瞼の母
プレゼント交換が終われば次は飯だ。
鈴木が指揮を執って皆で作ってくれたのだろう。俺の好きなオカズがこれでもかと並んでいる。
その中でも特に俺の目を引いたのは……。
「お前ッ! スズキャア! めでてえ日に出すもんをちゃんと分かってるじゃねえか!!」
「誰だよスズキャア……」
ちらし寿司だ。それもただのちらし寿司じゃない。花ちらし寿司だ。
ぷっくらとした海老を筆頭に海鮮も盛りだくさんのスーパー花ちらし。これでテンション上がらんヤツおるんか?
「佐藤さん、ちらし寿司好きなんですか?」
「だいちゅき」
「きめぇ」
「何ならね。最後の晩餐候補に上げても良いぐらい好き」
思い出すぜ。幼かったあの日のことを。
「ガキん頃、お袋が初めてちらし寿司を作ってくれた時の衝撃は今でも鮮明に覚えてる」
え、何これ食べ物!? ってなったよショタ佐藤くん。
だってさ。見た目からしてもう全力でおめでたさを主張してるんだもの。
黄金みたいな錦糸卵を筆頭にした色とりどりの具材に目も心も奪われたよね。
「見た目だけでもやべえのによ。その上、美味いんだぜ?」
めでたさ+おいしさ=無限の可能性だよ。
作ったお袋からしても俺の喜びようは予想外だったんだろうな。
コイツマジか? みてえな顔してたもん。仕事から帰って来た親父もそう。俺のはしゃぎように引いてた。
それからお袋は誕生日とかテストで良い点とった時とかちらし寿司を作ってくれるようになったんだ。
「大人になったらクソたけえ寿司屋の豪華海鮮ちらし頼んじゃるとか野望に燃えてたっけな」
「その夢は叶えたの?」
「うんにゃ」
どうせ頼むなら最高のを! って思いが強くてな。
あ、この寿司屋のなら良いかも……いや待て、もっと良いとこがあるかもの繰り返しよ。
我ながら優柔不断だと思うがそれだけ好きなんだ。愛してるんだ。お前じゃなきゃダメなんだよ!
「……私が作って良かったのかなこれ」
「ジャンル違いだから全然セーフ」
寿司屋とかで頼むのはプロ枠。鈴木もプロだがお袋とかと同じ身内枠だ。
親しい相手が作ってくれるのは違うので全然OK。
「もう我慢できねえ……良い? 食べて良い?」
「子供かテメェは」
「あはは、でもヒロくんらしいよ」
そう言って千佳さんがちらし寿司をよそってくれた。
ってか見たことねえ器だなこれ。鈴木の持参か? 凝ってるねえ。
「今日の主役はオジサンだし最初の一口はオジサンがどうぞ」
「ありがてえ。んじゃいただきまーす!!」
美味ッ! 美味し! ちらし寿司美味し!
ふわふわでほんのり甘い卵、ぷりぷり太った海老のジューシーさ、レンコンの食感。
くどくはない。具材だけならそうなるかもだがここで酢飯が良い具合に全てを調和させてくれるんあ。
「…………俺さぁ、これでも結構な回数世界を救ってるんだわ」
「お、おう」
「今、世界を守って本当に良かったと思ってる」
「大袈裟過ぎる……」
はー、味噌汁もうめえ……出汁が効いてらぁ……。
「ところでヒロくん。会社の人からはどんなプレゼント貰ったの?」
さっきの俺の発言を気にしてるのか、ちょっとそわそわしてる。
別に隠し立てするようなもんでもないので俺は素直に答えた。
「社長からは社長セレクトの洋画セットだろ? んで部下からは……」
異空間に仕舞っていたダンボールを取り出す。
「「「「「駄菓子?」」」」」
「おう」
コイツの説明をしてやると千佳さんは感心したようで何度も頷いた。
梨華ちゃんと光くんはプレゼンが気になるようなので読みたかったら読んで良いよと許可を出した。
すると早速読み始めたのだが、
「「初っ端からすごい長文!?」」
どうやら初っ端から当たりを引いたらしい。
「うわなっつ……あったなぁ、こんなの」
高橋の方は駄菓子を手に取りしみじみ頷いている。
この面子で気持ちを共有出来る大人はコイツぐらいだろうな。
千佳さんは育った環境があれだったし、鈴木が食に興味を持ち始めたのは女になってからだもん。
「食玩もあんのか」
「思い入れがある駄菓子だからな。そりゃそういうのもあるさ」
シール入りのチョコ菓子とかもだな。
手紙にはシールだけ抜いて菓子は親に食べさせてたことに対する懺悔とかあった。申し訳ないが笑った。
「駄菓子かぁ……佐藤くんと高橋くんはよく色々食べてたけど」
「これを機会に手ぇ出してみたらどうだ?」
「……良い歳した大人が良いのかな?」
「大人が駄菓子食っちゃいけねえなんてとんだ偏見だろ」
つか駄菓子って言い方するからあれだが駄菓子はお菓子だ。
お菓子なら大人も普通に食べてんだから何を恥じ入ることがあるよ。
「俺なんかコンビニの食玩買い占めたこともあるんだぜ?」
「それは恥ずかしく思えよ」
そうですね。
結構出来が良くてさ……全種類欲しいなって……。
「あ、そういや忘れてた」
「どしたよ?」
「いや昨日の夜に両親から宅配届いてな」
風呂入る寸前に受け取ったもんだからさ。
寝室に放り込んだ後、すこーんと頭の中から抜けてたんだわ。
思い出したら途端に気になってきた。多分、誕プレだ。
早期リタイアしてバックパッカーやってるから毎年届くわけじゃないが思い出した時は贈って来るしまず間違いないと思う。
俺はそそくさと寝室に向かい部屋の隅に置いてあったダンボールを持ってリビングへ戻る。
「手紙つきか……」
「どれどれ?」
「えーっと、お久しぶりです。私もお父さんも変わらず元気でやっていますが英雄はどうでしょう?」
勝手に読むなや。
「旅先の市場で見つけたある物を見て英雄の顔と誕生日が近かったことを思い出し筆をとった次第です。
英雄の顔を思い出す切っ掛けになった物をプレゼントとして贈ります。大切にしてくれると嬉しいです。
英雄、改めて誕生日おめでとう。35歳なんてまだまだ道半ば。これからも頑張ってくださいね 母と父より……か」
かっちゃま……ちょっとジーンってなったけど気になる点が一つ。
何? 旅先で何を見て俺を思い出したの? 何を贈ったの?
我が両親ながらちょっとアレな部分があるので俺は大いに不安だった。
だってこれ、ケニアからだぜ? ケニアに愛息の英雄くんを思い出すものある?
「ねえねえオジサン、開けないの?」
梨華ちゃんも興味津々らしい。
ちょっとやな予感がするけど……放置も出来ないので俺は意を決してガムテを剥がし箱を開けた。
「「「「「何……この……何……?」」」」」
中に入っていたのは人? 恐らくは人を象ったであろう奇妙なオブジェ。
お母さま。見ているだけで何か不安になるこれのどこにあなたは息子の面影を?
「――――ってかこれガチの呪物じゃねえか!?」
かっちゃま……。




