第五話
晴天の土曜日。事務所から一番近い駅前に、晃明は居た。
静かすぎる駅前で晃明は、一時間に一本しか走らないバスを待つ人用のベンチに腰かけて、二人を待っていた。
世間的にも、休日の昼なはず。だが、駅から出てくる人は座って二十分経った現在、未だに一人も見かけてはいない。ロータリーにも、人の姿はちらほら程度だ。
大分春らしくなってきたなぁと思いながら、晃明はぼんやりと空を眺め続けていた。
「バスを待つよりも絶対に歩いた方が早いよなぁ」
ふと思った言葉を漏らしながら視線を落とすと、こちらへと向かって来る、これまた珍しい河井の姿があった。
「おはようございます。私服……可愛いですね」
「可愛い? それは誉め言葉か?」
「もちろんです」
「ならいい」
ペンギン柄のシャツにまるでスカートのような青色のズボン、そして黒色のサンダル。いつもスーツ姿である河井の意外な私服姿に、晃明はしばらくの間見つめ続けていた。
「彼はまだみたいだな」
「もうすぐだと思いますよ。本当にお好きなんですね」
「僕を救ってくれたのは、彼の音楽だからな」
そう口にした河井の表情が、少し曇っている様に見えたのは気のせいだろうか。その理由を確かめる前に、晃明の肩が後ろから叩かれた。
「久しぶり、晃明」
「怜也‼ 久しぶりだね!」
黒のネイルが施された手でヘッドホンを首に下げ、穴が開いた派手なズボンに、髑髏が描かれたパーカーを着たこの男こそ、親友の髑髏怜也である。
「俺のファンって?」
「あ、この人が――」
「初めまして! 河井颯といいます! メジャーデビューする前からずっとファンで、今回まで全てのライブにお邪魔させてもらっています‼」
晃明の後ろに居たはずの河井は晃明を押しのけると、怜也の目の前で背伸びをしながら抑えきれない愛をぶつけた。
しかし、それに対して怜也は顔を引き攣らせると、晃明の腕を強く掴んで自分の近くへと引き寄せた。
「無理。この人」
「そんなこと言わないでよ……俺の先輩だからさ?」
「……河童」
就職してから晃明は、一度怜也に連絡をしていた。そのため、怜也は河井が河童であることも知っていた。
怜也はそっと河井の頭に手を乗せると、何かを探すかのように撫でまわし始めた。
「皿がない。剥げてない……」
「それは言っちゃ――」
「怜也さんに撫でられている……⁉」
止めようとした晃明だったが、大好きな人に頭を撫でられてご満悦な様子の河井に口を噤んだ。
それから三人は近くにあった小さなカフェに入ると、各々ドリンクを注文して窓際の席へと座った。
「妖怪苦手だったくせに、妖怪と関わる仕事に就くなんて馬鹿だと思ったけど。上手くやれてそうでよかったよ」
「会社の人が皆いい人だからさ」
アイスコーヒーを頼んだ晃明の隣に座った怜也は、コーラを飲みながらしみじみと述べた。
「苦手? ビビりなだけじゃないのか? ここまで妖怪にお人好しな奴はいないぞ?」
怜也の向かいでメロンソーダを飲んでいた河井は、晃明を指差す。
「昔の話」
怜也は、晃明に気を遣うかのように河井を軽くあしらうと、視線を晃明へともう一度戻した。
「昔は、この性格がいけないのか、妖怪によく虐められていたんです。それで少し、苦手になっていた時期があって……でも、そんな俺を助けてくれたのが、怜也なんです」
惚気ているかのように、はにかんだ笑顔で怜也へと視線を向けた晃明に対して、怜也はゆっくりと逃げるように視線をコーラに移し、ストローを銜えた。
「虐め……」
「あ、もちろん今は全然苦手じゃないですよ⁈ ほんの少しだけ、戸惑ってしまう程度ですから」
「何故。どうして人間を助けた?」
「河井さん?」
声の調子を落とした河井は、いつもよりも更に吊り上がっていた鋭い目つきを、怜也へと向けていた。
「俺を怖がらなかった。俺を親友だと呼んでくれた。から」
「そんなのは嘘をついている可能性だってあるだろ。口先だけならなんとだって言える」
「晃明は、絶対に嘘をつかない」
「な……」
河井は、淡々とコーラを飲みながら答えていく怜也に戸惑ったのか、一瞬だけ身を引いたように見えたが、それでもなお問い詰めていく。
「人間に恐れられてきたんだろ? そんな醜い奴らを、助ける義理なんてないだろ」
「人間だけじゃない。俺の敵は、妖怪にも存在する。俺の味方は晃明以外誰も居ない」
「妖怪が恐れる妖怪なんて、今まで聞いたことがない。それほど、暴れて来たのか?」
目の前に居るのは、大好きな推しである怜也ではなくなったのか。そう晃明が感じるほどに、河井は怜也に尋問のようなことを次々に続けていく。
ただ時間と共に、怜也のコーラだけが減っていった。
「人間と住む前の話だ」
「それだけで、妖怪に恐れられるのか?」
「俺は――」
時間が止まったかのような沈黙の後、氷だけが残ったグラスから顔を上げた怜也は、ゆっくりと口を開いた。
「俺は、餓者髑髏だから」
怜也の言葉に、河井は大きく目を見開くと、言葉が出ないのか口を開けたり閉じたりと、魚のような動きを繰り返していた。
怜也は、滅多に自分の正体を明かさない。いつも、妖怪であるという事しか言わず、昔から隠してきた。
晃明は、餓者髑髏がどうしてこんなにも、恐れられているのかは知らなかった。自分を虐めてきた妖怪達も、怜也が白骨化した腕を見せるだけで顔色を変えて逃げて行く。その光景を何度も見てきたが、晃明には、怜也がそんなにも恐ろしい妖怪だとは思えずにいた。
「だったら、尚更人間と仲良くしてはいけないはずだろ」
「これがあるから平気」
怜也はヘッドホンに触れると、晃明に視線を向けた。
「俺は、晃明を守るためにこの力を使うことにしたから」
「そうだ。怜也の力って本当に凄いんですよ!」
少しでも空気を変えようと、晃明は明るい口調で河井に話しかけるが、河井は怜也に鋭い視線を向けたままだった。
「触れた相手に起こる不幸や災難を見抜けるんだよね?」
「そう」
「それだけじゃないだろ」
「え?」
「まさかお前……餓者髑髏が恐れられる理由でもある強力な力を知らないのか?」
「これだけじゃないの?」
怜也が、自分にまだ隠していることがある事は分かっていた。それでも、無理に聞こうとはしなかった。
自分の知らない怜也が存在していることだって。
一番傍に居てくれた親友の心にさえ、未だに寄り添えられていないことだって。
「言う必要ない。それはもう使わないから」
「使ったこと……あるんだな?」
遠慮なく問い詰めていく河井に、怜也は顔色一つ変えないまま、そっと晃明の腕に触れた。
「……会社の人達と、これからも一緒に居なよ」
「怜也? もう帰るの?」
晃明に触れていた白骨化した手はすぐに離れると、怜也は席を立った。
「ばいばい」
「ちょっと怜也⁈ 待ってよ!」
駆け寄って来た晃明に、怜也は足を止めた。
「これ、受け取って。何かあったらいつでも来てよ」
「分かった」
晃明の名刺を受け取った怜也は店から出ると、未だ誰も出てくる気配のしない駅の中へと姿を消した。
「なんか。がっかりだよ」
「河井さん……あ、ご馳走様でした」
財布をポケットにしまった河井が晃明を抜かして外に出ると、晃明も慌ててその後を追いかけた。
歩道を歩き出した二人の隣を、ゆっくりとバスが通過していく。
「あの、どうしてあそこまで怜也を責めたんですか? 餓者髑髏の何がいけないんですか?」
「あれが闇落ちしたら、この街は本当に終わるな」
河井は、晃明の質問に答えることなく不敵に微笑んだ。
「俺は……怜也が魔物になんかならないことを知っていますから」
「そんな事は、誰にも分からないことだ」
さっきから冷たい言葉を二人に浴びせている河井に、晃明は言い返すことも出来ずに黙り込んでしまうと、あっという間に事務所の近くまで歩いて来てしまった。
満開に咲き誇り始めた桜にも、一切見向きしない河井の後を追う晃明。すると、急に河井が河川敷を下りて行ってしまった。
「どこに行くんですか⁈」
「気晴らしだ」
結構急な坂を下っていくと、河井は川の近くで足を止めた。
一応誰でも歩けるようにと川の両端は舗装されて道が出来ていたが、この道を歩いている人を見かけることは少なかった。ましてや、今が見頃な桜のはずなのに、お花見をしている人も、立ち止まって見ている人でさえ居なかった。
「いつもここに気晴らしに来るんですか?」
「幸せな日々だけが感じられる」
晃明は、河井から少し距離を取って隣に並んだ。
相変わらず心地の良い川のせせらぎを聞きながら、晃明は意を決して問いかけてみることにした。
「河井さんの過去に何があったんですか? 怜也に会ってからずっと様子がおかしいですよ」
「人間なんて滅べばいい。共存なんて、出来るわけがない。ましてや、妖怪が人間を助けるなんて本当の馬鹿がやることなんだよ」
河井の握りしめた拳は震えていた。
怒りだけではなく、悲しみや憎しみ、色んな感情が河井から溢れ出していること伝わって来る。そして、心の奥に潜む本当の苦しみも。
「それが河井さんの本心ですか? 嘘偽りのない、心から願っていることなんですか?」
「あぁ、そうだよ! お前だって滅べばいいと思ってるさ」
「神林さんも?」
「……当たり前だろ」
「だったら殺してください。俺も、神林さんも」
「な……何言ってるんだよ、お前……」
晃明は河井の方へ体を向けると、大きく手を広げた。
「なーんて、冗談ですよ。こうやっていざやってみてくださいって言うと、大半の人は出来ないらしいですよ? 覚悟がなくて、自分の心に嘘をついているから」
「そんな冗談……もし僕が、本当にお前を殺していたらどうしてたんだよ⁈」
「河井さんは誰も殺せないし、傷つけられない人だって分かっていますから。俺と同じ人だって」
「お前と、僕が一緒? ふざけるな!」
河井の顔には動揺と、不安が見えていた。それに晃明は、一歩ずつ河井の心に向き合っていく。
「虐められたりすると、誰にも心配かけたくないって気持ちが現れるんです。親にも、兄弟にも、先生にも。それで、自分の中だけに沢山溜め込んでしまい、苦しくなる。そして、見栄を張ってしまう。人間なんて俺が滅ぼしてやるって」
「僕は……見栄なんか張ってない‼」
声を荒げた河井の姿は、その通りだと言っているような。そんな気がした。
「じゃあ、滅ぼしましょうよ。憎い存在なんて」
「黙れ……」
「河井さん。話してみませんか? 話したところで、全てが楽になるとは思いません。でも、一人で溜め込んだままでは何も変わらない。河井さんはもう……一人では無いんです」
晃明は、河井に優しく微笑みかけた。
「お前は……馬鹿で、役立たずで、ビビりだ」
「そうです」
「でも、それ以上にお人好しで、相手の気持ちを理解できる」
河井はそう褒めると、晃明との距離を縮めて見上げるように顔を上げた。
「そんなお前だから話す。他の奴に漏らしたら、本当に滅ぼしてやるからな」
「ちゃんと口堅くしておきますね?」
きちんと約束すれば、河井は柔らかくなった穏やかな表情で話し始めた。
「僕は人間に虐められていた。原因は、苦手な変化のせいだった」
「変化?」
河井はゆっくりと袖を捲り、首元のボタンを緩めると、部分的に緑色に染まったままの肌が現れた。
完全に人間の姿に成り切れていないその姿を、人間が見ればきっと、気味悪がって虐めることは大いにありえる。
「頭の皿を隠すことに力を入れ過ぎて、肌の色まで完璧に出来なかったんだ。何度も何度もやり直してみたけれど、無理だった」
「これくらい気にならないですけどね。虐める方が悪いし」
「そのうち、自分が河童であることが嫌になった。だから僕は、大好きだったきゅうりもお酒も、相撲も泳ぐことすらも辞めた。少しでも、人間に近づきたかったから」
河井の話に晃明は耳を傾け続けた。
川のせせらぎなんて聞こえなくなるほどに。
「でも、偽物が本物と仲良くなれるわけがなかったんだ。もう山に帰ろうって、人間と仲良く暮らしてみようだなんて思った自分が、大馬鹿だって責めた。でも、そんな僕を何度も何度も強引に引き留めて、友達になろうって言ってきた人間がいた」
「それ、絶対に神林さんですよね?」
「この街を変えて見せるなんて馬鹿げた夢掲げて、変な宗教かと思った。だけど、それがあいつの本心だった。本気でやろうとしている姿に、僕も諦めかけていた夢を叶えられるかもって思って、今の会社に来たんだよ。ムカつく先輩付きで、毎日イライラするけど」
「仲良いじゃないですか」
「あいつとは、永遠に仲良くできる気はしない。でも、それから毎日がとても楽しくなった。僕は初めて心の底から、この街が好きだと言えるようになれた」
「やっぱり、百目鬼さんのお陰ですね?」
「完全否定はしない」
覗き込むようにからかって来た晃明に、河井は視線を分かりやすく逸らした。
「それに、人間の後輩も出来たからな」
「ずっと嬉しかったんですか?」
「嬉しくなんかない。ただ……百目鬼の性格が変わるかもしれないと思ったからだ!」
「正直に言ってくださいよーツンデレ先輩?」
「な……!」
顔を真っ赤にした河井は、勢いよく晃明から一歩離れた。
「ふ……ふざけるな!」
「素直に言ってみましょうよ? 俺と河井さんは友達でもあるんですから!」
「友達……だと?」
「はい! 友達です!」
「僕は……お前と会えて……思っている……」
徐々に小さくなっていく声に、最後の大事な部分が晃明には全く聞こえなかった。
「何も聞こえなかったですよ!」
「二度も言わない! 晃明が聞いてなかったのがいけないんだろ‼」
「え……」
「なんだよ、急に間抜け面しやがって」
「今、晃明って呼んでくれましたよね?」
「……呼んでない」
「絶対に呼びましたって!」
「うるさい‼ もう僕は帰る!」
「待ってくださいよー!」
二人は河川敷を登っていくと、傾き始めた太陽に向かって歩き出した。
傍から見たら友達のように、もしかしたら親友の様に思われるかもしれない。そんな関係性になれたことが、晃明にとっては嬉しいことだった。百目鬼にも仲良くなれたことを早く報告して、三人でご飯でも行きたいだなんて考えていたりもしていた。
「河井さんって、やっぱり可愛いですよねー」
「そろそろいい加減にしろよ?」
「可愛い……」
「帰ったら二人まとめて殴り飛ばすからな?」
軽やかな気分で歩いていた晃明の足が急に重くなった。
その日の夜。晃明は夕食とお風呂を済ませると、部屋へと戻った。
もちろん。二人が待っている部屋に。
「誰が酔っ払いの服なんて着るか!」
「あ、そっかそっか、晃明の服はぶかぶかだから、俺のなんてもっと着れないよなぁ? チビ」
「サイズの問題じゃない。清潔さの問題だ!」
やはり喧嘩している二人に微笑みかけながら、晃明は自分のベッドに腰かけた。
あの後、晃明は河井も泊まっていくように説得し、三人でのお泊り会が実現した。
もちろん、喜んでいるのは晃明だけだが。
「本当に仲良いですよね」
「「仲良くない‼」」
「はーい」
声が重なりあった二人に、晃明は更に満面の笑みで答えた。
「なんでこいつ泊めさせたんだよ」
「だって百目鬼さんも心配していたじゃないですか。河井さんのこと」
「してねぇよ」
「その割には、俺ら二人で仲良く帰って来た姿を見て、凄いほっとした顔していましたよ?」
「おい、一発蹴り入れられたいのか?」
「すみません」
何本目なのか分からない缶ビールを飲み終えた百目鬼の脅しに、晃明は素直に謝ると、隣に腰を下ろした河井から缶のオレンジジュースを差し出された。
「ありがとう。晃明」
「いえいえ」
「一真も、感謝している」
「うえ……気持ち悪い」
「……やっぱりこいつだけは本当に無理だ」
缶ビールを開けようとした河井が百目鬼を力強く睨みつけるが、百目鬼は反省の色無しに空き缶を退かし、新たな缶ビールを開けて体の中へと流し込んでいった。
「百目鬼さんも照れているだけですから。ここは落ち着きましょう?」
「ずっと落ち着いてる」
河井は何故か一気に飲み干すと、張り合うように次の缶ビールの蓋を開けた。
楽しくて、明るくて、晃明にとって幸せな時間を壊すかのように、突如として口を開いたのは百目鬼だった。
「最近、魔物の被害が増えてきているらしいぜ」
「また誘拐か?」
「とあるアパートに住んでいた妖怪達が、一晩で全員が魔物になっていた」
「そんなこと、出来るのか?」
「出来たからこそ、この結果が出ているんだろ」
「そうだな……」
晃明が理解する前に次々と進んでいく会話に戸惑っていれば、隣に居た河井が優しく解説をし始めてくれた。
「今、この街にいる魔物達は急速に仲間を増やし始めているんだ。これは、魔物グループが最近になって本格的に行動をし始めていることを現していて、人間と妖怪の共存の危機でもあるんだよ」
「お前も少しは気を付けとけよな? 仲が良いと思っている奴が、実は魔物かもしれないって事も十分にあり得るからな」
「大丈夫ですよ。俺、怜也しか親しい妖怪いないですから」
「だから、気を付けとけって言ってるんだよ」
百目鬼は枕元に置いてあったスマートフォンを手に取ると、とあるニュース記事が写し出された画面をこちらに見せてきた。
「これって……」
河井と共に覗き込んだ画面には、『アンビバレントのメンバー二人が失踪』という大きな見出しと共に、怜也ではない二人の男性の写真が載っていた。
「魔物に誘拐された可能性大だな」
「そんな……それじゃあ、怜也が危ないってことですよね……⁈」
「さぁな」
「すぐに連絡しなきゃ……」
「まぁ、待て」
自分のスマホを取り出そうとした晃明を止めると、百目鬼は少し考え込むように顔を顰めた。
「今怜也に言ったとしても、メンバーを救える可能性はゼロだ。魔物を誘拐している奴らの主犯格を先に捕まえた方が良い」
「でも、それだと彼らを助けるのが遅くなりますよね?」
「動いている今がチャンスだ」
「その間に怜也が魔物に誘拐されてしまったらどうするんですか⁈」
まるで、親友を囮にして主犯格を捕まえると言っているような計画に、晃明は勢いよく立ち上がり反論した。
だが、それを宥めるかのように隣からそっと晃明の腕を掴んだ河井は、首を横に振った。
「こいつは彼らを助けないとは言ってない。それに、怜也君ならきっと大丈夫だよ。晃明も信じているんだろう?」
「でも……俺の唯一の親友なんです。もしもの事があったら……」
「何も計画も無しに、闇雲に助けに向かった所で救える相手じゃねぇんだ。だからこそ、これから俺らがやるべきことを、きちんと全員で考えるんだ。いいな?」
これまで、何度も魔物の憎しみや怨みと向き合ってきた二人だからこそ、それがどれだけ大変なことか分かっている。
それと比べて自分は、まだ魔物とさえ会ったことのない未熟者。そんな奴が、仕事の事で口を挟める立場ではない。それに、二人はちゃんと怜也の事を考えた上で言ってくれている。
晃明は頭を冷やすと、ゆっくりと腰を下ろした。
「すみません……」
「晃明は何も悪くない。この馬鹿の言い方に棘があっただけだ」
「どうせ、お前の方がもっと棘のある言い方していただろ」
「魔物について、沢山のご指導をよろしくお願いします‼」
喧嘩が始まりそうな二人の間に、晃明は深々と頭を下げた。
まだまだ何も知らないことばかり。
だからこそ、学ばなければならない。
晃明は、朝方まで行われた百目鬼の熱血授業を聞き続けた。
怜也を、魔物になってしまった妖怪達を助けるために。
街の幸せを願って……。
しかし、この二週間後。怜也は謎の失踪を遂げた――。




