美しい構図
「ここが私のラボです!!」
ふふん、とドヤ顔で胸を張るカワサキ。
外観見てた段階で何となく感知はしてたが……やべえなコイツ。
(空間拡張、それなりの奴なら誰でも使える技術ではあるが)
それだけに術者の実力がダイレクトに反映される。
恒久的に広範囲をとなると複数人でやるのが当たり前だ。
だがカワサキのラボは違う。小さな町ぐらいの広さがあるのに術者はカワサキ単独。
並の術者なら一分維持するだけで枯れ果てるだろう。
(別にエネルギータンクみたいなん用意してそいつに肩代わりさせるって手もあるが)
見た感じその手の工夫はしてない。ただ備えはある。
恐らくはカワサキ自身が全霊を尽くさないと無理な時に緊急用で使うのだろう。
「どうです佐藤さん?」
「そうだな……色々言いたいことはあるが……まず言いたいのはアレ」
俺の視線の先ではボロボロのデビルカイザーが壁にもたれ掛かるようにして座っている。
「――――ナイス」
あれは修理してるわけじゃない。飾ってるんだ。
何で分かるかって? そりゃお前ボロボロのロボットがだよ? 格納庫の隅で項垂れ気味に鎮座してたら雰囲気あるじゃん。
いや飾るために一応、最低限の修理は施してあるようだがね。単に修理途中なだけじゃないのかって? 違う。
真面目な根拠もある。まず第一に俺は以前、あれを完全に消し飛ばした。
だが今のカイザーは片腕取れてたり内部が剥き出しの部分があったりする。
(それだけだと修理途中と言えなくもないがボロボロなんだよな)
完全に消し飛んだのを一から再建してたらそうはならんやろみたいな傷や汚れがちらほら。
明らかに映えを意識して人為的に後から付け加えたとしか思えないんだよ。
さながらプラモを作る際、敢えて汚れたように見える塗装を施すかの如くな。
「分かりますか? この雰囲気……堪りませんよね!!」
ほらな。正解だった。
「ああ。物語の冒頭でも良いし、全ての戦いが終わった後でもアリだな。差し込む一筋の光が良い仕事してるわ」
「ですよねですよね! 佐藤さんなら気付いてくれると思ってました♪」
主人公が戦火に追われ迷い込んだ先でボロボロのロボットを発見。
どうせ死ぬぐらいならとイチバチの賭けに出て物語が始まるもヨシ。
激しい戦いを潜り抜け、ようやく休めたんだな……ってなるラストでもヨシ。
正直、この画は俺も大好きだよ。やるじゃねえかカワサキ。
「ホント、佐藤さんは理解のある殿方ですよ」
しみじみと頷くカワサキ。
「私に言い寄って来る上っ面だけの馬鹿どもとはモノが違いますよね、モノが!!」
あぁ、やっぱモテるんだコイツ。
そうね。傍から見ればドップリ沼に浸かったロボットオタク程度だもんな。
実際に行動に出るようなヤバさを知らんかったら許容範囲だもん。
「透けて見えるんですよ。私に気に入られようと話合わせてるのが。
好きでも何でもないのにさも好きであるかのように見せかけるなんて……ぐぎぎぎ!!」
よっぽどムカついてたんだな……言い寄った連中、大丈夫だろうか?
いや流石に殺してはいないだろうがそれなりの目には遭ってる気がする。
「つっても、俺だってそこまで立派じゃねえぞ。知識とかお前に比べりゃ全然だろうし」
「知識の深浅は関係ありません!!」
うぉ、ビックリした。
キス出来るぐらいの距離まで接近して来るとか……マジ距離感バグってんなコイツ。
「作中で描写されないような裏設定まで網羅している。それは素晴らしいことです。
では設定とかはどうでも良くてロボットが派手に戦ってる姿にキャッキャしてるファンは前者より劣るのでしょうか?」
否! 断じて否! カワサキは大きく両手を広げ叫んだ。
「楽しみ方は千差万別。重要なのは純粋さ! 純粋に好きであるのならそこに貴賤はないのです!!」
……何だろうな。
いや良いこと言ってるとは思うよ? ただ頭おかしい奴が言うと何か腑に落ちねえなって。
「その点、佐藤さんのピュアさはGOOD! その“好き”はどこまでも真っ直ぐです!!
シュガーキングが出現した瞬間から分かっていましたよ!
分かります分かりますとも。私だってそうです! 機体のネーミング! 自分の名前からあやかったのつけるとか私だってやりたい!
でも……でも私カワサキ……! カワサキなんです! しっくり来ない! しっくり……来ないんです……」
よよよ、と涙を流すカワサキ。
コイツ、感情の起伏激し過ぎだろ……というかシュガーキングも評価点だったんだ……。
「ま、そういうわけで佐藤さんはイイ男ってことですね!」
「……ありがとよ」
「いえいえ、それじゃ案内を続けますね~」
それからしばらく案内という名の自慢話に付き合うことに。
楽しいか楽しくないかで言えば……うん、普通に楽しかった。
「さて、じゃあ一旦地上に……」
「まあ待て」
「?」
「俺ばっか貰いっぱなしってのは申し訳ねえ。お前に良いもん見せてやるよ」
「良いもの、です?」
「ああ。俺が良いって言うまで目を瞑ってな」
「はあ、分かりました」
素直に目を閉じたのを確認し、俺はカワサキを連れてある場所へ転移。
そこに到着して再度、“それ”を含めて転移を行ったところでカワサキに目を開くよう告げた。
「――――」
カワサキは絶句していた。
そりゃそうだ。目の前にはSF映画もかくやって感じの艦橋。モニターには果てのない漆黒。
「ちょっと前に外宇宙から宇宙人が攻めて来てな。そいつらをシバキ回した時に戦艦をゲットしたんだ」
「……」
「ロボではないがロボットにゃ戦艦もつきものだろ? んで宇宙もな」
コイツを詳しく調べさせる気は今んとこない。まだ保護観察みてえなもんだからな。
とは言えちょっとしたインスピレーションを得る切っ掛けぐらいにはな……うん?
「どしたカワサキ? 気に入らなかったか?」
「~~~ッッ」
バッと顔を上げるや、
「ふぇぇん……」
カワサキは子供のように泣き始めた。
これには流石の俺もビビったが……。
「さと……さとうさん……やさ、やさしすぎますぅ……なんで、そんな……うぅぅうううううう」
感極まり過ぎて、のようだ。
「分かった分かった。分かったから」
背中を擦りながらカワサキをあやす。
結局、泣き止むまでに一時間以上はかかってしまった……高橋呼べば良かったな。
「お恥ずかしいところを」
「いやいや、喜んでくれて何よりだ」
「本当に……本当に素晴らしいものを……あぁ、脳細胞がこの上なく活性化しています……」
そうかいそうかい……。
やんちゃしてるガキの俺を優しい目で見守ってくれていたジジババの気持ちが少し、分かった気がする。
「本当に最高の殿方です。私、佐藤さんのお嫁さんにならなってあげても良いですよ!」
「はっはっは」
とりあえずこの話題を終わらせよう。




