お嬢様がジャンクフードに喜ぶ的なアレ?
お盆休み二日目。俺は実家近くにある父方の墓掃除に来ていた。
母方は遠方でそっちは親戚がやってくれるんだが父方はな、俺ぐらいしか居ないのだ。
本来は親父の役目なんだろうが、留守がちだからなぁ。
【いやぁ、毎年すまんなぁ英雄】
「良いよ良いよ。爺ちゃん婆ちゃんにゃガキの頃、散々世話んなったんだ。こんぐらいしないと」
【英ちゃんは良い子だねえ。ところで英ちゃん、また大きくなったんじゃない?】
「よしてくれよ婆ちゃん。俺はもう良い歳したオッサンだぜ」
祖父母と駄弁りながら掃除をしている。
うん、当然だよねそりゃ。だって裏の人間だもん俺。見えるに決まってるだろ。
何なら今年は早朝、直で迎えに行ったぞ俺。あの世のフリーパス貰ったからな。
極楽まで赴いて帰省したい先祖連れて来たわ。
爺ちゃん婆ちゃん以外は現世に来たら即散ったけどな。行きたいとこが山ほどあるんだと。
ちなみに爺ちゃん婆ちゃんも後でデートに行くらしい。
【ところで英雄よぉ。お前さん良い人はおらんのか?】
【そうねえ。私もそろそろひ孫の顔が見たいわ】
「そればっかりはなぁ。巡り合わせってもんがあるからどうにも出来んわ」
ジジババはマジ、こういうの好きだよな。
年末に母方の親戚のとこ行っても同じような話題ガンガン振って来る……。
これがさして関わりのないジジババなら俺のトークスキルで誤魔化せるんだがな。
身内が相手だと、どうも……良くしてくれてるから尚更、気が咎める。
【お前、何度も世界救っとるんじゃろ? んなら縁談の一つでも頼めんのか?】
「イヤだよ。どう考えても政略結婚じゃん」
【始まりはそういう形でも愛は芽生えるのよ? 私とお爺さんも家同士が決めた縁談だったし】
【なのにほれ、死後もわしと婆さんズブズブの関係じゃぜ】
ズブズブて……政治家の癒着みたいな言い方するなよ……。
【ちゅーかよ。毎年思っとったんじゃが律儀に墓掃除する必要あるか~?】
「ご先祖様のお墓に何てこと言うの」
【ほら、何ぞ不思議な力でパパーっとやれんのか?】
「ご先祖様のお墓に何てこと言うの」
あんたの骨も入ってんだぞ。
【いや伝統とかそういうんも大切よ? でもなぁ、世の中は移り変わるもんだろ】
【そうそう。今はお墓なんて要らないって人も増えてるんでしょ?】
【金も手間もかかるんだ。納骨堂とかで良くねえか?】
【大事なのは気持ちよ気持ち。英ちゃんが今もお婆ちゃんたちを大切に思ってくれてるのは知ってるもの】
【ご先祖様も墓仕舞うつっても何も言わんぜ】
このジジババ、時代に適応し過ぎだろ……死人の自覚ある?
「俺が好きでやってることなんだから良いんだよ」
【死んでからも迷惑かけるのは本位じゃねえんだがなあ】
「迷惑だなんて一度も思ったことねーよ」
嘘じゃないぞ。
「うむ。英雄は幼い頃から実に真摯に祖霊を敬っておったぞ。今どき珍しいぐらいにな。
チャラチャラしておった中学、高校時代もそう。毎年墓参りは欠かさず行っておったわ」
ほら、閻魔もこう言って……うん?
「――――」
【これは閻魔様……死後は大変お世話に……】
「よいよい。それが私の職務ゆえな。それと今はプライベートゆえ楽にしてくれ」
【そうですか? ならそうさせて頂きますわ。閻魔様、私服……とってもお似合いねえ】
【男前は何着ても様になるのよ。そう、わしのようにな!】
【もう、お爺さんったら】
「はっはっは」
…………ふぅ。
「いやおかしいだろッッ!!!!」
「佐藤英雄。墓地であまり大声を出すのは感心せんぞ」
「そりゃ失礼……じゃなくて! あんた何でこんなとこ居んの!?」
「休暇」
実に簡潔なお答えっすね……。
「いやな。前々から現世で遊興をとは思っていたのだ」
今度現世行ったらどうする? 何しよっか!
そんな休暇前の極卒の会話があまりに楽しそうで羨ましかったのだと言う。
「とは言え、だ。部下に私も一緒にとは言い出し難かろう?」
「それは、まあ、そうっすね」
俺は気にするタイプではないが休日まで上司と一緒とか心休まらんわ。
うちの社長みたいなタイプならともかく閻魔みたいな厳格なタイプはな……。
「であろう? それゆえ何時かはと思いながらもずるずる後回しになってしまってな」
「なるほど……うん? でもあなた、毎年十月に現世行きの行事あるじゃないですか」
神無月。出雲で神の会合が行われる日だ。あっちの方では神在月とも言うな。
言い方はあれだが緩い出張みたいなもんで、そのタイミングで遊ぶことは出来たんじゃねえの?
「そなたの疑問も尤もだ。しかし緩いとは言え出雲行きは職務の一環ゆえな。
正式な護衛も就いておるしその者を私の個人的な遊興に付き合わせるのは気が引ける」
別に気にせんと思うけどな。
「つか護衛云々なら今もでは? 幾ら完全プライベートでも閻魔大王を一人で出歩かせるわけにはいかんでしょ」
「いや今日はおらぬ」
「はぁ!?」
ハデスの一件もあったのにマジかよ。
困惑する俺に閻魔はフッと笑い、告げた。
「そなたが居るからな」
「俺~?」
「うむ。そなたと共に遊びに行くと言ったら問題なく通った。当然よな。世界で一番安全な場所なのだから」
「いやいやいや。何で俺!? 何時の間に遊びに行くことになってんの!?」
「そなたは遊び慣れておるだろ? ガイド兼遊び相手としては打ってつけではないか」
その上護衛まで出来るなら文句なしの人選だろうと閻魔は言う。
「えぇ……?」
「そなたと私はマブではないか。頼む。どうか今日一日付き合ってくれぬか?」
マブではないが。というか距離感近いなこの閻魔。
立場が立場ゆえ気楽な交友関係が築けなくて寂しい思いをしてたのかもしれん。
「……まあ良いか。特に予定もねえし」
閻魔と遊びに行くのもそれはそれで面白そうだしな。
「そなたのそういう何でも楽しもうとする姿勢。良いと思うぞ」
「そりゃどうも。ああでもまだ掃除終わってねえんで手伝ってくれます?」
【おいおい英雄……】
【英ちゃん、閻魔様相手にそれは……】
「よいよい。世話になるのだからそれぐらいはやって然るべきだろう」
そうして二人、墓掃除を再開。
どうでも良いが閻魔自ら掃除される墓とか供養ポイントやばそうだな。
「時に大王。何か希望はあるので?」
「そうだな。まずは軽くひっかけたい。朝から飲むなど普段は出来ぬゆえな」
「そりゃ良い。どんな店にします?」
「ガード下の大衆酒場が良い」
閻魔が行くとこかよ……。
「あと競馬場。競馬場グルメなるものも気になっておる。ワンカップ片手に楽しみたい」
ワンカップ……閻魔がワンカップ……。




