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【書籍化】主人公になり損ねたオジサン【12/10発売】  作者: カブキマン
アフター

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戦うだけじゃない 後編

 相談者を捌き続けて二時間ほどが経過したので一旦、休憩することにした。

 人外にとっては夜が本番だ。まだまだ先は長い。これからもっと来場者は増えるだろう。

 ならば適度に休憩を挟むのも大事なことだ。

 俺は休憩の札を立てて体育館外の喫煙所に向かった。


「ふぃー……」


 正直、悪くない気分だ。

 昔から依頼を選り好みしていたわけではない。人外相手の非戦闘系の依頼もやってはいた。

 それでも好みを言うなら手っ取り早く稼げる荒事の依頼が好きだった。

 だが歳を食うと考えも変わってくるものだ。

 労力と報酬が釣り合ってはいないがこうして色んな奴らと接する機会を持てる依頼も中々に楽しい。


「アイツらはしっかりやってんのかね」


 俺はこの手の依頼もそれなりに経験しているが千佳さんたちは違う。

 復帰してまだ一年ちょっとだからな。現役の頃はこういう依頼はやってなかったし少し心配だ。

 まあ千佳さんは言うて人を束ねる経営者だからそこまで心配はしてないがTSコンビはな。あと鬼咲も。


「ちょっと様子見て行くか」


 煙草を灰皿に押し付け中に戻り高橋と鈴木、鬼咲のいる専門職コーナーへ向かう。

 一番近い位置にいたのが高橋だったのでまずはそっちから見て行くとしよう。


「ふぅむ。おたくは保育士志望なわけね」

「はい! 人、人外問わず子供が大好きなのでどうしても子供たちに関わる職に就きたくて」


 丁度相談者が来たところらしく高橋は渋い顔をしている。


「よっ、ちゃんとやってっか?」

「佐藤か。まあ出来る限り真摯に対応してるつもりだよ」

「そりゃ結構。苦い顔をしてるがそちらさんに何か問題でもあるのかい?」

「あ、やっぱりその……種族的に問題がありますかね?」


 相談者の女性は眉をハの字にして項垂れている。

 どういうことだと書類を覗き込むと、


(……姑獲鳥の妙子さんね)


 ざっくり説明すると出産で亡くなった女や我が子を失った無念により怪異となった存在だ。

 背景が背景だから赤子を攫ったりと確かにちょっと不安ではある。

 が、本当にやばいのはここに来る前に弾かれているはずだから大丈夫だとは思うんだけどな。


「ああいやそういう心配はしてねえよ。ただあんた、良い人っぽそうだからさあ」

「「?」」


 俺と妙子さんが要領を得ない発言に首を傾げる。


「こりゃあくまであたしの経験則に基づくもんなんだが」


 と前置きし高橋は理由を語りだす。


「あたしもまあ、この業界それなりに長いからさ。色んな同僚を見てきたワケ。

子供が好きだからこの仕事に就きましたなんて子はそう珍しくねえんだよ」


 小さい子の面倒を見るのは大変だ。好きでもなけりゃ難しいだろう。

 俺がそう言うと、


「そう思うよな? でもあたし的にはむしろ仕事だからで割り切ってやってる奴の方が安心なんだよな。

ああ、安心ってのは同僚として気兼ねなく頼ったりできるとかそういう意味な」


 子供に害をとかそういう方面ではないと補足を入れつつ高橋は続ける。


「何でかっつーと保育士に限らず教師とかもそうだが子供だけ見てりゃ良いわけじゃねえんだわ。

むしろ保護者との付き合いのが大事なのよ。

自分で面倒見れるならそれが一番だが世の中のお父さんお母さんは色々大変だ。

だから保育園やらに預けるわけだが大切な我が子を預けるんだから当然、心配だよな?」


 俺に子供はいないが想像はつく。

 自分の目が届いていない間に何かあったらとか思っちゃうよな。


「だから連絡帳やら迎えに来た時の雑談なんかが殊の外、重要なんだ。

今日はこれこれこういうことがありました。こういうところが気になりますがどうでしょう? ってな。

そうやって保護者との間に信頼関係を築くことで結果的に子供たちのお世話もより充実するんだが……」


 ああ、何となく言いたいことが分かった。


「中には我が子への愛情ゆえモンペみたいになるのもいると」

「も、モンペ?」

「モンスターペアレントつってな。ざっくり説明すると保育園や学校で非常識な行動をする保護者のこった」


 高橋の説明だけじゃピンとこないかもなので俺もスマホでワード検索をかけて説明文を妙子さんに見せてやる。


「純粋に子供が好きで人の良い保育士はその手の輩に対応してる内に病んじまうことが多いんだ」


 傍から見れば理不尽な言いがかりでしかない。

 だというのに自分の不足や不手際のせいだと自分を責めてしまうことがあるらしい。


「子供を大切に想うからこそ親の言葉を必要以上に重く捉えがちなんだよ」


 ビジネスライクな対応ならクレームもテキトーに聞き流せる。

 高橋が安心できるというのはそういう意味なのだろう。


「……あんまり気分の良い話じゃねえが実際にあった例を教えてやろうか?」

「……お、お願いします」

「分かった」


 長い話になりそうだし俺はここらでお暇させてもらおう。

 ちゃんとやれてるのは分かったしな。


(次は鈴木だな)


 この後も鈴木、千佳さんと見て回ったが全員しっかりやれているようだった。

 なので俺も自分の席に戻って気合を入れ直し相談を再開した。

 そうして時間は流れ午前四時前。相談会は終わった。


「お疲れさん」

「ヒロくんもお疲れ様。ところで柳の奴はどこへ行ったのかしら?」

「そう言えばそうだね。何か途中で体育館出て行くの見た記憶があるけど」


 俺と鬼咲に三人の視線が向けられるが俺も普通に知らん。

 生真面目な男だからサボりというわけではないだろうが……。


「あら、噂をすれば何とやらね。ちょっと柳、あなたどこ行ってたのよ」


 会場に戻ってきた柳を鬼咲が問い詰める。


「ん? ああいや、互助会と話をつけにな」


 互助会と? 怪訝そうな顔をする俺たちに奴は言う。


「何人か話を聞いている内にかなり需要がありそうなのが分かってな」


 それならば正式な事業としてうちが一手に担うのも良いだろうと思ったらしい。


「い、いやお前」


 高橋が顔を引き攣らせながら漏らす。言いたいことは分かる。

 表での事業に関しては問題ないが裏となればなあ。

 何せ柳はかつて日本における裏の二大勢力にまで組織を築き上げた男だ。

 就職斡旋事業を通して裏での影響力を強めると危惧されてもおかしくはない。


「言いたいことは分かるが安心したまえ。穏当に話はまとまったよ」

「……マジか」

「マジだとも。まあ君のお陰だな佐藤」

「俺の?」

「いざとなれば圧倒的な武力を以って私を始末できるという保険があるからな」


 なので話が拗れることもなかったと奴は小さく笑った。


≪……≫


 俺たちは思わず顔を見合わせた。多分、同じことを考えてる。


(……コイツ、昔より性質悪くなってねえか?)


 俺という存在のせいでやろうと思えたばやりたい放題できんだろこれ……。

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主人公になり損ねたオジサン 12月10日発売

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― 新着の感想 ―
柳、「なんかあったら佐藤が止めてくれるだろう」って内心思ってそうw
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