さんをつけろよデコ助野郎!
218先生から表紙イラストを頂きました
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話すことは話し終えたので後はだらだら飲むだけ。
今日は泊まりのつもりなので俺はもうすっかり自宅で寛ぐモードに入っていた。
「別に泊まるのは問題ねえが二日連続で良いのかよ」
「良いの良いの。朔ちゃんも宇宙人の接待大変だったから羽根伸ばしておいでって言ってくれたし」
「君が羽根を畳んでる時って何時だよ」
「ヒロくんには羽根を畳むという構造がないって説もあるわ」
ド失礼なやっちゃのう。
「しかし何だい。朔夜くん……朔夜ちゃんが女の子ってことはだ」
「あん?」
「実は面白おかしくて優しい親戚のおじさんに、なんて甘酸っぱい展開もあったりするのかい?」
と鈴木。
からかうような、それでいてどこか真剣みを帯びた目だ。他二人もそう。
まあ大人としては見過ごせん問題だわな。
「残念ながら俺は好みじゃねえとよ。俺も期待してたんだがねそういう展開」
「……ハッ、世の中そう甘い話はねえってことだ」
「まあそれはそれとして現役美人JKと一つ屋根の下ってのは男として誇らしくはあるがな」
「わかんないのは私が女になったからなのか」
苦笑しつつ鈴木が寝転がってる俺の口に野菜スティックを運んでくれた。
ちょっと兎になった気分だ。つかこのディップうめえ。これはマヨに……ニンニクと味噌、か?
ビールが、ビールが欲しい。そんな俺の願いを汲み取ったのだろう。千佳さんがひょいと指を躍らせた。
「お、すまんねえ」
テーブルの上に置いてあった俺のビールから中身が浮かび上がり自動的に俺の口へ。
「横着にもほどがあんだろ」
「プライベートでの宅飲みやからええやろ」
これが外でなら俺だって気ぃ遣うわ。
「にしても」
テレビの画面からは高橋が撮り溜めした教育番組やら児童向けアニメやらが垂れ流されている。
高橋の趣味ってよりは職業柄だろう。保育士だからな。
子供の話に着いて行くとか園で流すのに丁度良いのを探すとか色々あるんだと思う。
さっきまでは緊張してたからかあんまり気にしてなかったが、
「すっげえなついなコレ」
知らんはずなのに何だか懐かしさを覚えるのはフォーマットが似通っているからだろう。
昔と今じゃ教育というものへの捉え方も大きく変化しているはずだが変わらないとこもあるしな。
「言われてみれば。何時まで観てたか正確なところは分からないけど」
「小学校低学年ぐらいまで観てたとして……もう三十年近くかな?」
何かこう昔の記憶が色々蘇って来るわと鈴木と二人しみじみ頷く。
「私は十年ぐらいかな。自分の幼少期には縁はなかったけど梨華が小さい時は一緒に観てたし」
雑談の流れでさらっと出ただけなのだろうが俺はちょっと興奮した。
どこにって? 何て言うのかな。一児の母なんだなというのを改めて実感して……ねえ?
「アンパンさんとかヘビロテだったわ」
「アンパンさん! これまたなっついなオイ!!」
いや今も放送されてるのは知ってる。国民的長寿アニメだからな。
でもそれを見る機会は大人になってからあったかと言えば皆無だろう。
「私も観てた記憶はあるけど……高橋くん、今の子らにもやっぱり人気なの?」
「ド定番の一つだよ。こればっかりは外れる気がしねえ。居酒屋言って生中が選択肢に入るのと同じぐらいの鉄板だ」
文明が崩壊でもしない限りは外れそうにねえなあ。
「梨華はバイキンくんが好きだったのよ」
「へえ、ヴィランに感情移入しちゃうタイプなのかい?」
鈴木の言葉に千佳さんは苦笑を浮かべる。
「いやそういうんじゃなくて……あの、何だろ。バイキンくんがアンパンさんにシバキ倒されてるとこが好きなの」
「勧善懲悪、って意味じゃねえよなあ。それならバイキンくん推しにはなんねえだろうし」
「調子こいてるのがボコられてべそかくのが好きってこと?」
「そんな佐藤くんじゃないんだから」
どういう意味じゃい。
「そういう留飲を下げるみたいなのともまた違って」
小さい子供の発言を私なりに解釈したものだから合ってるかは分からないんだけど。
と前置きし千佳さんは梨華ちゃんのバイキンくん推しの理由を語り出す。
「多分、安い悪事を働く小悪党が好きなんだと思う。それでその好きはやられるところまでがセットなの。
やられてスカッ! とするわけじゃなくてそうそうこれこれお前はそれで良いんだみたいな後方理解者ヅラしてたわ」
だから一部劇場版のバイキンくんは解釈違いなのと千佳さんは言う。
劇場版のバイキンくんが解釈違いってどういうことやねん? と首を傾げる俺と鈴木。
「お前らアンパンさんを小さい子供が観るアニメだと思ってんだろ」
「実際そうだろ」
「うん。自然と離れちゃうもん」
舐めてるわけでも悪いと思ってるわけでもない。
むしろちゃんと年齢層を絞った作りをしてるわけでマーケティングという観点では正しい。
「浅え見識だ。間違っちゃいねえがそれじゃ五十点しかやれねえよ」
やれやれと大仰に肩を竦める高橋。
何やコイツ。どの視点でもの言ってんだこの馬鹿は。
「西園寺は分かるだろ?」
「ええ。ヒロくん、鈴木くん、二人が小さい時のことを思い出して?」
「とても可愛いお子様でした」
「生意気な子供だったんじゃないかな」
「そうじゃなくて。一人でアンパンさん観てた? 違うでしょ?」
「「あ」」
「私も家事の合間に大人しくしててもらうためにアニメ流してたりはしてたけど」
だからってずっと一人で観させるわけではない。
終われば梨華ちゃんの下に戻って一緒に鑑賞していたと千佳さんは言う。
「確かに児童向けだし年齢が上がればちゃちいものに思えたり気恥ずかしさを覚えて離れはする」
「だから低年齢向けっていうのも間違いじゃないの。でも一緒に観ている大人も想定した作りになってるのよ」
幼い子供には分からないし、ちょっとませた子供にも理解し難い。
だが大人の見識でしっかり観れば考えさせられるような話も多いのだという。
「劇場版なんて正にそう。五歳六歳の子が一人で映画館に行けるか?」
無理だ。チケットを買うことさえできないだろう。
もし映画館でそんな子供見かけたら親は何してんだって思うのが当然だ。
「なるほど理解したよ。劇場版ともなれば大人もそれなりの時間拘束されるからね」
「だから劇場版は特に大人の鑑賞にも耐え得るストーリーラインになってるってわけだ」
「そういうこと。で、話を戻すけど劇場版のバイキンくんはわりとガチめにアンパンさんを追い詰めたりするのよ」
それが梨華ちゃん的には違うこれ! なんだとか。
「何ならとある劇場版のバイキンくんの悪党っぷりは柳や鬼咲以上だったわ」
「マジか。今度アイツらに会ったらバイキンくんと比較して小悪党っぷりを説教したろ」
「「やめてさしあげろ」」
「言っとくが小物の手下やってたお前らもバイキンくん以下だからな」
何気安くバイキンくんとか呼んでんだ。
バイキンさん、もしくはバイキン先輩だろが。立場を弁えろ。
何てこった。これが怪しいカルトに被れて親友にチン●もぎ取られた悲しい存在。
「二度とくんづけしようなんて思い上がるんじゃねえ」
「「コイツ……!!」」
しかし何だ。こんな話を聞かされたら気になるじゃねえか。
「高橋、ノーパソ借りて良い?」
「良いけど何するんだ?」
「いや配信で劇場版見れねえかなって」
「あ、私も気になる」
「私も久しぶりに見たくなったし賛成」
そうして俺たちは朝までアンパンさんマラソンに勤しんだ。




