12.クリスマスイブーー照と璃紗の場合~
12月24日(日) 朝9時 商店街の入り口
昨日と同じ待ち合わせ場所に、同じく照が予定の時間より早く着いた。
いつものカジュアルな服と違い、今日はシャツに防寒対策のジャケット。髪スタイルもしっかりセットして、大人びてる姿だ。
クリスマスは12月25日。宗教ではイエスの誕生を祝う日。ただ今は、恋人や家族、友たちと一緒に楽しいことしながら、一年間の思い出を振り返す普通の日。
それでも街中に飾られたクリスマスの装飾、特に大きいクリスマスツリーの関係で、皆が皆、特別の気分になる。
そしてその前日から騒ぎ始めるのもまだ、世の中の流れ。
朝の時間にも関わらず、町を散策する人が多い。そのほとんどが手を繋ぎながら、笑顔で雑談してる。
(特別の日に休みも重なると、テンションも上がるよね…)
その方がお祝いの気持ちになれるというのもあるかもしれない。
そんな感じで照は人を観察し、『共感』しながら、時間を潰した。
「照!」
聞き覚えの声が自分の名前を呼んだ。その声の方向に向くと。『誰?』と、一瞬頭がパンクった。
璃紗だ。自分へ走ってくる金髪のギャルの女の子、間違いなく璃紗だ。だが、
(え、肌の露出が…!)
半端じゃない。
胸をいつもより強調する服。下着がギリギリ見えないぐらに太ももを出してる短いスカート。
長袖だが、それ以外のところは隠す気がない感じの、
凡そ冬とは思えないぐらいの恰好だ。
「ごめん、待った?」
「い、いや、そんなに…」
いい香り。近づいた璃紗の体から、汗をかいてるの反面、花の匂いがした。
「どうしたの?ぼっとして。」
「え、いや、その…璃紗の恰好、寒くないかな、って。」
「あ、これ?寒いよ。」
「え、じゃあ…」
『何でこんな服を?』と照は聞こうとしたが、
「今日はクリスマス前日だから、それに初めて照と二人で過ごすクリスマスだし。ちょっと服も特別感を出そうかなって。」
「璃紗…」
それにしても特別すぎないか?周りの視線を集めてること、気づいてない?
照はチラと周囲の通行人を見た。
男性はもちろん、女性もほぼ全員が璃紗を見て、小声で感想を漏らした。
『見て、あの子。』『凄い。モデルさん?』『スタイルが完璧すぎるーー!私もそうなりたい。』
学校で人気なのはもう知っているが、外でもこんなに注目を集めるとは、さすが。
照は心から感心した。しかし、璃紗は予想外の追い打ちをした。
「ね、照…」
「はい?」
「私の恰好、どうだった?変?」
猫撫で声に上目遣いで、璃紗は照に感想を求めた。
「あ、え、ぼ、僕は…!か、可愛いと思います!」
「それだけ?」
璃紗は少し拗ねた顔を見せた。それを見た照は、覚悟を決めて、
「いつもより可愛くて、素晴らしいと思います!」
多分、今まで一番の誉め言葉を大声で伝えた。
「…ありがとう♡照も素敵なだね!」
璃紗自身が言わせたのに、自分の顔も恥ずかしさで火照った。
二人のやり取りを見った周りの人たちが、『純情だな。』『尊い。』などの感想を心に秘めた。
「あ、とりあえずどっか行こう!ここはちょっと…」
周辺の人の目線が痛い。これ以上いると、心が持ったない…!
「あ、うん!そうだね。」
照が先頭を歩く形で、璃紗がその後ろを付いていった。
(よし!作戦成功!)
照がめっちゃ私を意識してる。見て分かる。
頑張った甲斐あったわ。もう恥ずかしい過ぎてマジ死にそうだけど。
でもバレたら、逆に恰好悪いから、もうちょっとガマン、ガマン。
昨日メイド長に聞いたクリスマスの誘い方、効果抜群!お土産を買ってお礼しよう!
今日は、今まで照にできなかったこと、言えなかったこと、絶対に伝える!
璃紗が心に今日の目標を決めた後、前にいる照の左手を掴んだ。
「え?」
「今日は、ずっと繋いでいたいの。ダメ?」
「え、あ…うん、いいよ。」
「ありがとう!」
璃紗は絶対離さないという風に、しっかり自分の手を照の手と絡めた。
照は驚いて璃紗を見た。
「え、いや。」
「なーに?」
しかし彼女は何も気にしない顔で、無邪気で微笑んだ。
「…何でもない。」
ダメだ。理性が…
照は璃紗の積極的な行動に戸惑いながら、自分が正気保てるように、一日早く終わるように祈った。
●
二人がショッピングモールに入って、最初行ったのは、映画館だ。
フードコーナー、エンタメコーナー、ブランドコーナーなど。都内最大級ではないが、食べ物からおしゃれの買い物まで、このショッピングモールは全部揃ってる。
そして映画。最新の映画はもちろん。客の希望あれば、昔の映画も再上映するという特別サービスも提供してる。そのため、曜日問わず、毎日映画見る人が多い。
「多いな…」
照と璃紗は、壁に設置されてる大きいスクリーンの前で、上映時刻表を確認しながら悩んでる。
「どれにしよう?」
「んんーー璃紗は?見たいのがある?」
「質問に質問答えるの?でもそうね、私は…バイ〇ハザードの最新劇場版、バスカの逆襲に興味あるし、真激の巨神・フィナーレも、捨てがたいよねー」
「あはは、昔からそういう系が好きだね、璃紗。」
「照も昔と同じく優柔不断だね。」
「思慮深いと言ってください。」
「よく言うわねー」
「はは…最近なんかゾンビブームまた来てるし、バイ〇ハザードでいいじゃなかな。みんなと共通の話題を話せるよ。」
「共通の話題、か…照は、本当に昔と変わらなくて、よかった。」
「え、それどういう意味?」
「ふふ、そのままの意味だよ。じゃあ、バイ〇ハザードで決まり!早くチケット買おう!」
璃紗は照の後ろに回り込み、彼をチケットの販売機器の方へ押した。
そして二人の一日は、始まった。
●
映画見た後は、昼ご飯。照が璃紗の好みに合わせて、デザートが有名のカフェを選んだ。
そこで自分が注文したデザートを、お互いの口に『あんー』と食べさせるとか、
ARゲームコーナーで、カプッル限定の特殊イベントに参加して商品を取ったり、
色々なコーナー回した。
そして気づいたら、夕方になった。
「あーー楽しかった!」
「よかったね。」
二人は一階の噴水広に戻って、回りにあるベンチに座り、休憩を取った。
「久しぶりに遊んだーー」
「いやいや、この前、みんなで修学旅行に行ったじゃないか。」
「えー、あれはみんなで行っただけで、照と二人きりじゃないよ。照と二人で遊んだのは、小学校以来かな?」
「それは、まあ、そうだけど。」
「それに、照と一緒の時、一成も大体いるじゃん。」
「まあ、二人とも小さい頃から遊んできたからね。」
「でも私、中学校の時、別だっだじゃない。」
「あ、そうだったね。確か家族の要望で、女子校行ったっけ?」
「『女子としての嗜みを勉強しなさい!』という理由で、無理矢理に女子校に入れられた。それも全寮制の!全ーー然ーー合わなかった!」
璃紗は力強く文句言いながら、白目をむいた。その反応を見て、照は小さく笑った。
「そんなに?」
「そうだよ!それに照もいなかったし!」
「え、ぼ、僕?」
「うん!」
璃紗は嬉しい顔で頷いた。
彼女の言葉、分かり易い感情。いくら鈍感な自分でも理解できる。
だからこそ、疑問が消えない。
「ね、璃紗、ちょっと聞いていい?」
「何?なんでも答えるよ。スリーサイズ知りたい?」
「うん、知りたい…じゃなくて!真面目なことだけど!」
「ちぇ。やっと興味持ってくれたと思ったのに…、何を聞きたいの?」
「素朴な疑問だけどさ…今日もそうだけど、璃紗は、何で急にこう、僕に積極的にアプローチしてくるようになったのが、気になって…」
こういう言葉を言うと、通常は『何コイツ、自意識過剰?』と罵倒されるのがオチ。が、さすがに露骨に色々されてると、勘違いの一言で片付けないと思う。
照の質問聞いて、璃紗は小悪魔な笑みを出した。
「…知りたい?」
「…うん、知りたい。」
「分かった。」
璃紗はベンチから立ち上がり、照に右手を差し伸べた。
「その話する前に、行きたい場所があるの!」
「え?どこ?」
「そこ!」
璃紗は空いてる左手を上に指さし、その終点にあるのは、展望台だ。
●
二人はエレベーターでショッピングモールの最上階、50階にある展望台に上がり、室内のドアをくぐった後に、外に出た。
「わあーー綺麗ーー!!」
二人が最初見たのは、どこまでも広がっていく空、そしてちょうど沈んでいく夕日だ。フェンスはあるが、その景色を邪魔にならないように設計されて、安心、安全で楽しめる場所だ。
そしてあまりにも綺麗な光景の関係で、ここにいる人たちは、寒さを忘れるぐらい、長い時間滞在することもある。
しかし、今日は別の場所にクリスマスイベントが開催予定の関係が、珍しく誰もいない。
「本当に、綺麗だね。」
「うん!」
二人は屋上の端へ移動して、夕日だけではなく、街並みも楽しもうとした。暫くして、璃紗は話題を切り出した。
「…先の話だけど。」
「うん。」
「照ってさ、私に冷たかったじゃん?」
「え?いや、そんなことは…」
いきなり責められて、照は無意識に否定しようとしたが、
「ある。あった。ないとは言わせない。」
「あ、はい。そうデシタ。」
「だって、高校入学式の時、照や一成と同じクラスになったと知ったあの日、私、めーーちゃ嬉しかったよ?なのに、いざ教室に入ると、照は私の事を見て、何かよそよそしい感じになって、『何で!?』と思ったもん!私が照に悪いことしたと思った。だから私、昔のように照にスキンシップするのをやめたの。」
「え、あ、あれは、その…」
照は言い淀んでる。そういう態度取るのが、しっかり理由がある。しかし、あまりにもバカバカしい理由だから、口にするのが抵抗がある。
璃紗はそんな照を見て、怒ることなく、逆に笑顔になった。
「ふふっ。分かるよ。今だったら。照は、私の事、気にし過ぎてるから、わざと気にしないフリをしたよね。」
璃紗は得意気に自分の考えを伝えた。そしてそれは、
図星だった。
しかし、それでも疑問が残る。
「あ、照は私の事が嫌いじゃないと分かったのは、つい先日。ほら、照と一緒に、両親に小説のこと説明したじゃん。」
「ああ、あの日。」
「うん、あの日、説明終わって、ご両親も許可してくれた。」
「うん。」
「その後、照が嬉しい過ぎて、私の手を取ったじゃん。感謝の気持ちで。そしてそのまま私の手を放さずに、私の家の途中まで送ってくれた。」
璃紗の話を静かに聞いた照は、やっと原因に気づいて、『信じられない』の顔になった。
「うん…あ?え!?それで!?」
「『それで』って何よ!照が私の事を嫌いじゃないと分かったあの日、私、感動し過ぎて泣いたよ!」
「璃紗…」
「ずっと一緒にいられると思ったのに、中学校でさっそく別れた。せっかく高校で再会したのに、照は私の事あまり見ようとしない。もう私、どうしたらいいのか、分からなかったよ。」
璃紗の顔に、涙が、ポロポロと落ちた。
ああ、ずっと我慢してたね。
先生の『隣にいる麗人のこと、共感できないようじゃ、まだまだだな。』あの言葉、こういうことか。
僕は、バカだ。
「璃紗。」
「…なに?」
「ごめん。」
照は璃紗に深く、頭を下げた。
「え?え!なんで照が頭を下げるの?責めてるわけじゃないよ!」
「いや、先の話、100%僕が悪かった。言い訳しないよ。僕は、」
照は頭を上げて、深く息を吸った。
冬の冷え切った空気が、ちょうど頭と体を適切に冷やしてくれる。よし。
「僕は…僕も!入学式の時、璃紗や一成とまた同じ学校、同じクラスになったこと、嬉しいと思った。」
「…じゃあ、なんでそんな冷たい態度取ったの?」
「璃紗は、あまりにも小さい時と印象が違ったから。どう接したらいいのが分からなかったよ。璃紗の中学校は全寮制だったし、3年会ってなかった。昔のように話しかけるのがいいかどうか、迷った。」
「なによ。私のせい?」
「いや、落ち着いて。要はあれだよ、璃紗がめちゃ綺麗になったから、自分が話かけていいのか、ね。」
「そんなの、気にしないで話しかけてよ!」
「だからできなかったし!それに一成のこともあるし…」
「え?なんでここに一成が出るわけ?」
「学校のみんなが、『璃紗と一成がお似合い』という噂、聞いたことないの?」
「あー、噂ね。そんなの全然気にしてなかったわ。」
「実際、僕もそう思ってるから。」
「え!?照が!?なんで?私とアイツ、仲良くないよ!照がいつも見てるから分かるよね?」
「その『仲良くない』の行動が、周りから見ると、夫婦のケンカみたいに仲良しだよ、璃紗。」
「いやいやいや、怖い!鳥肌が立つ!」
「そこまで言わなくても…まあ、片方は運動万能のカッコいい男、もう片方は成績トップでモデル並みのスタイルを持つ女の子。付き合うのはもう学校中で当たり前のことになってるよ。美男美女カップルでね。」
「いや、ナイナイ。」
「はは、まあ、そういうことだから、僕なんかが引っ込んだ方がいいと思って、璃紗にちょっと距離を置いた…感じです。」
照の懺悔(?)を聞いた璃紗は、涙が止んで、気持ちも穏やかになった。
「もう、照ワガママだから。」
「え、ワガママ?」
「そうよ。勝手に思い込んで、勝手に人を遠ざけて、勝手に自己完結しようとしてる。」
璃紗は照に一歩近づき、彼の顔を自分の右手で触った。
「私の意見、聞いた?」
「…いや、聞いてませんでした。」
「聞かないとだめじゃん。私たち、初めて出会った真っ赤の他人じゃないし。」
「そう…だね。これからそうするよ。」
「よろしい。」
璃紗は笑った。夕日に照らされ、黄金に輝く髪が、その笑顔に、目が開けないぐらいの、眩しい飾りをつけた。
「じゃあ、照が私の事を嫌いじゃない、そして距離を置いた理由も分かったし、残り問題は一つだね。」
「え、まだあるの?」
「あるよ!むしろ一番大事な!」
璃紗が顔を膨らませた。とらふぐみたいに。
「何だろう?」
照が全く分からないのように首を傾けた。
「…照~?わざとやってるよね。いいわ、私から伝えるわ。」
「あ、いや、待って。ごめん。分かった。」
照が慌てて璃紗を止めた。
そう、彼女が覚悟決めて、今日はその魅力的な恰好してくれたし、何より自分から昔のことを話し、誤解を解けた。何もかもしてくれたのに、また重要なことを丸投げするのは、よくない。
何より自分のこの気持ち、もう抑えられない。
「璃紗。」
照は璃紗の両肩を掴み、真剣な顔で彼女を見つめた。
「…はい。」
彼女は緊張したのか、先のハイテンションとは違い、小さな声で返事した。掴まれた肩も、震えてる。
「僕と…」
その言葉を話したいが、自分も緊張して、なかなか口に出せなかない。
そう、とても簡単で、同時に一番難しい言葉。
しかし、彼女のまっすぐな気持ちに答えないと。
きっとこれからも、言いたいことが言えなくなるだろう。
照はもう一回深呼吸して、力強く、
「僕と…付き合ってください!」
魔法の言葉を放った。力を乗せたその言葉は、璃紗の心にエコーを引き起こした。
そして時間だけが過ぎていく。1秒、1分、1時間。短そうで永遠にも感じる。
その果てに、璃紗は、
「…はい!喜んで!」
涙を流しながら、笑ったまま、照の言葉を受け入れた。
「璃紗…ありがとう!」
「あ、ちょっと待って。照、目を閉じて。」
「え?何で?」
「いいから…」
言われるがままに、照は目を閉じた。
そして突然、自分の唇に柔らかいものが当たった感じがした。
その感触に驚き、照は目を開いた。目の前に、璃紗の顔が、ゼロ距離で、自分にくっついてた。
そう、俗にいう『キス』だ。
唇と唇の触れ合い。初めての体験に、照は体を硬直した。
数秒後、璃紗が名残惜しそうに照から離れた。
彼女の顔には、物足りないような感情残ってるが、『外』という環境は辛うじて彼女を引き留めた。
その代わり、今持ってる感情を、余さずにそのお祝いの言葉に変える!
「一日早いけど、メリークリスマス!」
照はいきなりのことで呆然としたが、璃紗のその祝福の単語を聞いて、やっと我が返った。彼も少し遅れて、
「…ああ、メリークリスマス!」
クリスマスイブ。
二人の若い子が、お互いの気持ちを確かめられて、共に未来へと進むことを決めた。
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