必殺技
「はー……さっぱりした」
「ですねえ。あ、何飲みます? 俺、奢りますよ」
「逆だろ普通」
「佐藤さんにはお世話になってますしこれぐらいは」
そこまで言われちゃ断われねえな。
でも……あぁ、迷う。どうしよう。風呂上りの一杯ってすげえ悩むんだよな。
「うーん」
アルコールってんならビール一択よ? でも今日は違う。
アルコールじゃないなら牛乳類だけどこれがまた難しいのだ。
普通の牛乳、コーヒー牛乳、フルーツ牛乳、この三択は本当に難しい。
「じゃあ全部で良くないですか?」
「ダメ。最初の一口が重要なんだ。そこが一番美味いんだ」
風呂上りの火照った肉体。それが牛乳の持つ味を何倍にも引き上げてくれるのだ。
ゆえに全部という選択肢はない。一番美味しいそいつを飲み干すのが一番幸せだから。
とは言えあまり時間もかけられない。俺は苦渋の末、コーヒー牛乳を選択した。
光くんはノータイムでフルーツ牛乳だった。
二人で牛乳を飲み干しマッサージチェアであ゛ぁ゛ぁ゛していたら少し遅れて梨華ちゃんたちもやって来た。
「光くん、オッサンみたいだよ……」
「いやでも気持ち良……あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ」
散々身体を酷使した後だからね。そりゃ染みるわ。
「ところで夏休みも残すところ二十日ぐらいなわけだが宿題はもう終わったのかい?」
「俺は、はい。七月中に」
「同じく私も八月頭には終わらせました」
「梨華ちゃん?」
「……ま、まだちょっと残ってるけど大丈夫大丈夫」
ちょっと=かなりだなこの顔は。
でも分かる。俺も夏休みの宿題とか後半で片付けてたし。
毎年毎年、さっさと片付けようと思ってたのに……不思議だなぁ。
「そ、それよりさ! オジサン、何か必殺技とか教えてくんない?」
「は~? いきなり何言っちゃってんのこの子は」
話題の逸らし方へったくそ……。
「いやお風呂でサーナちゃんと話しててさ。何かこう、軸になるそういうのがあればもっと戦い易いんじゃないかって」
「ほう?」
楽してえから必殺技ってんなら舐めるなで切り捨てるがそういう理由であれば話は変わって来る。
「サーナちゃん、目のつけどころが良いじゃないか」
「ありがとうございます」
必殺技という軸があれば戦い易い、ってのはその通りだ。
この中で言えば光くんとサーナちゃんだな。生真面目なタイプには効果覿面だろうな。
「俺が、ですか?」
「必殺技ってのはさ。ようは当たれば倒せる、ないしは大ダメージを与えられる技ってことだろ?」
となると如何にしてそれを当てるかに思考が固定されるわけだ。
下手に手札を持っていてもどれを使うか瞬時に判断出来ないなら足を引っ張るだけ。
ならばいっそ選択肢を狭めるというのは決して悪い手ではない。
必殺技という軸を中心にして自分の立ち回りを考えてけば、方向性が定まっている分伸ばし易いからな。
「……なるほど。でも俺、身体能力が向上してるぐらいで取り立てて武器になりそうなものはないんですが」
「いやいや、そうでもないさ」
尖ったものがないシンプルなタイプでも必殺技をでっちあげることは可能だ。
「気を用いた強化は教えたろ?」
「はぁ」
「あれを過剰出力で使うとかすれば良い」
継戦能力に重きを置いて常時50%ぐらいの出力で全身をってやってるのが今の光くんだ。
短時間のみ出力を上げて一点に集中するなんて使い方もやれなくはない。
「拳やら足を瞬間的に120%で強化してやりゃ火力は十分上がるぜ」
「……確かに」
「俺自身、駆け出しの頃はその手の技を使ってたしな。カクテル・バーストっつーんだが」
「カクテル? お酒?」
小首を傾げる梨華ちゃん。そう、その通り。名前の由来はお酒のカクテルだよ。
「異なる技術体系の強化を重ね合わせた強化さ」
気、魔術、魔法にトドメのヤク。
瞬間的に出力を跳ね上げて一気呵成に攻め立てるのよ。
「……それは、その、反動とかは大丈夫なんですか?」
「そりゃ反動はあるよ。でも必殺技ってそういうもんだろ?」
不安そうなサーナちゃんに言ってやる。
軸にするつったって必殺技なんてのは多用するもんじゃない。いざって時の切り札だ。
当てるための立ち回りだけで倒せそうなら温存すれば良いし、無理そうなら使う。
それぐらいシンプルな考えで運用するのが一番、楽だ。
「ねえねえ、それなら私は? 私はどんな感じの必殺?」
「梨華ちゃんは……俺より千佳さんに聞いた方が良いな」
まったく同じ力を遣ってるわけだからな。
まあ性格的には一発撃てばすっからかんになるバ火力系が似合ってるとは思うが。
「ママ……ママは必殺技とか使ってた?」
「あの人は……多い手札を活用するタイプだったからなぁ」
親子だが立ち回りはかなり違う。
千佳さんはマグマ奇襲からも分かるように言葉を飾らずに言えばイヤらしい戦い方が得意だ。
一方の梨華ちゃんはドストレートに攻めて攻めて攻めまくる感じ。
「ついでに言うとサーナちゃんの場合は火力よか固有能力をより繊細に扱えるようにするべきだと思う」
「より繊細に、ですか?」
光くんと同じような感じで火力を上げた技を軸に据えることも出来る。
けど持ち味を活かすならダメージを与える必殺よかデバフを重ねてく方向性のが良いんじゃねえかな。
「俺と戦ったハデスがやってたことなんだがな」
俺が死の権能を打ち破った際、動揺したがそこは冥府の王。即座に戦法を切り替えた。
どういうわけだが通じなくなった。ならば死の範囲を絞ってやればどうかと。
傷付けた部分だけを殺す、みたいな感じにな。
俺には通じんかったが通ってたら傷つけられた部分の治癒は不可能だったろうな。
まあそれならそれで抜け道はあるんだが。例えば腕が使い物にならなくなったのなら傷口ごと毟り取って新しいの生やすとかな。
「そうやってチマチマ相手を削って弱らせれば……」
「即死範囲に敵を捉えることも可能になる、と」
「そういうこと」
しかし……ふむ、必殺。必殺技かぁ。
「どしたのオジサン。何か悪い顔してるよ?」
「いや……必殺技の話してたら俺も新しい必殺技作りたくなってきてな。今年の自由研究の課題にしようかなって」
「自由研究?」
「おう。大人の自由研究と称して夏は毎年、色々やってんだよ」
第一回は色付きの素麺だけを集めて一食分作るだ。あるだろ? 一本だけ色ついてるのとか。
やってみたけど特に味が変わるわけでもないし、ピンクや緑ばっかでむしろ食欲が失せた。
どうしても食べたいなら最初から全部色ついてるやつ買った方がはええってのが結論だ。
「んで丁度、面白そうな技を思いついたからな。それ含めて幾つか作ってみようと思うんだわ」
「面白そうな技って?」
「全佐藤決議っつーんだがな」
「技名から内容がまるで想像出来ないんですが……」
「いやね。前に集合無意識から生まれた怪物と戦ったことあるんだわ」
そこから発想を得た。
集合無意識にアクセスし、全ての佐藤に問いかけるのだ。
こんな敵居て俺は倒そうと思うんだが佐藤はどう思う? ってな。
「んで賛同する意思を束ねて撃ち出すんだ」
理論上、賛同する者が多ければ多いほど威力は上る。
上手いことネガキャンして賛同の意思を増やせるかどうかが営業マンとしての腕の見せ……おや?
「どしたサーナちゃん。何か顔色悪いぜ」
「あ、いえ……その、英雄さんが更に強くなるならますます追いつけなくなるなって」
「はっはっは。これでもそれなりにこっちの世界に居るんだぜ? そう簡単に追いつかれたらオッサンの立つ瀬がねえよ」
「で、ですよね!」
まあでも向上心があるのは良いことだ!




