後に、照は起きる気力もなく、眠りに着いた。
●
再び起きた時は、ちょうど昼だった。
体は相変わらずダルイが、熱と頭痛はちょっと良くなった。
ただそれより、気になることはあった。
隣にいい花の香り。
更に右手に暖かくて、柔らかいものがあるような気がして、頭をそっちに向いた。
そこに璃紗が、いた。
自分の右手をしっかり抱き寄せ、指も絡めてる。離さないような感じに。
「え?え?」
状況が分からない。何で璃紗が、自分のベッドに、自分と一緒に寝てるのか。
「起きたか?」
そう考えてる途中に、左の方に声が響いた。
急いでそこに回すと、
先生がいた。
彼は両足を組んで、かっこいい姿勢で自分のコレクションの小説を読んでいる。そして見ながら、学習机に置いてるお茶とクッキーセットを取って食べてる。
「先…生…?」
え?先生が自分の家に?これは夢では?
「『これは夢』でも考えてる顔だが、夢いじゃないよ、照君。」
その言葉を聞き、照の目が冴えた。
「え…ええ!!??」
そして、驚きの声を上げた。
「ん…何?うっさい…」
照の大きい声で、璃紗も目覚めた。目をこすりながら起きた璃紗は、照を目を合わせた。
「え…」
「あ…」
「お、おはよう!」
璃紗は顔を赤くしながら、何こともないように、元気よく挨拶した。
「あ、うん、おはよう…じゃなくて!何で璃紗が僕のベッドで、僕と、い…一緒に!寝てるの!?」
「えっと、それは、」
「僕がそうした方が、照君も早く治ると言ったから。」
他人事のように、涼しい顔で神野が真実を伝えた。まあ、実際、他人事だが。
「先生!?またそうやって適当なことを!」
「何だ?嬉しくないのか?」
「え?照、嬉しくないの?」
「い…」
すぐ隣にいる璃紗に、泣きそうな顔で聞かれた照は、
「嬉しい…です。」
そう答えるしかなかった。
「私も嬉しい!」
璃紗は手だけではなく、更に体全体を照に押し寄せた。いや、押し倒した。
「うわ、璃紗!?」
「にひひ…もうちょっと休もう?照、まだ本調子じゃないよね?」
璃紗は甘い声で言いながら、顔を照の胸にスリスリしてる。
「そう…だけど…」
隣に神野がいるのに、璃紗に覆われてるこの状況、照は戸惑った。
ただ、それよりやばいのは、心臓の鼓動が、尋常じゃないスピードになってる。
「本当バカップルだな…まあ、今日は別に、照君になんかやってもらおうと思ってないから。安心して寝ていいぞ。」
「え?あの、寝ていいんですか?」
「ああ、君が過労で倒れること、僕は予想してなかった。いや、甘く見てた。君がそこまで頑張れるとはな。」
「先生…僕をバカにしてます?」
「いや、褒めてるんだぞ?情熱があり、根性もある。最初はその二つが大事だ。バカなことをやるぐらいちょうどいい。」
「そういうものですか…?」
照は目を細めて、不信感に満ちる眼差しで神野を見た。
「まあ、それはさておき、今日は成果を確認する日だ。」
ギクッ。
「…君の状態が悪ければ、やめようと思ったが、見た感じ、聞くだけの力は残ってるみたいだな。だから、」
神野は自分のパソコンを開け、照の小説をのページを開いた。
そこに映ってるのは、照が最初に投稿した『姫×勇』の他に、数篇の小説も載ってた。
「15部。そしてptは…加算しないとな。」
神野は素早く計算し始めた。そして、
「結果は、76ptか。7部がそれぞれ10pt獲得して、そしてその中に、ブックマーク登録されたのは3部あった。」
「えっと、それはいいのか、悪いのか、どちらでしょうか?」
「どっちでもないよ。」
「え?」
「言ったろ。勝ち負けは重要ではない。そしてもちろん、何点を取ったのも大事ではない。一番重要なのは、照君、君は点数を取れたんだ。君の作品を見て、いいと思った人がいた。そっちの方が大事だ。」
「ーー」
なるほど。ptは良さ悪さを示す数字ではなく、自分の作品を、認める人が、いる。
その意味を理解した照は、心に熱い感情が湧き上がった。
「で、点数はゼロじゃなかったから、一応の成果はあったな。」
「え?」
「やったね!照!」
神野の言葉を聞き、照より早く、璃紗が反応した。
「ん、うん!ありがとう!」
「喜ぶのはまだ早いぞ。」
『『え?』』
「W.L.C.のための1ヶ月の練習時間だ。忘れたのか?」
「いえ、忘れてません。」
照はきっぱりと返事した。その迷いのない答えを受けて、神野は軽く笑った。
「ならよし。これからのやることは、この1ヶ月の練習の延長だ。もちろん、今度の目標は7月のW.L.C.だ。ただ翻訳の問題もあるから、実質の締め切りの時間は、4月だな。」
「W.L.C.…!」
その名称を聞いて、照の目に活気が戻った。
「あまり興奮するな、病人だぞ?」
「あ、はい…」
「先生の言う通り、だぞ♡」
璃紗は指で照の顔をツンツンした。
「問題なければ話を進むぞ。大丈夫か?」
最初に話題を出した時、神野は目と言葉で、ずっと照の体調に気を付けてる。嘘を言ってもすぐにばれると分かる照は、無理のない声で話した。
「大丈夫です。お願いします。」
「ではな…まず、書くことは変わりないが、今度は短編ではなく、中長編を目指そう。」
『『え?』』
神野の提案に、照と璃紗は意味わからない顔になった。
「まあ、理由はちゃんとあるんだ。短編だと、あのイベントで人気を出すには、力が足りないんだ。W.L.C.に参加する作家は、全く無名の人いれば、大手作家もいる。去年参加しなかったスカーレットも、今年は参加すると決めたらしいしな。」
『『スカーレットさん…!!』』
「そしてああいう大手作家は決まって、長編作品を出す。連載中の小説の続編とか、新タイトルの作品を出すとか、あのイベントは、ある意味彼らの独占場だ。既存のファンをキープし、さらにイベントを通じて新しいファンを獲得する。人気×人気の販売手法だ。だから、短編だと、そもそも一般参加者に自分の作品を取ってもらえない可能性が大きい。」
「でも長編って、見てもらえない可能性もありますよね?」
「そうだ、ただ長編は、ネタを多く詰み込めるから、共感を引き起こすチャンスは高い。そこから人気に繋がるんだよ。」
「なるほど…」
「でも照は、ネタ結構持ってるの?」
「いや…」
照は恥ずかしそうに頬を掻いた。神野はその言葉を聞き、軽く鼻で笑った。
「だと思ってるから、今後、僕の書斎を自由に使っていいぞ。」
「え!?本当にいいんですか?あの書斎を!?」
「いいとも。どうせ僕は今もう書いてないから、あれはただの図書館と同じだ。」
照は思い出す。
あの書斎の本の数は、数千、いや、数万もあるかもしれない。それはどう見ても一人で読める量ではない。しかし、現実に、神野の部屋に、そこにあった。読み放題の書斎、それはまさに、
『無〇書庫!』
いや、今風で言うと、『ブック・オブ・バビロン』を僕の意思のままに…!
照はその権力を手に入れると分かった途端、またテンションを上げた。
「あ、先生、私も使っていいですか?」
「いいぞ。君も君で、やりたいことあるだろうから。」
「え、何?璃紗はなんかやりたいの?」
「内緒ー」
「えー、ケチ」
二人の和気藹々の話し合いに、神野も自然に笑みをこぼした。
「まあ、その書斎を使って、何を生み出すのが、楽しみだな。」
「え?あの、先生、今回はジャンルの制限しないんですか?」
「ん?しないよ。というかできない。W.L.C.のルールは、ジャンル制限なし、国籍問わず、誰でもどんな状態でも平等に参加できる。その前提があるのに、僕が君を縛ったら、ルール違反だ。」
「うわー、今はプライベートの話なのに、先生、生真面目。」
璃紗は少し嘲笑うような感じに指摘した。
「それにさ、ルールはなくても、僕は制限を掛けない。それやると、面白い作品が消える可能性あるから。」
「ーー」
そうだ。この人は、常にそれを求めてる。ネタ、可能性、そして、
自由ーー
「じゃあ、僕は、本当に何を書いてもいいですか?」
「ああ。ただ、何を書く、どういう展開にするのか、全部自分で考えろ。僕はもう前みたいに、細かく教えないぞ。それが書斎を使わせる条件だ。」
「…分かりました。自分で何とかします。」
「それでよし。じゃあ、問題はあと一つだけか。」
『『問題?』』
「ああ、一番シンプルで、一番重要でも言える問題だ。それは、」
『『それは?』』
照と璃紗は固唾を呑んで、答えを待ってた。
「思いだ」
『『思い?』』
「何を書くにしても、強い思いがないと、内容はイマイチになる。その思いとは、自身の体験、自由、社会問題。様々な思いで、作家、だけではなくーー創作者という存在が、作品を作ってるんだ。もちろん何も考えてないで、ただひたすら作品作る人もいる。しかし、多くのクリエイターは、そういう思いを世の中に伝えるために、延いては世界を変えるため、創作してるんだ。」
神野はお茶を飲み、少し休んでから話を続けた。
「だから照君、書く前に、伝えたい思いあるかないかしっかり考えてから、お薦めだ。」
「伝えたい思い…」
世界を変えたい、思い。
僕には、そんなもの…
「まあ、なくても問題ないけどな。ただ楽しさが少なくなるだろうと思うけど。」
「先生、あまり照にプレッシャーをかけないでください。病人ですよ?」
璃紗はちょっと怒った顔で神野を睨んだ。
「おっと、失礼した。では邪魔者は帰るとするか。」
「え、先生、もう帰るんですか?」
「ああ、言うべきことは言ったし、あまり話すと、君の体調さらに悪くなったら、ご両親に申し訳ないからな。」
「先生…」
「じゃあな、早く元気になって、君の作品を作ろう。楽しみしてる。」
神野は静かに部屋を出た。照はその姿も見て、少し寂しさを感じた。
「先生いなくなったの、寂しい?」
その感情が自分の顔に出たのか、璃紗は心配そうに尋ねた。
「…ん、もっと話したいのに。」
「まあ、風邪を治せば、また話せるし、大丈夫っしょ。」
「…そうだね。」
「それに先生、先は照のお母さんにめちゃ謝罪した。多分、居心地ちょっと悪いじゃないかな。」
「え、先生が?」
「うん、『自分の教育ミスで過労させた』、みたいな感じで説明したよ。お母さんは大丈夫と言ったけど。先生は気にしてるよね、きっと。」
「そんな…!先生に謝らないと!」
照はベッドから起きようとしたが、すぐ璃紗に抑えられた。
「だめ!先生も先、ちゃんと休むように言ったじゃん!」
「う…」
「それに、動けなくても、頭で先生の言う『思い』を、考えることもできるよね?」
「…!そうだね!璃紗の言う通り!」
「えへへ、もっと褒めて~」
照は璃紗の頭をナデナデした。
そしていっぱい話した関係か、睡魔がまた訪れてきた。
少しずつぼやける意識の中、浮かんでいるのは、先生の言葉。
思い。伝えたい思い。世界を変えるための、思い。
それは、まるで先生自身の事を言ってるような気がしてーー
そして自分は、そこを目指すならば、同じ強い思いが必要、ということ。
照は深く、深く、眠る。深く、深く、考える。そして、時間は流れてーー
●
4月のある日。
神野、紫咲、照、璃紗。4人は神野の家に集合した。
集まった理由はーー
「これが、君の答えか?」
照は自分のノートパソコンを神野に見せた、
そこに映ってるのは、小説の内容だ。
「はい、これが僕が考えた、今一番、みんなに伝えた思いです。」
照は自信を持って、神野に伝えた。その目に、神野と似たような雰囲気を出しながら。
「そうか…しっかり言えるということは、それなりに思いが込めてるだろう。」
「はい、みんなに小説家の楽しさと、苦しいところを、創作活動を経由で得た出会いを、それらにまつわる話を。言葉足りないかもしれませんが、僕はどうしても、それを伝えたいです。でも、僕みたいな新人作家でもない人がそれを書くのは、結構自惚れてるんだと思いますが…」
「まあ、いいじゃない?」
神野は隣に座ってる紫咲を見た。彼女も頷いて、
「いいと思います。構成、言葉使いなど、そこまで上手ではありませんが、イベントに参加するだけでしたら、問題ありません。何せほぼルールなしのイベントですから。」
「だそうだ。」
「…ありがとうございます!じゃあ…」
「後は翻訳したい言語を選ぶのと、W.L.C.の参加申請ですね。」
「はい!」
「照、おめでとう!」
「璃紗、ありがとう!」
二人が照の作品が認められたことに喜ぶ時に、神野は冷たい言葉を掛けた。
「喜ぶのは早い。また一冊を売れるかどうかもう分からないぞ。」
「先生、こういう時もいじわるですね。照がかわいそう。」
「いつものことだから、もう慣れたよ。」
『ははは』と、4人の笑い声が部屋の中に響いた。
●
その後、用事が終わって、後は連絡を待つだけと言われた照と璃紗を、神野と紫咲は一階まで降りて見送った。重荷を下ろしたみたい、彼らの足取りは、軽くなってるような気がした。それを見て、紫咲は、
「で、どうするの?」
前振れもなく、ただこの一言を、神野に尋ねた。
「何が?」
「とぼけないで。今回も、やはり参加しないの?」
「ふむ、僕の今の状態じゃ、参加できないだろう。」
「『できない』ではなく、『しない』の間違いでは?」
「厳しいな、紫咲。」
「二人の時は『ゆか』って呼んで、と言ったでしょう!」
「イテ!」
紫咲は神野の頬をつねて、そしてため息をついた。
「あの子に託すつもり?あなたの夢を?」
「まあ、そういう思いもあるな。今はそこまで上手じゃなくても、彼に将来性を感じた。それが楽しみだ。」
「確かに、照の目も、あなたに少し似てきた感じもあるわね。その点については、同感だわ。」
「だろう?でもまあ…」
神野は空を見上げて、そして自分の眼鏡を取った。その目に、変わらず銀河が存在して、ただ銀河に含まれてる星の数や輝きが、前と比べ物にならないほど多くなったと、紫咲が思った。
「照君ーーその名の通り、彼がすべてを照らす存在になるには、まだまだ足りないな。」
「じゃあ、どうするつもり?」
「先生としてではなく、小説家として、彼に最後の授業を教えるのも、悪くないな。」
神野の目に宿る銀河が、回転を加速した。
彼の思いに、自分の思いをぶつける。
そう、彼のあの作品に答えるために。
神野は先ほど見た照の小説を思い返す。
愚直で、飾りなく、子供らしい感情が満ちてる、作品。そのタイトルは、
『WLC~ライトノベルの頂点に挑む作家達』
彼が彼自身のような、ゼロから作家になりたい人のために、今の自分の精一杯を打ち込んだ一冊。
であれば、その一なる頂点を、見せるとしようーー
神野、照、スカーレット、転職失敗屋、世界中の無数の小説家達。
それぞれの考えをもとに、彼らは挑む。
7月の、W.L.C.ーーWorld•Light Novel•CLassicへ!!




