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獣王襲来 【亜人種強制収容所編】 その7

□□




亜人種の少年、少女たちが、大天幕のなかにしつらえられた病棟のなかで、苦しみに悶えていた。



戦場で瀕死の重傷を負った兵士たちみたいに、身体のいたるところから血を流して横たわっている。




俺は、茫然とたたずむ獣王の目線で、この光景を見つめていた。




「いったい…………なにが起こったのだ?」




「大陸由来の未知の疫病……【黄禍】


大陸の勢力が、亜人種根絶のために意図的に流布した極小ミクロの生体兵器…………


学者たちの間では、そう囁かれております


レオニダス様……………どうか防毒マスクをつけてください。この疫病、伝染性の恐れもあります。この病の性質はまだ何も分かっていないのです」




俺の手=獣人族の手が、老医師から差し出された仰々しいデザインの防毒マスクを振り払っていた。


原始部族のシャーマンがつけている儀式用の仮面みたいな防毒マスクだ。




「カサンドラ姫が素顔で面会されているというのに、戦士おれたち消耗品がそんなもの付けられるか……………」




最も症状の重い患者が横たわっているテントの奥。



暗鬱な空気と死臭が垂れ込めているそこに、


こんな場所にはまるで似つかわしくない、高貴な身なりをした若い女性=ネコ科の獣人族がいた。



彼女は、大統領夫人ファーストレディーが身に着けるような最高級品のスーツに身を包みながら、


身なりが汚れるのをまるでいとわず、亜人種の少女を必死で看病している。



今にも、死神に連れていかれそうなうつろな表情をした獣人の少女。


人間なら、中学生くらいの年齢だろうか。




「子供たちが住む………非軍事地域の学園都市パラドンにまで未知の生体兵器をばら撒くなんて…………なんて腐った連中なんだ………」




レオニダスの付き人、屈強なタルパカス兵たちが怒りに身を震わせていた。




高貴な服を病人の血や膿で汚しながら、額に汗を流して懸命な看病を続ける女性、


その背後では、彼女の従者と見られる老人たちが必死な形相で止めにかかっていた。




「王女様!!!ここはどうか下々の者に任せてください!!!」




「貴方様が【黄禍】に感染したとなると国際問題に発展しますゾ!!!?」




従者たちのもっともな忠言もどこ吹く風、


美しき女性は少女や、その周りで苦しむ子供たちの傍らを決して離れようとしない。



……………そのとき。



苦しげに喘いでいた少女が突然、死の痙攣けいれんにとらわれた。




ガクガクと激しく身を震わせたかと思うと、




ぶばぁあああああああっ!!!!!!




口から大量の血を吐き散らす。



黒々とした、毒素に汚染されたようなドス黒い血だった。




吐瀉としゃされた血が、噴水みたいにあたりに散る。




「ひぃいいいいいいい!!」



「うわぁああああああああ!!」




最初から逃げ腰だった従者たちどころか、


医者や、正規の看護師たちまで死の淵にある獣人少女のまわりから逃げ出した。



―――ただ一人、その美しい姫だけをのぞいて。




獣人少女は、自分が吐いた血によって口と鼻が塞がり、呼吸困難に陥っていた。


だが、医者や看護師ですら未知の疫病への恐怖で、近づくことすら出来ない。



獣人族の姫は、躊躇なく少女に身を寄せて、覆いかぶさった。



少女の血まみれの口に、唇をつける。




自らの口で直接、少女の口のなかを塞いだ大量の血液を吸い出し、吐き出す。



その高貴で美しい顔を、口元を、血まみれにしながら。



何度も何度も少女の口に唇をつけて、ドス黒い毒血を吸い出しては吐き出していった。



俺が、その目を通してこの光景を目の当たりにしている人物。



この肉体の持ち主である獣王レオニダスは、なんとも言いあらわし難い感動に胸を揺さぶられていた。




{……………なぜ、そこまで出来るのだ?


生まれながらに選ばれし者、高貴な身分に生まれながら。



名も無き一庶民のために。



……………なぜ、そこまで}





尊敬心、



信じ難いほど尊いものを目の当たりにしたときの感動、



その奥に燃える、自覚できないくらい淡い恋慕。




色々な感情がない交ぜになった激情に、レオニダス王の胸は打ち震えていた。





姫の丹念な人工呼吸によって息を吹き返した少女が、


涙を浮かべながら自分の命を救った女性を見つめている。



ほんの少し、延命されただけなのかも知れない。


ほんの一瞬、窒息の苦しみから逃れられただけなのかも知れない。



それでも、この暗闇のなかで手を差し伸べてくれた女性に、少女は虚ろながら感謝の念が浮かんだ瞳を向ける。



少女が差し出した震える手を、獣人族の姫はギュッと握りしめた。





ここに居合わせた大人たち全員が、自分を恥じていた。



そして、この姫の高潔なる魂に感銘をうけていた。





カサンドラ……………








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