戦えシュガーキング!
「「「……」」」
俺、高橋、鈴木は顔を見合わせ頷き合った。
パン、パン、パンと乾いた音がテンポ良く三回響いた。
俺が高橋の頬を、高橋が鈴木の頬を、鈴木が俺の頬を叩いたのだ――トライアングルビンタである。
「夢じゃないな」
「夢じゃねえな」
「夢じゃないね」
なるほどなるほど……そういうタイプの“馬鹿”ね。
いやそれ以外の可能性もあるが堂々と街中でやらかすような奴だ。確実にそっちだろう。
千佳さんも察したのか何とも言えない顔でロボットを見上げている。
「ちょ、ちょっとオジサンたち! ママも! 勝手に納得してないで説め……」
その言葉を遮るように、悲鳴染みた声がロボから発せられた。
〈な、な、な何事ですかぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!?〉
女か……何となくだが大和撫子系の美人な感じがする。
まあ美人でも中身はアレなんだろうが……テンション下がるわぁ……。
〈ひ、人が沢山居る場所を狙って出現するはずだったのにぃ……何で、何でこんな……ハッ!?〉
そこでようやく俺たちに気付いたらしい。
ゴッテゴテのトゲトゲの如何にもな悪もんロボの胸が開きそいつが姿を見せた。
「あ、あなたたちの仕業ですか!?」
黒髪ロングで姫カットの如何にもな和風美人。年齢は二十四、五ぐらい?
俺の予想通りだが全然嬉しくねえ……着物の上から白衣って何だよそのファッション……。
「ひ、人が……人が幼い頃から抱き続けていた夢を叶えようとしているのを邪魔するなんて……ッッ」
≪……≫
「あなた方には人の心がないのですか!? 恥を知りなさい!!」
怒りでぷるっぷるしてる撫子(仮名)。
千佳さんが俺を見る。高橋が俺を見る。鈴木が俺を見る。
クッソ……俺に押し付けるつもりかよ。だが誰かがやらんと話が進まないのも事実。俺は渋々、口を開いた。
「……夢、ってのは?」
「決まってるでしょう! 巨大ロボに乗って街のド真ん中で大暴れしてやることですよ!!」
自衛隊の戦闘機とかも出て来るだろうしそれもバンバン撃ち落としてやりますよ!
と撫子(仮名)は胸の前で拳を作り力説する。
「……梨華、暁くん」
「な、何?」
「……何でしょう?」
「あなたたちは既に変態とは戦ったと思う」
千佳さんが遠い目をしながら講義を始めた。
「でもね。変態っていうのは決して一種類じゃないの」
そう、エロ系だけじゃねんだなこれが。
超常の力を手にしてその力に溺れる……あるあるだよな。
でもその溺れ方が問題なんだ。金稼ぎだったり暴力だったりは分かり易いし対処も容易だ。
だが変な方向にぶっ飛んでる奴は……厄介なのが多い。
以前戦った変態もそうだがスペックが高いのだ。想いの強さゆえ、だろうな。
暴力に走るようなんはそこまで強い熱量がないから伸びることも少ない。
しかし変態は自分の夢に一途で、ゆえにその熱量も並々ならぬものがある。想いが力に直結し易い世界の弊害だ。
(コイツも、そう)
あのロボ。魔道と科学がハイレベルで融合したものっぽい。
強さだけで見ればそこそこ強い神格クラスはあると見た。
「……千佳さん、子供らを頼む。あれは俺と高橋、鈴木で何とかするからよ」
「え、あたしも?」
「佐藤くん一人で十分じゃないか……私を巻き込まないで欲しい……」
うるせえ。お前らだけは逃がさねえかんな。
「おい姉ちゃァん! 悪かったなー! あんたの夢を邪魔しちまってよォ!!」
ぎゃーぎゃー喚き続けている撫子(仮名)に声をかける。
「あ、謝って済む問題ですか!? あまりにも惨い! あなたたちに人の心はないんですか!?」
そういうお前には常識というものが備わっていないようだな。
ツッコミかましたくなる気持ちをグっと堪え、俺は彼女に笑いかける。
問答無用で潰してやっても良いが……あそこまでの変態相手だとな。
何度でも懲りずにやらかす。一時性癖……欲望を封印されても力づくで破りかねん。
となれば穏当な着地手段を探るべきだ。幸いコイツには話が通じそうだしな。
「代わりに俺らが相手してやっからそれで勘弁してくれや」
「は? 私は……」
言葉を遮るように俺は盛大に指を鳴らす。
大地が鳴動し、小気味の良いBGMが影絵の街に鳴り響く。
「な、何ですこの揺れは!? それにこの音楽!!」
「――――出でよ! 悪を許さぬ正義の機神シュガァアアキィイイイイイイイイイイング!!!!!」
後方の大地が割れ、真紅のマントを羽織った巨大ロボが仁王立ちで出現する。
今しがた俺が諸々の術をフルに活用して創り出したものだ。
如何にも正義の味方で御座いますってデザインだが俺個人としてはイマイチ。
カラーリングは黒で凶悪な見た目のが好き。
「うぉ!? 何だこのスーツ!?」
「身体のラインもろに出ちゃってるんですけど……」
同時に俺たちの装いも変える。
古き良きロボットアニメ風のピッチリスーツにヘルメットも完備だ。
「は、はわわわわ……これはこれはまさかまさかの!?」
「ああ。民衆を蹴散らすのも良いが……正義の味方が操るロボと戦うのも乙だろう?」
フッ、と笑い俺は高橋と鈴木に呼びかける。
「行くぞ高橋! 鈴木! 地球の平和は俺たちが守るんだ!!」
「クッソ……しょうがねえ! やってやらぁ!!」
「何でこんなことになったかなァ!?」
とぅ! と飛びあがり俺たちはシュガーキングに乗り込む。
操縦レバーは二本だけだが問題ない。思考で動くようになってるからな。
「うわ!? 何かダイレクトに知識が叩き込まれた……」
「変形もすんのかこれ……ってかお前クイーンハイブリッジ……名前……」
「私なんかプリンセスベルツリーだよ」
うるせえな、いきなりだからそんぐらいしか思いつかなかったんだよ。
「クッ……何が正義ですか! そのような幻想、グチャグチャに蹂躙してやります! 行きますよデビルカイザー!!」
言葉とは裏腹に嬉々として撫子(仮名)は自分のロボに乗り込んだ。
ちらりと視線をやれば千佳さんが子供らを空中に避難させたらしい。結界もあるしこれで思う存分暴れられる。
「スィイイイイイトゥ……ソォオオオオオオオオオオオッド!!」
〈デッビィイイイイイルアァアアアアアアアアアアックス!!〉
俺が大剣を召喚すると奴は巨大な戦斧を腹の口から引き抜いた。
真っ向からの斬り合い。斬り結んで分かったがコイツ……頭だけじゃない。バトルセンスもある。
(やっぱり穏当な手段を選んで正解だったな……)
各種武装、変形機構をフルに活用して戦うこと十数分。
奴のロボはあちこちから火花が出ており、正に満身創痍。そろそろ〆といこう。
「これでトドメだァ! シュトーレン……ンビィイイイイイイイイイイイイイイイイム!!!」
〈クッ……私を倒したところで世から悪の種が消えることはありませんよ! 必ずや第二第三の私が――――〉
ビームが直撃し、デビルカイザーが爆散する。
撫子(仮名)は死んでない。気絶はしてるがちゃんと確保した。
「……それでも俺たちは戦い続けるよ。何時か、真の平和が訪れることを信じて」
「何言ってんのお前?」
「大丈夫? 頭」
やめろよ、そういう冷静なコメント……。




