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【書籍化】主人公になり損ねたオジサン【12/10発売】  作者: カブキマン
アフター

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いつかが訪れた日

「昼間から飲む酒ほど美味いものはないな!!」

「真理だね」

「ちげえねえ」

「控え目に言って最高だわ」


 日曜。佐藤と愉快な熟女たちは朝から飲みに繰り出していた。

 佐藤と千佳は子供から白い目で見られたがお構いなしだ。

 日頃お疲れの社会人にはこういう休息も必要なのである。


「次どこ行くよ?」

「そうねえ。一件目二件目はヒロくんと鈴木くんのおススメだったし次は私たちかしら?」

「だな。さてどっか良いとこあったかな?」

「直ぐに決めなくても良いんじゃないかな。ちょっとお腹も膨れたし軽く歩こうよ」


 そういうことになった。

 四人でお喋りをしながらぶらぶら歩いていると、ふと佐藤が足を止めた。


「どうしたのヒロくん?」

「いや……今気づいたがここ、俺が前に住んでたあたりだなって」

「初耳だな。ずっと今んとこじゃねえのか?」

「流石に社会人一年目からあの部屋には住めねえよ」


 今、佐藤が暮らしているマンションはそこそこ良い物件だ。

 裏の資産を考えれば十代の頃でも余裕だが表向きの顔というのがある。


「実家を出て最初に住んだのがこの辺なんだよ。二十二、三までだったかな?」

「へえ、じゃあ思い出の場所なんだね」

「ああ。つっても引っ越してからは用事もなかったし足はここらに向くことはなかったがな」


 言いつつ佐藤はどこかに向かって歩き出した。

 三人もその後を追い、少し歩いて辿り着いたのは何の変哲もない交差点だった。


「ここに当時、仕事帰りによく駄弁ってたダチがいたんだ」

「ここって……え、交差点で?」

「地縛霊だったんだよ」


 千佳の疑問に答えた佐藤の目は昔を懐かしむように細められていた。


「駆け出しの社会人で色々ストレス溜まっててなあ」

「意外だな。お前のことだから最初から上手くやってるもんだと思ってたぜ」

「ンなわけ……大人なんだ。学生時代とはまた違うコミュニケーションが必要になるだろ?」


 慣れない仕事、人付き合い。

 それらの愚痴をここにいた地縛霊に聞いてもらっていたのだという。


「お前らと気まずい別れ方したことも引きずってたしな」

「「う゛」」

「あはは。それでその地縛霊さんはどんな方なの?」

「あいりちゃんつってな。十七で事故に遭って死んじまった子でよ。ツンツンしてるがすんげえ優しくてさ」


 仕事帰りにコーヒーやら菓子を差し入れて小一時間ほど駄弁るのが日課だった。


「今はもう成仏したのよね?」

「ああ。二十歳の頃だったか。最後にデートをして……そんでお別れしたよ」


 寂しくはあったが晴れやかに別れられたと佐藤は笑う。


「っと、少ししんみりしちまったな」

「……だな。そろそろ酔いも覚めたし次行くか」

「そうだね。次は西園寺さんと高橋くん、どっちにする?」

「じゃあ私が」


 と続けようとしたところで全員が一斉に視線を道路にやる。

 青信号で横断歩道を渡っている小学校三年生ぐらいの女の子。

 その右方から明らかに普通じゃない乗用車が凄まじい速度で突っ込んでくることに気付いたのだ。

 普通の人間なら間に合わないがここにいるのは普通の人間じゃない。


「俺が行くから車は頼む」


 と短く告げ佐藤が横断歩道に侵入し少女を抱えてそのまま反対側へと駆け抜けた。

 瞬間、轟音が鳴り響く。車が突っ込んだのだ。


「車はおしゃかだけど中の人間は護っておいたわ。あとは警察の仕事ね」


 と千佳。


「おい、その子に怪我とかねえだろうな?」


 同じく佐藤の方に合流した高橋が心配そうに尋ねる。

 やはり保育士としては子供のことが気になってしょうがないのだろう。


「ったりめえだろ。でも万が一もあるしな。お嬢ちゃん、痛いところとかはないかい?」

「――――」

「お嬢ちゃん?」


 少女は何故か目を見開いて固まっている。

 しくじったか? と佐藤は少女を下ろし状態を確認しようとするが少女は佐藤の腕を掴んで離さない。

 どうしたものかと思ったのもつかの間、


「あ、あ、あ……わぁああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 大声を上げて泣き始めたではないか。

 佐藤は即座に認識阻害の結界を張り高橋に叫ぶ。


「ちょ、ちょっとどうすんのよ!? 何とかなさいよアンタ!!」

「何でオネエになってんだテメェは。……ってか落ち着け」


 状況を認識し恐怖に襲われたのだろう。

 これぐらいの年齢の子に飲み込めというのは酷だ。

 しばらく泣かせてやれと助言する高橋にそりゃそうだと佐藤も落ち着きを取り戻す。

 が、


「“会えた”」


 突如として少女が嗚咽混じりに妙なことを言い始めたではないか。


「“また会えた”! 英雄、あなたに!!」

「「「「――――は?」」」」


 誰? いや知らねえよ。お前の名前呼んでるだろ。英雄違いだよ。英雄違いって何だよ。

 視線だけでやり取りをする四人には気付かず少女は更に激しく泣きだした。

 ちょっとどうにかしてよと千佳、高橋に助けを求める佐藤だが……。


「い、いや私が小さい子の面倒を見てたのもう随分と前だし……そもそも梨華は泣くとかあんまりなかったし……」

「あたしは現役っちゃ現役だけどよぉ。その状態の子を引きはがすのは逆効果だろ」


 とけんもほろろに断られてしまう。

 仕方ないので佐藤は高橋に財布を渡し小さい子が好きそうな飲み物とお菓子を買うよう命じた。

 命じたのは高橋だけだがカオスな状況から離脱したかったようでここぞとばかりに千佳と鈴木も便乗してしまう。

 残された佐藤はとりあえず移動するかと昔の記憶を思い出し近場の公園へ場所を移した。


「……おさけくさい」


 少女を抱いたままベンチに座っていると涙声でそう言われた。


「ご、ごめんね?」

「……ふふ、あんたって子供相手だとそんななのね」

「あ、あの……お嬢ちゃんとどこかで会ったこと、あるかな?」


 泣き腫らした目で、それでも晴れやかな顔で少女は言う。


「それはもう。前世から、って言うべきかしら?」


 やべえぞ電波だ! と慄く佐藤だがすぐに自分たちの存在を思い出し我に返る。

 前世? 前世だと? 生まれ変わり? 誰の、とそこまで考え思い至る。


「…………もしかして、あいりちゃん……か?」

「ええ。今は違う名前だけどね」

「――――」


 佐藤の目がこれでもかと大きく見開かれる。

 自分や千佳たちのような力ある存在であれば生まれ変わっても記憶を保持することはあるだろう。

 だが目の前の少女は今もかつてもそのような素養はない。それゆえ佐藤は驚いたのだ。


「物心ついた時からずっと何かを忘れてる気がしてた。ずっと誰かを探さなきゃって思ってた」

「あいりちゃん……」

「あなただった。まさかこんな形で再会するなんてね」


 前世の死因は交通事故。そして今世の死因も交通事故になる寸前だった。

 その運命から救いだしてくれたのが佐藤だというのだからとんだ奇跡だとあいりは笑う。


「……老けたわね」

「……そりゃ俺も三十半ばのオッサンだからなあ」

「そんなに経ったんだ。そりゃ老けるし太るわよね……でも、英雄は英雄のままだわ」


 嬉しそうに笑うあいりに佐藤は少し泣きそうになった。

 こんな形でまた巡り合えた幸運に浸っていると、


「約束、果たさないとね」

「約束?」

「忘れたの? なら、思い出させてあげる」


 あいりは佐藤の襟首を掴み顔を引き寄せると、


「!?」


 熱烈な接吻をかました。

 それもただのキスではない。舌まで入ったディープなやつだ。

 成すがまま数十秒ほど時間が経過し、ぷは! とあいりは唇を離し笑った。


「前にあげられなかったファーストキスよ」


 と、その時である。


「何やってんだテメェ!!」

「このロリコンが!!」

「激しくロリコンを非難してたヒロくんはどこへ行っちゃったの!?」


 先の光景をバッチリ目撃していた熟女トリオだ。

 トリオは目を白黒させるあいりを無視し激しく佐藤に詰め寄るが……。


「おいこら佐藤聞いて」


 トリオがクワッ! と目を見開く。


「「「し、死んでる……」」」


 佐藤は死んだ。小学生とディープなキスをするという反社会的行為に耐えられなかったのだ。

※この後勝手に蘇りました。

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主人公になり損ねたオジサン 12月10日発売

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― 新着の感想 ―
佐藤英雄の所々とても高い倫理観よ…
悪党の皆さん『よしいいことを聞いた』 なおその後
中学生でもアウトな倫理観なのに、小学生とでは……余りにもオーバーキルであったか
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