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10.ネタ探し②ーースカーレット(下)

「スカーレット様、お連れ様方、どうぞこちらへ。」

ホテルのロビーに入った5人へ、スカーレットの担当バトラーが、すぐ案内に入った。

施設の紹介、宿泊者じゃなくても利用できるサービス内容など、一通り説明聞いた後に、5人がある場所へと導かれた。そこは、神野の今日のメインの目標のーーレストランだ。

「では私はこれで。御用がありましたら、いつでもお呼びください。」

『失礼いたします。』と一言伝えて、バトラーが音立たずに去っていった。

「席はこちらでいいか…よし、どんどん食べな。あたしの奢りだから。」

スカーレットは照と璃紗を見て、笑いながら伝えた。

『『ありがとうございます!』』

二人はその言葉聞いた途端、ほぼ走るような感じでビュッフェへ突撃した。


「さすがスカーレット、太っ腹ー」

「あん?お前は自分で払え!」

「神野先生、見苦しいですよ。」

「おお、こういう時は二人仲良くか、痛いな…いや、ほら、僕はしばらく作品出してないんだ。ちょっと生活は…」

「ふざけてんの?お前はどれぐらい稼いだか、あたしが知らないと?」

「昔話じゃないか。」

「それならお前の家も昔話にしてやろうか?」

「ひえー、紫咲、助けてよ。この人怖いよ。」

「先生は一遍、死んだ方がいいと思います。」

「お前も怖いな…」

冗談には聞こえない冗談を交わしながら、神野たちもそれぞれビュッフェに向かって自分の好物を取り始め、そしてまた席に戻るのだった。


「で、そっちの若い子が、テルという子か?」

スカーレットが片手で赤ワインが入ってるグラスを掲げ、香りを少し嗜む後に、ゆっくり飲み始めた。

「そうだ。まあ、簡単に自己紹介しな、二人とも。」

「あ、はい!暁海(あけみ)(てる)です!よろしくお願いします!」

「私は金盛(かなもり)璃紗(りーしゃ)です!よろしくお願いします!」

「テルという子がカミノの弟子だからまだわかるか、リーシャ?は何で一緒についてきたんだ?」

「私、照の幼馴染で、ちょっと心配だからついてきました。」

「ナルホド、Girlfriend(ガールフレンド)か。」

「ガ、ガール…!?」

璃紗の顔はあまりの恥ずかしさで桃みたいな色になった。しかしガールフレンドについては否定してない。その反応見た照は、逆に困惑した。


「それで、何が聞きたい?あたしも暇じゃないんだ。」

「あ、えっと…」

いきなり聞かれて、照もどう切り出せばいいと分からない様子で、神野を見て助けを求めた。

「まあ、あれだ。君はいかにしてデビューした、そしてどうやってここまで有名作家になった。そういった経歴を、経験をこの子に教えてもらえば充分だ。」

「どうやって?そんなの、答えは一つに決まってるだろう。」

スカーレットは、迷いなく即答した。

「ひたすら自分の書きたいように書けば、いつかあたしみたいになれるんだよ!」

『ははは』とスカーレットが笑った。冗談ではなく、極めて真面目なトーンで、彼女はそう答えた。

「そんな簡単に…」

「なれないと思うか?そう思ってる限り、永遠になれないんだよ。批判されるのが怖い、無駄になるのを畏れ、果てが見えないと考え勝手に疲れ気味になる。やる前にそういうネガティブな思いに縛らるようじゃ、成功できるのもできなくなる。才能云々まえのことだ。それに、書いたらうまく行った、という例はすぐそこにいるじゃないか。」

照が目を開いた。確かに、一理ある。そして、神野はまさに成功した。

「いっぱい書けば、いつかデビューできる、ということですね。」

『『いや、そういうことじゃない。』』

神野とスカーレットが、同じタイミングで照の言葉を否定した。

「え!?だってそういう感じに言ったじゃないですか!?」

「必ずデビューできるとは言ってないよ。坊や。あくまでも『踏み出さない限り、絶対に成功できない』であって、『踏み出せばいつか実が結ぶ』と同じことではない。」

「それにスカーレットは、どちらかというと才能ある方だからな。だからいっぱい書いて、数打てば当たる。」

「才能?なんじゃそれ。あたしはただ自分の感情のままに書いてるんだ。その結果、書いた小説いっぱいになったのと、人気も集めただけだ。」

「その考えなしに人気集められたのが、才能というものだよ。」

「お前、ケンカ売ってるのか?」

「褒めてるんだ。な?紫咲。」

「いえ、ケンカ売ってますね、完全に。」

「おおおおおいいいいいいいい!!!!!????味方にしてくれないのか!?」

「今、先生の味方したところ、メリットは1ナノメートルすらもないので。」

紫咲は涼しい顔でビールをグイグイと飲みながら神野を見放した。

「よし!表出ろ!」

「出るか!」

「ははは…」


そう。書いてもデビューできるかどうかわからない。でも書かない限り、絶対にデビューできない。

だから、どのみち、書くしかない。

分かってたはずーー


「照?どうしたの?」

璃紗が心配そうに照の顔を覗き込んだ。それに気づいた照は、安心させるために、わざとらしい笑顔を作ってみせた。

「…いや、ちょっと驚いたていうか、スカーレットさんの言う通りだなー、って。」

「無理しなくていいよ、照は小説書いても書かなくても、私がいるから。」

「璃紗…」

璃紗がそう言って、照の手を優しく握った。


「ふむ。暑いな。冬なのに。」

「それなら外行って、体を冷やしてくることお薦めですね、神野先生。」

「ついてに海に落とそうか?きっともっと冷たく気持ちいいぐらいに冷やせると思うぜ!」

「殺す気か!君たちは!」


大人3人のやり取り見て、照と璃紗もクスクスと小さな笑みをこぼした。


「まあ、才能あるかないかで、やるかやらないかを決めるのが勝手だけど、『好き』の気持ちもその関係で続くか捨てるかを決断するのが、あたしにはできないな。」

「スカーレットさん…」

「好きなことやりながら生きていける、ていうのが一番気持ちいい生き方だ、そう思わないか?」

「そうですね、僕もそう思います。」

「でもさ、お前たち日本人にはそれが難しいだろうけど。」

『『え?何故ですか?』』

照と璃紗はその種族を特定した言葉に、敏感に反応した。


「お前たち、人の目線めっちゃ気にするじゃない?見た目、服装もそうだし、言葉、行動、細かいところまで人に気を遣って、自分を()()して合わせていく。そういうの、社会に溶け込む、ていうことかな?」

スカーレットはまたグラスを口に近づけ、今度はワインを一気に飲み干した。そして、

「その生き方、そもそも縛られて、自由がないんだ。そんな環境で思いを馳せて好きなことしながら生きるなんぞ、厳しいと思うね。小説書いても、売れていないと、結局周りに止められるだろうからさ。成功者じゃないから。チャレンジしようとしても、早い段階で『お前に才能がないから、諦めろ!』、『しっかり働いて出世目指せ!』『夢は所詮夢だ!』と言われるのが多いという噂、聞いたこともあるぞ。」

「それはーー」

照は思い返す。まだ数日前のことだが、自分は確かに親にどう言われのが心配で、中々言い出せなかった。それに璃紗と一成、仲いい親友にも、何一つ伝えられなかった。


「…スカーレットさん、その辺にしときましょう。」

「お、ワルイ。ワインがでちょっと酔ったみたいで、本音出ちまった。」

「そこまでお酒弱くないでしょう、あなた。」

「はは、まあ、お説教になったが、要は自由に生きていける方が、より色々体験できて、小説をもっといい感じに仕上げると、あたしは思うんだ。成功だけ目指した、結局書きたいもの書けずに、自分の思いを殺す。道を狭める。そんな生活、つまらなさ過ぎて、あたしには耐えられないな。坊やたちはどう思うか知らないけど。」

「僕はーー」


真剣に真剣を重ねて、スカーレットは現実という刃を照に突き立てた。

その問いに、照はすぐに答えられなかった。



    ●



『『ごちそうさまでした!』』

「お!また何か聞きたいことあったら、いつでも連絡くれよ!紫咲のヤツ除いてな!後、カミノ!お前ぜったい一位から落とす!覚悟しろ!」

「おっと、怖い怖い!」

照と璃紗は元気よくお礼を伝えた後に、神野と一緒にホテルを離れた。

紫咲はスカーレットの話大体終わった頃に、『別の仕事あります』と言って、3人と先に分かれた。

「いっぱい食べたか?」

「はい!」

「伊勢海老、全国から集めた和牛、各種レア部位の刺し身…家でもそんなに食べたことなかったわ!」

「そういえば、璃紗の家って、お金持ちだったね。」

「まあまあかな、家は大きいけど、あまり興味ないの。」

「お金持ちのギャルが…属性モリモリだな。」

「先生、何か言った?」

「何も。」

「また僕たちをネタとして見てますよね?いやらしいーー」

「いやらしくないわ!」

神野が強く反論した。そして急に真顔になって、照に問いかけた。

「照君。」

「はい?」

「僕が先日出した宿題、答えもう見つかったか?」

「それはーー」

「見つけたよな。じゃないと、『また僕たちをネタとして見てます』とは言わないはず。」

「…先生、本当にいやらしいですね。人の心を簡単に読めるなんで。」

「え?何?どういうこと?先生は人の心読めるの?」

「ふん…それについては、照君の答えを聞こうか。」

ホテルからちょっと離れた場所で、スカーレットの姿が見えない、人通りも少ない道端で、神野は静かに、隣に歩いてる照の回答を求めた。

照は深呼吸して、自分のこの二日間考えたもの、神野の今までの行動を合わせた結論を、話し始めた。

「璃紗、先生は人の心が読めるではなく、『読めてるみたい想像できる』、だよ。」

「読めてるみたい想像できる…って、どういうこと?」

「そのままの意味だよ。先生は他人が考えてることを想像して、相手より先に話し出す。ただその話の内容は、一字一句、相手の考えと違わないから、先生がまるで人の心が読めてるみたいになってる。」

照はにっこりと神野を見上げた。

「そうですよね、先生?」

「…ふむ、やはり君もそういう才能あるだな。」

神野は足を止めて、歩道のガードレールに手を置いて、無言のまま遠い目で海を眺めた。

「先生は、相手を『見る』ことで、相手の考えを『想像』して、そして小説の『ネタ』にする。そうですよね?」

照は自分の推測を続いた。神野は『バレたか!』とか、そういった今までみたいな冗談の姿勢を出さず、ただ照の話を聞いた。

「ああ、そうだ。で?」

「だから、先生の目がそんな感じになった。()()()()()()()()()。いや、もしかしたら、スランプの原因もそれかもしれません。あまりにも人の考えを想像し過ぎて…『共感』し過ぎる結果、心が壊れかけた…じゃないかなと思います。」

「え、そんなことか…あり得るの?」

「先生だからできたでしょう。先のスカーレットさんの話もありました。『自分の気ままに自由に書いただけ、その結果人気集めた。』という才能があるのように。先生のそれも才能ですね。でも、自滅するような才能…ですよね?」

照は一息ついてから話を続けた。


「濃密なストーリー、魅力あるキャラを作るために、設定を細かく考え、そして作品の展開に合わせて、キャラの出番バランスよく配置する…ただそれらのもの、自分の想像だけだと限界があって、だから現実のものを入れてボリュームを広げる。しかし、現実のものだからこそ、拘って作らないといけない。読者に『何故実際のものと違うの?』と納得させる設定、逆にどこか実物と同じという点をアピールすることも大事。先生は、小説(げんそう)に嘘と現実を際限なく全部取り込んでるから、デビュー早々壊れたよね。」


パチパチ。

ここまで聞いて、神野はやっとリアクション出した。両手を拍手して、子供に『よくできました』を褒めるように。

「そして、その答えをただ二日で出せる照君も、僕と同じような才能あるかもしれないと、自覚はあったか?」

「え、嘘!?照が!?」

「…ないと言えば嘘になりますが。」

顔色が悪い璃紗を見て、照が笑った。偽りのない、本心からの笑顔。

「でも僕、そもそもデビューところか、小説をサイトに投稿することもまだしてないので、『いつか僕みたいに目が死ぬ、心が壊れる』と言われても、実感は湧きません!それに!先生は僕がそうならないために、僕を弟子にしたんですよね!?」


大声で、楽しそうで、太陽より明るい、極上の笑み。

ああ、この子だったら、自分と同じには、ならないかもしれない。

スカーレットの言う通りだ。人に気を遣い、よりいい作品を生み出すために、道を定め、本心を殺す。

ありとあらゆるジャンルに手を出して、どんなものでも難なく書けると見せつけたものの、

それらすべて、()()のためではなく、売れるためだ。

生まれつき、人に共感することが得意だった。だから演じた、優等生というキャラ。

そしてストレスを解消するために、小説に手を出した。

始めは楽しかった。しかし、デビューした後に、求められる。()()を。

そこから新たなストレスが発生した。

終らない。終らない。終らない。

いつまで書けばいいんだ?

『この内容、売れないから、書き直してください。』

最初の編集は、売れるために、内容の変更を何度も要求してきた。

自分の意見まったく通せなかった。

売れないものは、誰にも必要とされない。

必要とされないだったら、親に、周りに小説書くことは否定される。お金にならないから。

世間体。

人と付き合う以上に、気にすべきもの。

自分がいいと思ったものは、売れるとは限らない。だから、

折れた。くだらない現実に。

売れるように書き直した。言われるままに全ジャンル挑戦した。

そして、有名になった。

そして、死んだ。心が。

そして、出会った、自分と同じ未来に辿るかもしれない、若い子か。


しかし、今、彼は力強く否定した。『やってみないと分からない』と、果敢にもその道を進めようとしてる。

ならば、やることは一つ。


「…そうだな。とりあえずもう帰ろうか。ここにいてもしょうがないしね。」

『『はい!』』

「あ、それと、宿題もしっかりできたし、照君はクリスマス二日間、小説のことを考えずにゆっくり満喫してな。ギャル子もそれを望んでるから。」

「え?」

「いや!私は!望んで…いるかも…」

「璃紗…」

照は璃紗の赤い顔を見て、自分もあまりの恥ずかしさで赤くなった。

「隣にいる麗人のこと、共感できないようじゃ、まだまだだな。」

「それができる先生が変態過ぎるだけです!」

「お。いきなり言うようになったな。この!」

「いたたたた!頭をグリグリしないでください!いつの時代の技ですかーーー!」

「ちょっと!先生!照をいじめないでーー!」


3人の帰り路に、暖かく晴れた日とともに、明るく軽い歩調で、賑やかに帰途に着いた。

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