小さな幸せ
「丁度良い依頼があって良かったな!」
高橋が笑う。今の俺たちならン千万クラスの依頼も受けられるが当時の再現だからな。
当時はまだ報酬百万いけば良い感じでそれを全員で分けてたもんだ。
だから今回もそれぐらいのを服選んでる最中に会長に連絡入れて見繕ってもらったわけだ。
「でも良かったの? 駆け出しや中堅の子の仕事奪うことにならないかな?」
鈴木の懸念も尤もだ。俺も前に会長から似たようなこと言われたしな。
が、問題ない。鈴木は一線から退いて長いから忘れているようだが……。
「今はお盆だぜ?」
「……あー、そう言えばそうか」
夏は裏の繁忙期の一つなのだ。なので依頼自体は掃いて捨てるほどある。
「それに貸し一つつったら喜んで仕事回してくれたよ」
「ごめんねヒロくん。私のために……」
「良いの良いの。これぐれえ何てことはないさ」
そうこうしている内に駅へ到着した。
当時は自由自在に転移とか出来んかったからな。移動は電車だ。
「え、鈍行!?」
「まー、西園寺の言いたいことも分かる。でも遊ぶ金優先だっつってコイツがさぁ」
「そうそう。ケチるんだよ」
「ちょっとでも節約してえという倹約の心をケチとか言うな」
「依頼の報酬一日で使い果たしてたバカが倹約とかほざくなや」
「何なら私たちからもお金借りること多々あったじゃないか」
「うふふ、そうでしたっけ?」
鈍行の切符を買って電車に乗り込む。
目的地まで大体、一時間半ぐらいか? 快速使った方が結果的にゃ得だろう。
でも若い頃は時間の大切さが分かってなかったからちょっとの金を優先しちまうんだよな。
でもそうやって損するのも今思えば良い経験だったと思う。
「お、ラッキー」
棚の上に漫画雑誌を発見。良い暇潰しになりそうだ。
必ず探してたんよな漫画。なければ携帯弄りながら駄弁ってた。
幸いなことに空席が目立っていたので俺と高橋、鈴木は思い思いの場所に座った。
俺
通路
鈴木 高橋
大体こんな感じだ。千佳さんが「え?」って顔してるな。
戸惑いつつも千佳さんは俺の横に腰掛けた。そして電車が動き出す。
「ここでお題です」
「「はいどうぞ」」
「え」
「キレるまではいかないけど最近、わりとマジでムカついたことを面白おかしく話してください」
何このノリ? みたいな顔してるな。俺もそう思う。
でも高校生の頃って大体こんなだよ。いきなり訳分からんトークが勃発するとか日常茶飯事だ。
「はい」
「はいじゃあ高橋くん、どうぞ」
「これ昨日の話なんだけどさ。仕事終わりにね? 同僚とラーメン屋行ったわけ」
「ほう、ラーメン屋」
「いわゆる行列の出来るラーメン屋ってやつでさ。あたしら結構期待してたの」
……ラーメン食べたくなってきた。
「一時間ぐらいかな~? 並んでようやっと店に入れたの。座ったのカウンター席」
「はい」
「注文してさあ食べようってとこでさ……判明したの」
「ほほう、何がです?」
「店主が意識高い系だった」
「「あー」」
俺と鈴木はうんうんと頷く。
居るよな。こういう食べ方しろみたいなのさ。店長の自分ルールに抵触するとお代は結構とか言い出すんだ。
よっぽど非常識な客ならその対応も分かるけど食べる順番とか調味料とかでケチつけられるとマジムカつく。
「幸い、そーゆー頑固系じゃないから追い出しとかはなかったんだけど……いやある意味その方が良かったかも」
「と言いますと?」
「ぼやくの。……え、そんな胡椒かける? 分かってないなぁ……とか。聞こえるか聞こえないかの声量で」
「ちっさ! 器ちっさ! え、何? お出ししてるラーメンの器のがまだビッグじゃん」
「だろ!? 結局もやもやしたまま食べ終えたわ」
「飲食店やる資格ないね。食事は他のお客に迷惑をかけない範囲で美味しく楽しく食べてもらう。こんなん基本だよ基本」
「つーわけでこれがあたしのキレるほどじゃないけどムカつく話」
なるほど。
「10点」
「10点」
「え、採点方式なの? じゃ、じゃあ8点でお願いします」
「28点。惜しかったですねえ。次回に期待します」
「西園寺は辛口だな」
「えぇ……?」
困惑しつつも千佳さんは楽しそうだ。
「じゃあね、さんざイラつかせられたんでお題変えます。最近あったちょっとした幸せ……はい千佳さん」
「私!? しかもお題変わるの早い!!」
こんなん気分だからな気分。
「ヒロくんは知ってると思うけど私、先月かなり忙しかったのね」
「お疲れ様です」
「ありがと。それで家に帰れない日とかもあって会社に泊まり込むこともあったわけ」
「あるねえ。俺も繁忙期は会社に泊まるとかよくある」
誰が一番、簡易ベッド作るの上手いか競争やったりする。
「そういう時はご飯もテキトーに済ませちゃうの。で、その日はもうクタクタでさ」
お腹ぺこぺこ、でも頭が回らないぐらい疲れててどっか店に入るのも億劫だったらしい。
「お弁当二つとタピオカドリンク買ったの。深く考えずにパッと見の量だけ見て今ならこれぐらいかなって」
「タピオカ……奴め、死んだはずでは?」
「死んでないよ。ブームが去っただけだよ」
「話がちょっとずれるけど今さ、物価高騰で年々値段そのままで量減らしたりとかあるでしょ?」
「「「あるあるある」」」
コンビニ飯とか正にそれだわ。
「会社のロビーに入ったあたりで気付いたの。ああ、買ったの全部誤魔化し易そうな容器だって」
「「「うわー……」」」
「でも面倒だったからもう良いやって社長室戻って食事を始めたの」
別に手間でも何でもないけど心底疲れてる時はなぁ。
ちょっとの手間さえ煩わしくなるんだ。分かる、死ぬほど分かる。
「でもいざ食べ始めてみると……あれ? これ全然減らないなってなったの」
「「「!」」」
「唐揚げとかも一つ一つがやけに大きいし、かと言って皮だけってわけでもない」
まさかまさか……?
「後日調べたらむしろ量増やして値段上げる方向に舵を切ってたみたい。
それでね、値段上げるって言っても増えた量を考えると利益は出てても消費者のお財布には優しいなって」
鬱屈した世の中だからこそ赤字にはならんようにしつつも敢えて満足度を上げて来たか!
「極限状態でそんな小さなラッキーを引き当てられたのは嬉しいなって」
「なるほど……10点」
「10点」
「35点!!!!」
おっと、食いしん坊鈴木さんここで35点を出した!
「え、30点満点じゃなかったの!?」
テキトーなノリゆえ……。




