雪の女王の脳内 その24
時が数秒間、自意識の中から切り取られたぐらいの時間感覚で黒死病が距離を詰めてきていた。
びょぉおおおおおおおおおおおおお………………
爆速すぎて、変な唸り音をあげながら迫りくる拳。
耳元で、不吉な風切り音を聴きながら、キワキワでかわす。
ぼふぁああああああっ!!!!!!!
背後に、空振った拳による暴風が巻き起こった。
火星でスクスク育ったマッチョなゴキブリばりの戦闘力だな。
《マサムネさんも対抗して昆虫の遺伝子を発動しましょう》
まだ、俺のなかにアンインストールし忘れて残存していた八極拳の達人の人生経験。ソレが勝手に反応していた。
無意識の奥底から一連の動作が《《出力》》されて、間髪入れずに【鉄山靠】という技を叩き込んでいた。
【鉄山靠】
要は、全体重をかけて踏み込みながら行う【ショルダータックル】みたいなもんだ。
《ポケモンでいうところの【体当たり】ですか》
いや、そこまでショボい技ではない。
どっ………………ぱっっっっ!!!!!
直撃する鉄山靠。
次の瞬間、
予想の斜め上を行く光景が目の前に広がった。
限界速度の100トントラックに轢き飛ばされたくらいの衝撃を胴体に浴びた黒死病の身体。
ぱぁああああああああん!!!!!!!
という凄まじい破裂音と共に、その背中から真っ黒い骨格が飛び出していた。
人体模型の、骨格標本みたいな、漆黒の骨。
綺麗に、全身分の骨。
巨体の中から、骨だけが
ぽぉおおおおおおんっと飛び出していったのだ。
「いぃぃいいいいいいい!!!?」
自分でやっておきながら、怖気が振るうような光景だった。
ごろっ………………ごろっ………………ごろっ………………
激しく後方に吹っ飛びながらピンク色の雪原を転がっていく黒死病の全身骨格標本。
「んだ……………それ………………?」
いくらなんでも、ヤラれっぷりがグロすぎるだろ。
脱ぎ捨てたパーカーみたいに宙に浮いていた黒死病の外皮のほう。
その外皮のほうが黒い粒子状に散らばって、いつの間にか俺の背後に回り込んでいた。
黒い粒子が、黒死病の戦士のカタチに戻ると、
それは《《中身も完全に詰まった》》元のソイツに戻っていた。
ピンク色の雪原に、黒い骨格標本が転がったままなのにだ。
「………………なにぃいいい」
背後からの、荒々しいロシアンフックを黒人のダンサーみたいな身のこなしで避ける。
《外側を脱着するパターンなら知ってるけど、
中身の骨格を使い捨てにする敵なんて初めて見ました》
ハイキックからの下段蹴り。その見た目からは想像も出来ないような滑らかな動作で連続攻撃を仕掛けてくる。
台風みたいな猛烈な攻撃を見切りながらも、俺はいくつかの反撃の隙を躊躇してスルーしていた。
得体が知れない、こいつの性質。
顔面をぶん殴っても、今度は頭蓋骨がポーンッて飛び出していくだけなんじゃないかと思えた。
《マサムネさん、後ろ!!!!》
ギョッとして振り返る。
背後に、もう一体の黒死病兵士。
完全な形に復元された黒死病兵が俺の背後に立って、
後頭部にカカト落としを入れようと大きく足を振り上げている最中だった。
ピンク色の雪原からは、ジャワ原人のイメージ画像みたいなポーズで転がっていた黒い骨格標本が消えていた。
……………分裂………………しただと?




