17.長編か短編の迷い
「pv数とpt低っ…」
クリスマスの数日後のとある朝、久しぶりーーと言えるほどの時間は経ってないが、
照と璃紗は神野の家に訪問した。
3人はソファーに座ったまま、照が家から持ってきた自分のノートパソコンを開き、『サッカになろう』サイトの自分のユーザー画面を開いて、神野に自分の小説の状況を伝えた。神野もそれを確認するために、自前のノーパソを用意した。
小説全体pv数 50
pt 2
「いや、妥当だろう。先日も言ったが、余程いい内容じゃない限り、そもそも見る人もないから。pvあるだけで、君の作品を期待してる人がいる、と思った方がいいぞ。」
「それはそうだけど…」
「何か方法ないんですか?先生。」
照の落ち込む様子見たくないと言わんばかりに、璃紗は神野に迷いなく助けを求めた。
「まあ、あると言えばあるだが。」
「あるんですか?教えてください!」
照はその言葉を聞いて、目に活気が戻った、が。
「点数が低い、というのはつまり内容が面白くない、と思われてるからだ。なら面白くなるように書き直せばいいだけだ。」
「書き直す?でも…」
照は自分の小説を見た。
せっかく考えた内容なのに、それを人気が取れるように変えるなんて、それじゃまるでーー
今度、彼は神野の方を見た。神野は静かにコーヒーを啜り、そしてカップをテーブルに置いた。
「そうだ。分かるだろう。人気を得るというのは、そういうことだ。そしてそれは、僕がスランプになった原因だ。」
「先生…」
照と璃紗は悲しいと同情が含んだ目で神野を見た。が、神野は一切気にせず、話を続けた。
「まあ、君はまだ学生だし、社会の目だの、世間体だの、関係ないから。そういうの気にせずにやっても、全然いいと思うぞ。それに書き直すと言っても、別に元の内容を全部消すとは言ってない。ただより面白くなるように修正するだけだ。」
『『より面白くなるように修正する?』』
「ああ、もっとネタを入れるとか、キャラの話す内容をや言い方を変えるとか、やり方は色々ある。ただそれを綺麗に、面白くなるように修正するには、相応の力が必要だ。」
「力?才能のことですか?」
照は自然とこの前、神野が話した才能のことに連想した。しかし神野はそれを否定した。
「いや、『才能』は生まれつきのもので、どうにもならないから、そういう話ばかりすると、そもそも小説書かない方がいいという結論になる。だって天才とバカは、差はあるからな。」
「それはそうだけど…じゃあ、先生の言う『力』は、何ですか?」
「『努力』だ。」
『『努力?』』
照と璃紗は不思議そうな顔になった。
「あの、先生は今まで、『ずっと才能が大事で、才能がないと上に行けない』と言ってた気がするけど。その才能は、努力でなんとかできるものですか?」
「厳しいだろうが、できなくはない。」
「…本当ですか?」
「デタラメだったりして(笑)」
照が不信感に満ちる顔に対し、璃紗は冗談で返した。
「まあ、努力と言っても、僕がずっと言ってたことだけどな。ひたすら文章を、小説を書く、ということだ。但しーー」
『『但し?』』
「しっかり本を読むことも大事だ。」
「本?それはまだ、どういう理由で?」
「『本は知識の泉』、という言葉ある。それは沢山の本を読めば、沢山のことができるようになる、という意味もあるんだ。しかし、現実では知識あっても、実際手で操作しないと、その知識は無用になることも少なくない。『実技』も大事だ。ただ、小説であれば、知識あればもう充分だ。何せフィクションだから、現実と多少異なっても、大体許される。」
「へぇー、そうなんですね。」
照は何となく理解した感じで頷いた。そして璃紗はその言葉に質問を投げた。
「でも『大体』ですよね?」
「そうだ。そういう内容が気に食わない人もちろんいるからな。極端の話、僕の本は売れてるけど、、世界中の『全員』が好きになることはない。みんなが好きだったら、一人一冊の計算でも、販売数は特に80億超えてるはずだった。人はそういう好き嫌いがある生物だ。」
「なんかその言い方だと、人は面倒くさいな生き物みたい。」
「僕はそう思ってるだが?」
『『怖っ。』』
「話がずれた。知識を蓄えて、文章の書き方もしっかり練習して、そうすればいつか、才能ある人に勝てるかもしれない、っていう話だ。知識はネタになる。そして書き方上手になると、より読者の心を引き寄せる内容も書ける。」
神野は残りのコーヒーを一気に飲み切った。
照は神野の話を聞いて、疑問が生じた。
「…でも、もし、才能を持って、更にそういう努力もした人がいれば、勝てますか?」
「勝てないだろう。」
『『即答!!』』
「当たり前だ。才能の強さは普通じゃない。近代ていうと、相対論を出したアインシュタインが一番の例だ。」
『『確かに。』』
「しかし、だ。勝ち負けが重要じゃない。デビューできれば、一つの夢が叶う。そうだろう?」
そうだ。それは今一番大事のこと。目標を失ってはいけない。他の人より上手になる。有名になる。そんなものは、後でいい。
できることを、今やる。
「…そうですね!頑張ります!」
「照の夢、私も応援するからね!」
璃紗は照の手を取って、自分の感情を示すように、強く握った。
「あ、ありがとう!璃紗!」
「バカップルかー」
『『先生!?酷い!』』
「うせぇー、というか今日の課題だ!結局照君、長編にするか短編にするか、早く決めた方がいいぞ。そうすれば今後の勉強内容も立てやすいからな。」
照は自分の考えを聞かれて、少し悩んだ後に、答えた。
「僕は…短編を書きたいと思います!」
「ほお?なぜ?」
「先生が言ってた、『長編は複数のネタの集合体』。」
「ああ。」
「そのネタを繋げて、一つの集合体にするには、しっかりした設定が必要ですよね。」
「そうだ。それができないと、ストーリーが矛盾が発生する可能性あるから。最悪の場合、論理破綻になって、小説全体をダメにする可能性も、なくはない。」
「論理破綻は分からないけど、でも今の僕は、複数のネタをうまく小説に書く自信はありません。『姫×勇』書くだけで、結構考えて、時間もかかりましたけど、それでこの結果だから。それを上回る構想を作るなんて、今の僕じゃ、できる気がしません。」
「そうか。」
「はい。だから、先生。短編の書き方を、教えてください!お願いします!」
神野は照の選択を聞いて、軽く笑った。
「…自分の今の能力を、しっかり理解できているようだな。」
「はい、僕は才能も努力もありません。今は。でもやる気だけがあります!」
「そうか。まあ、君が短編を選ぶのもちょうどいい。長編だったら、君の考えを直すつもりだった。
」
「え、そう、そうなんですか?」
「ああ、僕が先言った、文章書く力、知識、その両方を成長させるには、短編の方やりやすいから。」
『『何でですか?』』
「『アウトプット』だ。まあ『実技』と似たようなことだけど。取り込んだ知識を、手で書くことで、自分はその知識を正しく表現できるかどうか確認できるから。できなかった場合、さらにその知識を勉強し、できた場合は、他の新しい知識に手を出す。そうやって繰り返せば、いずれ長編も問題なく書けるようになるだろう。」
『『なるほど!』』
「では長さが決まって、後はジャンルだな。」
神野はキッチンに行き、紅茶とお菓子を取り出した。紅茶を淹れた後、またソファーに戻り、ノーパソに先ほど話し合った内容を大まかに入力し、次のステップに移行した。
「でも短編だから、書けるものも大体決まってる。」
『『そうなんですか?』』
「ああ、まずファンタジー系は厳しいな。ファンタジー系は、世界観とキャラの設定を伝える必要あるから。ただ、それらをうまく説明した上に、ある程度いい話で終わらせることは、難しい。」
神野は紅茶を飲んで、一息をついた。
「一番の原因は、字数だ。設定をメインで書くと、小説ではなく、設定集になる。かと言って、設定少なく、ただストーリーばかりを伝えても、ファンタジー要素が薄くなる。結局バランスよく書くのに、事前に深く考える作業の時間が発生する。書き慣れていないと、その時間は無駄に長くなる。」
「だから最初はファンタジーをやめた方がいい、と?」
「まあ、あくまでもアドバイスだ。君が書きたければ、それでいい。ただ設定の詰め過ぎに気をつけろよ。」
「なるほど…」
「じゃあ、先生は照、最初は何を書いた方がいいと思いますか?」
「ふむ、日常系かな。君の『姫×勇』の内容から見ると、そういう描写が多いから。」
「日常系…」
「『日常系は高い人気を取るのが難しい』と、先日、僕が話したことを思い出してるのか?」
「先生、勝手に心を読まないでくださいよ。」
「ふん、なら君は、そういう思考をしなければいいだけだ。いいか、今の君は、何もないんだ。見せる作品も、他に人気を搔き集める手段も。」
「じゃあ、尚更人気を集められるジャンルを書かないと…!」
照は声を上げて反論しようとしたが、神野はそれを無視して話を続けた。
「その人気を気にして、書くものを制限することは、自分の未来の可能性を殺すと同じことだ。」
その言葉を聞いて、照は何も言えなくなった。。
「結局、自分は何が好き、何を書きたい、どういうジャンルが向いてる。それは書いてる途中に気付くものだ。最初から苦手だったら、まだ理解できるが、苦手でもないのに、人気を得られないから諦める。そういうことは、僕が嫌いだ。」
神野は今までにない真面目な顔と声で、はっきりと自分の意見を伝えた。
「その諦めに、希望はあったかもしれないのに。世の中のブームに合わないから、切り捨てられる。そんなことを、君にやって欲しくない。僕の弟子と名乗るつもりだったらな。」
「…!」
照は神野の願いを聞き、心が騒めいた。
先生の言葉に、重みが。
僕は、先生に憧れてる。でも、先生の何に憧れてるの?
有名だから?目が特徴過ぎだから?小説が面白いから?
『違う』
憧れたのは、あのジャンルを問わず、書き方も一つの形に拘らない、自由自在にストーリーを綺麗に紡いでいく、『境界なき境界』を作り上げた、あの人だ。
僕は、そんな人だからこそ、弟子入りを願った。
自分もそうなりたいからーー
「分かりました。書きます。日常系から。」
その言葉を口にした照、彼の目付きが、変わった。鋭く、何が相手でも切り伏せる、目。
もちろん、その変化に、神野が気付いた。
「…ふむ、そうか。なら僕から言うことはもうない。あとは君がひたすら書いて、僕が内容を見て、アドバイスと修正する、それぐらいかな。ただずっと書いても、終わりが見えないと、気が狂うから、そうだな、」
神野は右手の人差し指を立てた。
「1ヶ月。W.L.C.もあるから、あまり練習に時間かけると、参加できなくなる。だから1ヶ月後、成果を確認しよう。その間は、照君は可能であれば、毎日2000字以上の文章、短編小説を僕に提出してくれ。」
「分かりました。頑張ります。」
照は異論を出さず、素直に承諾した。
「照、毎日2000字って大丈夫?今冬休みだからいいけど、学校始まると、結構しんどいと思うよ?」
「…それでもやる、先生の弟子だから。」
『学校』を聞いて、照は冷や汗を流した。
『学校の事を忘れた』という冷や汗ではない、自分が頑張っていけるかどうかの、未知への挑戦の汗だ。
そして、1ヶ月間の小説書きが、始まった。




