その出会いは運命のようで
書籍化の情報について中々お伝えできず申し訳ありません。
出しても良いという情報があれば活動報告にてお知らせしますのでお待ち頂ければ幸いです。
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それと活動報告なくてもネタが思いつけば普通に小説投稿することもあります。
今回のネタは書下ろし特典SSにと執筆していましたが文字数の関係で没にしたものです。
時系列としては二話『あのヒトは今』の前になります。
一人暮らし。大人からすれば特別なことじゃないんだろうが子供の俺にとっちゃ別だ。
炊事洗濯掃除。家事全般を一人でやらなきゃいけないってデメリットはある。
大人なら仕事から帰ったら家事をしてとかすげえかったるいのかもな。
だがガキの俺からすればそんな不便が気にならないほど一人暮らしはワクワクに満ちている。
去年の三月頭ぐらいに親父とお袋が海外に行ってから一年ちょっと。未だ俺の一人暮らしはキラキラ輝いている。
今もそう。俺は一人暮らしで得られるメリットを堪能している真っ最中だ。
「~♪」
時刻は午前二時。深夜だ。俺は少し遠くのコンビニを目指して夜の街を歩いている。
親と一緒ならこうはいかない。起こさないようバレないようこっそり家を抜け出してとか色々気にしちまう。
だが一人暮らしならそんな心配は要らない。好きな時に好きなように気兼ねなく出かけられる。
特別、何かがあるってわけでもないのに夜の街ってのは何でこうもワクワクするんだろうな。
一応、ポリさんに見つかって補導されるというリスクもなくはないんだが……近辺のポリさんとは大体、顔見知りだしな。
見つかってもコンビニで買うもん買ったら直ぐに帰ると言えば軽い説教だけで済むだろう。
「んお?」
ショートカットで公園を抜けたところで、ふと肌がざわついた。
四月でまだ夜は少し冷える日もあるが今日は暖かい。半袖でも余裕なぐらいだ。
奇妙な感覚に導かれるがまま、俺は自然と視線を上にやっていた。
「――――」
少し遠くにあるマンションの屋上にある貯水タンクの上で視線が止まる。
どこか気難しい黒猫を想起させる黒髪ショートの女の子がタンクの淵に佇んでいた。
その視線は遠くに向けられていて俺のことなんかまるで気付いちゃいない。
(…………可愛い)
ドキドキと高鳴る胸。可愛い女の子というなら幾らでも見て来た。
単純な美醜だけで言えばあの子よりも可愛い子は知っている。隣の席の読モやってる白銀とかな。
だが白銀と駄弁っていてもこんなに胸がトキめいたことはない。パンチラゲットした時はドキっとするけどそれは性欲だしな。
自分でもわりと気持ち悪いと思うが、
(っべえ、感じちゃってるよ運命)
夜の魔力もあるんだとは思う。でもそれ以上に不思議な縁を感じているのだ。
「ぁ」
たん、と女の子がタンクを蹴って跳んだ。
月をバックに跳ねる姿は兎のようで……あ、パンツ見えた! グレーのスポショ!
昨日見た白銀のえっぐいシースルーと比べりゃ雑魚も雑魚な雑魚パンなのに俺はこの上なく興奮……は?
「え、は?」
興奮は一瞬で吹き飛んだ。少女の姿が掻き消えたのだ。文字通り煙のように。
今の俺はさぞかし間抜けなツラを晒していることだろう。
頬を抓る。痛い。夢じゃない。
「き、狐にでも化かされたんか?」
……だとすればそれはそれで。
だって狐の嫁さんって毎晩旦那の性癖に合わせてくれるイメージあるしな!
「はぁ」
しばしの間、ぼーっとしていたが当初の目的を思い出す。
小走りでコンビニに向かいラーメンとお菓子を買い込み帰宅。
腹が減って眠れないから夜食をと思って外に出たんだよ俺は。
家に帰りちゃちゃっとラーメンを作りババ! っと完食。食後のデザートを食べて歯磨きをすれば後はもう寝るだけ。
何時もならお腹いっぱいになれば直ぐに眠れるのに……。
「寝れねえや」
そうして眠れないまま朝を迎えた。
微熱に浮かされた気分のまま学校に行って授業中もボーっとしてて結局、放課後までそのままだった。
「ヒデ、今日何かえらいボーっとしてっけど何かあったん?」
「あー? いや別に」
「別にってことはねえっしょ。西の芸人かっちゅーぐらい常時べらべらくっちゃべってる英雄が大人しいとかあり得ないもん」
「そうそう。森センも心配してたべや」
「何でもねーって」
流石に昨夜の出来事をそのまま話す勇気はない。
だって自分でもわりとガチめにキツイと思うもん。話せばこんなん絶対イジリの的になるだろ。
「ってかお前、これ大丈夫なんか?」
「大丈夫大丈夫」
ダチの一人から俺好みのアクセサリーショップを見つけたということで渋谷を訪れたのだが……。
どうにも、うん。だって場所が……なあ? ラブホ街だぞ。
いや別にそーゆーとこにショップがないわけでもないけどさあ。
やっぱ競合店がひしめき合ってるとことかのが無難じゃねえかって思うんですよ。
鎬削り合ってるから自然と淘汰されてくわけだし? ここだとそういうバチバチ感なくね? って思うワケ。
「行けば分かるから」
「ったくしゃーねえ。言っとくが俺の目は厳しいからな。ブクロのユーザンとは俺のことよ」
「ユーザンは飯だろ」
などと駄弁っていたら、
「ッッ!?」
強烈な眩暈が俺を襲った。
頭痛や耳鳴りも酷く目を開けているのも辛く顔を抑えその場に片膝をつく。
それから体感で五分ほど。これまでの不調が嘘のように抜けたのが分かった。
「悪い悪い。ちょっと」
ゆっくりと立ち上がり、心配しているだろうダチに声をかけようとして呆気にとられる。
「は?」
誰も居ない。俺を置いて行った? いや違う。
ダチどころか風俗店の客引きやら他の通行人も消えている。
それに何より……風景。空も建物もえらくサイケデリックな色彩になってる。
何かやべえ、本能で過去イチの危険を感じ取っていた。
ここで突っ立っていても何が変わるわけでもない。俺はとりあえず来た道を戻ることに。
駅前近くまで歩いたところで突如、響き渡った爆音? と怒号。
「はぁ?」
空を飛びながら光弾を降らせる男。長い黒髪を触手のように操り群がる男たちを切り刻む女。
渋谷駅前では能力系バトル漫画のような光景が広がっていた。
恐怖、驚愕も当然あったがあまりに非現実的な光景を前にして逆に……何だろう。すごく、落ち着いた。
とりあえずここに居たら危ないしどこかに身を隠そうと思い立ち抗争を繰り広げる集団の目を盗みこっそり駅前を離れた。
(逃げるなら、地下かな? 地上で堂々と真っ向からドンパチやってたし)
付近の地理を思い出しながら地下への入り口を目指す。
その途上で同じようにこの奇怪な現象に巻き込まれたタメっぽい男子二人と遭遇。
片方は優等生っぽいので片方は喧嘩でもしたのだろう傷だらけの不良っぽいの、鈴木と高橋というらしい。
こんな状況なので一緒に行動をと提案すると鈴木は即承諾、高橋も渋々と言った感じで頷いた。
「はぁ。とりあえずここまで来れば一先ずは大丈夫かな?」
鈴木の言葉に同意する。
争いの喧騒が聞こえない程度には距離を取れたからな。
「そんな動いたわけでもねえのにめちゃ疲れた」
精神的なプレッシャーのせいだろう。
「よォ、コンビニあるし一服しねえ?」
「……お前、こんな状況で」
「いや悪くないと思うよ。これから先、何が起きるか分からないんだし水分補給ぐらいはしとかないと」
そんなこんなでコンビニに入店。
「おいお前、何いきなり立ち読みしてんだ」
「コンビニ入ったらまずは立ち読みじゃろがい」
「状況考えろや!!」
「ルーティンだルーティン。こんな時だからこそ敢えて普段通りの行動をすることでだな」
「屁理屈を!!」
と、その時である。轟音が鳴り響き地下の天井が崩落。
天井をぶち破ってホスト崩れみたいな男が落っこちて来た。
「っづぅ……やってくれるじゃないの」
落下の衝撃でちょっとしたクレーターが形成されその中心から男がのそりと立ち上がる。
突然のことに行動が遅れてしまったのは最大のミスだった。
「ん?」
男は俺たちを認識した。こちらにやって来る。
(あ、これあかんやつ)
生存本能、ってやつだろうか。そいつが危機を伝えていた。
だから少しでも生存率を上げるため自分でも驚くぐらい冷静に、俺は行動を始めていた。
「素養持ちが巻き込まれてるとか……雑な仕事しやがって」
中に入って来た男が俺たちを見ながら溜息を吐いた。
杞憂であってくれ。そんな淡い期待は往々にして裏切られるもので。
「おいアンタ、何がどうなって」
「運が悪いな。今から外に出すのも面倒だし“なかった”ことにさせてもらうぜ」
その瞳が剣呑な色を帯びると同時に俺は先ほど調達した殺虫剤を男の顔面目掛けて噴射。
「!?」
あんな勢いで落っこちて来たのに無傷。頑健さは疑いようもない。
だが人間。突然、生理的な反応を誘発されたら? いきなり顔面に殺虫剤噴きかけられたら多少は行動を遅らせられるのでは?
俺は賭けに勝った。
「逃げるぞ!!」
真っ先に走り出す。男の横を通り過ぎる際、首筋に寒いものが走った。
咄嗟に身を屈める。頭上を何かが凄まじい勢いで通り抜けたような気がした。多分、腕を振ったんだろう。
咄嗟の行動だったからだろう。またしても行動に遅延を挟めた。お陰で高橋と鈴木も逃亡に成功。
(……運が良い)
スペック的に直ぐ追い付かれる。そう思っていたが殺虫剤が良かった。その後の回避もか。
男は気分を害したらしくゆっくりとこちらに向かって来るのが見えた。じわじわなぶり殺しにしてやろうって腹だろう。
それはこの上ない好機。つってもゼロが限りなくゼロに近いがゼロじゃなくなった程度のもんだが。
「大人しく殺されるのと抵抗するのどっちが良い!?」
「「決まってるだろ!!」」
「OK! んじゃ俺の指示に従ってもらうぜ! 真っ先に動けたのは俺だからなァ!!」
手短に話をまとめ、ここに共同戦線が成立。俺たちの抵抗が始まった。
時間にして十数分ぐらいか。極限状態でフルに頭を回して何もかもを総動員したが駄目だった。
分かっていたことだ。慢心を利用しても抵抗を続けていればその内、消えてしまうと。
明確な打開策もないまま逃げ続けているだけだしいずれは限界が来ると。
「……高橋、鈴木、十秒は奴を引き付けられる。その間にできるだけ遠くに逃げろ」
「はぁ!?」
「何を」
「チャンスは一度きり。見逃すなよ」
逃げてどうにかなるとは思えないがひょっとしたら奇跡が起きるかもしれない。
億分の一ぐらいかもしれねえが、抽選チャンスを作るぐらいはできる。最期の隠し玉だ。
奴のヘイトは完全に俺に向いているから真っ先に俺を殺したいはずだし……うん、多分やれる。
「随分と手こずらせやがって……あ゛ぁ゛!? このクソガキどもが!!」
「お褒めの言葉あざぁあああああああっす!!」
腕を腰の後ろで組んで顔を上げたままケツを突き出すようにお辞儀。
ひく、と更に奴の顔がひくついたのが見えた。
「……状況が分かってねえのか?」
「分かってるよ。俺は死ぬ。それはもうどうしようもない」
だが、
「テメェに一生もんの恥を刻んでやれたんだ。良い冥途の土産ができたよ。
ククク……俺らとアンタ、子供と大人どころか象と蟻んこぐれえのスペック差だぜ?
だってのに十分以上も良いように翻弄されちゃってさぁ! なあオイ、どんな気持ち!? 聞かせてくれよ!!
俺なら情けなくてその場で切腹するレベルの屈辱だわ。ああでも良かったな? 目撃者誰も居なくてさ!!
テメェの恥は他人に知られることはねえ。だが一生消えねえぞ、ふとした瞬間必ず思い出す。この屈辱の記憶をなァ!!!」
ゲラゲラと嗤いながら中指をおっ立ててやると奴の表情は“無”になった。
怒りを通り越して、ってやつだと思う。右手にオーラのようなものが集中していくのが見て取れる。
……ああ、良いぞ。来い、そうだ。もっと近付け。
「「!?」」
奴と俺の距離が半ばほどまで縮まったところで天井を突き破って影が飛び込んで来た。
俺と奴の間に割って入るように現れたのは、
「――――無事みたいだね」
昨夜の女の子だった。
彼女の姿を見るや男の顔に焦りの色が浮かび上がる。
「お前は……西園寺千景!?」
助かった。そう悟ったがそれよりも何よりも、
(はわわわわ! やっぱこれって! これってェ!)
この状況で運命感じない奴居る!? 居ねえよなぁ!!
「……」
夢から浮上する。時刻はアラームに設定した時間よりも少し早いが問題ない。
今日は初っ端から謝罪参りだからな。早めに起きて覚悟を決めないと。
……それにしても、嗚呼、懐かしい。懐かしい記憶だ。
そう、あれが俺の……いや、俺たちの始まりだった。あそこから全てが始まったんだ。
「――――これでくっつかないとかある!?」
運命的な出会いを経て、その後も順調に絆を深められそうなイベントを重ねてたんだよ!?
最終決戦前とかもさぁ! すんげえ良い雰囲気だったのにさぁ!!
「こんなのってないよ……ッ!!」
俺は泣いた。




