9.ネタ探し②ーースカーレット(中)
12月23日(土)
「照!お待たせ!」
朝9時前、商店街の入り口で待ってる照向けに、璃紗は手を振りながら走っていった。
「ううん、そんなに待ってないよ。まだ約束の時間の前だし。」
「でも照はもっと早く来たよね?一人させて、悪いなって。」
「はは、そんなに気にしなくてもいいよ。むしろ未だに姿見えない先生たち、遅刻よね、これ。ダメな大人だねー」
「誰がダメな大人だって?」
いつの間にか、照の後ろに神野が立っていた。その隣に、大きい紙袋を持ってる紫咲もちょっと不機嫌そうについてた。
「二人の私服姿、中々おしゃれな。」
「先生!遅刻すると思いました。」
「君たちより早く着いたよ。ただ紫咲が『せっかく日本に来たから、何かお土産もっていかないと、失礼です。』と言って、そこのショッピングモールに行ってちょっとお土産を買っただけだ。本当、律儀なやつ。」
「仕事ですので。わが社と契約関係ある有名作家、関係をよくしないと。」
「…いや、君はいつも彼女とケンカしてるじゃないか。」
「気のせいです。あれは異文化交流です。」
「よく言う…」
「あの、紫咲さんはスカーレットさん仲が悪いですか?」
照は心配そうに聞いたが、紫咲は相変わらず機嫌悪い顔で答えた。
「いえ、そんなことありません。断じて。」
「顔がそうは言ってないけど?」
「しつこいですね、神野先生。そんなこと言う余裕あるんだったら、今日の予定をキャンセルして、家に戻って執筆してはいかがですか?」
「おっと、怖い。さっさと電車に乗ろうっと。」
神野は逃げるように、商店街入り口の左手のちょっと離れた場所にある駅へ小走りで行った。
「まったく…さあ、行きましょう。」
「はい!」
「あ、照は先に行ってて。ちょっと紫咲さんと話あるの。」
「え、なんの話?」
「女の子の話。いいから!」
「わかったよ…」
璃紗に怒鳴られて、照はしぶしぶと神野の後を追った。
「私に話を?」
「はい。」
「どんな話?君と昨日会ったばかりだし、そんな秘密にするような話はないと思うが…」
「あの、編集の仕事について聞きたいです。」
「ーー」
璃紗は真剣な顔で、自分の希望を伝えた。その目には、先日、照が神野に『小説家を目指す!』と言った時と同じような、決意が秘めた目だ。
紫咲は照の方を一度見て、そして璃紗の方に向いた。
「…なるほど。いいでしょう。私が教えられる範囲であれば、問題ありません。どんどん聞いてくださいな。」
「…!ありがとうございます!」
璃紗が満面の笑みで元気よく礼を言った。
この日の朝、もう一人の新しい道が拓いた。
●
「そういえば、スカーレットさんって、どういう方ですか?昨日聞いた話だと、大体熱い小説を書いてるイメージしかないけど。」
港区に向かって、電車乗ってる途中、4人は雑談混じりながら情報共有した。
「まあ、実際それしか言いようがないな、彼女は。熱い小説ーー具体的に言えば、バトルシーンかケンカ描写があって、そこから熱い展開を書いて、読者の気持ちを盛り上げるという感じだ。ただ彼女の場合は、異常なほどそういったシーンが多く、もはやシナリオ=バトルぐらいの勢いで書いてるな。」
「え?そういう書き方もあるんですか?」
「ナイナイ。しかし彼女はそれをやり遂げた。要は僕と同じく、新しい境地を開いたわけだ。」
「先生と同じ…」
「興味あるでしたら、こちらをどうぞ。」
紫咲は自分のカバンから一冊の小説を取り出した。
「え、これは…」
「スカーレットの最新の小説です。それを見れば、先生の説明簡単に分かると思います。」
「用意周到だな。」
「別に。先生の弟子をサポートするのも、仕事ですので。」
「じゃ、失礼します。」
「あ、私も見る!」
照は隣に座ってる璃紗とスカーレットの小説を見始めた。
タイトルは『赤の君主と地に落ちた神』。なんか見覚えのある題名。
そして出版されたのは1年半前。
そのあらすじは、
『かつて大地を統べる神がいた。全知全能の神。
その神は、退屈さを解消するために、色んな生物創った。単純な生き物、そして知恵あるものーー人間。
最初は、神の管理下で、すべての生物、人間含めて、仲良く過ごした。
しかしある日、知恵ある人間が、戦争を始めた。
有限の資源が枯渇初めて、それに対し、人間の数が際限なく増えていくのが理由だ。
神が気付いた時、もう巻き返せない程度に来てる。平和の日々の関係で、神が警戒を疎かしてたからだ。
大規模の戦争を直視して、その際に神が取った行動は、自分の威光をもって、騒乱の原因である人間を消すこと。
しかし、自分の意思を持ってる人間は、もちろん言われるがままに消されるつもりはない。
神に対抗すべく、人間の中から、一人の女性が立ち上がった。
人間を率いる彼女は、やがて国を作り、赤い髪が特徴で、『赤の君主』と呼ばれるようになった。』
「何だか、あらすじからもうバトルシーン満載の感じですね…」
あらすじ読み終わった照は、自然と感想を述べた。
「そのまま内容行くと、もっとすごいんだぞ。」
「そうですか。じゃあ続き失礼します…」
照は小説を捲り始めて、そして、
「これは…!」
熱い、熱い、熱い。
ほぼ全部のページにバトルシーンか、人間たちの争いか、人間が神に対する咆哮か、そういった内容が書かれている。
不満に対する抗争。生に対する執着。圧政に対する暴力。
文明が進化してる今の時代では見えない場面が、この小説の中に全部晒されてる。
そう、この小説はーー
「反社会主義の小説だ。」
「え、先生。また僕の考えを読みました?」
「いや、気のせいだ。それよりどうだ?全部読んだわけじゃないけど、少しぐらい感想言えるじゃない?」
「そうですね…まずこの作品、結構危ないものじゃないかと思います。露骨すぎる暴力シーンあるし、全体を通して、今の社会に対する不満を書いてる感じが強いです。規制されるじゃないかな。」
「でも問題なく出版されたよね?」
一緒に小説を見た璃紗も、自分の見解を伝えた。
「あ、そうだった。もう世の中に販売されてるね。」
「まあ、でも着目したところはいい。彼女の凄い部分は、そういった不満を、綺麗に小説という形に収まることだ。だから規制されないし、その小説を読んで理解できる人は、より熱狂的なファンになる。」
「そういう手もありますか…」
「推奨しないけどな。彼女の書き方は、自分の才能を理解し、書きたいものと伝えたいことしっかりあって、そしてめげない信念持つ。そういうもの揃えた上の作品だ。今の照君が真似していいものじゃない。」
「先生がそこまで言う人、なんか本当にすごい人ですね。」
「でも万年2位だ。」
「何も書けない作家が何言ってるんですか。そのうちあの小説みたいに、神の座から引きずり下ろされますよ。」
紫咲の言葉を聞いて、照は小説のタイトルもう一度見て、そしてあらすじ読む時から生じた疑問を伝えた。
「そういえば、この小説、もしかしなくても、スカーレットさんと先生のことを…」
「ええ、スカーレットが神野先生を打ち倒す物語ですね。でもそこまで理解できる人あまりなさそうですが。」
「やっぱり!?スカーレットさんは先生に恨みでもあるんですか?先生が何かしたんですか!?」
「なぜそうなる。何もしてないって。向こうが一方的にこっちをライバルとして見てるだけだ。」
『『ライバル?』』
照と璃紗同時に首を傾げた。
「彼女、たぶん負けず嫌いのタイプでな。何事においても、一位じゃないと済まない感じの。だから結構売れたのにも関わらず、何かとこっちにちょっかいを出してるよな。」
『『へぇ、そうなんですか。』』
二人は納得したが、神野の隣に座ってる紫咲が、機嫌もっと悪くなった様子で、
「…彼女がそうじゃないと分かってるくせに…」
と、小声でつぶやいた。
●
『『大きい…!!』』
4人が電車降りて、少し歩いたところ、目的地のホテルに着いた。
W.L.C.に参加するであろう一般の方、作家、サークルの人数を予想して、7000を超えた客室を持つ巨大ホテル。
港区全体を眺望できるのはもちろん、サービスに至っては、全国からの特産品を使った料理が食べられるビュッフェ、温泉、サウナ、マッサージなど。あらゆるもの提供されてる。
「今日は泊りに来たわけじゃないぞー」
神野のその一言で、はしゃいでいる二人が強引に現実に戻された。
「先生、もうちょっと僕たちに夢に浸かる時間をくれてもいいじゃないですかー」
「知るか。それに、相手が待ってくれれば、時間をいくらでも作れるだがな。」
神野は親指を立てて、ホテルの入り口の方を指した。
そこに、両手を胸の前に組んだまま、仁王立ちしてる女性がいた。
周りがホテル以外に、遮蔽物あまりなく、海風が強く吹いてる。
12月の寒さで、風の関係でより一層寒く感じるが、彼女の周りだけが、何故か温度が高いような感じする。
いや、温度が高いように見える。
空間が揺らいで、まさに砂漠の暑さで景色が歪む現象と同じように。
「…あれが、スカーレット!?」
「お、紹介しなくても分かるのか?それとも見えてるのか?」
神野は照の反応に感心した。璃紗は状況分からず、照の方を見て、
「見えてるって何を?」
「えっと、スカーレットさんの周りに、なんと言えばいいか…オーラ?ってヤツ?見えるような、気のせいかもしれないけど…」
「え?オーラ?そんなもの存在してるわけないじゃんwww」
「そう…だよね、何言ってるんだろう、僕は。」
「まあ、今はそれぐらいでいいか。」
神野は先にスカーレットに近づき、挨拶をした。
「おはよう。」
「おはよう…じゃねぇ!」
スカーレットが突然狂ったように神野へと飛び掛かった。
「え、ちょっ!」
押し倒されそうになった瞬間、誰かが割り込んできた。
「ストップ。何しようとしてるんですか?」
紫咲だ。まるでこうなることを予想して、一瞬で二人の間に入り込んだ。
「あん、おまえもいるのか?邪魔だな。」
「邪魔なのはそっちです。今日は仕事のために来ただけで、戯れに来たではありません。先生にちょっかい出すつもりでしたら、私が先に相手します。」
「…相変わらずつまらない女だな、お前。」
「あなたこそ、相変わらず言葉より先に手を出す脳なしですね。」
ピリピリ。
スカーレットと紫咲の周囲に、まるで稲妻が走ってるようにびりっとした空間になった。
『なんか雰囲気すごく険悪になったけど!?』
「いつも通りだ、気にすんな。」
『いつもなの!?』
照の目の前にいる二人から放たれたオーラが、もはや人間ではなく、紫の竜VS赤い虎の構図に見えた。
一触即発の状況で、止めたいけど方法が分からない若い二人と、コーラとポップコーンもしあればもっと楽しめるという傍観者気分でいる神野が、距離を置いて、あの二人の行動を見守った。
そして、先手を打ったのは、紫咲だ。
スカーレットの顔目掛けて、右ストレートを叩きこむ!
それを見たスカーレットは、躱すではなく、防御態勢を取った!
『『え!?避けないの!?』』
照と璃紗は予想外のことに大声を出した。
スカーレットと紫咲の間、少しの距離あるから、避けようとすれば躱せるはず。しかし、スカーレットはそうしなかった。
そして、紫咲はそんなスカーレットを気にせず、自分の攻撃を止める気も微塵がない様子で、まっすぐに、
閃光の一撃!
「ぎゃ!」
璃紗はあまりの怖さで目をそらしたが、周りがしばらくしてもケンカ音がしないことに気づき、恐る恐ると目を開けた。そこに彼女が見たのは、
大きい紙袋をスカーレットに突き出してる紫咲だ。
「…何のつもりだ?」
「今日は仕事で来たと、言いましたよね?お土産です。いくらあなたの事好きじゃないとはいえ、仕事相手である以上、関係を悪くするつもりがありませんので。」
「…あ、そうかよ。今日は久しぶりにやり合えると思ったけどな。」
「仕事終った後に、いくらでも付き合いますが?」
「お!言ったな!逃げるなよ!」
「ええ、あなたこそ。しっぽ巻いて逃げたら、周りに宣伝しますから。『スカーレットさんは編集に返り討ちされた負け犬』と。」
パリパリ…!
二人の周囲に、また穏やかではない流れが始まって、第2ラウンドがいつ開始してもおかしくない場面になった。
「あー、終わった?終わったらさっさとホテル入ろう。実は朝ごはんまだ食べてないよねー」
神野はタイミングを計ったように、二人に近づいた。
「…ふん、カミノ、お前、後で覚えてろ。」
「その前に私を通してください。」
「はいはい、それぐらいしとけ。二人とも、入っていいぞ!」
神野は紫咲とスカーレットのケンカを止めた(?)後、大声で照と璃紗に呼びかけ、5人はそのまま何事もなかったように、自然にホテルに入った。




