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【書籍化】主人公になり損ねたオジサン【12/10発売】  作者: カブキマン
本編

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流れ着いたもの

 さて、色んな人から誕生日プレゼントを貰ったわけだが……あと一人。貰ってない奴が居る。

 誰? 俺だよ俺。俺は俺自身にも誕生日プレゼントという名の贅沢を贈っているのだ。

 誕生日を言い訳にした贅沢。今年は何にするか。

 楽しいパーティの最中もずっと考えて……はい、決めました。


 ――――そうだ、家を買おう。


 以前ハイブリッジとベルツリーと飲んでた時にそういう話が出たのを思い出したのだ。

 いや、今の家に不満があるわけじゃねえし……何なら今後も表向きの住所はここにするつもりだ。

 結構長いこと住んでてご近所さんとも仲良いし、何より部屋に愛着がある。

 ここを捨てるのは惜しいと思ったので別荘――――もっと言うなら秘密基地的な感じで戸建てを買おうかなと。

 良いよな、一戸建て。真っ白なキャンバスとクレヨンを渡されたみたいにテンション上がる。

 何もかもを自分の思い通りに出来るんだからさ。


 ただオカルト関係でも色々弄ろうと思ってるから表の人間には知られたくない。

 危険なことをするつもりはないが万が一ってこともあるからな。

 心苦しいが社長や部下たちにも教えないつもりだ。しかしそうなると表では買えない。

 なので裏であれこれやってもらおうと互助会に頼んだのが二日前、俺の誕生パーティの最中だ。

 そして今朝。会長から格安の良い土地があるとの連絡を受けた。

 俺は早速、仕事終わりに高橋と鈴木を拾って見学に行くことにしたわけだ。


「ンであたしらまで……」

「おめーらの部屋も作るんだから最初から最後まで付き合えや」

「え、キッチンだけじゃなく部屋も? い、良いの?」

「良いも悪いもどーせ俺らの溜まり場になるんだからさ」


 毎回毎回、俺の部屋に寝かせたくねえし。

 特に高橋は寝ゲロの前科があるからな。それなら最初から部屋作った方が手っ取り早い。


「そ、そうか……そうだな、そうだよな! しゃあねえ。んなら付き合ってやるよ」

「おう」

「で、どこの土地?」

「さあ? 会長が直接、案内してくれるってよ。こないだ誕生日だったからサプライズってことだろう」


 楽しみだぜ。

 ラウンジで駄弁りながら待っていると五分ほどで会長がやって来た。


「お待たせ致しました」

「いやいや、時間きっかりだ。それよか早く行こうぜ! ワクワクがとまんねえんだ!!」

「分かりました。では私が皆さんを転移でお連れしますので」

「転移で? ポータル置いてあるとこなのか?」


 俺は気軽に転移を使ってるが、実際はかなり高等な技術だったりするのだ。

 場所さえ分かってりゃ飛べる、なんてのは一握り。

 目印となる術式を刻んだ場所にってのが一般的だ。

 ただその目印となる術式がかなり高度なものの上にそれの維持にも大変苦労する。

 なので転移関係の技術を会得しようとする者は大概、そこで躓くことになるのだ。

 とは言え目印に飛ぶこと自体はそこまで難しくないので互助会が設置してる目印は会員なら登録料を払えば使える。

 会長もかなりの実力者だが転移関係はそこまでではないので会長が連れてくってことは主要都市のどこかなんだろう。


「……まあ到着してからのお楽しみということで」


 会長が転移を発動させ一瞬、視界が白く染まる。

 眩さに目を閉じ、光が晴れたところで目を開くと……。


「「「ここどこォ!?」」」


 あのー、ゲームやってる人なら分かると思うんだけどさ。

 RPGで滅んだ都市とか出て来るじゃない? 踏み入ったら人気ゼロでボロボロのさ。死んだ街ってのがさ。

 うん――――まんまそれ。

 空は分厚い黒雲に覆われ涙雨が降り注ぎ壊れた建築物は何とも言えない哀愁を漂わせている。


「明らか日本じゃねえよなここォ!?」

「外国? 私たち外国まで連れて来られたの!?」

「……いや、事はそう単純なものでもないっぽいぞ」


 俺たちは同時に会長に視線を向ける。会長はニコリ笑い、告げた。


「――――ようこそ奥多摩(アイランド)へ」

「「「……」」」


 顔を見合わせ頷く。

 地面を踏み付け十字架を形成し会長をそこに磔にしてやる。

 そして二人に火の点いた松明を渡してやった。


「聞いたことねえ名前だな~?」

「奥多摩は山だろ」

「長閑な自然がどこにも見当たらないんですけど?」

「やめ……やめて! 火を近付けないで!? 熱い! ホント熱いです!」


 松明でビンタしつつ説明を促す。


「う、宇宙人が攻めて来た日があるじゃないですか」

「ああ」

「実はあの日、佐藤さんが帰った後に奥多摩で大規模な空間異常の前兆が確認されまして」


 滅亡案件を片付けた後だし、互助会だけで対処出来ないと判断する材料もまだなかったから俺には知らせなかったのだと言う。

 まあ俺に頼りっぱなしってのもまずいからその判断は間違っちゃいない。


「とりあえず全員に暗示をかけて異常が確認される範囲の人間を避難させたんですが……」

「が?」

「一時間ほど経過した頃、いきなり“こうなった”んです」

「……奥多摩が塗り潰された、と?」

「は、はい」


 貼り付いてるものの気配からして……多分、これがあった世界は滅んでいる。

 ……どこか遠くで世界が崩壊し無数に砕け散った破片の一つが流れ着いた結果、そうなったってとこか?

 今の今ままで俺に話を持って来なかったってことはヤバい敵も一緒に流されて来たってわけではなさそうだな。


「元に戻そうとしたのですが強度が違い過ぎてどうにもならず……」

「……塗り潰されたところをくり抜いて海に持ってったんか」

「はい。現在位置としましては東京から数十キロほど離れた洋上に隠ぺい措置を施して浮かべてあります」

「奥多摩の方はどうなったんです?」

「高名な術者や神々の手も借りて何とか元の状態に限りなく近い感じに復元することは出来ました」


 住民の記憶やら何やらを参照して無理矢理、新しい箱を作ったのか。

 いやまあ、そうするしかないわな。奥多摩丸ごと抉り取られたとか自然災害とかじゃ誤魔化せんし。


「というわけでどうでしょう? この広大な土地が今なら498円! 498円であなたのものに!!」

「ざけんな!!」

「な、何故ですか!? 奥多摩がワンコインで買えるんですよ!?」

「塗り潰されてんだから既に奥多摩じゃねえだろ! ってか体よく俺に始末を押し付けようとしてるだけじゃねえか!!」


 むしろお前らが金払えや!


「払います! 払いますから何とかしてくださいよこれ!!」

「ったく……素直に依頼出しゃ良いもんをアホみたいなサプライズ仕掛けやがって……」


 小規模とは言え異なる世界が貼り付いてんだ。

 消し飛ばすとなると結構な威力が必要になる。何もなしにやれば地球の環境が狂いかねん。


「厳重に結界張った上で消し飛ばして、影響が消えるまで結界を……」

「「え、消し飛ばすの?」」

「あん? 当たり前だろ」

「勿体なくねえか? これ元に戻せば奥多摩丸ごと手に入るんだぜ?」

「そうそう。元に戻したら町と豊かな自然を好きに出来るとか面白そうじゃないか」


 ……確かにそうだな。

 こんな辛気臭い場所に住みたくはないが元に戻した上でなら……。

 言うなれば原寸大のジオラマを手に入れるようなもんだしな。

 住むとなればインフラの整備とかもあるが、手間をかける価値は十分……か。


「……マジで俺の物になるんだよな?」

「え、ええ……ただ隠ぺい措置はそちらで行ってもらいますが……」

「よし分かった。依頼料は良いから面倒な手続きと業者の選定を頼むわ」


 奥多摩島……興奮して来たな!

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主人公になり損ねたオジサン 12月10日発売

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― 新着の感想 ―
[良い点] キャンパーと釣り人憧れのプライベートアイランド入手なんて素敵!抱いて!
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