告白 前編
アフターと章分けしておきながら
後日談感全然ない虎の話しか投稿してないと思ったのでそれっぽいのを。前後編です。
「朔ちゃん! お父ちゃんが帰って来たでぇ!!」
「おかえりなさい英雄おじさん。でも何そのテンション?」
「何て何時も通りのお父ちゃんやろがい。何とんちきなこと言うとんねん」
「とんきち抜かしてるのはそっちでしょ。正気に戻りなよ」
ぱしゃ、と魔術で顔に水をぶっかけられる。
え? 何この塩対応? 他の奴ならともかく朔ちゃんにやられるとすっげえ凹むんだが?
「あぁ、やっと正気に戻ったね」
「いやだから俺は最初から――――はっ!?」
言ってて気付く。俺は先ほどまで確実にWESTな風に蝕まれていた。
原因は……いや、考えるまでもねえわ。あの虎キチ星人たちのせいだろう。
虎キチ星人たちを日本まで連れて行き虎我家のお墓に吉祥の遺骨と遺品を納めその後は日本政府との仲立ち。
一先ず虎キチ星人たちとの国交は日本が代表して行うことで話がまとまった。
その後は政府と互助会に正式な依頼として賓客の接待を頼まれ今日まであちこち回ってガイドの真似事をしていたのだ。
あちこち(主に蛮神関連)の上に全員が全員、虎キチだからな。気付かぬ間に俺も浸食されていたようだ。
ちなみに仕事だがペーパーカンパニーを使って出張という体を取ってくれた。
「というか何があったの」
「いやちょっと宇宙人の接待してたら頭おかしくなってたみたい」
「えぇ?」
「それよりお客さんおるんけ?」
靴を見る限り光くん梨華ちゃんサーナちゃんの何時メンっぽいが。
表の友達じゃないなら気ぃ利かせて外出とく必要はないだろう。
「……ちょっと英雄おじさんに話があってね」
「俺に?」
「うん。お疲れのところ悪いけど、良いかな?」
「勿論。お疲れつってもぶっちゃけ観光してたようなもんだしな」
朔ちゃんにスーツの上着を預けリビングに。
表情を見るに話があるのはサーナちゃんで他は付き添いっぽいな。何やろか?
「お疲れのところすいません」
「子供が気にすんねい。そいで俺に話ってのは何だい?」
「……」
サーナちゃんが難しい顔で黙り込む。誰の目にも明白な緊張が見て取れる。
急かすような真似はしない。どっしりと待つ。
やがて彼女は光くんたちに促され意を決したように頷き、口を開く。
「実は私、人間じゃないんです」
「ううん?」
そりゃまあ先祖に死神おるし純粋な人間とは言えんやろ。
だがそういうことではないらしく少しの逡巡の後、サーナちゃんは告げる。
「――――私はハデスの娘なんです」
「…………んんんんんんんんんんんんんんんんんんんん?」
いやいやいや笑えない冗だ、
「英雄さんが少しばかり本気を出して探られればお分かりになるかと」
マジな顔に気圧されとりあえず、やってみる。
やってみた結果、
「わぁ」
何時か聞いたペルセポネの言葉を思い出す。
行方不明になっていたハデスの冥府の王としての権能。それが確かにサーナちゃんの中に存在した。
奪われたのではない。正式に譲渡されているということまで分かってしまう。
しかもこれ、多分、サーナちゃんの実年齢は……。
「――――この命以外なら如何なる咎も受ける所存です」
俺は即座に土下座した。
死んではやれん。だが幼子から親を奪った罪は償わなければいけない。
例えハデスに非があったとしても、だ。俺や他の連中にとっては傍迷惑な骸骨爺だったかもしれないが子供からすれば、
「……では責任を取って私をお嫁さんにする、というのはどうでしょう?」
「サーナちゃん?」
梨華ちゃんがすっげえ顔してる。
いやまあ分かる。こんな重苦しい話ん中でいきなしこんなジョークぶっぱされても……。
「……冗談です。こほん。英雄さんを責めるつもりは毛頭ありません」
「しかし」
「父には父の道理がありました。人には人の道理がありました。これはそういうお話でしょう」
「だとしても私的な感情は別だろう?」
「私は英雄さんを好ましく思っています。それが私の個人的な感情です」
二の句を告げさせない強い言葉だった。
「それに。ある意味、英雄さんは私の呪縛を破壊してくれた恩人とも言えますし」
「呪縛?」
「私が生み出されたのは父に万が一が起きた際の保険なんです」
そう言って生い立ちを語ってくれたのだが……正直、軽い調子でするような話じゃないと思う。
「……あの骸骨」
「最初は自分の生まれた意味に疑問すら持ちませんでした。しかし人として暮らす内に私にも情緒というものが芽生えた」
借り物の思想を受け継ぐつもりは毛頭ない。サーナちゃんはキッパリと言い切った。
安堵すると同時に複雑なものも感じてしまう。
ハデスがロクでもない親父だったことは理解した。だが、もしサーナちゃんの存在を俺が把握していたのなら……。
「あの馬鹿骸骨を徹底的に調教して立派なマイホームパパにしてやれたかもしれない」
「佐藤さん佐藤さん。よそ様の家庭の父親を調教とか言い出すのは如何なものかと」
「というか話を聞くにサーナちゃんのパパさん相当な頑固者だったんでしょ?」
「それをマイホームパパにってそれもう人格破壊なんじゃないかな」
「いやぁ、アイツにはそれぐらいしても許されるだろ」
マジに迷惑かけられっぱなしだったし。
ハデスとその取り巻き以外は損しない八方お得なIFだと思う。
「こう言うのも何ですが父がそういう感じになるのは普通に気持ち悪いです」
は、ハデスくん……。
「それはさておき、改めて謝罪を。今まで黙っていて申し訳ありませんでした」
「いや良いさ。悪意があったわけじゃないんだし」
話を聞くに最初は使命感。梨華ちゃんたちと接して情緒が育まれてからは罪悪感を抱いていただろうしな。
サーナちゃんが俺を咎めるつもりがないように、俺もサーナちゃんを咎めるつもりはない。
それは先に話を聞いていたであろう他の子どもたちも同じだろう。
「話まとまった感じ? じゃあ私から言わせてもらうけどさあ。オジサン、あれはどうかと思うよ」
「あれ?」
梨華ちゃんが渋い顔で苦言を呈するが心当たりはない。
しかし、他の子らは別なようで「あー」みたいな顔をしてる。
「タナトスさんたちのことですよ佐藤さん」
「ソシャゲのキャラでもあそこまでじゃないよオジサン。確実に規制に引っ掛かるでしょ」
「全年齢ソシャゲならアウトかもだが18禁ならアレぐらいはいけるっしょ」
「英雄おじさん、ソシャゲの話は良いから」
あ、すいません。
「年頃の女の子があんなんに身の回りの世話されるとかどんな罰ゲーム?」
仰る通りだわ。返す言葉もありません。
とは言え、だ。アレは罰でもあるからな。
今にして思えばサーナちゃんも噛んでるんだろうが話を聞くにサーナちゃん自身は流されてただけっぽいしな。
「いやむしろ五歳児を神輿にしてアホなことやらかそうとしてたと考えると」
もっと罰を追加しても良いんじゃねえかという気すらしてくる。
俺の言葉に子供らが盛大に顔を引き攣らせた。
「とは言えサーナちゃんの精神衛生上よろしくないのもその通りだし……よし折衷案だ」
「「「「折衷案?」」」」
即席で編んだ術式を遠隔でTSした死神連中に刻み込む。
「英雄さん、何を?」
「ん? フィルターを追加しといた」
「「「「フィルター?」」」」
「デフォルメされた天使のキャラクター。キューピッドとかあるじゃん?」
まあキューピッドは天使じゃねえんだが細かいことは置いといてだ。
「ああいうのって裸なの多いけど大半の人間は別にアレ見ても卑猥だとか思わんだろ?」
「ああいうのに卑猥さを見出すのは人として終わってるよ」
まあでも世の中にはそういう業の深い連中も……これも今はどうでも良いか。
「未成年がアイツらを視界に入れた場合、そういう風に見えるフィルターを追加したんだよ」
「「「根本的な解決になってなくない?」」」
「まあ、それなら」
「「「良いの!?」」」
一番迷惑被ってるサーナちゃんが良いなら何の問題もないな!
「ククク、サーナちゃんに配慮しつつ連中への新しい嫌がらせにもなる一石二鳥の折衷案だぜ」
死を畏れ敬えと抜かしてやらかそうとした連中だ。
死神たる自分たちが子供からは畏敬もクソもないゆるキャラにしか見えんのはさぞや屈辱だろうて。
「フハハハハ! やっぱ冴えてるぜ俺ェ!!」
「悪ふざけの化身じゃん」




