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【書籍化】主人公になり損ねたオジサン【12/10発売】  作者: カブキマン
本編

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がんばれ五歳児!へんたい道中

ゴエモンインパクトのプラモ出ないかな……

「……疲れました」

「……本当に申し訳ありませぬ」


 私のぼやきにタナトスが心底申し訳なさそうに頭を下げる。

 本当にその通りだ。何ならもっとも申し訳なさそうにするべきだと思う。

 今日は八月二日。先月の二十九日にタナトスの報告を受けてから四日経った。

 四日間私が何をしていたかと言えば――――あの戦いに参加した死神のメンタルケアに全力を注いでいた。


(本当に、酷い有様でしたね)


 佐藤英雄を標的として活動する以上、現地に拠点を持つのは当然だ。

 私は表に拠点を持っているがタナトスたちは放棄された旧陸軍の地下施設を改修し使用している。

 佐藤英雄に敗北した彼らはその施設に撤退したのだが……まあ、酷い酷い。

 全員がメンタルに多大なダメージを負って引きこもりになっていた。

 タナトスは何とか立ち直って……いや立ち直ってはないですね。

 責任感で無理矢理心を奮い立たせて私のところに報告に来ただけだ。


 ともかくだ。タナトス以下、こちらの兵力が完全に使い物にならないという状況はよろしくない。

 完全に立ち直らせるのは無理でも何とか日常生活を送れるよう諭して欲しいとタナトスに乞われたのだ。

 ハデスの後継者として父の部下たちを放置するわけにもいかないので渋々承諾。

 これまで一部にしか存在を知られていなかったが致し方ないだろう。

 それで拠点に赴き一人一人部屋を訪ねて言葉をかけ続けていたのだが……何度でも言う。酷い酷い。


(馬鹿みてえな格好をした美女美少女が部屋の隅で体育座りして虚空を見つめぶつぶつ何か呟いてるとか……)


 軽くホラー入ってる。いや死神なので間違いではないけど。

 私は思った。せめて外套なり毛布なりを羽織れと。

 そんな格好を見せ付けるな。五歳児の情操教育によろしくないぞと。

 ――――甘かった。心底、甘かった。

 思うにタナトスが私に痴態を晒した後、そのままで居たことについてちゃんと考えるべきだった。

 いや考えたくはないけど……向き合う以上は考えるべきだったと思う。

 五人目の部屋を訪ねた時だった。その死神は毛布を頭から被っていたのだが……。


『お、お前……』


 同行していたタナトスが口元をさっと手で覆い目を逸らしたのだ。

 一体何を……と思った正にその瞬間。毛布が弾け飛んだ。


『あ、あぁぁあ……あぁあああああああああああああああ!!!!』


 奇声を上げながら千々に弾け飛んだ毛布を必死で拾い集める死神。

 絶句した。自分は一体何を見せられているんだ? 立ち竦む私にタナトスは言った。


『……これが、記録の中では語られなかった呪いの一つなのです』


 脱げないとしても上から何かで隠せば良い。そう思うのは当然だろう。

 実際、タナトスや他の死神も仕事着(暗色の外套)で肌を隠したそうだ。

 その段階ではまだ完全には心も折れていなかったと。

 拠点に撤退し私に何と説明をしたものかと話し合っている真っ最中だった。

 一人の死神の外套が弾け飛んだのだ。そう“一人の死神”の。


『ただ弾け飛ぶわけではありませぬ……ランダム、なのです……』


 一人の外套が弾け飛んだのを皮切りに、それは始まった。

 数秒後に弾け飛んだもの。数分後に弾け飛んだもの。数時間後に。

 パターンはない。完全なランダムだ。それで彼らの心は完全に圧し折れたのだとか。

 説明を聞いて私は震え上がった。


(一握の慈悲さえ与えぬ底なしの、悪意……)


 何を食べたらそんなことが思いつくのか。

 というか父はよくそんな相手と戦って普通に死ねたな。

 何度も理不尽に殺し合いを吹っ掛けられたことを考えれば佐藤英雄はハデスに対してもっと恨みを抱いていても良い。


(いえ、死神が生命の光に消し飛ばされるのもかなりの尊厳破壊ですが……)


 それでも父の性格上、そういう負け方よりタナトスたちにやったようなやり方の方が効くだろう。

 冥府の王、萌えキャラ化とか憤死しかねないレベルだと思う。

 さしもの佐藤英雄もハデスほどの相手には無理だった……などとは考えない。

 死の権能さえあっさり跳ね除ける規格外だ。出来ないと考えるのはあまりにも見通しが甘過ぎる。


「……お嬢様、お茶に御座います」

「ああ、どうも」


 タナトスが差し出してくれた紅茶を受け取る。

 家に戻って来たんだけどその格好で家の中をうろちょろしないで欲しい。


「……時にタナトス」

「? 何でしょう」

「あなたを含めて全員……人に近しい身体にされたわけじゃないですか」

「……はい」

「その、生理現象などはどうなっているので?」


 一口に死神と言っても様々だ。

 人に近しい姿をしていた者も居れば人間が思い描く死神そのままのオール骸骨というものも居た。

 骸骨のような姿をしたものは生理現象などとは無縁だったが……全員、力はそのままでも姿は人のそれになってしまった。


「用を足す時などは脱げるようになっている……のですか?」

「……」


 あ、違うみたいだ。

 だってタナトスの顔が一瞬で悪天候になったもの。


「……す」

「はい?」

「……ひ、開きます」

「ひらく?」


 どういうことだ?


「……生理現象を感知すると……その、出す部分が……ぱかっと……」

「あ」


 酷い。まだ底があったのか。

 何が酷いってより変態性が増しているところが酷い。


「さらに、言うなら……」

「……はい」

「どうやら、衛生面でのフォローも……ば、ばんぜんのようで……」


 曰く、常に清潔な状態を保てるようになっているとか。

 気遣いなどでは断じてない。凄まじいレベルの嫌がらせだ。


「……なるほど」


 もうおなかいっぱいだ。

 正直、関わりたくない。普通に暮らしてたいと心から思うが……流石にこの状態のタナトスらを放置出来ない。


「状況を打開するためにはこれまで以上に距離を縮める必要がありそうですね」

「お嬢様?」


 弱点を探る……いや弱点なんてあるのか? ともかくそっちは一旦置いておく。

 タナトスらにかけられた呪いを解除するためには佐藤英雄とより親密になる必要がある。

 “一般人”の立ち位置ではどうにもならない。


「あなたたちがそうなる前に集めて来てくれた情報の中に佐藤英雄が教鞭を取るとの情報がありましたね」

「はあ……まさか!?」

「裏に巻き込まれて力に目覚めた一般人の体で、互助会に潜入します」


 時期的に教室の開講も近いし上手いこと佐藤英雄が教師を勤める教室に潜り込めるかもしれない。

 どうやって呪いを解く方法を聞き出すかについてはまだ案は浮かんでいないが、何もしないよりはマシだろう。


「そ、それは流石に危険過ぎます! 気付かれたらお嬢様もただでは……」

「あなたたちがそうなってしまった以上、座して待っていたところで何も変わらないでしょう」

「それは、そうなのですが……」

「大丈夫。私を信じてください。必ず皆を元に戻してみせますから」

「お、お嬢様……!!」


 感極まっているところ悪いが別段、善意ではない。


(……痴女ルックの知己と接し続けるのはかなりのストレスなんですよ)


 私の精神衛生を少しでも良くするためだ。

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主人公になり損ねたオジサン 12月10日発売

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― 新着の感想 ―
[良い点] 痴女化神拳 [一言] これはほんとにどっちでもいいことなんで聞き流してもらっても構わんのですけど (馬鹿みてえな格好をした美女美少女が部屋の隅で体育座りして虚空を見つめぶつぶつ何か呟いてる…
[良い点] 全員の性別を置き換えたら確かに嫌すぎる……ってなった 引きこもり露出魔イケメン軍団メンタルケアは正気の時は耐えられない 今なら良いかも……ってなる
[良い点] ハデスさんの株がどんどん上がっていくな、まともに倒された敵という名誉。
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