16.アカツキ・シーの初投稿②
トイレで気持ちを落ち着かせた照は、何事もなかったように部屋に戻った後、璃紗とゲームを遊んで時間を潰した。
そして10時ぐらいになると、
「10時…そろそろいいかな?」
「あ、先生に連絡?」
「うん。あ、その前にもう一回投稿確認しようかな。」
照はユーザー画面の『投稿済み小説』ボタンを押し、自分が投稿した小説の情報を見た。
そこには、『総合評価』、『評価者数』、『ブックマーク登録』などの項目が表示されて、他にも色んな情報も書かれてるが、照は評価だけを見て、全部『0』になってるのを確認したら、凹んだ。
「0pt…これは普通…?1時間以上も経ったけど…」
「ま、まあ、何事も初めてだと、予想以上にうまく行かないこともあるから。とりあえず先生に連絡してみよう?ね?」
「…うん、分かった。」
照はLoineで神野に電話を掛けた。程なくして、電話の向こうから神野の声が聞こえた。が、どこか疲れてる感じがある。璃紗も聞きたいと言ったから、照はスピーカーを押した。
『どうした?』
「あ、先生、おはようございます。実は先ほど、『サッカになろう』に投稿しました。」
『ほほ、それで?』
「それでちょっと聞きたいことがあって…今、少し時間いただけますが?」
『別にいいぞ。』
「ありがとうございます!じゃあ、まずですね…僕は8時半ぐらいに投稿したけど、今はもう10時ですが、総合評価?ていうものが、まだ0ptですけど。これは、普通でしょうか?」
『ああ、普通だ。』
「そうなんですか?」
『君みたいな人気もない新人は、余程いい作品を投稿できない限り、ptをいっぱい貰うなんて、まずありえないんだよ。』
「え…そんなに厳しいんですか?」
『当たり前だ。君、まず『サッカになろう』のホームページを見ろ。『小説掲載数』があるだろう。それはそのままの意味だ。今、そのサイトにそれだけの小説がある、ということだ。もちろん、複数の作品を投稿する作家や、活動停止してる人もいるが、作家デビュー目指す人がそれぐらいいる。』
「は…」
照は神野が言う『小説掲載数』を見た。今、画面に表示された数字は、
小説掲載数 120万
『複数作品を書いた作家が結構いると仮定しても、今も活動してるのは40万人はいるだろう。つまり、君は1/40万だ。一人で39万9千9百99人の軍隊を相手にするシーンを想像してみろ。彼らに勝つーー初投稿で高いptを取りたいであれば、才能も必要だよ。』
「才能…」
その数を、その言葉を聞いて、照は一瞬で絶望した。
無理ゲーだ。自分には才能がない。先生に褒められたけど、そこまで人の気持ち読めないし、共感できない。小説も昔から、趣味で書いただけだし、他人よりうまく書いて、勝とうなんて、考えたこともない。
『今、無理と考えた?』
「え?せん、先生…電話越しでも人の心読めるんですか?」
『いや、読まなくても、だれでも分かるんだよ。最初から高望みする人ほど、あの数字に含まれてる意味を理解すると、無理と思うガチだからな。』
「…そういうものですか?」
『そういうものだ。だから、最近はptなど気にしないで。とりあえず書け。見せるものがないと、そもそもptを獲得することもできないからな。』
「そう…ですね!分かりました!頑張って書きます!あ、でも…」
『なんだ?』
「なにを書けけばいいでしょうか…?」
『そうだな、『好きなもの書けばいい』と言ったら、君はまたそれで悩むだろうから、少しアドバイスしよう。』
「ははは…お願いします。」
『まず小説書く時、長編か短編、そこを決める。複雑の構想があって、そしてしっかりそれを文章で表現できる自信あったら、長編でいいが。逆に、ネタはあるけど、そのネタで考えられるストーリーあまりなければ、短編でいい。』
「なる…ほど?」
『要は『長編は複数のネタの集合体』、『短編は一つのネタだけの存在』。と言えばより分かり易いかな。』
「なるほど!これなら分かり易いです!」
『ちなみに短編、長編の分け目は字数だ。短編は基本4000~40000字。長編は10万以上だ。君のあの小説、たしか8万字だったか?』
「そうです。先生、よく覚えてますね。」
『そんなもん、チラ見で覚えるよ。まあ、その字数だと『中編』になるな。ん?…待って。照君、今投稿したのはまさか、それか?』
「え、はい。そうですけど…先生がそれを投稿しろと言ったじゃないですか。」
『それはそうだが、ちょっと待って…どのサイトに投稿した?ペンネームは?』
照はサイト名と自分のペンネームを伝えた。
電話の向こうにパソコンのキーボードを叩く音が鳴り、しばらくして、
『すまん、説明漏れた。』
「え!?何がですか?」
『一気に全部投稿するではなく、何話に分けて投稿した方が、よりいいかな。』
「え?何でですか?」
『長い文章だと、人が飽きちゃうんだよ。『長いな、読むのダルイ』と考えて読まない人や、『今時間ないから、後にしよう』と思って、結局読むのを忘れる人、そういう読者もいるから。読みやすいようにしないと、まず読んでもらえない。」
「そうなんですか!?」
『もちろん内容が面白すぎて、どんなに字数が多くても、どんな時でも読みたいと思わせる作品もあるが、それはごく一部だ。そういう作品出せるのは、才能あるか、鍛え上げた作家か、どちらかだ。まあ、どのみち、今の照君とあまり関係ないな。』
「「先生、酷いです!」」
照と璃紗同時に反論した。
『事実を述べたまでだ。というかその声、璃紗もいるのか?朝からイチャイチャしてるのか?さすがに若いな。』
「それよりこれはどうしよう!?もう投稿したよ!?先生のせいで間違って投稿したよ!?」
照は頭を抱えた。しかし神野は相変わらず冷静な口調で、
『落ち着け。とりあえずは、そうだな、『投稿済み小説』のところに、『管理ページ』というのが見えるか?』
「…見えるけど?」
『『アクセス解析』あるだろう?』
「ありますね。」
『それを確認しろ。』
言われたままに、照は『アクセス解析』のボタンを押した。
そしてそこは、さらに無数の0が現れた。
「押しましたけど、何ですか?これ。ゼロがまだいっぱいです。」
『それは君の小説を見た人の数だ。『時』って書いてるのが、時間だ。そして『pv』って書いてるのは、見た人数。つまりそれは、『各時間以内に自分の小説を見た人』の数を表すグラフだ。』
「え?そんな便利なものが…」
『まあ、自分の小説を見る人いるかいないか、分かり易くするシステムだ。いいところは、見る人がいれば、そのまま自分の自信に繋がる。ただ、一人もいなかったら、『自分の小説見る価値もない』と、落ち込むよな。』
「「なにその諸刃の剣。怖い。」」
『ただ、別の面で言うと、書く気ある人にとっては、『今回のこの内容、受けはよくない、もっと面白いネタを考えよ』といういい薬になるから、メリットの方が多いと僕は考えてる。』
「なるほど…考え方それぞれですね。」
『そうだ、作品も似てるものあるけど、展開は全く同じものがない。そこには自分の意思が入ってるからだ。』
「自分の意思…」
『で、話戻るが、pv数ゼロは、つまりまだ誰も見ていない。今なら投稿消せば、誰も気づかない。』
「…その手があった!」
『ああ、まだやり直せるんだよ。今から数話に分けて投稿すれば、読みやすくすることができる。』
「じゃあ、さっそく…」
「よかったね、照。」
ただここで、照はもう一つの問題に気づいた。
「一話って、字数どれぐらいの方がいいというのがありますか?」
『よく気づいたな。まあ、今でも定かではないが、3500~6000字がいいという噂があるらしい。でもみんなが書きたい内容の長さもちろんそれぞれ違うから、あくまでも目安だよ。自分が一つの段落として終ってもいい場所を、切り分ければ、まあまあ見やすくなるはず。』
「分かりました。ではさっそくやってみます。」
『そうだな、とりあえず今日はそれを終わらせよう。それだけでも君には、1、2日は充分悩むはずだ。それ以降は長編か短編を書くこと、どんなジャンル書くのをまた考えよう。一気に話しても、疲れが溜まって、ちゃんと吸収できないと思うからな。』
「先生…ありがとうございます!」
照は感動した。
口がちょっと悪いけど、神野はしっかり共感ーー気遣いできて、ストレスをかけないように教えてる。
根は優しい人と、改めて思った。
『じゃあ、今日はこれでいいんだな?』
「はい!朝早くお邪魔して、すみませんでした!」
『構わないよ。僕が君を弟子にしたからな。一応の責任、持つつもりだ。じゃ、しっかりやれよ。君の投稿、いつでも見れるから。』
神野が電話を切った。
しかし最後に残した言葉、何か引っかかる。
いつでも?
照はPV数の画面を再読み込みした。そして元々ゼロだったものが、「1」になった。
その更新された時間は、つい先。
「つまり、そういうこと…?」
行動は、監視される。しっかり先生に言う通りやってないと、速攻バレる…かも。
ちょっとやばくない?
「照?どうしたの?」
「い、いや、何でもない。」
これは、自分からスパルタ式勉強を選んだかもしれないと、照は冷や汗をかいた。
そして、数日後、照ーーアカツキ・シーの初投稿『姫×勇~異世界に転生した僕は、姫の命令で勇者になって魔王を倒す!』のpv数とptを見て、彼はまた凹むのだった。
●
「ふ…」
「照君からの電話?」
神野の家のリビングルームに、照と電話で話し終わった神野へ、紫咲は尋ねた。
彼女は上半身に神野のシャツを着て、下半身は下着だけのフリーダムの状態で、ソファーでくつろいでる。神野はあまり彼女の邪魔にならないように、別の場所で電話してた。そして今ルームに戻り、紫咲の隣に腰を下ろした。
「ああ、そうだ。『投稿したけどptが0のままです!』のことで緊張したらしい。」
「あーーそういうことか。でも最初はそういうものだよね?」
「まあ、それはそうだが、一応安心させるように、色々説明してやった。」
「やさしいわね、境。学校の先生みたいな感じもあるわ。」
「そっちの先生はめんどくさいからいやだな…ていうか、先輩は今日仕事行かなくていいのか?」
「いいの。境が一刻も早く復帰するのが、私の一番の仕事だから。それ以外は他の人に任せてもいいと、社長が言ってた。」
「…あのじいさん、めちゃくちゃだな。」
「それぐらいあなたのことが大事だと、みんなが思ってるわ。もちろん、私が一番ね。」
「はいはい…」
神野は苦笑いした。
『自分が大事』というのが聞こえはいいもの、実際は『自分が生み出す利益の方が大事』だと、彼は思った。
皆、信用にならない。
そんな神野の思いを知らずに、紫咲は遠慮なく彼に寄せた。
「で、今日はなんか書けそう?」
「…いや。書きたい欲望はないな。」
「…そう。」
紫咲は神野を責めずに、ゆっくりと彼の顔に近づけ、頬にキスした。
キスされた神野は、目が大きく開き、驚いた様子で紫咲を見た。
「…なんだ?急に。」
「いや?昨日の刺激が足りなかったと思って、もうちょっと何かした方がいいと考えた。」
紫咲はイタズラな笑顔で返事をした。そしてそのまま神野の体を触り始めーー
「え、ちょ!?」
「今日はクリスマス当日だし、特別なことして、思い出を作りたいな…♡」
「昨日もう作ったじゃ…!」
「昨日は昨日、今日は今日なの。」
「いや、待って…!」
クリスマスは、片方は勉強、片方はイチャイチャの感じで、終わりを迎えた。




