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【書籍化】主人公になり損ねたオジサン【12/10発売】  作者: カブキマン
アフター

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地元の花子さん⑤

「……ねえ、リカ思うんだけどこれ絶対罠だよね?」


 ジモ子の住まうタワマンから十数キロ離れた場所で四人の都市伝説が臨戦態勢に入っていた。フェイカーズだ。

 と言ってもやる気満々なのはフェイ子だけで他三人はあまり乗り気ではない。

 自分たちがオリジナルになるため同胞を消す。そのことに躊躇いはないが見え透いた罠に飛び込むほど蛮勇ではないのだ。


「あのね。掲示板で煽られたから考えもなしに殺しに来たと思ってるワケ?」

「「え、違うの?」」


 首無しライダーも声こそ出していないが切断面から溢れる黒いモヤで【え、違うの?】と同じリアクションをしている。

 最高幹部三人のあんまりな反応にフェイ子はこめかみを抑えながら意図を語る。


「……まあ、そういう気がないわけでもないけどさ。関東進出を果たす上で投資の花子との衝突は避けられないワケ」


 同じ都市伝説が山ほどいる界隈だ。特定個人を指す際は●●のという前置きがつく。

 ●●に入るのはその花子の有名な逸話だったり所在地だったりでジモ子は投資で稼いでいるから投資の花子と呼ばれている。


「投資の花子は平成元年生まれで花子界隈ではぺーぺーだけど実力と関東での影響力はさながら芸能界のご意見番レベル」


 トイレの花子さんの歴史は原型である“三番目の花子さん”を含めると大体、七十年ぐらいだ。

 そこから考えるとジモ子さんは三十代でまだまだ若手と言えよう。

 しかしフェイ子が言ったように実力と東での影響力は花子界隈でもかなりのもの。


「あの女の性格からしてあたしらが東に攻め入ればまず間違いなく矢面に立つ」

【つまり何か。今回貴様を煽ったのは矛先を自分に向けさせるため?】

「そう。結局遅かれ早かれなワケ」


 であるなら速攻をかけるのが最善と言わずとも次善ぐらいにはなるだろうとフェイ子は言う。


「経済力で言えばあっちのが断然上。時間を与えれば与えるほど不利になる」


 フェイ子の見立ては間違っていない。

 ジモ子はフェイカーズの存在を知ってから情報収集といずれ来る衝突に向け戦力を揃えようとしていた。

 だが前者はともかく後者はあまり上手くいっていなかった。

 フェイカーズは都市伝説にとって脅威ではあるが人間や他の怪異にとっては違うからだ。

 人に仇成す存在であれば互助会も積極的に動いただろうし、他の人間も動いたはずだ。

 だがそうでないならフェイカーズの実力を考えれば衝突には二の足を踏んでしまう。

 五億という大金にも関わらずカワサキしか依頼を請けていないのがその証左だ。

 まあ、そこらの事情を鑑みてまだ金額を釣り上げられると踏んでいた者も居るには居るのだが。


「だからあたしらが仕掛けるならそれなりに勝算が見込める程度に力をつけた今しかないの」

「い、意外と考えてたんだ……リカ、反省」

「私も。ごめんよ、花子」

「良いわよ。理解したんなら腹は括れるわね?」


 三人が頷いたのを確認し、フェイ子は力強く地を蹴り夜空に躍り出た。

 印を組み祝詞を唱え術式を走らせジモ子が住まうタワマンを中心に異界を形成しようとする――――が。


「これ、は」

「花子!?」


 タワマンを基点に異界が組み立てられていく。

 しかしそれはフェイ子が編んだ設計図通りにではない。

 自分でさえ気付かないほど巧妙に設置された複数の術式が異界を組み立てているのだ。

 しかも、


「ハメられた! このレベルの術者を雇ってるワケ!?」


 その形成に使っているリソースはフェイ子が術を発動するために溜めていたもの。

 発動寸前で完全に練り上げられていた魔力や呪力をまんまと掻っ攫われてしまった。

 相手の力を吸い上げる術、相手の力を利用する術、東西問わず様々な体系で存在する技術だ。

 しかしそれは大概、格下相手にしか通用しないもの。

 術者としての力量は敵の方が上であることを見せ付けられたフェイ子は歯噛みするも直ぐに何かに気づき叫ぶ。


「ッ……リカ! 花子! ライダー!!」


 だが遅い。三人の姿が掻き消える。どこか別の場所に飛ばされたのだ。


「探知は……無理そうね。術者を倒すしかない、か」


 動揺するもフェイ子は直ぐに精神を立て直すと真っ直ぐタワマンの屋上へ向かった。


「あんたがこの異界を作り上げた術者?」


 屋上の中心で待ち受けていた黒セーラーの女に語り掛ける。

 黒セーラーの女、カワサキはフェイ子の問いに小さく頷き返す。


「はじめましてフェイ子さん。私はDr.カワサキ。ドクターとでもカワサキとでも好きにお呼びください」

「フェイ子……?」

「既に察していると思いますがリカちゃん人形さんと口裂け女さんは隔離させて頂きました」


 フェイ子のような術者であれば隔離されても自力で合流できるが物理主体の二人ではまず不可能だ。

 となるとフェイ子が助けに行くしかないのだがそうするにはカワサキが障害となる。

 ゆえにフェイ子は真っ直ぐ異界を作り上げた術者であるカワサキの下にやって来たのだ。


「やるじゃん――――うん? 二人?」

「ああ。首無しライダーさんは別口です。佐藤さんが遊びたいようなので勝手に連れて行きました」

「さと……佐藤? まさか、佐藤英雄!?」


 フェイ子はジモ子と佐藤の繋がりを知らなかった。

 ジモ子が表だって関係をアピールしていない。

 佐藤の縁者となれば下心を持つ者が便宜を図ろうとするからそれを嫌ったのだ。


「はい。仮に私を倒しても次は佐藤さんが出張るだけ。どう足掻いても詰んでるわけですが……続けます?」

「ふ、ふふふ」


 まさかまさかの展開。それなりにあったはずの勝算は夜に溶け幻となった。

 もう笑うしかない。だが、諦めるつもりは毛頭ない。


「舐めるなよ人間! 最強が居る? だから何? その程度で折れるなら始めから唯一無二なんて目指さないっつーの!!」


 すぅ、と息を吸いフェイ子は怨念を吐き出す。


「この世に生を受け、真っ先に自分だけの名前を送られる人間(アンタら)には分からないでしょ?」


 ネガティブを振り撒き同情を買うためではない。自らの性質を利用して力を高めているだけだ。


「名前というものは個の証明。我と彼を隔てる大事な境界。それがあるから自分は自分で在れる」


 その奇跡のような幸福を知らぬ人間程度にこの辛さは分かるまい。

 都市伝説は名前を変えられない。怪異であるからこそ人間よりも強く自らの名に縛り付けられてしまう。

 仮にフェイ子が洒落た名前を自分でつけたとしてもどう足掻いてもそれを自分の名とは認識できない。

 そうであると主張すればするほどに自己との乖離に悩まされる。


「どうせくたばるとしても前のめりに……あたしが最後まであたしであったことを証明する」


 ギュッと拳を握りしめフェイ子は叫ぶ。


「来なさい最強! あんたにあたしという存在を刻みこんでやる!!」

「や、まず相手するのは私なんですけど」

「わ、分かってるし! こういうのは流せよ空気読めないわね!!」


 敵意も何もない実にフラットなカワサキの様子にフェイ子は早速、出鼻を挫かれた。

 それがあまりにも悔しくて……。


「ってか大体何? あんたとっくのとうに成人してんでしょ? セーラー服とか恥ずかしくないワケ?

え、何それ? 和風伝奇系ヒロインでも気取ってるワケ? 正直痛いんですけど」


 しかしカワサキはどこふく風。


「はあ。正にそれですね。佐藤さんはそういうのがお好みなようで。この刀も似合うからと渡されまして」


 ぽんぽんと腰の刀を叩くカワサキ。

 最強の性癖かよ……どうでも良いわ!! まるで堪えていないカワサキに歯噛みするフェイ子。


「あ、そうだ。ファッションと言えばあなたに一つ質問があるんですけど」

「……何よ」

「実は佐藤さんがフェイ子さんのファッションについて熱弁を振るっておられたんですが」


 そう前置きしカワサキは佐藤が言っていたことを一字一句違えず伝える。


「これ、合ってます?」

「……」

「私も和装はまあ、それなりに分かる方だと思いますが洋装は……フェイ子さん?」


 俯きぷるぷると震えていたフェイ子が顔を上げ、涙目で叫ぶ。


「こ、ここここ殺してやる! あんたも佐藤もぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 何とも締まらないまま戦端は開かれた。ちなみにカワサキに悪意は一切ない。

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主人公になり損ねたオジサン 12月10日発売

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今回言及された佐藤の感想もそうなんだけど、それは何か違うだろって上手く言語化出来ない感情や状況をすんなり噛み砕いて説明出来るのほんと凄いと思ってる
[一言] 元発言者が悪意しかないじゃん( ゜д゜) というか存在意義に関わるから地味に効いてそう
[良い点] 黒髪セーラー服に日本刀…! まさに最強の(男がオススメする最強の)性癖かよ…!
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