パーフェクトコミュニケーション
「世話になったな。この礼はいずれ必ず」
「いやいや、俺も楽しかったんで……どうしてもってんなら今度地獄観光のガイドでもしてくださいや」
「ふふ、ではその時は張り切って地獄をアピらせてもらおうぞ」
朝、俺はマンションの屋上で閻魔の見送りをしていた。
裏秋葉を堪能した後、良い時間になったので自宅に招き宅飲みをしてついでに泊まってもらったのだ。
まだ休暇は残っているが何かあった際、即応出来るように残り二日はあの世で過ごすとのこと。
「楽しみにしてます」
「うむ、ではな」
火車に乗り込み閻魔はあの世に戻って行った。
「……さて」
時刻は午前10時前。休日なのだから二度寝しても良い時間だろう。
俺もぶっちゃけ寝たい。2時ぐらいまで寝て、朝食兼昼食にデリバリーピザを頼みたい。
「でもそういうわけにゃいかねえんだよなぁ」
今日も本来は特に予定はなかったのだが……そうもいかなくなった。
カワサキだ。昨日ばったり出くわしちまったもんだから……。
『そう言えば世間ではお盆休みでしたか。佐藤さんもおやすみなんですよね? なら私と遊びましょう!!』
変にヘソ曲げられる方が面倒だと思った俺はその誘いを承諾した。
今っとこ俺に好意的で約束を守ってくれているが機嫌を損ねたらどうなるか分からん。
有害なアホならともかく有益になりそうなアホゆえ、なるべく討伐はしたくないのだ。
「……行くかぁ」
約束の時間にゃまだまだ余裕はあるが、大人だからな。
相手の家に招かれたんだから土産の一つでも持って行かんとマズイだろう。
プラモ好きの部下に教えてもらった模型屋近くに転移する。
(おぉぅ、如何にもって感じだな)
店内に入ると箱、箱、箱。所狭しと敷き詰められたプラモの箱に圧倒されてしまった。
プラモだけじゃなくプラモを作る工具類やらも売られているが……ここらは要らんか。
カワサキぐらいのマニアなら俺が贈らんでも持ってるだろ。何なら自作してるかもしれない。
ロボ造れるような女だからな。ニッパーやら何やらをハンドメイドするぐらいはお手の物だろう。
「さて、どれ買ってくか」
アイツの造ったデビルカイザーは如何にもな技名ガンガン叫ぶスーパーロボット系だ。
かと言って重く重厚な戦争ドラマが描かれるようなリアルロボットが嫌いってわけでもない。
アイツの片道トークからしてロボなら何でも好きって感じだ。
「となると、ジャンルでは分けずバランス良く摘まむ感じかな?」
カワサキが好きそうなデザインのを手に取ろうとして気付く。
……あっちの好みに合わせるより、俺の好みを伝える体で行く方が良いんじゃねえか?
片道トークからも分かるように基本的に奴はガンガンぶつけて来るばかり。
とは言え俺は奴から友人認定を受けている。昨日のスキンシップからして心の距離はかなり近い……と思われてる。
だったら互いの好きを伝え合うような形のが好感度は上る気がする。
だってそうだろ?
自分が熱く語ってるのに相手が冷めてたらショックじゃん。テキトーな相槌だけだと寂しいだろ。
だけど相手からも話を振られたら「ああちゃんと聞いてくれてるんだ」って嬉しくなるっしょ?
……まあアイツに一般人の感性を求めるのもどうかと思うが。
ショックは受けんだろう。ショック受けるようなタマならあんなガンガン一方通行のメッセージ送って来ない。
だが喜びはすると思う。あくまで俺の個人的な見解では、だけどな。
「それなら……」
と選び始めたが……やべえなこれ。
わ、懐かしいこれ好きだった! お、これ元ネタ知らんけどええやん! ってな具合で止まらない止まらない。
カワサキほどディープではないが、やっぱり俺も男の子。幾つになってもロボットは大好きなんだなと思い知らされる。
何ならカワサキのこととかどうでも良くなって来た。元ネタ確認しつつ、作りてえって欲が沸々と……。
「……かなり買っちまったな」
欲求を振り切りつつ厳選したつもりだが、十個以上買っちゃった。
どうせ作るならデカイのをとサイズ違いがある奴は全部、デケエのにしちゃったもんだから嵩張る嵩張る。
これ持って電車乗ったら混み具合によってはクッソ迷惑だろうな。転移が使えてホント良かったわ。
「ここか」
転移で飛んだのは二子玉の高級住宅街。
目の前に広がる和風建築のデケエお屋敷の門には川崎の文字。
住所聞いた時にも思ったが、コイツこんなとこ住んでるのかよ……。
自宅兼ラボとのことだが、他の住民の皆さんもまさかこの屋敷の地下空間で巨大ロボが建造されてるとは夢にも思うまい。
<佐藤さん! ようこそお越しくださいました! 今、門を開けますね~>
インターホンを鳴らすと直ぐにレスポンスが。
自動で開いた門を潜りこれまた見事な庭園を横目で眺めながら玄関へ。
「ささ、どうぞどうぞ!」
玄関先で待っていたカワサキに促され中へ。
前を歩くカワサキの背中を見て俺はしみじみ思った。
(やっぱ和装に白衣は似合わねえって……)
家の中の雰囲気と相まって違和感半端ねえ。
「こちら粗茶ですが」
ドラム缶みたいなロボットが急須から湯呑に茶を注いでくれる。
匂いだけで分かる。かなり高いのだ。一緒に出されたお茶請けもそう。高級な匂いがぷんぷんしやがる。
「ありがとよ。これ、土産な」
異空間から取り出した土産を目にするやカワサキの表情がパァっと更に輝きを強めた。
「あらあらあら! まあまあまあ!」
両手を口元に当てクスクス笑いながら身体をクネクネさせるカワサキ。
楚々とした見た目からは想像出来ない幼さに満ちた仕草。男からすれば堪らんギャップだろう。
尚、中身。
「選考基準は何です!?」
「俺の思い出のロボと原作は知らんが見た目がドストライクなのをチョイスした」
「思い出の作品……それは素晴らしい。大人になっても深く心に根ざすそれは特別なものですからね!」
どうやら俺の読みは当たったっぽいな。
多分、コイツが好きそうなのを選んだ場合より喜んでると思う。
「そして敢えて未見のものを選ぶのもヨシ! 何の先入観もなしに裸の心で惹かれたそれもまた特別!!」
「ありがとよ。良ければ知らんヤツについて原作を鑑賞しつつ解説なんかしてくれると嬉しいんだがどうだい?」
「勿論! 喜んでお引き受け致しますとも! 今夜は寝かせませんよ!!」
薄々そうじゃないかとは思ってたがやっぱり泊まりだったか。
良ければ泊まっていきませんか? とかじゃないあたりカワサキってばマジカワサキ。
俺が断るとか全然、考えてないんだろうな。
ここまで来ると呆れよりも感心と……妙な愛情が芽生えて来るわ。
愛情つっても色っぽいそれじゃねえぞ?
(例えるならそう……馬鹿な柴犬にほっこりするのと同じアレだ)
まあこの柴犬、危険度は怪獣レベルなんだがな。




