覚悟のカタチ
「まさか……友達が巻き込まれてるなんて……」
「あ、あの……梨華さん? それに暁くんも……ど、どうしてこんな……いやそもそも……」
「ごめんサーナさん。色々混乱してると思うけどちょっと待って欲しい」
「とりあえず私らは敵じゃないからさ。大丈夫。私たちがサーナちゃんを守るから」
「……はい」
これでもかとこちらを気遣う彼らを見て私は一先ず、成功したかと胸を撫でおろす。
少し待っててと言って二人は洞穴の入口に戻り、教導役の男と会話を始める。
「……友達なんだね」
「うん。同じクラスでめっちゃ良くしてもらってる」
「吉野さん。これから俺たちはどうすれば良いでしょうか?」
「異界は一旦入ると主を倒すまでは脱出が難しいから……二人にはあの子を護衛しつつ私に着いて来てもらう」
「ここに留まって吉野さんを待つんじゃダメなの?」
「なるべく私の目の届くとこに居てくれた方が良い。万が一もあるからね」
「分かりました」
「西園寺さん、あの子には君から説明を頼むよ」
「分かった」
梨華さんだけが私の下に戻って来る。
会話の内容は当然、聞こえていたのだが知らない振りで不安そうな顔を作る。
「あのさ、私たちに着いて来てくれるかな?」
「……ここから出られるんですか?」
「うん。でも直ぐには無理なんだよね。怖いだろうけどお願い……私と光くんを信じてちょっとだけ我慢してくれないかな?」
「……分かりました」
「ありがと。立てる?」
「な、何とか」
しかし……あれですね。罪悪感が尋常ではない。
これが大人なら別にどうとも思わないのだが梨華さんと暁くんは子供で友人だ。
しかも性格も良いと来た。そんな彼らを欺くというのは……かなりクるものがあった。
(でも、私はやらなければいけない……)
イカレタ格好の部下たちを何とかするために。
いや冷静になってくるとホント、酷い。ビジュアルが酷過ぎる。
「やあお嬢さん。私は吉野という。知らないオッサンの言うことなんて中々受け入れ難いかもだが」
必ず君をここから出す。吉野と名乗った男は笑顔で告げた。
梨華さんと暁くんはかなり当たりの教導役を引いたらし……いや佐藤英雄の差配か。
敵には何をしても良いと思ってる節がある彼だが、身内や子供にはとても優しいから。
「……いざとなったら佐藤さんに貰った秘密兵器の使用も視野に入れよう」
「うん? 佐藤くんから何か貰ったの?」
「あ、はい。許可証貰ったじゃないですか俺ら。それで半人前のお祝いにって」
そう言って暁くんは野球ボール大の黒い真球を取り出した。
(あ、あの人は……何てものを……!?)
表情に出なかった私を誉めてやりたいぐらいだ。
吉野という男も同じ感想を抱いたのだろう。夏の暑さが原因ではない汗を大量に浮かべている。
そりゃそうだ。あれを見た瞬間、同じ説明をダイレクトに脳内へ叩き込まれたのだから。
それも野良着で麦わら帽子を被って満面の笑みを浮かべる佐藤英雄の画像と共に……「私が作りました」。馬鹿か?
「……これ、そんな危険な物なんですか?」
「……それは崩壊寸前の極小規模の恒星だよ」
「「こうせい?」」
「ざっくり言うとそれを起動したら十分間、ブラックホールが形成される」
「「ブラッ……!?」」
重力崩壊によって形成された小規模のブラックホール。
小規模であろうとそんなものが生まれればやばいことにはなるが……流石と言うべきか。
同時に強力な結界も展開され範囲は街一つ程度に収まるようになっている。
加えて発動の際には影響範囲に一般人が居る場合は安全な場所に転移されるようにも。
「使用者とその認識で味方と判定された者も結界で保護されるみたいだね」
消えるのは敵と影響範囲にある無機物だけ。
粗方消滅させたら自動で消え、ブラックホールの形成で起きる異常なども全て解消される。
なーんだ、じゃあ気軽に使えるか……と言えばそんなことはない。
敵はともかく範囲内の無機物も消滅させてしまうのだから。
「ちなみにここで使えば一瞬で主ごと異界が消し飛ばされ十分間、ここを中心にそれなりの範囲が……」
「何てもん渡してんだあの人!? しかも説明もなしに!!」
「私も持ってるんですけどそれ!? オジサン何してくれてるわけ!?」
弁護するわけではないが考えなしに渡したわけではないだろう。
説明がなかったのもそう。多分、教導役あたりに説明させるつもりだったはずだ。
でなくばあんな機能が搭載されているわけがない。教導役も同じ考えに至ったのだろう。
「いやしっかり考えた上でじゃないかな。何のリスクもない物だと心に甘えが生まれてしまうだろう?」
いざとなればこれがあるし……そう思ってしまうのは甘えだ。
ちょっとした油断が死に直結する世界に身を置くのならそれは許されない。
傲慢が許されるのは相応の力を持つ者だけだろう。
「だから君らの性格からして「これを使わずに済むように」と思うようなものを渡したんだろう。
どうしようもなくなった時の緊急避難だけどそれまでは発奮材料になるようにってね」
甘さと厳しさ、絶妙なバランスだと思う。
「で、でもそういうことなら説明してくれても良いじゃん……」
「私、ってより第三者の口から危険性を伝えてもらいたかったんだろう」
それを見た瞬間、情報が流れ込んできたことを吉野は説明した。
「話を聞くに佐藤さんには何か考えがあるんでしょうが……何故そんなまわりくどい真似を?」
「私のリアクション見てどう思った?」
「あれ? これかなりヤバいものなのでは……あ」
「つまりはそういうことさ。より危機感を持てるようにと佐藤さんから見れば力のない人間を説明役に選んだのさ」
「で、でも見せなきゃそんなの分からないじゃん。もし……」
「それはない。暁くんさ、今日の依頼が終わった後にでもこんなものを貰ったんだって私に見せるつもりだったんじゃない?」
「は、はい。吉野さんは教導役だし把握しておくべきだと……あ、俺の性格も込みってことですか?」
暁くんの言葉に吉野は大きく頷いた。
「そういうこと。まあ佐藤さんは依頼を受ける前に見せると思ってたぽいけど」
「あ……す、すいません……」
「良いよ良いよ。はじめての武器でちょっと浮ついてたんだよね。しょうがないしょうがない」
そんなやり取りを眺めながら私は別のことを考えていた。
(……手札が一つ、見えましたけど)
あの恒星はまず間違いなく佐藤英雄の手で作り上げられたものだ。
コレクション、とやらではないだろう。彼の力の一端だ。
しかし何の光明も見えない。ブラックホールだけに。
いや真剣な話、子供に渡すぐらいだからそこまで大したものではないのだろう。
(なら自らの手で発動させたらどれほどの規模のブラックホールを……?)
想像もつかない。
(……甘かった)
裏の人間としての佐藤英雄に接触する。私は覚悟を決めて事に臨んだつもりだ。
死に装束で大事な場に赴くように、私もタナトスみたいな目に遭わされる可能性を考慮して……ね?
まあ、その、何だ……今、かなりえぐい下着をつけている。大人が着ててもドン引きするようなやつだ。
重ねて言う。甘かった。あらゆる方面で規格外が過ぎることを意図せず見せ付けられてしまった。
(あぁ……股間がすーすーする……)
まるで希望が見えない……。
伊達政宗をリスペクトした結果




