始まらなかった物語の行方 前編
どこかでやると言った光くんの力のルーツについてのお話です。
「佐藤の野郎はまだ来ねえのか」
「まあまあ、佐藤くんも忙しいし仕方ないよ」
ある日のこと。高橋、鈴木、千佳、柳、鬼咲の五人に佐藤から招集がかかった。
先に奥多摩島にあるアジトで待っていろと言われたので待っているのだが高橋と千佳は落ち着かない。
「鈴木ちゃんの言う通りよ~。それに今回はマジな案件でしょうし。
誰か一人とか二人ならともかく全員に呼び出しがかかったのだから……まあ、ロクな話ではないわよねえ」
と鬼咲。
「だから落ち着かねえんだろうがカマ野郎」
高橋が吐き捨てる。
言われずとも高橋とて分かっていた。この面子が集められたのだ。どう考えてもロクな話ではない。
十中八九、過去の話絡みだ。実力のある面子をというなら他にも人が居るはずだ。
にも関わらずこの五人だけが集められたのだから過去の負債以外の何ものでもない。
今の暮らしを愛している高橋からすれば責任を感じてしまうし、焦りもする。
「オカマなのはその通りだけど高橋ちゃんに言われるのは何だかおかしな気分ねえ」
「るっせえ。今のあたしは完全な女だ」
高橋が落ち着かない理由は先述の通りだが特に負い目のない千佳は違う。
「うぅ……やっぱり慣れない……柳は、柳は良いのよ。今はもう正統進化って感じだし。でも鬼咲……鬼咲……!!」
オカマに偏見があるわけではない。
佐藤との再会以降、ちょこちょこ足を運んでいる春爛漫のお陰で何なら大好きだ。
母を知らぬ千佳にとってママの包容力はこれ以上にないぐらい染みていた。
しかし鬼咲は慣れない。どうしたって過去のチンピラが頭をよぎってしまう。
「……やれやれ。彼が来たようだぞ」
柳がそう告げると同時にリビングの空間が歪み佐藤が姿を現した。
「悪い悪い。ちっと残業が長引いちまった」
どっこらせとソファに腰を下ろし指を鳴らすと全員の前にペットのお茶が出現。
ノンアル。やはり真面目な話のようだと五人は気を引き締め直した。
「で、何があった?」
「まあそう焦るなって」
ぐい、と茶を半ばほど飲み干し佐藤は切り出す。
「俺のダチにトイレの花子さんが居てな。ジモ子さんっつーんだがこないだ結構やばめの厄介ごとに巻き込まれてたのよ」
偶然関与することができたが、もし見過ごしていればどうなっていたか。
溜息交じりに語る佐藤を五人はじっと見つめる。
「それでまあ、丁度良い機会だと思ってさ。
何かやべえことに巻き込まれてねえか俺の交友関係を改めて調べようと思ったわけ」
ここまで言われれば察しもつくというもの。
改めて調べてみたら、あったのだろう。厄介ごとが。そしてそれはこの場に居る人間に関わりのあること。
「まず手をつけたのが光くんだ」
「……暁光。君が世話をしている子供の一人だったか」
「ああ」
「おい待て。あの子に何か厄ネタあったか?」
「佐藤くんほどじゃないにしても私らだってそれなりに付き合いはあるけどそんな感じは」
「ええ。偶にうちにも他の子と一緒に来たりするけど特には」
私的な交友のある高橋、鈴木、千佳が首を傾げる。
佐藤は曖昧な笑みで三人のリアクションを流しながら続けた。
「光くんは分類上は超能力者に区分けされるわけだが……そのルーツは何だろうな?」
「ルーツって」
「……背景がない、分からない超能力者なんて別に珍しいものでもねえが」
高橋の言葉は正しい。
魔法、魔術など既存のどの体系にも属さない異能持ちは大枠として超能力者に分類される。
そこから背景によって星の落とし子など更に区分けされるが大枠でしか括られていない者は大勢居る。
光もその内の一人なわけだが、
「ここで話題に上がったってことは違うんだな?」
「ああ。前々から気にはなってたんだ。ただ特に嫌な予感とかもせんかったからな」
放置していた。ある程度、実力がついて壁に行き当たった時にでも調べてあげれば良いだろうと。
実際、差し迫った問題があるわけではないと佐藤は断言する。
「あの子が自分や周囲を害する類の爆弾ではなかった」
ただ、と佐藤は渋い顔で言う。
「……じーっくり調べてみたら俺らとしては無視できないものが見つかっちゃったんだわ」
「佐藤くん、まどろっこしいよ。ハッキリ言ってくれないか?」
「ああうん。じゃあもう言うけどさ。あの子にはそこの馬鹿二人が創り出した人造神の残骸が溶け込んでる。大体七割ぐらいか?」
ひゅ、と全員が息を呑む。
全能、人を救うもの。人が持つ神というものへの普遍的なイメージを具現化した存在、それが人造神だ。
混沌の軍勢と真世界が掲げる理想実現の要でそれを用いて柳と鬼咲は世界の理を書き換えようとしていた。
と言ってもイメージを具現化するだけでは世の理を改変するには足りない。
だから理を書き換える場である地球。その触覚とも言える星の落とし子の頂点たる千佳を狙っていたのだがそこはまあ置いておこう。
「アレの誕生自体は俺と千佳さんが阻止をしたが」
死産した未熟児のような形で世に顕現はしてしまった。
そしてその骸から生まれた天使と名づけられた異形の群れとの戦い。
それが若き佐藤と千佳の実質のラストバトルになり佐藤たちは勝利した。
「……殲滅し終えた後で神と天使の骸は砕け散って雪のように東京に降り注いだのは覚えてる」
でも、と続けようとする千佳に佐藤は頷く。
「政府や互助会も馬鹿じゃねえ。ちゃんと影響は調べた」
「そうよね。結果は異常なし、だったはず」
元が人の想念から生み出されたもので神という色を帯びていたが死産したのでそれも完全ではない。
実質無色透明の欠片のようなもので放置していてもいずれ人の心の海に還る。それが専門家の結論だった。
「ああ。実際、人造神の欠片絡みで問題が起きたことはなったからな」
とうに終わったことと考えてもしょうがない。
実際、俺も調査をするまではまるで頭の中になかったと佐藤は溜息を吐く。
「細かい経緯は個人の愉快じゃねえ事情も絡むから省くが光くんを身籠る前のお袋さんに欠片が集積されて」
「……それが暁光の中で結実した、と」
「そうだ」
「確か彼の家庭事情は……ああ、その人格はそうと願われ――――」
独り言のように思考を口にした柳だが、
「そこまでにしな」
佐藤の指先から放たれたビームで言葉が遮られた。
「良い子に育ったのはお袋さんや周囲の優しい誰かの愛情を受けて育った結果だ。違うか?」
「……そうだな。君が全面的に正しい」
「何でもかんでも理屈をつけようとするのは悪い癖だぜ」
本当に何もかもに理屈をつけられるのなら、だ。
ガキにケチをつける前に俺という存在について語ってみせろと佐藤は柳をせせら笑う。
「……で、佐藤くんはどうして私たちを呼んだの?」
「そうね。あなたなら秘密裏に残骸だけを消し去ることもできたんじゃない?」
「できるかどうかで言えばできるよ。ただまあ、俺なりに色々考えてるのさ」
空気が変わる。これまでは前提。いよいよ本題に入るらしい。
「お前らに一つ、提案がある」
とまあこんな感じです。
オジサンがアホほど強くなければ初期に処理された残党によって親子拉致。
オジサンは梨華ちゃんだけは奪還するもどっかに隔離されて戦線離脱して光くんと梨華ちゃんによる物語が始まってました。
でもそうはならなかった。ならなかったんだよロック(ry




