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【書籍化】主人公になり損ねたオジサン【12/10発売】  作者: カブキマン
本編

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裁定者の憂鬱

 掃除を終え、お寺さんに挨拶をしてから俺は閻魔を連れて新橋へ向かった。

 閻魔がイメージしてるであろうガード下の飲み屋。

 それに合致する店は知ってるが如何せん数が多い。なので今俺が行きたい気分の店をチョイスさせてもらった。


「どうだいヤマさん?」

「うむ。美味い。特にこのじゃこと枝豆のかき揚げ……冷酒が止まらぬ」

「そりゃ重畳」


 熱々の天ぷらと、キンと冷えた癖の少ないポン酒の組み合わせは反則級だよな。

 幾らでも飲めるわこんなん。数ある食の永久機関の一つに数えても良いと思うぜ。

 ちなみにヤマさんとは閻魔が指定した呼び名である。

 一々大王大王言われてたら心休まらんからな。なので閻魔が持つ名の一つからそれっぽいのをということになったのだ。


「しかしあれよな。天ぷらが美味すぎる……白米が欲しくなってきた」

「おいおい、今の段階で米腹に入れてたら先が続かんぜ」


 いやまあ、俺らみたいなんは食おうと思えば幾らでも食えるんだけどさ。


「分かっておるとも。しかしそれでもと思ってしまうのが人情よ。許せ許せ」


 上機嫌に酒を呷る閻魔。

 ……日本に限らず冥府の裁神って役割はブラックの極みだからなぁ。

 人間が絶滅するとかでもない限り真の意味で仕事はなくならない。

 だからこそ偶の休日ぐらいは楽しんでもらいたいものだ。


「そういや他の十王はどうしてるんで?」


 日本人が死後の裁きと聞けば閻魔を思い浮かべるだろう。

 それは間違ってはいないがあの世の裁定者は他にも居る。

 閻魔を含む十王と呼ばれる者らが裁判を取り仕切っているのだ。

 ちなみに閻魔の順番は五番目……なんだがその前の王が五官王っつーから微妙にややこしいんだ。


「流石に全員が一度に休みを取るわけにもいかぬゆえ順番に休暇を取ることになっておる」


 今年はハデスの襲撃があったから閻魔が長く休みを取れるようにと配慮してくれたのだとか。

 ええ同僚やん……まあ長く休みをつっても今日から三日だけなんだが。

 その激務を考えればもうちょっと休ませたってと思うがこれが限界なんだろうなぁ……世知辛いぜ。


「順番が回って来たら皆、思い思いに休暇を楽しむであろうよ」

「十王の休日か……どんなことしてるかまるで想像つかねえな」

「それはそなたが我々を変に神格化しておるからよ」


 神格化も何も神様だろ。や、言いたいことは分かるがね。

 ようはアイドルに対する幻想のようなものだと言いたいわけだ。


「そうは言いますがねえ。やっぱ日本人にとって十王……ってより閻魔大王は特別な存在だし」


 誰でも一度ぐらいは言われたんじゃないか?

 嘘を吐くと閻魔様に舌を引っこ抜かれるってよ。俺もそうさ。ジジババやお袋からよく言われたもんさ。

 叱る時によく使われたもんだから閻魔と、そんで知識を得てからは他の十王も特別視しちゃうのはしょうがないだろ。


「今のそなたの舌を引っこ抜いたところで何の痛痒もなかろうて」

「そうねえ」


 心臓破壊されても生きてられるしな。何なら頭部を失っても問題ない。


「まあともかくだ。あまり仰々しく捉えんでやってくれ」

「はあ」

「機会があれば私以外の王にも会いに行くと良い。喜んで迎えてくれよう」

「……」

「どうした?」

「ああいや、俺はてっきり神仏の類にゃ嫌われてるもんだとばかり」


 悪神、邪神の類は別だ。

 アイツら的には俺は世が乱れない原因でもあるが、その代わりにもっと大きな流れを堰き止めてる元凶でもあるからな。


「十代の頃から俺は幾つも世界が大きな変革を迎える流れを堰き止めて来たわけですし」


 何なら俺が居なければ神代回帰だってあり得たかもしれない。

 そりゃあ今でも信心深い人間は山ほど居るだろうが大昔に比べるとな。

 再度、人間が神に頭を垂れる時代を待ち望んでいる者らも居るだろう。


「そういった神が居ないとは言わんよ」

「でしょ?」

「が、我らは違う。冥府の神とは言え徒に人が死ぬことを良しとはしておらん」


 ……ハデスとは全然違うな。

 このあたり、死神――ってか死の権能を持つ神でも見解はそれぞれ異なるんだろうな。


「不可能とは分かっていても出来れば皆に天寿を全うして欲しいと思うておる。

ゆえにだ。理不尽な死から衆生を救い今日の安寧を明日に繋ぎ続けておるそなたを高く買っているのだ」


 例えそなたにその気がなかろうとも、な。

 そう言ってウィンクする閻魔に俺は思わず顔を逸らしてしまった。

 何とも面映ゆいねえ……いや、嬉しいけどさ。やっぱ照れ臭いよ。


「……ついでに聞きますが、他の日本の神々はどんな感じなんで?」

「大半は好意的よ。色々と緩いのがこの国の特色ゆえな」


 それは……まあ、そうねえ。

 国民の殆どが宗教関連のイベントの美味しいとこだけつまみ食いしてるのに全然不満の声とか聞こえて来ないし。


「何なら今度、出雲の会合にも顔を出すか?」

「行けたら行きますわ」

「それ行かん奴ではないか」

「時間があればってことで」


 興味がないわけじゃないんだよ。

 ただ時期がな……会合やってるのが新暦での十月か旧暦での十月か知らんけど後者だとな。

 旧暦の十月ってのは大体、十月下旬から十二月上旬ぐらいまでとされてるんだが……分かるだろ?

 十二月とかどこも忙しいし、早いとこでは余裕を持って年末を迎えるために十月ぐらいから忙しくなるとこもある。


「あぁ、そなたは表の勤め人でもあるのか……む、グラスが空になっておるな」

「っと、こりゃどうも」


 閻魔に酌してもらうとかかなり贅沢な経験してんな俺。


「そなたの勤める会社な。私的にポイント高いぞ」

「そうなんです?」

「うむ。今はほれ、長時間労働による過労死などが問題になっておるでな」

「あー……」

「勤勉であるのは結構なことだが、しかしそれを他者に強いるのは違う」


 世知辛いなぁ……。


「そも人には器というものがあるのだ。身の丈に合わぬ勤勉さなぞ毒と大して変わらぬ」

「となるとブラック企業の経営者は毒を飲ませてるってわけだ」

「とは言え一概に罪かと言われるとそれもな」

「そうしなければやってけないってのもありますからねえ」

「うむ。不可抗力でと言うのであれば問題は社会そのものになるが」

「完全な独裁国家ならともかく民主国家ですからねえ」


 民主主義つっても全ての民意が完全に反映されているとは言わない。

 そんなことは不可能だ。でも大きな流れに民意が関わっていないかと言われればこれは否。

 責任の所在が問えず誰が悪いとも言えないから罪を問うわけにもいかない。

 じゃあ何のお咎めもなしかと言われればそれも……うっわ、マジ面倒。


「あの世の裁判官様は大変っすねえ」

「ああ……複雑化することはあってもその逆は……なあ?」

「文明崩壊クラスの出来事でもなけりゃあり得ませんものね」


 あかん、何か泣けて来た。


(……今日はもう、とことん閻魔を接待してやろう)

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主人公になり損ねたオジサン 12月10日発売

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― 新着の感想 ―
[一言] 自身の妹と結婚したYamaさんじゃないですか
[良い点] 世知辛いのじゃ……さささ、こんな時くらい飲んで飲んで…
[一言] サラリーマン的に言うと、社会的立場とコンプライアンスを守りつつ、ゴッド的な仕事を増やさないでくれる的な?
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