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第四話






大きくあくびをしながらカーテンを開けると、眩しい朝日が晃明の体を温かく包み込んだ。


窓を開ければ、八分咲きの桜並木が見える。暖かくなってきた風がもうすぐ満開になると、知らせるかのように桜の香りを運んできた。


「眩しいから閉めろよ……」


「駄目です。起床時間ですから」


「仕事ねぇだろ……」


「起きてください!」


 毛布に包まり、朝日から逃げる百目鬼を起こすのが、晃明の日課となっていた。

必死に毛布を剥ぎ取るが、枕に顔をうずめてしまい起きる気配は全くない。


「百目鬼さん。禁煙禁酒にさせられますよ」


「嫌だ」


「じゃあ起きましょうよ」


 百目鬼の足元に腰かけながら、駄々をこね続ける百目鬼の説得をしていると、ふいに視界に入った見覚えのあるミサンガ。百目鬼の足首に巻かれていたのは、晃明が一目惚れした燈の手首にあった物と、全く同じ物だった。


「燈さんと一緒に住まないんですか?」


「なんで?」


「だって、彼女さんに起こしてもらった方がよくないですか?」


「彼女ね……」


 百目鬼は仰向けになると、晃明の背中を足で蹴飛ばした。


「人の恋愛に口出しすんじゃねぇよ。何も分かんねぇ坊やが」


「俺だって、恋愛の一つや二つくらいしてますから!」


「俺には嫁も子供居たんだよ」


「……それはずるいですよ」


 喧嘩に勝って満足げな百目鬼は起き上がると、落ちていた洋服を適当に選んで着替え始めた。それに対し不満げな晃明は、百目鬼を置いて隣の部屋にある仕事場へと出勤した。


「おはようございます」


「朝から本当に五月蝿いな。お前らは」


「すみません」


 毎日誰よりも早く出勤していた河井の説教も、毎朝の日課になっていた。


「いちいち謝ってんじゃねぇよ。堅物河童になんか」


「あ?」


「そんなに暇なんですかー?」


 そして始まるのが、二人の火花散る喧嘩だ。最初は止めに入っていたが、神林に止めても無駄だよと言われてからは、晃明も放っておくことにしていた。


それからしばらくして神林も出勤してくれば全員揃った、はずだった。


「今日は彼も出勤してくるから。って、聞いてないよねぇ」


収まる気配のない喧嘩をし続ける二人に声をかけるも、返事は当たり前になく、神林は小さくため息を吐きだした。


「あの……彼って?」


「あ、そっか! 晃明君は初めましてだよね。もう一人、僕らには仲間が居るんだよ」


 何故か、晃明よりもそわそわし始める神林。

晃明はきちんと挨拶をしようと、ドアの近くで待つことにしたのだが、一向にドアが開く気配はない。まだ来ないのだろうかと首を傾げた晃明に、喧嘩をようやく終わらせた百目鬼が軽く頭を小突いた。


「そっちじゃねぇ。あっちだ」


 指を指された方に視線を向けると、晃明は思わず息を呑んだ。


 開け放たれた窓の枠に足を掛けて、いかにも外から入って来たと思われる山伏装束の男性。そのまま事務所の中へと降り立つと、男性は顔を上げて晃明の前へと近づいて来た。


「どうも、私は烏間春馬(からすまはるま)と申します」


 律儀に深々とお辞儀した春馬の姿に、晃明の頭の中は困惑状態のままで機能していなかった。

春馬の顔は黒い羽根で覆われており、黄色い嘴が目立っている。そして、謎の山伏装束姿に、二階の窓から入って来れた理由でもある大きな黒い翼。

未だ妖怪勉強中の晃明には、彼が何者なのか全く分からなかった。


「これはこれは、ビビりである人間にこの姿は、少し刺激が強すぎましたね」


「は……はい……?」


 戸惑う晃明の目の前で春馬が指を鳴らすと、魔法のように白い煙が春馬を包み込み、一瞬にして水色のシャツに黒のフレアパンツに……。


「下駄?」


「下駄じゃないと歩きにくくて、そこはご了承ください」


「あ、新人の泉晃明です! これからよろしくお願いします」


「こちらこそ」


 優雅な笑顔を見せる春馬に、晃明はどこか懐かしさを感じ、不思議な感覚が走った。


「実は、初仕事の様子をずっと見させて頂いておりました」


「え? 一緒に居たんですか⁉」


 今まで、こんなきれいな男性に出会っていた記憶も無ければ、見かけた記憶もない。晃明は動かせるようになった頭をフル稼働させるが、微塵も思い出せなかった。


「最後に少しだけ、ご挨拶をさせてもらったのですが……」


 春馬が手を上げた瞬間、後ろから晃明の背中を押すように吹いた力強い風。

その風に晃明は覚えがあった。


「あの時の‼」


「私です」


「いきなり吹いてきたから気になっていたんですよ! まさか、春馬さんだったとは思わなかったです」


 今度は爽やかすぎるほどの笑顔を向ける春馬に、晃明もつられる様に笑みがこぼれ、緊張の糸があっという間に解れた。


「そうだ。春馬さんってなんの妖怪なんですか?」


「私は、烏天狗です」


「烏天狗……?」


 聞きなじみのない名前に晃明は、辞典の索引から探し出した烏天狗のページを開いた。そこには、真っ赤な顔をした天狗と書かれた妖怪の隣に並ぶ、真っ黒な烏天狗の絵が描かれていた。


「天狗の仲間なんですか?」


 疑問に思った晃明が春馬に問いかけると、春馬は首が取れるのでは無いのかと思う程に、勢いよく首を振った。


「全くの別物です‼」


 いきなり春馬の口から飛び出した大きな否定の声に、晃明は驚きで目を丸くした。


「今時、烏天狗をメインに祀っている神社は少ないからねぇ。知らなくて当然だと思うよ」


「たとえ神社に行ったとしても、そこに何が祀られているのかをちゃんと理解している人なんて、ごく一部です」


「神様として祀られているんですね……?」


 晃明は辞典に書かれている説明文を読みながら、静かに神林と春馬の会話を聞いていた。


「神様だとか言われて崇められている妖怪が、こんな場所で人間の家来になってんの、いつ見ても面白れぇよな」


「相変わらず、口も態度も悪いですね」


「神様が怒ったらどうなるんですかー?」


「一真。なんで君はすぐに喧嘩をしたがるんだい?」


 神林がすぐに間へと入ってくれたおかげで、なんとか喧嘩は始まらなかったが、居心地が悪くなった春馬は百目鬼から離れ、ソファに深く腰掛けた。

晃明は機嫌を損ねてしまった春馬の隣に腰かけると、辞典を閉じてテーブルに置いた。


「天狗に種類があったなんて、俺初めて知りました」


「元々は、我々烏天狗が先に世へ知れ渡ったはずでした。しかし、いつの間にか天狗が我々の存在を消すかのように知れ渡り、人間からの信頼を手にしたのです」


 俯いたまま爪をいじる春馬は、静かな声で説明した。


「烏天狗が知れ渡った理由ってなんですか? この辞典、烏天狗についてあまり詳しく書いてなくて……」


 晃明の言葉に春馬は、でしょうねと言わんばかりの表情を浮かべながら、ゆっくり顔を上げた。


「そんなことは、もう忘れてしまいましたよ。私は親友と二人で、祀られていた神社から逃げ、この街にある山の神社へと移りましたから。今はもう神様を辞めた身です。ただの妖怪なのですよ」


 深いため息と共に、更にどんよりと落ち込んでしまった春馬を励ますように、晃明は慌てて明るい話題を探し始めた。


「春馬君はいつもこんな感じだから、別に気にしなくていいんだよ」


「全く……お前の方こそ、相変わらず情緒不安定じゃねぇかよ」


 呆れる百目鬼も神林も、話題を春馬から別のものに変えようとするが、晃明は辞典に唯一載っていた烏天狗の情報から、なんとか話題を見つけ出した。


「でも、空を飛べて天候も操れるんですよね⁈ 神通力ってなんなんですか? とても凄い妖怪じゃないですか!」


 見つけた情報を全て一気に言ってしまったため、春馬を困らせてしまったかと思った晃明。

しかし、徐々に笑みを浮かべていった春馬の表情に、晃明はそっと肩を撫で下ろした。


「凄い? 私が? 本当に?」


「だって、雨を降らせたり、晴れにしたりとか、空を飛ぶなんて皆の憧れですよ!」


「憧れ……」


「烏天狗さんが凄いってことを、これからもっと沢山の人に伝えて行けばいいんです!」


「晃明君は我々なんかよりも、崇められる存在ですね」


「そんなことは……俺はただの人間ですよ!」


 急に言われた言葉に晃明は、手を顔の前で勢いよく横に振ったが、その表情は満更でもなかった。


「貴方のような方が烏天狗だったら……何か変わっていたかもしれませんね」


「いやいや。俺は本当に何もできませんって」


「ただのビビりだもんな」


「はい! っていつかは絶対に克服してやりますから!」


「克服したら、一緒にこいつを見返してやりましょう」


「ですね‼」


 意気投合した二人は握手を交わすと、椅子の背もたれに顎を置きながら茶々を入れてきた百目鬼へ、敵視するような視線を送った。







「情緒不安定なあいつの調子を取り戻せるなんてすげぇよ」


「そうですか?」


「あの神林でさえも、お手上げ状態だったからな」


 仕事へと出かけて行った春馬と神林が居ない事務所に残された三人は、一つのソファを譲り合いながら仲良く座り、昼食を食べながら話していた。


「でも、本当に凄い方ですよね。烏天狗って」


 晃明は、真ん中で百目鬼と同じ種類のカップラーメンをゆっくりと啜った。


「あいつの親友の方が。だけどな」


 その右隣で、河井が刺身に醤油を付けずにそのまま頬張りながら、冷たく答えた。


「え?」


 箸を止めた晃明に、左隣に居た百目鬼が勢いよく麺を啜り終えると、飲み込む前に話し出した。


「なんか知んねぇけどよ。あいつは神通力ってやつを使えねぇんだって」


途中で飲み込み終えた百目鬼のカップの中に、麺の姿はもう無かった。


「でも、それだけでも十分――」


「烏天狗は、天狗よりも強力な神通力を操れるからこそ、神様として崇められてきた。それが使えないとなれば、逃げる前からただの妖怪だったってこと」


「そんな……」


 肩を落とす晃明を気にせずに、河井は箸を動かし続ける。


「じゃあ、俺らがその原因を突き止める事が出来たら、神通力がまた使えるかもしれないってことですよね⁈」


 ごく普通の事を、いかにも名案だと言うように述べた晃明を無視して、百目鬼はスープまで飲み干したカップを持って、流しへと向かって行った。


「聞いてみましょうよ!」


「答えねぇよ。絶対に」


「親友を亡くしたショックなのか。過去の記憶には蓋をしているらしい」


「親友が亡くなった?」


 少しだけ麺を啜って、河井の言葉を理解しようと頭を捻るが、晃明の中で鮮明に覚えていた百目鬼の言葉を思い出した。


「妖怪って死なないんじゃ……?」


 晃明は体を捻ってキッチンの方へと向くと、冷蔵庫から缶ビールを取り出した百目鬼に問いかけた。

百目鬼は、軽やかに蓋が開くのと同時に泡が吹き出したビールへと、慌てて口を付けると首を横に振った。


「お前ら人間の言う『死』と俺らが言う『死』は違うもんだ」


 更に頭を捻らせた晃明に百目鬼は、面倒そうな表情を浮かべれば、河井に聞けと顎で指した。

何でもかんでも面倒事はすぐに、河井へと押し付ける百目鬼の性格を知っていた晃明は、仕方なく刺身を優雅に味わう河井に問いかけることにした。


「あの……」


「人間の『死』は、魂と呼ばれるものと肉体が離れることだろ。それと違って僕らの『死』というものは、刺身だ」


「……え?」


 刺身を箸で摘まみ上げたままの河井は、理解不能な例えを出してきた。しかし河井は、止まることなく説明を続けていく。


「刺身はすでに死んでいる魚をばらした身だ。それを誰かに食われてしまったり、こんなにも小さなパックに詰められてしまう。こんな屈辱はない」


「えっと……?」


「要するに、僕らの『死』というものは肉体の激しい損傷。または、封印によるものだ」


 河井は刺身を食いちぎると、半分だけパックの上に戻した。


「あいつが言うには、親友は前文らしい」


「何が……あったんですかね……?」


 晃明が残された刺身を見つめたまま呟くが、誰も答えることはなかった。

まるで、二人もいつか自分がそうやって死んでいくのではないかと、恐れているような雰囲気だった。


「俺、決めました。春馬さんに神通力を取り戻させます。きちんと彼と向き合って、過去のことを話したくなるまでずっと、傍に寄り添い続けます」


「おー頑張れよー」


「百目鬼さんも手伝ってくださいよ」


「なんでだよ」


「暇ですよね?」


 怪訝そうな表情を浮かべる百目鬼のもとへと、晃明は最後の一口を食べ終えたカップを持って向かおうとしたが、隣に居た河井が箸を机に強く叩きつけた音に思わず動きを止めた。


 静まり返った事務所内で、河井はゆっくりと立ち上がると、空になったパックをゴミ箱へと捨てた。


「この世で一番嫌いなんだよな。偽善者が」


「偽善って……」


「お前は課長とは違う。ただのお人好しなだけなんだよ」


 晃明に冷や水を浴びせた河井は、事務所から足早に出て行ってしまった。

 残された晃明はその場に立ち止まったまま、河井が力強く閉めたドアを見つめることしか出来なかった。


カップを持っていた手が、小刻みに震え始める。


 晃明はただ、春馬の心に寄り添う事で悩みを解決してあげたいと思っただけ。

妖怪一人一人に寄り添うことが晃明の仕事であり、この街を妖怪にとっても住みやすいものにするために、神林さんの様になろうとした。それの何が偽善なのだろうか。


「あんまり気にすんな。あいつ、ツンデレなだけだからよ」


「百目鬼さん……俺には何が足りないんですか? どうすれば、神林さんみたいに妖怪達に寄り添う事が出来るんですか⁈」


 カップを取り上げた百目鬼に晃明は、眉を下げて思いつめた面持ちで問い詰めた。


「お前は一体何しにここへ来たんだ? 神林みたいになるためか? この街のヒーローにでもなりに来たのか?」


「それは……」


 百目鬼の問いに晃明は、口を噤んでしまった。

神林みたいになれればきっと、この街が幸せになると思っていた晃明には、何一つとして言葉が出てこなかった。


「俺は、お前だから話したんだ。自分の過去を、苦しかった時の記憶を呼び起こしてまで、泉晃明に初めて打ち明けたんだ」


「初めて……?」


「神林でさえも、俺がどうして妖怪になったのかは知らねぇ。打ち明けたくなかったからな」


 晃明の食べたカップラーメンのカップを洗い終えた百目鬼は、口にした煙草に火を付けた。


「どうして、俺には話してくれたんですか?」


「お前がただ素直に、純粋に俺の心を理解してくれると思ったからだ。犯してきた罪も、家族を捨てた自分も絶対に責めることなく、話を聞いてくれる奴だと感じた」


「それはきっと神林さんだって……」


「あいつは、無駄に正義感が強い所があるし、家族を何よりも大切にしているやつだからな。絶対に言えねぇよ」


 吐き出された苦い煙は、窓から入って来た風によってゆっくりと流されていく。

 表情が曇ったままの晃明に百目鬼は、大きな手を頭に優しく置いた。


「お前はお前だ。別にそのままでもいいんじゃねぇのか?」


「でも……ビビりだし、妖怪のこともまだ理解できていないし……」


「それを変えたところで、お前は神林にはなれない。だから、お前はお前らしく成長していけばいいんだよ。分かったか?」


 親に怒られて気が沈む子供をあやすかのように、百目鬼は晃明の頭を撫でながら説得させると、事務所のドアへと視線を向けた。


「河井と仲良くなりたいか?」


「もちろんです!」


「だったら、これだな」


 百目鬼はズボンのポッケから財布を取り出すと、中から二枚の細長い紙を手に取り、見せつけてきた。


「アンビバレントのチケットが手に入ったんだよ」


「アンビバレント……」


「まさかお前、知らねぇのか⁈ 妖怪初、メジャーデビューを果たしたバンドだぞ⁉」


「いや……知ってるというか……その……」


「河井はこのバンドの大ファンなんだよ。昨日からチケット外れてイライラしてたから、 これあげたら絶対に距離深まるぜ?」


 手渡されたチケットに書かれていたバンド表記に、晃明は見覚えがあった。


「俺――」


 そこまで晃明が言いかけた時、事務所のドアが突如として大きな音と共に開け放たれた。


「今、アンビバレントの話をしていただろ‼」


「盗み聞きか?」


「それ……まさかチケットか⁈」


 晃明の持っていたチケットを一つ奪うと、いつも吊り上がって不機嫌そうな河井の瞳が、まん丸に見開かれた。


「俺が外れた日のチケット……」


「おい、ビビり。まさかお前も好きなのか? この一枚は誰のだ? まさか、このニコチン野郎と行くつもりじゃないだろうな」


「ニコチン野郎って――」


「河井さんをお誘いしようかと思っていたんです」


「お前……本当か?」


「はい! それと、このバンドのボーカル俺の親友なんですよ。よかったら、ご飯とか一緒に行きませんか?」


 晃明は、喧嘩を始めようとした百目鬼を押し退けると、自分の写真ホルダにあったツーショット写真を河井に見せた。


「尊い。顔も声もすべて完璧だ。ていうか、こういう大切なことは最初に言え! そしたらもっと早く会えただろ。役立たず」


「だから、優しくしてくれる人にそんな態度だと――」


「すぐに連絡しておきます‼」


「嘘だろ。役立たずって、お前呼ばれてるんだぞ……?」


 チケットをくれた百目鬼は用済みと化すと、二人は彼をおいてソファへと移動しながら、アンビバレントの話で盛り上がっていった。

 それから晃明は、河井が大ファンだと言う親友と連絡を取り、今週末に会う約束をした。


「まさか、プライベートに会えるとは……」


「多分、イメージと全く違うと思いますよ?」


「それこそギャップというやつだろ」


 河井は、大事そうにチケットを専用のファイルのような物にしまった。

仕事が終わるまでの間、河井のテンションは珍しく高く、少し不気味に感じる笑みを浮かべていた。

その光景を見ていた百目鬼は、気味の悪いものを見ているかのような表情を浮かべ、両腕を何度も擦っていた。


「にこやかな河井を見る度に、鳥肌が止まらなかったわ」


「でも、そうさせたのは俺じゃなくて百目鬼さんですからね?」


「本当は売り飛ばそうとしたんだけどなぁ」


 お風呂上がりの二人はベッドに寝転ぶと、百目鬼は河井への不満を漏らした。


「百目鬼さんって、意外と河井さんのこと気に掛けてますよね?」


「一応ってやつ? 初めての後輩だったしな」


「河井さんはどうしてこの会社に?」


 寝る前にも煙草を吸おうとしていた百目鬼に、晃明は布団に入りながら質問した。


「さぁな。出雲が連れて来ただけだし、俺に対しての最初の一言は、人間なんて滅べばいい。だからな」


「それだけ人間を憎んでいるのに、神林さんは平気だったんですね」


「なんかあったんじゃねぇの? あいつ、河童のくせに河童らしくねぇから」


 ベッドに腰かけながら灰皿へ灰を捨てているその横顔は、河井を後輩としてではなく、友達として気に掛けているように見えた。


「百目鬼さんは、意外と仲間想いなんですね?」


「意外ってなんだよ」


「いい意味で。ですよ」


「それ、誉め言葉になってねぇからな?」


 自分の枕で晃明を叩いた百目鬼の表情は、少しだけ照れているように見えたが、「さっさと寝ろ」と呟いた百目鬼の表情は、任せたぞと言わんばかりの先輩らしい表情にも見えた。








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