夢を現実に
八月八日。今日は俺の誕生日だ。
八月入ってから色々あったが……どうにかこうにか落ち着いてこの日を迎えられた。
昨日の晩に「今夜、高橋くんと鈴木くんも誘ってヒロくん家で飲まない?」なんて連絡が千佳さんからあったよ。
(……どう考えてもサプライズパーティの準備してるんだろうなって)
合鍵の場所、高橋と鈴木は知ってるしな。
不自然なぐれえに俺の誕生日に言及してないのに食べたい物とか聞いてきたから絶対そうだろ。
多分、梨華ちゃんと光くんも一緒なんじゃねえかな。
(嬉しいけど、ちょっと困る)
誕生日おめでとー! 今夜パーティしよーぜ!
ぐらいのノリのがやり易い。だってさ、考えてもみろよ。俺みたいなんが自分の誕生日忘れるとかある?
千佳さんとかはさぁ、大人になって「あぁそう言えば今日って誕生日だっけ」みたいにふと気付くこともあるだろうけどさ。
俺だぜ? 誕生日とか年に一度のラッキーデーじゃん。
よーし! 今日は誕生日だからちょっと贅沢しちゃうぞー☆彡 つって合法的に自分を甘やかせるんだからさ。
何か高いの買っても……まあ、今日は誕生日だし? って言い訳出来る日を俺が利用しないわけないじゃん。
(上手いことリアクション出来っかなぁ……)
そんなことを考えながら出社しオフィスに向かうと、
「部長、誕生日おめでとうございます!!」
女子社員が大きなダンボール箱を抱え祝福の言葉をくれた。
「これ、私たちからです」
「今年もありがとうな。ありがたく頂くよ」
ダンボール箱を抱えて自分のデスクに。
中身を開けると懐かしいのから知らないのまで様々な駄菓子がギッチリと。
(お、新人三人も……嬉しいねえ)
何でダンボールいっぱいの駄菓子をプレゼントされてるかっつーと……昔の話だ。
慕ってくれてる後輩が今日は誕生日なんで奢らせてくださいと高い店に連れてかれそうになった。
複数人で割るとしても、若い子にゃ痛い出費になるだろうから俺は断わった。
んでも今日ぐらいはと言ってくれるもんだから、
『んじゃ俺の希望のプレゼントくれ。駄菓子、お前らの好きな駄菓子をくれ。予算は五百円までな』
『五百円って……』
『おっと、話は最後まで聞け。ただ買ってプレゼントじゃ芸がねえだろ?』
だから同時にプレゼン用の手紙も同封しろと付け加えた。
思い出だったり商品の良さで購入した駄菓子をこれでもかと俺におススメして欲しい。
何でこんな条件つけたかっつーと個人的に聞いてみたいってのもあったが営業のスキルを磨くためでもある。
んで最初は細々とやってたんだが面白そうだしお金もかからないからだろうな。年々人が増えて今じゃこんなになっちまった。
(まあでも、ありがたいこった)
嬉しいよね。俺も正直、毎年楽しみにしてる。
お菓子もそうだが同封されてるプレゼン用の手紙を読むのがこれまた楽しいのだ。
好きな物を語るからだろうな。書いてる側も楽しんでるのが伝わってくる。
あと偶にガチで好きを拗らせまくってるんだろうな。とんでもなく熱量のあるプレゼンがあったりするのだ。
仕事じゃないから文章にも個性が窺えて、腹抱えて笑うような文才を発揮したりする子も居たりさ。
去年一番笑ったのは部長も一緒にお便り出しましょうってメーカーに送るための便箋同封してた子だ。
「ふふ……え、嘘!? これって生産終了したんじゃねえの!?」
始業までまだ時間あるから少し楽しませてもらうかと箱を開いたりいきなり衝撃が……。
「ああ、それちょっと前から再生産始まりましたよ」
「マジかお前……興奮してきたな」
「そういや私たちがおススメしてばっかですけど部長の思い出のお菓子とかはないんです?」
「あるよ。ありまくるよ。プレゼントの中に入ってたのもあるけどそれ以外にもたんまりと」
「何です?」
「お? 語る? 語っちゃう? 長くなるよ~」
そんな感じで仕事が始まるまでは駄菓子談義に興じるのであった。
始業のベルが鳴ってからは社会人だからね。スパっと意識を切り替え仕事モードに。
昼休みまで仕事に没頭し、昼になると箱から幾らか駄菓子を取り出し持参していた弁当を手に社長室へ。
「サーセン! マウント取りに来ました!!」
「それが入室の挨拶とかどうなってんだ君は。だがその意気や良し。どれ、弁当を見せてみなさいな」
すっかり忘れてたが俺が料理教室に行こうと思ったのは社長にマウントを取るためだ。
それを思い出しここ数日、鈴木に付き合ってもらって特訓を重ねていたのよ。
そして今日、満を持してマウントを取りに来たってわけだ。
「まず最初に言っておきます。栄養バランスとかそういうんは放り投げてます」
「ほほ~? 何だい何だい。みみっちい予防線を張りやがってからに。それでも男かい?」
「……フッ」
「鼻で笑った!? 何だ……それだけの自信が……? 一体何を……」
「まあまあ遠慮なくどうぞ」
「デカイな、しかも三段重ね……運動会かよ……いやまあ、君はかなり食べる方だから当然か。あ、これ前のお礼ね」
「あ、どうも」
紙袋を渡される。匂いからしてパン。それもかなり美味いってのが香りだけでよく分かる。
袋に書かれている店の名前は……知らんな。後で教えてもらおう。
「とりあえず上二段から開けてみてくださいよ」
「では早速……こ、これは……!?」
カッと見開いた目が驚愕の色に染まる。
一番上の弁当箱の半分は――――唐揚げ。残る半分はチキンナゲットとエビフライ。
二段目は肉巻きポテト、牛肉を焼肉のタレで炒めたもの、豚の生姜焼き、甘い甘い卵焼き。
「誰かのためじゃなく自分のための弁当っつーんなら……ねえ?」
一回ぐらいはやってみたいと思うはずだ。
子供の頃、思わなかったか? 好きな物だけを詰め込んだ弁当を食べてみてえってよ。
その夢を叶えられる立場にあるのに何故、手を伸ばさない?
バランスもクソもねえ。本当にただ好きなものだけを詰め込んだ。その言葉に嘘はない。
毎回やってりゃ飽きるしつまらんが、しかしたまにやるなら作る段階でもうテンション爆上がりよ。
「今回のコンセプトは少年ハァツ……あの日の夢を現実に、です」
「あ、あ、あ……こんな……そんな……!!」
「あれ? あれれ? 社長、折角料理を始めたのに……え、やったことないんです?」
「う、うぅ……ぎぎぎぎ」
「何かすいませんねえ……へへ」
「こ、この――――待て。ウインナーがないぞ? ま、まさか!!」
そう、気付くはずだ。あなたなら。あなたほどの男なら。
社長は焦燥と共に最後の弁当箱を開け……。
「おむ、らいす……」
「中身は当然、ウインナーです」
「……」
「ふふ、まあ偉そうに言いましたが味がアレなら意味がありません。さ、どうぞ」
「……白々しいことを。ここまでテンション上げさせられたなら味は多少じゃ問題にならないよ」
ほっほっほ、悔しそうな顔をしておる。
「ありがたく……ありがたくいただきまぁあああっす! うっひょー!!」
リベンジ成功――――誕生日だけあって良いこと尽くめだぜ。




