何やコイツ
特典SS候補だったネタ③です。
その日、俺は裏の界隈にある酒場“ネイキッドハート”を訪れていた。
「俺には納得できないことがある」
店主のジョン・アパランチ(アメリカ人、年齢は四十二歳)が深々と溜息を吐きながら言った。
客が俺しか居ないから多分、俺に聞かせてるんだろう。グラスを呷りながらじっと奴の言葉に耳を傾ける。
「ファーストフードの大衆離れだ」
そんな話題を俺に聞かせてどうしようってんだ。
いや雑談なんてそんなもんだと分かっちゃいるけどさあ。
「ファーストフードってのは大衆の、庶民の食べ物だったはずだ。そうだろう?」
裏に足踏み入れる前の金ない学生時代を思い出せば、まあそうね。
中学高校の時とか基本金欠だったから安価で腹いっぱいになるファーストフードはありがたかった。
「だってのに、だ。年々バーガーもピザも牛丼も高くなってやがる。こんな理不尽あるか?」
あるよ。物価高騰とか人件費の上昇って名前だ。
提供する側も商売なんだ。しょうがねえよ。いや言いたいことは分かるぜ?
今も安くはあるがRPGで言うところのちょいウザスリップダメージの如く値上げ分が気になるんだよな。
腹いっぱい食べようと思ったらスリップダメージの蓄積で結構な値段になっちゃってさ。
それならもう更に値は張るが満足感がもっと得られる方に行こうとか考えて足が遠退くもん。
今の学生とかどうしてんだろな。小遣いとかも俺がガキの頃に比べれば上がってたりするのか?
「大衆から離れた結果、大衆もまた距離を置く。悪循環だ」
「でもよジョン。値段が跳ねた分、クオリティを上げるとか提供側も工夫してるし」
「ファーストフードにそこまでクオリティは求めちゃいねえ。雑な美味さと雑な満腹感こそがファーストフードの肝だろう」
熱く持論を展開するカウンターの向こうのゴリマッチョを見る。
思えばコイツとも結構な付き合いになったな。一度関係が途切れた千佳さんとかより付き合い長いもん。
(コイツに出会ったのは……確かそう、決戦前夜だっけか)
千佳さん……当時のチカちゃんと良い感じの雰囲気になったが結局何もないまま解散して俺は軽く不貞腐れていた。
眠れないので夜の街を歩いていた時、コイツが現れたんだ。
『不景気なツラだなスーパーマン。気になるあの子とワンナイトに持ち込もうとしたが失敗したってところか?』
『お前を殺す』
『……いやすまん。冗談だったんだが……そうか。ああ、うん。男として気持ちは分かる』
『同情するな殺すぞ』
あの時の俺はナイフの如く尖っていた。
『フン……で、俺になンの用だ?』
敵でないことは明白だった。敵ならあまりに隙だらけだったし何より悪意が皆無だ。
巧妙に隠す奴も居る、悪意なしに敵を殺せる奴も。だがジョンはそのどちらでもなかった。
『何故、戦う?』
『はあ?』
『互助会。そしてそれに協力する在野の人間。連中は大なり小なり世界の在り方を考えて決戦に臨もうとしている』
だがお前は違うだろう? その目は雄弁だった。
『世界の在り方になんざ最近のヒットチャートより興味がねえ。なのに何故、戦う?』
『……何でだろうな。俺にも分からないよ』
チカちゃんを守りたいから。親友二人が一世一代の覚悟を決めて俺を待っているから。
それらしい理由は幾らでもでっち上げられるが、じゃあそれが俺の“芯”かと言えばそう呼べるほどのものではないと思う。
『戦いが終われば分かるかもな。だからまあ、そいつを探しに行くのが理由ってことで』
俺は答えた。まあ結局分からなかったんだがな。
何ならこのやり取りを思い出したのも今で当時は普通に忘れてた。
一発キメるの失敗した影響でたまさかセンチになってただけなんだろう。
だって終わった後はそのままゲームショップに直行して徹夜で新作遊んでたし。
ちなみにめっちゃ面白かった。今でも色褪せぬ名作だよ。
……帰りに中古ショップ巡って探してみようかな。
『そうか』
ジョンは小さく頷き去って行った。次に奴が現れたのはその数時間後。
本丸に乗り込もうとする俺を阻むように大軍が現れた。
事前に間引きはしたが使い魔、魔道生物、ゴーレムとか兵力を用意する術は幾らもある。
数と質を見てこりゃ俺が先頭に立つべきだなと即決したところで、ふらりと現れたのだ。
『自分探し。若者らしくて良いじゃねえか。行きな』
体に弾帯を巻き付け両手にアサルトライフル。
B級アクション映画に出て来るタフガイのような出で立ちでジョンは言った。
俺は思った。何やコイツ、と。
次にジョンと出くわしたのは数十分後。敵の本丸の中でだ。
遅滞目的で入り組んだダンジョンのようになっていて進むのに手間取っていたが何とか高橋の居るとこまで辿り着けそうって時だ。
俺の進撃を阻まんと伏兵出現。そんな時、背後から少々手傷を負ったジョンが現れたのだ。
『行きな。ダチが待ってるんだろう?』
映画のように景気良くアサルトライフルをぶっぱなしながらジョンは言った。
俺は思った。何やコイツ、と。
次にジョンと出くわしたのは数十分後。鈴木のとこに辿り着く手前でまたしても伏兵が現れた時だ。
『探し物は見つかったか? まだか。なら、進まないとな』
口で手榴弾のピンを引き抜きながらジョンは言った。
俺は思った。何やコイツ、と。
次にジョンと出くわしたのは柳と鬼咲を倒し人造神の誕生を阻止した時だ。
誕生は阻止したがその骸から後に天使と呼称される無数の異形が出現し空を埋め尽くした。
かったるいなと思っていた俺の横に傷だらけのジョンがふらりと現れた。
『エンドロールはまだ先らしい。だがコイツらを吹っ飛ばせばあの子のキスはもう直ぐそこだ。気張れよスーパーマン』
ロケットランチャーを構えながらジョンは言った。
何やコイツと思いつつジョンのロケラン発射と同時に俺は空に飛び出した。
『……ねえヒロくん。あの相棒ヅラしてる外人さんはどこのどなた?』
併走していたチカちゃんが困惑気味に言った。
これまで空気を読んで黙っていたがいよいよ耐えられなくなったらしい。
『さあ?』
それからも特別親しいというわけではないがずるずると関係が続き今に至る。
カウンターの向こうで未だ熱いファーストフード論を展開するゴリマッチョを見て俺は思った。
(何やコイツ)
結局あの子のキスはゲットできなかったしよぉ……クッソ……。
明日、発売です。お手にとって頂ければ幸いです<m(__)m>




