急に頭良さそうなこと言うなよ
「ふぃー……ええ湯じゃあ……」
デッケエお屋敷だけあって風呂もデケエ。
「個人の家でこんな広い檜風呂入ったのは初めてだわ」
宇宙戦艦に連れて行った後のことだ。
泣き止んだカワサキに艦内の見学やら実際に航行してるところを見たいとか色々強請られてしまった。
二十半ばぐらいの良い大人なんだが、どうにも幼さが見え隠れするもんで俺としても強く出られずついつい願いを聞いちゃったよ。
んで気付いたら結構良い時間。宇宙空間だと時間の感覚が掴めなくて困るわ。
ともあれ夜になったし腹も減ったからと屋敷に戻ると、ご飯の前にお風呂をどうぞと勧められ今に至るわけだ。
「色々面白いものも見れたし」
カワサキ家に遊びに来て本当に良かった。
そう漏らしたところで、
「そう言って頂けて私も嬉しいです!」
カワサキが現れた。唖然とした俺は悪くないと思う。
百歩譲って水着ならまあ、分かる。でもコイツ、一応バスタオルで身体は隠しちゃいるが普通に裸。
羞恥心ってもんがねえのか……?
「お、おま……おま……」
「? どうかしましたか」
「どうもこうも、普通男と同じ風呂に入るかね」
「やだな~佐藤さんってば私のこと、馬鹿だと思ってません?」
馬鹿だろ。
「見知らぬ殿方と湯浴みを共にするような女ではありませんよ!」
見知らぬ男ではねえけどさぁ……。
「何たって私と佐藤さんはマブですからね! マブ!」
閻魔もそうだけどマブ認定早過ぎひん?
「嫁に行っても良いと思えるぐらい心を許しているなら全然問題はないでしょう」
湯で身体を流すとカワサキは普通に浴槽へ入って来た。しかもかなりスペースあんのに俺の横。
バスタオルも外してるし……ってかコイツ、スタイル良いな。
ボンキュボンのエロ系ではない。均整の取れた美しさ、エロよりも感心が前に来る感じ。
「はー……良い湯ですぅ……」
めっちゃ寛いでる……や、お前ん家だから当然なんだけどさぁ。
色々腑に落ちないけど……まあ良いや。
「しかし宇宙からの侵略者、ですか」
「何だ。のけ者にされて悔しいのか?」
「そういう気持ちがないわけではありませんが……行ったところで私では宇宙空間に適応することすら出来ませんし」
「? お前ほどの術者なら適応系の術式も収めてるだろ?」
今回は俺が連れてった側だから適応の術式は俺が施したけどカワサキレベルの実力者なら余裕だろ。
「うん? あれひょっとして佐藤さん気付いてないんですか?」
「?」
「あなたなら思考に制限もかけられていないはずですし……ああ、単純に興味がなかっただけですねこれは」
「どういうことだ?」
「確かに私は環境適応術式も収めています。深海であろうと地上と変わらぬパフォーマンスを発揮できるでしょう」
「なら」
「が、宇宙では何の役にも立ちません」
どういうことだ?
「佐藤さん。格差はありますが裏の人間の上位層は表の科学力を遥かに凌駕する現象を引き起こすことが出来ます」
「ああ」
「にも関わらずですよ? 何故、これまで誰も宇宙開発にその力を使おうとしなかったんでしょう?」
それは……言われてみればおかしな話だ。
単純に宇宙なんてものに興味がなかった? まあそういう奴も居ただろう。
でも全員がそうだったのか? 一人ぐらいは宇宙に目を向けた奴が居ても良いはずだ。
神々なんかは特にだ。いっそ新天地で生命を創造し信仰をと考えるのが居ても不思議ではない。
他にも腑に落ちない点はある。俺が宇宙でも問題なく活動出来る姿を為政者たちは見ていた。
総理あたりがコッソリ、そういう話を依頼として持ちかけて来ても良いはずだろ。
実際に俺がやるかどうかはさておき言うのはタダなんだから。でもそういう話は一切なかった。
「思考の制限つったな? つまり宇宙開発に超常の力を使うことを阻んでる奴が居るってことか?」
「特定個人が、というより種の本能と……星の意思、でしょうか?」
「うん?」
「神も人も魔性も、地球で生まれ育まれた命です」
ゆえにそれらの命が振るう超常の力の源泉も地球にあるのだとカワサキは言う。
「分かり易い例えをするならコンセント。国ごとに規格が違うでしょう?
日本の電化製品を持ってってもそのままでは使えません。それと同じです。
我々が使う超常の力も地球という規格の中だからこそなんですよ。
地球という星に敷かれた見えない理。その法の下でしか力は成立し得ない」
種の本能ってのはそういうことか。
やっても意味がない。無駄に命を散らすだけ。
そう無意識に理解しているからこそ始めから選択肢が除外されている。
「佐藤さんは存在そのものがバグみたいなものなんで例外ですがね」
バグ言うな。
「なら星の意思ってのは?」
「神でさえ宇宙は守備範囲外。なのに人類は超常の力に頼らず宇宙への道を切り拓いた」
侵略しに来た食ざ……インベーダーどもの技術からすれば児戯のようなものだろう。
しかしその程度であろうと地球人類は酷く遅い歩みではあるが宇宙への開拓を始めている。
「超常の力は個人に由来するものですが科学は学びこそ必要ですが万人に等しく扱える力と言えるでしょう」
少なくとも超常の力よりは敷居は低い。
「突出した個体ではなく種族としての繁栄ならば可能であると星はそう判断した。
だからこそ超人に枷をかけ只人には宇宙への夢を許したのだと私は推測しています」
同時にこの星もまた、自らが生み出した命が宇宙へ飛び出すことを願っているとカワサキは言う。
「そりゃあれかい? あのー、親離れを望んでる的な?」
自らが寿命を迎える前に、子らに巣立って行って欲しい。
母なる地球ってぐらいだからそんな意思を――――
「違うと思いますよ~?」
「えー……違うの?」
「少なくとも私はそんな美しい動機であるとは思ってません」
「その根拠は?」
「人間です」
人間?
「数ある生命の中で、何故人間だけが宇宙への道を歩き出せたのでしょう?」
「何故って……何故?」
「欲望ですよ。ぶっちゃけ私たちって知性の高い蝗みたいなものでしょう?」
「蝗ってお前……」
「欲望のままに母なる星でさえ平然と食い荒らしてるんですよ? 蝗より酷いです」
否定出来ねえ……。
「そんな私たちを生んだ地球の性格が良いと思います?」
「……思えねえなぁ」
子は親に似る、って言うもんな。
「それを踏まえた上で考えていきましょう。まず何だって地球は自らを害するような生命を設計したのか。
それはそういう生き物だからこそ宇宙に手が届くと判断したからでしょう。
では何故、地球は宇宙への進出を望んだのか。子は親に似る。その言葉から考えれば大体、見当はつきます。
支配領域の拡大。恐らくその星が生み出した生命体が他の星を支配すれば地球の支配領域の拡大と見做されるのでしょう」
これは地球というより宇宙の法則なのだろうとカワサキは嗤う。
突飛な発想に思えるが、恐らく本人的には他にもそう判断するだけの材料があるのだろう。
そこを説明して行けば長くなるから省いているんだと思う。
理解させる、という意味では不親切だが俺ならそこを酌んでくれると考えてるっぽい。
……ちょっと計算外なぐらい好感度稼いじまったからな。
「結構話がずれちゃいましたけどこれが私の推測です。疑問の答えになりましたか?」
「……ああ」
何故、超常の力が宇宙ではロクに使えないのか。
最初に抱いた疑問と説明の中で新たに生まれた疑問にも一先ず納得出来た。
――――が、そんなことは最早どうでも良かった。
(コイツ、俺が思ってた以上にやべえ……)
コイツが語ったことは多分、合ってる。
話を聞く内に自然と研ぎ澄まされていった俺の直感がそう言ってる。
神の中には絡繰りに気付いている者も居るだろう。隻眼の爺さんとかな。
しかし、人の中で独力でそれに気付けた者は果たしてどれだけ……。
「カワサキ」
「? 何です」
「お前は……賢いなぁ」
隣に座るカワサキの頭を撫でてやる。何かもう、色々疲れたわ。
「うへへへ……もっと誉めてくれても良いんですよ!!」
抱きついて来たカワサキをテキトーにあやしながら天を仰ぐ。
(でも、こんだけの頭脳がありながらやってることはクソ迷惑なロボオタクっていうね)
これもう、わっかんねえなぁ……。




