絶対に侵攻を許してはなりません。
楽しんでいただけると幸いです。
誤字報告ありがとうどざいます。
出会って10分、この男の面倒は見切れないと私は思った。
☆☆☆
明日が15歳の誕生日だという日、両親に話があると切り出された。
「おまえの婚約相手が決まった」
「そう、なの、ですか」
嫌だと言えば親の決めたことに逆らうのか?と言われ、婚約を受け入れようものなら明日には籍が入れられる。かもしれない。
返事のしようがない話がとうとう来た。
相手の名はアロイス・バリントン、伯爵家の3男で私より2歳年上。バリントン家は私達の領地から最も離れた場所にあった。
一週間後に中間の地で初顔合わせとなり、問題なければその後、我が領地に来ることになるという。
「初顔合わせして、その足ですぐこちらに来られるのですか?」
「婚約申請をして、許可が降りたら来ていただくことになる」
なぜ、こちらに来ていただくのかと言うと、私がビルタイント伯爵家の嫡子だからである。
両親、とっても子沢山なのだ。
長女である私、マルクレート以下全員女ばかり。9人姉妹である。
何処かで男の子が生まれるだろうと思っていたが生まれず現在に至る。
そして、母のお腹にはまた新しい命が宿っていた。
「お父様、万が一にも次、男の子が生まれた場合どうされるのですか?」
「男の子が生まれることはもう考えておらん」
「そうね、流石にもう夢は見られなくなってしまったわ」
「ですが、万が一にも生まれた時どうするかは考えておいたほうが良いと思いますが・・・」
「むっ?」
「入婿に来ていただいて、男の子が生まれました。用無しです、とは言えないでしょう?」
「むっむっ?」
「万が一男の子が生まれたらその子にビルタイント伯爵家を継いでもらいたいでしょう?」
「そうだな」
「相手の方にもその辺りを納得していただかないと、将来の後継者問題になりますよ」
両親が考え込む。
「後継者問題が起きた時、お父様は50歳を越えていますが、生まれてきた子が地盤を固めて安心できるようになるまで私の配偶者である相手を抑え込めますか?」
唸りだす両親。
「それとも女の子が生まれるように神に祈ります?」
「それだけはいかんっ!!」
やはり男の子が生まれる事を期待するのは諦めきれないのだろう。
「妹達が8人も居るのですからその中から跡継ぎは選んだほうが良いのではないですか」
「今、入婿の話を進めるのは不味いと思いますが・・・」
私の婚約話を一旦棚上げさせた。
一週間後の顔合わせはなくなった。
私は妹達にこの家を継ぎたいものは居るか聞くと3人ほど居た。
父にその報告をして、まだ未来の話なので妹達も気が変わるかもしれないとも一応伝えた。
アロイスとやらとの婚約は一旦棚上げにはなったものの、私も15歳、婚約者をそろそろ選ばないと残り滓ばかりになってしまう。
学校の2学年上の先輩に告白され、とてもいい人で好ましく思っているのだが、譲り受ける爵位がなく、結婚しても平民になってしまう。
流石に両親は許してくれないだろうし、私もちょっとだけ嫌だ。
16歳の誕生日の二日前、また「おまえの婚約者が決まった」と父が言った。
残念なことに生まれてきたのは女の子だった。
相手の名はアロイス・バリントン、伯爵家の3男で私より2歳年上。と前回同様の事を言った。
「お父様、その方以外見つけられないのですか?」
「そ、そんなことはないぞっ!!」
「去年と同じ方ですよね?」
「そうだが・・・」
「妹達が家を継ぎたいと言っていたのはどうなっているのですか?私と妹と後継者争いが起きそうですが・・・」
「全員嫁に出す!」
「嫁ぎ先を見つけられるのですか?」
黙り込んでしまう父に母が助け船を出す。
「けれどマルクレートもそろそろ婚約者を決めないといけないでしょう?未来のことは未来に任せましょう」
ちっ!問題の先送り日か・・・。
「・・・わかりました。1週間後に中間領地での初顔合わせですか?」
「そうだ」
「出立は?」
「3日後、馬で行く」
「馬で行くのですか?」
「馬車は日にちが掛かる」
「わかりました。そのように準備いたします」
父と私と2人のメイドの4人で馬にまたがり中間領地まで馬を走らせる。
父の馬車嫌いもなんとかならないものだろうか?
馬の振動にあわせて背中にくくりつけたドレスの重みにため息が出る。
想定より早くつき、半日ほど時間が出来た。
メイド達を休ませ、私は一人でゆっくり湯に浸かる。
はぁ〜せめて婚約相手がまともな人でありますように。
相手は18歳になっているはずだ。
今の今まで婚約者が出来なかったのだから、期待できない。
いや、期待しているからね。
ドレスに着替え、メイクもしてもらう。
顔合わせの時間になってしまった。
アロイス・バリントンは先に来て席についていた。
両親に挟まれて優雅にお茶を飲んでいるが様子が変だ。
母親がずっとアロイスから目を離さない。
あっ・・・母親がアロイスの口元を拭った。
気弱そうな父親に、化粧が濃く気の強そうな母親。
アロイスは両親のいいとこ取りをしたのかそこそこハンサムではある。
互いに短い挨拶をした途端に、領地のことで親同士の話があるので、二人でそのへんでも歩いてこいとその場から追い出された。
初対面で何を話せというのか?!
黙ってついて歩いていても何も話しかけてこなかったので、私から自己紹介した。
「ビルタイント伯爵家の長女マルクレートでございます」
「うむ」
うむではなく名前言ってくれない?
「お名前をお伺いしても?」
「ああ、アロイスだ。もうすぐ19歳になる。おまえの婚約者にもなる」
「いえ、婚約者になるかはまだ分かりません」
一言二言言葉を交わしただけでも嫌だ。この人。
「もう決まっていると母上から聞いている」
「アロイス様は私との婚約をどう思われているのですか?」
「女性に興味があるのですぐにでも結婚したいと思っている」
「女性にですか?」
女なら誰でもいいってこと?!
「そうだ」心の声に返事が来た?!
「結婚相手は私ではなくても良いのですよね?」
「いや、もう私の相手は見つけられないと母上が言っていた」
そんな不良物件をこちらに持ってこないでいただきたい!
「私にアロイス様のお母様のようにお世話は出来ませんが?」
「それは困ったな。私は世話を焼いてもらわねば何も出来ないと母上にいつも言われている。本当に困った子だこと、と笑われてもいる」
私は絶対お断りいたしますからね。
「本当に困ったことですね。学校ではどうされているのですか」
「うむ、メイドがずっと側に居てくれた」
「学校には連れていけませんよね?」
「特別に許された」
「許されるってどういうことですか?」
「私はなにも出来ないからな」
絶対私には面倒見きれない。
「両親の元に戻りましょう」
「そうか?もう戻って良いのか?母上が迎えに来ていないが」
「大丈夫です」
父の元に戻り、父を呼び寄せる。
「絶対に無理です。婚約はお断りしてください。お父様も言葉を交わせば駄目だとわかります。女性に興味があるのですぐにでも結婚したいそうです」
「それは・・・」
「絶対にお断りしてください。私、平民になります」
「馬鹿なことを言うな」
向こうも私の話をしているのだろう。チラチラとこちらを見ている。
互いに身内での話は終わり、双方席についた。
お茶を飲んだと思ったらまた母親に口元を拭かれ、お菓子を手にしたら母親に手を拭かれている。
18歳になる男が嫌がりもせずに受け入れている。ありえない。
父の様子を窺うと眉間にしわがいっている。
「うちのアロイスはマルクレート嬢のことを・・・「今回の話はなかったことでお願いいたします」
相手が言い終わる前に私が被せてお断りの言葉を口にした。
本来なら父親が内々に断るものだろうが、こんな男を押し付けられてはたまったものじゃない。
向こうはちょっと言葉に詰まり、アロイスが口を開く。
「君は僕に興味を持っただろう?」
「いえ、アロイス様がどういう方か聞いただけです。私にはアロイス様の面倒は見られません。お母様込みで我が領地に来られても困ります」
ハンカチを手にした母親が「わたくしは付いて行ったりいたしませんわ」と言うが、逆に来てもらわないとアロイスの面倒が見られない。
「ですが、お母様が居られないとお茶も飲めませんよね?」
「そ、それは・・・」
「女性に興味があるだけでは結婚はできません。まして私は領地を継がなければなりません。それを支えてくださる方でないと結婚なんてありえません」
「それは私の得意分野だ」とアロイスが言い「信じられないと思いますが、アロイスは領地経営等は本当に得意なんです。それ以外は全く駄目なのですが」と父親が言った。
「でしたらバリントン伯爵領から出さず、お母様に世話を焼いてもらいながら領地経営をしていただくのが一番でしょう。我が領地で必要な人材ではありません」
ここまできっぱりお断りしているのにしつこく食い下がってくる。
見かねた父が「残念ですが、今回は縁がなかったということでお願いします」と言って席を立った。
這這の体で宿へ戻る。
今は15時ちょっと前。
「お父様、今すぐ宿を引き払いましょう」「そこまでしなくても・・・」
「いえ、絶対引き払うべきでしょう。次の街まで飛ばしましょう」
取るものも取り敢えず、即行で馬に跨がった。
急いだおかげで日暮れとともに次の街に到着した。
馬は息も絶え絶え、私達はまだ体が揺れている
それでも無事に家に帰り着けた。
私も父も気が抜けたのか、着替えもせずソファーに崩れるように倒れ込んだ。
驚いた母と妹達に顔合わせがうまく行かなかったこと、逃げるように帰ってきたことを伝えた。
アロイスとの顔合わせから逃げ帰って来て一週間ほど経った頃、両親に又呼び出された。
一通の手紙が渡された。
中を改めるとバリントン家からの手紙で、アロイスは私のことを気に入ったので是非とも婚姻をと書いてあった。
婚約をすっ飛ばして婚姻ですか・・・。
「お父様はどうお考えで?」
もう一通の手紙を渡された。
アロイスが荷物を持ってあちらの領地を発ったと。
「なっ!なんですかぁーー!!」
「一通目の手紙は3日前程前に届いて、断りの手紙をすぐに出していた。その返事が届いているかどうかのギリギリの所であちらを発ったのだと思う。早ければ今週中にアロイス殿がこちらに着く事になる」
「お父様が見つけてきた方でしょう。お父様がちゃんとお断りしてください」
「・・・・・・どうやって?」
「私、平民になります。婚約者が決まればお断りできるでしょう?」
「馬鹿なことを言うな。平民になって生活など出来るものではない」
「だったらどうするんですか?もう来ちゃいますよ。誰が面倒見るんですか?一人でお茶も飲めないんですよ?」
「妹達に面倒を見させる」
「駄目ですよ。女に興味があるんですよ!」
「この家で生活させるなんて出来ません。妹達に何かあったらどうするんですか?」
「なっ!まさかっ!」
「わからないではないですか!女に興味があるから結婚したいと言われた時、私は一番に妹達の心配をしましたよ」
「まさかっ!」
「よく知らない相手なんですよ。領地が遠くてほとんど情報がないんですから。お父様もどうしてそんなところとの婚約の話なんか持ってくるんですか!責任はお父様が取ってくださいね」
「ぐっ・・・」
「アロイス様が到着されたらどうするのか考えなければ」
「そ、そうだな。離れに入っていただくか?」
「婚約を受けいれるということですか?」
「そ、それは・・・」
「お父様、いい加減まともに考えてください。さっきからまさかとかぐっとかまともな言葉発していないですからね」
「ぐっ・・・」
「ほらまた」
「ぐぅっ・・・」
「お父様がいざという時に役に立たないのなんて結婚前からでした。わたくし達がしっかりしなければなりません。マルクレートにはなにか良い考えがあって?」
「何も思いつきません。普通のお客様なら受け入れなければなりませんよね?」
「そう、ですね・・・」
「あっ、王宮に話を持っていくのはどうでしょう?」
「高位の方の無理強いならお話を持っていくことも出来るかもしれませんが・・・同格ですしね。助けてくれるかしら?」
「お父様、王宮へ一度行ってきてください。今までの経緯を話して婚約は断ったのに荷物ごとやってくると。それから王宮に話を通すと早馬でバリントン家に伝えてください」
「わかった」
父は手助けはして貰えそうにないと首を横に振りながら王宮から帰ってきた。
「そうですか。ですが、敵も王宮の名を聞いて一旦は引き下がったようですね。週が明けてもまだ来ていませんから」
「敵って・・・」
「もう、ここまで来たら敵でいいと思います侵攻を許したら私達の負けなのですから」
実際の所、侵攻されていた。本当にギリギリで早馬が間に合ったようで、バリントン家の馬車が3台、我が領地から引き返すのが目撃されていた。
母が少し安堵したように「バリントン家も流石に王宮に出てこられるのは困るのでしょう」
「アロイス様がこのまま諦めてくれたらいいのですが、次に来られた時には打つ手がありません」
「そうですね、あなた、諦めずに王宮へ通ってくださいまし」
「来てもいないのに助けを求めるのか?もう諦めているかもしれんだろう?」
のんきな父を叱責するように「油断すると敵に侵攻されてしまいますよ」だが、しかし、と言う父をなんとか説得し、王宮へ向かってもらった。
数日後、アロイスから私宛の手紙が届いた。
それは美しく整った文字で書かれていた。
頭語から始まり時候の挨拶、私がどう過ごしているのかと質問があり、アロイスは元気で毎日過ごしていることが書かれ、結びの挨拶に私に会いたい、返事が欲しいと書かれていて、結語があり、日付に署名、宛名とお手本のような手紙が届いた。
アロイス様が自分で考えて書いたのかしら?
返信を出さなきゃ駄目かと両親に聞くと出さなくてはならないと言われた。
その理由が、返事がもらえるまで待つと言って使いの者が待っているからだと指差された方を見ると、バリントン家の紋章のマントを着けた人がソファーに座っていた。
「お父様、侵攻を許してしまったのですね?」
両親は私の言葉にはっとした。
私に返事を書くように言い、父は又王宮へ向かった。
何度目かの芳しくない返事を持って帰ってくることだろう。
私はアロイスの手紙を真似て文章を組み立て、結婚をお断りすること、お手紙も寄越さないでくれと書いて、マントを着けた人にもう来ないで欲しいと伝え、返事を手渡した。
2週間程経った頃、アロイスからの手紙が又やって来た。
前に来た人とは違う紋章を背負ったマントの人。
今回も返事がもらえるまで待つ。と言い玄関脇に座り込んでいた。どうぞソファーにお座りくださいと言うしかなかった。
手紙には冷たいことを言わないで欲しい、私のことを夢に見た、会いたい等と書かれていた。
思い合う二人のやり取りなら満点の手紙かもしれないけど、アロイス様からの手紙だと思うと背筋が震えた。
今回も結婚はお断り、手紙もお断りと書いてマントの人にももう来ないでくれと言い手紙を渡した。
それから何度手紙のやり取りをしたか・・・。
2週間に1度届くアロイスからの手紙の束を見て今日も私はため息をつく。
「お父様、私の婚約者は他に見つけられないのですか?」
私はそんなに需要がないのかと聞くと、妹の数が多すぎてこの先落ちぶれていくと思われていると初めて聞いた。
1人の支度金でもかなり掛かる。私を抜いても妹×9だもんね。そりゃ心配されるわ。こんなにたくさん産む前に父は何故そこに頭がいかなかったのか。
「妹達全員が結婚した場合この家はどうなりますか?」
「・・・なんとかなる」
「ならないんですね」
「なるはずだ!」
母を見ると、そこは関わっていないので分からないと言われた。
私、見た目がいいとは言わないけど、そこそこだと思っていたのに婚約の話が来ないのが不思議だったんだけど不良物件だとは思っていなかった。
そんな時、又アロイスからの手紙が届いた。
ちょっと弱気になっていたことと、アロイスの手紙に慣れ親しんでいた為についぽろりと愚痴を書いてマントの人に渡してしまった。
その返事は早く、領地経営は得意だと書かれており、すぐにこちらに来ると書かれていた。
手紙を読み終えるとマントの人を見やると、その後ろに違う人が立っていた。
爽やかと言い難い疲れた笑顔で「やあ」とその人は言った。
侵入を許してしまった・・・。
Fin
いかがでしたでしょうか?
この話は続きも書こうかなと思ったのですがここまでにしました。




