英雄遺伝子学園 ~偉人を継ぐ者たち その5
俺とミヤコは、自衛隊の演習場みたいにだだっ広い、
学園のグラウンドにたたずんでいた。
俺とミヤコのほかにも百数十人規模の若者たちが緊張した面持ちで並んでいる。
全員、編入希望者っぽいな。
《編入希望だけでこれだけの人数が集まるのは凄い。
正式な入試のときはどれだけの生徒が集まるんでしょうか》
ウン千人は確実ってところか。
これだけ入学希望者が集まると、むしろ一般入試枠のほうが入学の難易度が高くなってたりしてな。
《地元の専門学校や職業訓練校で無双するほうがハードル低いかも》
しっかし、なんで編入試験を受けているのが俺とミヤコだけなんだ?
釈然としねえ。
かたわらにいるミヤコは、ダイヤモンドの棒でも丸呑みしたみたいにコチコチに硬くなって直立している。
《残りの生徒の枠が2枠しか残っていないという話でしたね。
…………それに》
「【英雄遺伝子学園】
この学園のヒエラルキーにおいては、ミヤコこそが最強キャラなんだニャ。
英雄遺伝子学園で生徒会長を目指すなら、ミヤコの存在は最大の切り札になるはずニャ」
そう力説していたニャンコ大先生の顔が浮かぶ。
信じられないくらいのドジっ娘なうえに、天性のポンコツキャラだから忘れがちだけど、ミヤコの血筋ってのは究極のサラブレッド家系。
あらゆる英雄偉人の血筋に連なる家柄だって話だ。
たしかに、【遺伝子位階】とやらを重視する集団のなかに入ったら、
ミヤコってのはスーパーエリート。選良のなかの選良ってランク付けなのかも知れない。
「………マサムネ」
カタカタと身体を震わせるミヤコ。
こちらを上目遣いに見上げてきて。
「…………怖いです」
「いや、別にそんなビビらなくても。
レベルが高いって言ってもしょせん学園レベルの話だろ。
ミヤコは世界でも指折りに危険なスポットを冒険してきたんだし………」
大きな瞳で涙目になりながらフルフルと首を横に振るミヤコ。
「…………また、イジメられそうで怖いです」
《そういえば…………》
ミヤコって、『親の七光り』だとか言われて、子供の頃からまわりに馬鹿にされてきたんだっけ。
不安げにうつ向くミヤコ。
《あまりにも血筋が良すぎるっていうのも大変なことなんでしょうね。
しかも、ミヤコの異能の性質は【ご先祖の威光】を『盾』として具現化するタイプのもの。
戦闘になるたびに先祖の偉大さを見せつけるカタチになる》
本人は好きでその家系に生まれてきたわけじゃないのにな。
俺は、ミヤコの頭をポンポン叩いて
「だいじょうぶ。ミヤコのことを悪く言うようなヤツがいたら、裸にひん剥いて屋上から吊るしてやる」
「…………」
ミヤコは、顔をあげると、少し頬を赤らめてうなずいた。
「マサムネーーーーーーがんばーーーーーーー」
このグラウンドには
アメリカのハイスクールのアメフト競技場みたいに観客席までついていて、
そこにパーティーのみんながつめかけていた。
リムルルが観客席の最前列でぴょんぴょん飛び跳ねながら声援を送ってくる。
「なんだぁ~今年の編入志望者のなかには子持ちの学生が混じってんのかぁ?」
運動神経に自信がありそうなアスリート系の若者がそう言って鼻で笑った。
少し、志望者集団のなかで嘲笑が起こる。
《マサムネさんは子持ちどころじゃありません。ハーレム持ちですよ》
やめろ。
そこに、教官とおぼしき長身の男が現れた。
すらりとしたのっぽで、変な色眼鏡をかけている。
頭は、ラッパーがよくやるようなコーンロウ風。
それでいて服装は高級そうなスーツ姿だった。
半グレが成人式のときだけ見せるスーツ姿って感じ。
腕には、志望者の名簿らしきものを抱えている。
教官の男は、目をすがめて声援を送るリムルルや仲間たちのほうを眺めながら歩いてきていた。
さっきまでヘラヘラとこちらをあざ笑っていた志望生たちが、みんな緊張して直立不動の姿勢になっている。
「あのギャラリー………可愛い子ちゃんたちは誰かの連れですかね?」
そう教官らしき男がたずねてくるので、俺は手をあげた。
「はい。俺の連れッスけど」
怪しい教官の、色眼鏡の奥の瞳がキラリンと殺意の赤い輝きにきらめいた。
「きみ、失格!!!!!」
俺をビシッと指さしてきて、
男はそう宣告してきた。
「はあーーーーーーー!!?」
「あんな美少女たちに応援されるとか許せん!!!!!
リア充死ね!!!!!!
モテモテ属性とか爆発しろ!!!!!!!
とりあえず一回死ね!!!!!!
そして転生したらレベル1のガマガエルになっててラストダンジョンの最下層で目覚めろ!!!!!
死ねーーーーーーーーーーーーーい!!!!!!!
ついでに失格」
な、な、な…………なに言ってんだこの半グレ色眼鏡。
俺とミヤコはそろって『おったまげー』のポーズをとっていた。