寛容の心
(ガンガンメッセージ飛んでくる……)
ちょいと大きな案件で外回りに出てたんだわ。
会社に帰る前に部下の伊藤くんと一緒に一服しようぜって茶店入ってスマホ確認したらだよ。
ロボ女――――Drカワサキから数十件のメッセージが入っていた。
Drカワサキってのは当然、本名じゃない。カワサキはマジの苗字らしいが下の名前は捨てたらしい。
家族との間に軋轢がとかそういうんではない。
『悪の科学者Drカワサキが私の魂の名前だからです』
とのこと。まるで意味が分からない。
何かDrの後は苗字オンリー。名前まで入れるとダメとのこと。
ついでに言うならDr+下の名前もアウトらしい……何で?
「部長、どうしたんです?」
「いや……昨日知り合った女の子からメッセージがめちゃ来ててさ」
「へえ、狙ってるんです?」
「まさか! ツラは良いが中身がちょっとアレな子でな。ほれ、見てみ」
裏の話題とかではないので別に見せても問題はない。
スマホの画面を見せられた伊藤くんは盛大に顔を引き攣らせた。
「え……何か延々とロボアニメの話してる……しかもこれ……」
「ああ、返事を期待してとかじゃなく一方的にまくし立ててるんだよ」
どうして返事してくれないの? なんて病んだ感じではなく実にサッパリしてる。
乾き過ぎて干物作れるんじゃねえかってぐらいだよこれ。
ただまあ返事をかえさんのも気が咎めるのでテキトーに相槌は入れてる。
仕事で返事できなくてゴメンって最初に言ったんだが「そうですかそれより……」で即自分の話に戻ったよ。
「確かにこれだと見た目が良くても……ちなみにどれぐらい美人なんです?」
「こんぐらい」
互助会に提出する資料用に撮った奴の写メを見せてやる。
「うっお……これはまたかなりハイレベルな……居るんですねえ、こんな男の妄想から抜け出て来たような大和撫子」
「まあ見た目は大和撫子だが……」
「ああはい。見た目だけでもよく見れば着物の上に白衣着てたりとヤバ気な感じがぷんぷんと」
キンッキンに冷えたアイスコーヒーを飲み干し、席を立つ。
「んじゃもうひと踏ん張りだ。帰って書類片付けんべ」
「はい! そしたら良い時間になるでしょうし頑張りましょう!!」
「おう」
会社に帰還しデスクワークに打ち込むことしばし。
集中して取り組んだお陰だろう。終業十分前には終わらせることが出来た。
さて今日はどうしようか。高橋、鈴木は……流石に連日は申し訳ない。
偶には一人飲みするか。もしくは高校の同級生で暇そうなのを……おや?
(メール……それも光くんからか。何じゃらほい……っておいおい)
中身を確認し、俺は顔を顰めた。
女王級(つっても雑魚だが)の討伐に赴いた先でサーナちゃんが巻き込まれていたらしい。
既に力に目覚めかけてるとのことで今、互助会で検査している真っ最中だとか。
(……不憫な)
慣れない異国での暮らしを頑張ってるJCに惨い仕打ちを……。
とは言え今更どうしようもない。ただ巻き込まれただけならともかく力に目覚めたのなら頑張るしかない。
嘆息し、俺は帰り支度を整えベルが鳴ると直ぐに施設へと向かった。
丁度検査終わりのサーナちゃんと付き添いの梨華ちゃんと光くんに出くわしたんだが……。
「……」
ドっと汗が噴き出した。
何故かって? サーナちゃんから以前は感じられなかった“死”に由来する力を感知したからだ。
気配からして隔世遺伝的なタイプっぽいが……そこはどうでも良い。
(……確か、ギリシャ出身だっけ)
先祖に死神と交わった者が居たのかもしれない。
冥府の連中はハデスのように真面目な奴が多いけど……よくよく思い出してほしい。
ペルセポネの逸話から分かるようにハデスも女絡みではアホになってるのだ。
更に言うならギリシャ神話の主神からしてアホみてえなヤリ××。
性や色恋に関して奔放なとこがあるんだよ。だから死神が人間と情を通じていたとしても不思議ではないのだが。
――――問題は何故それが目覚めたかだ。
「……サーナちゃん」
「な、何でしょう改まって……」
「すんませんっしたぁあああああああああああああああああああああああああ!!!」
俺はその場で土下座した。
「ちょ、オジサン何なの急に!?」
「そ、そうですよ佐藤さん! ほらサーナさんもフリーズしちゃったじゃないですか!」
「……いや謝らないといけないんだ……十中八九、サーナちゃんが力に目覚めたのは俺のせいだから」
あの小旅行の日。あの夜だ。
ボラみてえにわらわらギリシャ原産の死神が居たんだ。
悪影響を及ぼすようなものは結界でシャットアウトしていたが血の励起なんかは対象外だろう。
「おんのれハデスぅ……死んでからも散々俺に迷惑かけやがってよぉおおおおおおおおおおおお!!!」
俺だけならまだ良いけどさぁ! 何の罪もないJCによォ!
「マジで許さねえ……でもアイツはもう死んでるし……とりあえずあの日襲撃に来た連中。
仕置きはもう済ませたが超過分だ。更に呪いを強くして未来永劫あのまんまにしてやるぅ……!
ああでもまだ足りん、まだ足りんぞ。いっそ冥府全体を風俗店にしてやろうかなァ!?」
オリュンポスのアホどもめぇ……!
そもそもゼウスがキッチリ兄貴シメてりゃ俺との因縁も生まれなかったんだよ!
これはギリシャ全体の負債だ。キッチリ取り立てさせてもらう。
「あ、ああああの! あの! よ、よよよよく分かりませんが落ち着いてください!!」
「あぁ……すまねえサーナちゃん……ホント、俺のせいで……」
「オジサンオジサン、サーナちゃんも困ってるから!」
「一体何があったんです!?」
あぁそうだな、まずは説明からだな。
俺はハデスとの始終、あの夜の出来事、サーナちゃんの力の由来などを仔細に説明してやる。
「いやそれオジサンのせいじゃないでしょ!」
「そうですよ佐藤さん! 悪いのはハデス神じゃないですか!」
「そうは言うが……俺が妙な仏心を出さず前々回ぐらいで完全に殺してりゃ……」
とりあえずあれだ。
「サーナちゃん。俺個人としても責任は取るしオリュンポスのパッパラパーどもにもキッチリ落とし前はつけさせるよ」
「い、いやいやいや! 話を聞く限り英雄さんには全然責任ないじゃないですか!」
「で、でも……」
「悪いのはハデス神とその部下の方たちなわけで、他は全然です!」
サーナちゃん、君は何て……何てええ子なんや……。
「それに、その……あの、ギリシャ出身の私としましては……ですね。
ハデス神がやろうとしていたことの是非はともかく厳かで慈悲のある冥府の神様なわけでして」
それはまあ、うん、そうねえ。
アイツ冥府の運営については文句のつけどころないだろうし。
「きっと私のご先祖様もお世話になっているでしょうし冥府にどうこうというのは……」
「でも」
「そ、それに何より……あの、多分、裏にも国際関係とか……あります、よね?」
ああうん。自分のせいで国際問題になりかねないとか嫌だわな。
「……すまん、頭が冷えた」
「いえ……あの、本当に気にしなくて良いんで……英雄さんには恨みなんか全然ありませんし」
「しかし」
「じゃあ、どうしてもと言うのなら……梨華さんたちのように、私のことも鍛えてくれませんか?」
そんなの償いでも何でも……いや違うな。これは彼女の気遣いだ。
JCにここまで言わせてこれ以上グダグダ言うのは情けなさ過ぎる。
「……分かった。君の温情に感謝を」
「お、御気になさらず」
色々デッケエJCに俺もオリュンポスも救われちまった……この恩は忘れねえ。




