持たざる者の悲哀
人に仇なす異形の完全根絶は不可能である。
種類によっては女王蜂的なのを消せば根絶することも出来るが自然発生する類のはどうしようもない。
裏の秩序を担う組織はそういった自然発生する異形を誘導するような仕掛けを陰気の濃い場所に仕掛けている。
ようはゴキブリホイホイだな。一か所に隔離し定期的に掃除しているのだ。
今回俺たちがやって来た異界もその一つなのだが結構放置していたのだろう。百や二百どころじゃない数がうようよと。
「何かボラの大量発生と同じものを感じるよね」
「ボラか……あれって美味いの? 臭いって聞くけど」
「住んでる場所の水質によっては臭いはマシだし臭味が強いのもしっかりと下処理をすれば美味しくなるよ」
ほう、それは良いことを聞いた……じゃなくてだ。
「大火力で一気にってのはなしだ」
「勝負だろ?」
「おう。全員に制限かけて出力平均値にすっから潰した数で報酬の取り分決めようぜ」
「最低10万でそこに順位に応じた金額上乗せって感じか?」
「おう」
昔は千佳さんが頭二つぐらい抜けてて俺らは団子だったからな。討伐数で競ってたんだ。
全員の了解を得てからデバフを施し、俺は運動会で使うピストルを取り出した。
「ヒロくん何でそんなの持ってるの?」
「いや欲しかったからつい……」
「ホント物欲に弱いよなお前」
「堂々と欲に負ける男」
「うるせえ。それよか準備しろ。いちについてぇ……ヨーイ――――ドン!!」
ドンの掛け声と同時に発砲。
「っしゃ死ねオラァ!!」
真っ先に動いたのは高橋だった。
手を翳し引き寄せた異形を向かって来る勢いのままに殴り殺す。
それに僅かに遅れて鈴木が近くに居た異形の首を引っ掴み遠ざける力で胴体を吹っ飛ばす。
千佳さんも風の刃でスパーン! 一方の俺は何の芸もない蹴りで1Kil。
(……昔から思ってたが、やっぱコイツらずるいよ)
千佳さんはまあ、良いよ。ハナからモノが違う。SSRどころかLR、URだもん。
でも高橋と鈴木……コイツらはさ。特別な背景とか何もないじゃん。
同じ理由で巻き込まれたマジの素人だったわけじゃん?
(なのに固有能力がカッコ良いんだもん……)
以前にも述べたが元々、俺は星の落とし子という超能力者に分類されていた。
星の落とし子には覚醒段階がある。1st phase 2nd phaseってな具合にな。
一段階目は目覚めたばかりで身体能力の向上のみ。二段階目で固有能力が発現する。
千佳さんは敢えて分類するならエクストラなので除外するが高橋と鈴木は2ndにしっかり到達している。
固有能力はそれぞれ“引力”と“斥力”だ。引き寄せる力と遠ざける力。正反対の思想を掲げてた二人らしいと言えよう。
(そんな二人の間に立つ俺なら普通、繋ぐ力とかそういうのに目覚めるべきだろ)
もしくは無効化能力とか……そういう主人公っぽい力があっても良いと思うの。
俺の固有能力? んなもんねえよ。ずっと第一段階のままだったわ。
不足を補うために別の技術に手ぇ出したりはしたが星の落とし子としての能力が覚醒することなく物語は終わった。
そして今に至っても目覚めていない。あれこれ更に色々出来るようになったのにねえ……。
「おい、また佐藤がジェラジェラしてんぞ」
「あの目……よく僻まれたっけ。お前らは良いよな~って」
「そう言えば私も何度かチカちゃんは良いよね……とか言われた記憶が」
持たざる者の惨めさよ……!
「最終的におめえが一番規格外になったんだから良いじゃん」
「それとこれとは話が別!!」
手近に居た異形を引っ掴んでヌンチャクのように四方八方に振り回す。
俺がペースを上げ始めたので三人も火が点いたらしく、そこから勝負は更に激しくなった。
最終的なキルスコアは千佳さんがトップだった。接待したわけじゃないんだがなぁ……。
依頼達成後も報告のため転移ではなく鈍行を使い帰路へ就いた。
今は電子決済もやってるから連絡一つで報酬を貰えるんだが当時は手渡しだったからな。
「千佳さんの取り分が40万で高橋が25、鈴木が20で俺が15か……」
「最低10でスコアに上乗せする形で良かったなぁオイ」
「るっせえ」
そんなことを話ながら中に入ると、
「う、うわぁああああああああああああ! ど、どどどドッペルゲンガー!?!」
受け付けで梨華ちゃんらとバッタリ遭遇。
梨華ちゃんは若返った千佳さんを見て絶叫を上げた。
まあ何も知らんかったらそうなるよね。つっても千佳さんは高校生の頃だから発育に差はあるんだがな。
「ドッペルゲンガーじゃないから。ママよママ」
「マ……え? は? ママ!? 何で!? 若作り!?」
光くんとサーナちゃんも驚きで声が出ないようだ。
もう少し眺めてたかったが……他の人の迷惑になるからな。
「まあ落ち着きなって。ちょっと一時的に若返ってるだけだから」
「誰よ慣れ慣れし……うん?」
「……あの、ひょっとして佐藤……さん、ですか?」
光くんが恐る恐ると言った様子で声をかけてくる。
「そうだよ。オジサンだよ。正確には十代の頃のオジサンだね」
「「――――」」
梨華ちゃんと光くんは言葉を失っていた。
「事情説明してくっから金受け取っといて」
「うぃー」
「休憩室行くなら飲み物買っといて。私、オレンジね」
「あたしは炭酸で」
「はいはい」
千佳さんと共に子供らを連れてラウンジへ。
そこで仔細を説明してやるとそういうことだったのかと納得してくれた。
「ママはまあ、うん。色んな人から若い頃のママそっくりだって言われてたから分かるけど……えぇ?」
じろじろと舐めまわすように俺を見る梨華ちゃん。
「チャッッッラ! いやもう、絵に描いたようなチャラさ!!」
「ちょ、ちょっと梨華ちゃん……失礼だって!」
「いやだってさ! オジサンが昔頭まっ金金でピアスじゃらじゃらつけて飴舐めてるとか想像出来る!?」
棒キャンはあの頃の俺のマストアイテムの一つだからな。
チャラチャラしてても酒と煙草はちゃんと二十歳になるまで我慢してた。
そこらはまあ、両親の教育のお陰である。
責任も取れないガキが法を犯すような真似はするなとよく言い聞かされたものだ。
え? 放火? あれは裏での行いだからセーフ。
「そ、それはまあ……うん。海でもチャラい格好はしてたけど正直ここまでだとは……」
「ってかサーナちゃんはあんま驚いてないね。オジサンがこんなになってるんだよ?」
「それはまあ、はい。男の人が昔やんちゃしてたのはそう珍しいことではないと聞いたことがありますので」
皆が皆そうってわけでもないがな。
光くんみたいに真面目に学生やって真面目に大人になってくタイプも大勢居る。
「ところで三人は依頼帰りかい?」
「あ、うん。三人での連携とか色々考えたいなって朝から簡単なの受けてたんだ」
真面目やのう……だがその向上心は良し!
「それでお金受け取ったらどっか遊びに行こうかって話してたんだよね」
「そういうことならママたちと一緒に遊ばない?」
「え、良いの? 無為に散ったママの青春を取り戻す貴重な時間なんじゃ……」
何てこと言うの梨華ちゃん。
「あの、俺もちょっと興味あります」
珍し……くもないのか。光くんも子供だもんな。
性格的に同級生と馬鹿やるとかはしてなさそうだが興味はあったんだろう。
大人が一緒なら……変な言い方だが安全に馬鹿をやれると考えたのかも。
「サーナちゃんはどうだい?」
「お邪魔でないのでしたら是非」
「じゃあ、皆で遊ぶか」
現役ティーンズと偽物ティーンズのコラボが決定した。




