雪の女王の脳内 その25
ギロチンの刃みたいな切れ味で、背後からカカト落としをしかけてくる黒死病の兵士。
俺はその瞬間、リミッターを外していた。
【雪の女王】の体内に傷をつけまいと、意識的にかけていたパワーの制御。それをその一瞬だけ解放する。
後ろ回し蹴り。
世界の地盤を貫通させるような超パワーの一撃を、ヤツの腹部に一点集中して放った。
後ろ回し蹴りを繰り出すときの、
俺の体幹の回転。
その勢いだけで心臓内空間に中型の竜巻が発生していた。
「に”ゃぁあああああああああああああ」
グラナゴスを胸に抱いたまま、泣きべそをかいたエスメラルダが竜巻で宙高く舞い上げられる。
《最近、エスメラルダとの間でSとMが逆転してません?
マサムネさん、ドSメガネ男子になってません?》
誰がドSメガネ男子じゃ。
ぼごっぉおおおおおおおおお………………
ビックフッドの足形みたいな巨大な足紋を、ドテッ腹の中心に刻まれた黒死病
が、次の瞬間………………
ぽぉおおおおおお………………ん
間の抜けた音をたてて、黒死病の背中から真っ黒い骨組みが飛び出していた。
また、例の骨格標本状態で。
俺はギャグマンガみたいな顔になって
「嘘ぉぉぉぉぉおおおおおおん!!!!!」
もう一体の黒死病が、荒々しい肉弾戦を仕掛けてきた。
拳法の達人の動作で、腰にしがみつく様なタックルを受け流し、そのあとに続く連撃を華麗にさばいた。
師範が弟子を軽く《《あやしている》》ような絵だ。
……………病原菌のくせにバリバリ格闘技経験者の動きなんですけど。おかしいだろ。
《通信教育で勉強してたんじゃないですか?》
前方の黒死病の攻撃をことごとく避け続けていると、
いつの間にか背後から、さらに2体の黒死病兵が戦いに合流してきていた。
骨格と皮。
それぞれが1体の完成品として復活し、戦いに合流してきたのだ。
俺は、3体の黒死病兵による猛烈な連撃を、戦場の中心でさばき続けた。
はたから見れば、入念な殺陣の指導と打ち合わせを経て完成された極上のカンフー映画ばりの超絶アクションだったろう。
『目にも止まらぬ』ってヤツ。
だが、正直、俺にはこいつらの動きが止まって見えていた。
「凄すぎる……………歴史上最高の拳聖………………
いえ、それすらも到底、足元にも及ばないくらいの信じ難い戦闘技術だわ………」
リザリザさんの感嘆の声。
《大魔王の超絶スペックのうえに、さらに上乗せされた【拳法家の人生経験】ですからね。
フリーザとかセルみたいなラスボス級チートキャラに、何十年も拳法の修行をさせたようなものです》
「あまりにも強さの次元が違い過ぎて、真面目に努力するのが馬鹿らしくなるわ……………」
リトさんはそうつぶやいて苦笑した。
が、しかし、反撃したら骨が飛び出て分裂するだけ。埒が明かないな、これ。
《細菌だけに無限増殖はお家芸といったところですね》
俺は、黒死病の1体を足払いで躓かせると、
その足首をつかんで他の2体の身体をジャイアントスイングでぶん殴った。
妙に軽いな、と思って手元を見たら、脱ぎ捨てたライダースーツみたいに皮だけが俺の手の中に残っていた。
すぽぉおおおおおおん………………
抜けた中身。黒い骨格標本のほうは、ミヤコのご先祖シールドに直撃していた。
「ひぃいいいいいいいい!!!!!」
『富江』の作者みたいなリアルな絵柄になって、恐怖に染まった顔で腰を抜かしているミヤコ。
《あら。伊藤潤二の絵柄だとミヤコって凄い美少女》
「今のは素直にごめん」
しかし、こいつらには弱点って無いのかよ?
俺は、手の中の皮を見つめながら思案する。
《ペストと言えば、世界史的な寒冷期に大流行したことで有名ですよね》
……………還暦?
《寒冷期。
プチ氷河期みたいなものですよ。
異常気象によって太陽の光が失われて、
ヨーロッパ中の街が黒い黴に覆われた。
そんな時代に黒死病は大流行したのです》
…………太陽の光、か。なるほどな。
《手の中のモノがビクビク動き出していますよ》
手の中で電動マッサージ機みたいに蠢き出した黒死病の皮。
「きゃーーーーーーーーー!!!!!
キショさの限界突破!!!!!」
あまりの気持ち悪さに思わず放り投げていた。




