表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】主人公になり損ねたオジサン【12/10発売】  作者: カブキマン
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/249

死神危機一髪

「サーナちゃん、ホントに一人で大丈夫? あんなことがあった後だし……私、泊まるよ?」

「確かに一日で随分と刺激的な出来事が起きましたけど……私より皆さんが慌てていたので」

「ああ……逆に冷静になっちゃったんだね」

「はい。なのでどうぞ御気になさらず。梨華さん、暁さん、わざわざ送って頂きありがとうございます」


 ぺこりと頭を下げて感謝を告げる。


「んー……でもホント、何かあったら直ぐオジサンに連絡するんだよ?」

「はい」

「じゃあ、俺たちは行くよ。おやすみ」


 二人を見送り私は部屋へ戻る。


「ふぅ」


 リビングの照明を点けて一息吐いて、


「――――ッセッェエエエエエエエエエエエエエエエエエエッフ!!!!」


 良かった! ホントに良かった!

 冥府どころかオリュンポス滅亡の危機は何とか回避出来たァ!

 やばかった! 本当にやばかった! だってあの人、完全にオリュンポスの神々を消滅させる気でしたよね!?

 あの場で失禁しなかった私、えらい! とってもえらい!


「まさか、私が滅亡の引き金になりかけるとは……心臓に悪いなんてものではありませんよ……」


 だがこれは私の落ち度だろう。

 偽装が楽だからと安易に死神が先祖に居ますけど何か? みたいな方法を選んでしまった私のミス。

 でも考えてみれば当然だ。そういう設定なら何で目覚めたかと言えばあの日の襲撃に結び付けるだろう。

 いやだが一瞬で神話が消滅するレベルのヘイトを溜めるのはどうかと思う……お、おっかない……。


「そして何が酷いってハデスが元凶っていうのが何一つ否定出来ない……」


 あらゆる意味で仰る通りですとしか言いようがないのが本当に酷い。

 父が大義を掲げねば遠く日本の怪物と矛を交え因縁が紡がれることはなかっただろう。

 部下たちがあんな恥辱に塗れることもなく今も粛々と冥府を運営し続けていたはずだ。


「……とは言え、それじゃ私が生まれなかったんですけどね」


 そういう意味で父の行いを否定することは出来ない。

 生まれたばかりの頃はともかく今の私は随分と情緒も育った。

 死神が言うことではないが生きる喜びを謳歌していると言えよう。

 なので父ハデスには心の底から感謝している。

 ただ……あんな怪物を相手取ることになったのは……本気で勘弁して欲しい……。


「あー、まだ心臓ドキドキしてますよこれ……」


 北条征伐に遅参した伊達政宗もこんな思いをしていたのだろうか。

 彼の逸話にあやかって死装束ならぬエロ下着で覚悟キメて踏み込んだけど……とんだ目に遭った。

 それでも政宗は良いですよね。許されなくても自分が首刎ねられて家潰されるだけなんですもん。

 私の場合は政宗の例えで言うなら私のミスで東北の大名家が全て連座で潰されるようなもんだったし。


「あぁでも、よく考えたら完全に乗り切ったというわけでもないか」


 オリュンポスの神々を皆殺しにすることはなくなった。

 だがそれはそれとしてあの夜、襲撃に参加した死神たちは違うはずだ。

 そうはならぬよう必死にフォローかましたけど……。


『いっそ冥府全体を風俗店にしてやろうかなァ!?』


 阻止できたのはこれぐらいだと思う。

 タナトスたちの呪いが更に強くなったであろうことは想像に難くない。

 ふふ、呪いを解く術を見つけるために近付いたのに状況悪化してる……笑えない。

 いや、一応成果があるにはあったんですけどね。佐藤英雄の力の一端を探るって方面では。

 ブラックホールのことではない。あれ以外にもう一つ怒りで力を発露させてる佐藤英雄を見て気付いたことがある。


 ――――絶望に更に分厚い絶望を塗り重ねるが如き事実なんですがね。


「……とりあえずタナトスに報告しよう」


 連絡を入れるとタナトスは即座に転移でやって来た。


「ご無事で何よりで御座いますお嬢様」


 あのー、何だろ。その格好で片膝立てて跪くのやめてもらって良いですかね?

 良い具合にね、そのね、あそこがね、食い込んじゃってるから。


「まずは謝罪を。私のミスでオリュンポスの神々が皆殺しになるところでした」

「……はい?」


 事の次第を説明してやると、タナトスの全身からドバドバと冷や汗が流れ出した。


「それは……いえ、決してお嬢様のミスではありませぬ。協力した我らが真っ先に気づくべきことでした」

「それはその通りですがだからとて私が気づかなくて良い理由にはなりません」


 自分が思う以上に佐藤英雄は私を可愛がってくれていた。

 そのことが大きな誤算だったと思う。


「……それと、力を探る方の成果なんですが」

「はい」

「絶望的な事実が判明しました」

「絶望的な事実、ですか?」

「ええ――――佐藤英雄は死を完全に支配しています」


 死とは決して人の望み通りに操れるものではない。

 強いて言うなら自殺ぐらいか。それとて自分で死ぬタイミングを決められるだけで死を支配したとは言えないだろう。

 そしてそれ以外……老い、病、事故、いずれも人の側に主導権はない。


「……父に完全な死を与えた時点で気付くべきでしたね」


 死という根源的な概念。それは万物の支配者と言い換えることも出来る。

 不老不死の怪物とかよく神話なり英雄伝説なりで出て来るがあれも完全なものではない。

 大概、不死性を破壊する武器なり何なりで殺されるのがお約束だ。

 無機物もそう。コンクリートなんて分かり易いだろう。耐久年数を寿命と言うこともあるのだし。


 そんな絶対的な支配者である死からは神であろうと完全に逃れられはしない。

 老いなどの面で限定的に支配から逃れているだけで完全な不死ではないのだから。

 それは死を司る神も同じだ。死を押し付けることは出来るがそれだって何にでも通用するわけではない。

 佐藤英雄のような規格外を除くとしても同格、同格以上の神を権能で一方的に殺すことは出来ない。

 言い方は悪いが死神は死という虎の威を借りているだけでそれを完全に支配しているというわけではないのだから。

 それでも最上位の死神が死ぬことはないから特殊な立ち位置ではあったのだが……それも覆された。


「そもそもからしておかしかったんですよ。何故、あれほどの怪物の肉体が普通に老いてるんですか?」

「それは……いやでも……」


 佐藤英雄は中年体型だが元々太っていたわけではない。

 若かりし頃の佐藤英雄は痩せていてスタイルも良かった。

 ならばそのまま緩やかに老化していくはずなのに……何故、中年体型に?

 その理由に気づいてしまった。

 父ハデスとオリュンポスへの怒りによって発露した力に触れて……理解、出来てしまった。


「決まってます。彼が無意識にそう望んだからです」


 佐藤英雄の中で老いるとはそういうことなのだろう。

 老いは死が持つ顔の一つだ。それを無意識に思うだけで望みのままにしてしまう。

 つまりはだ。彼がそうと望めば老いないし、死ぬことだってない。

 望めば幻想であったはずの完全な不老不死さえ体現出来る。

 何ならちょっと不老不死になって、これ違うなと思えばそれを破棄して死ねる状態に戻ることだって。

 死ぬも死なぬも望みのまま。死を完全に支配しているとしか言いようがないだろう。


「し、しかし……そういうことなら最悪、奴の寿命を待てば……」

「佐藤英雄は俗な人間です」


 確たる信念、思想などは持ち合わせていない。

 ふわふわとその場その場で楽しいと思えるように生きている。

 つまりは、だ。


「……読んでる漫画のつづきが気になるから死ねない」


 たったそれだけのことで死を遠ざけることも出来るのだ。

 今はまだその特異性に気付いていないが、この先もそうとは限らない。

 気付けば限られた命だからこそ、なんてお綺麗なことは考えず普通に利用するだろう。

 この世から楽しいと思えることが消えない限り、佐藤英雄が死ぬとは到底思えない。


「……運命(さだめ)の冒涜者。父も無意識ながらその異常性を察していたのかもしれませんね」


 死神からすれば佐藤英雄はラスボスみたいなものだが……このボス、クソとかそういうレベルじゃない……。


(返品先はどこですか……?)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
主人公になり損ねたオジサン 12月10日発売

気に入って頂けましたらブクマ、評価よろしくお願いします。

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
[一言] おじさんのおじさんイメージが今のおじさんだからおじさんになってるのか
[一言] 全てが佐藤さんの手のひらの上だと…
[一言] なっ、なるほど、オジさんは望んで今の姿になっとると。 そんな感じだと加齢による老いや身体の痛みを感じた時点で現状に戻りそうですねw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ