チート野郎VS悪役令嬢⑪
見ない振りをしてたってわけじゃないが……考えても答えのない類の問題だからな。
あまり深く考えたことはなかったがそれでも俺なりに自分の異常性は理解してる。
戦いの中であり得ないほどの成長をするのもそうだが、まあそこはまだ良い。
踏み倒しだのチートだのバグだの言われる理由はまた別にある。
成長限界とでも言うべきか。
ソシャゲのキャラでレアリティによってレベル上限違うよな?
あれと同じで恵まれた素養の持ち主なら必然、レベル上限は高くなる。
凡人が20とかなら強いのは70、80ってぐらいにな。
星の落とし子としての能力が第一段階止まりなことからも分かるように俺の霊的素養はぶっちゃけ高くない。
小器用さで色々な技術を学んで手札を増やしてたからRとはいかずともSRぐらいのレアリティだろう。
にも関わらず気付けば俺はこの世界で最強になっていた。
俺の素養からすれば限界に達するはずなのに幾度も無法な上限突破を繰り返した結果だ。
今もそう。もうこれ以上はないやろってぐらいに極まってるのに同格の悪役令嬢と戦い成長した。
わんこそばの早食いかな? ってレベルで上限突破を繰り返して遂には奴が絶対辿り着けない領域にまで辿り着いた。
あり得ない上限突破。システム上、存在しないようなレアリティの追加。
そんな限界を無視した成長こそが俺の異常性の最たるものだ。
正直な話をすると、悪役令嬢もそうだと思っていた。短期間でこんだけ覚醒を繰り返したんだもん。
チートかよと罵りたくなる気持ちは分かるだろ? でも違った。
悪役令嬢は単に見えないぐらい天井が高かっただけ。天井が存在しないわけではないのだ。
覚醒を繰り返した結果、分かってしまった。見えてしまった。奴の限界が。
ならばもう、細かな消耗を気にする必要はない。
「気合入れて損したわ」
「何を……何を言っている?」
奴の言葉を無視し、討伐軍の様子を窺う。
宇宙空間での戦いから偽地球での戦いに移行し地の利を活かしてえっちらおっちら頑張ってる。
俺は皆にもうええで、と声を送りそのまま雑魚を消し飛ばした。
「こ、このッ……へぶ!?」
一瞬呆気に取られる悪役令嬢だが直ぐに報復のため討伐軍に攻撃を加えようとした。
まあ俺が生きている限り死なないから無駄っちゃ無駄だが、無駄に死ぬ必要もないからな。
悪役令嬢の攻撃を潰し、そのまま間髪入れずその横っ面を殴り付けた。
「さあ、公開処刑といこうか」
悪役令嬢の胸倉を引っ掴み偽地球へ転移する。
そして空間を塗り替え討伐軍全員が入る巨大コロシアムを作った。
「まさか……」
「おいおいおい」
「え、嘘でしょ? また、またやっちゃったの?」
ざわつく観客たちをスルーし俺は皆に語り掛ける。
「糞忙しい年末の時期にさぁ! こんな糞面倒なことに巻き込まれて皆もムカついてるよなぁ!?
俺なんてさァ! 決戦のために余計な力を使うわけにもいかねえからマジ分身も作れねえしさァ!
少し前から知り合いを俺に化けさせて出社させてるんだぜ!? 真面目に働いてる部下や上司の皆に申し訳が立たねえよ!!」
あん? 世界の存亡を賭けた戦いだし仕方ないって?
「年の瀬デスマーチに苦しんでるリーマンにゃ関係ねえんだよォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
リーマンは世界じゃなく自分や家族、会社のために戦ってんだよ!
そして俺の本業もリーマンなんだよ! 裏は副業なの! 副業でこんなストレス溜めさせられるとかおかしいじゃろがい!!
「急にキレるじゃんあの人」
「鬱憤溜まってたんだろうなあ……」
「世界で誰よりも強くどんなワガママも貫き放題の男なのにリーマン根性半端ねえ」
「こんな状況でもリーマンの誇りを忘れないあの人に拙者“勇”を見た」
俺は今、かなりムカついてる。だから本命のお仕置きの前にも徹底的に甚振ってやる!
ジタバタ暴れてる悪役令嬢を放り投げ俺は大きく両手を広げた。
「だからよォ! ここらでいっちょ、留飲の下がる光景を見せてやるよ!」
「……!!」
「ショーの始まりだ! 残虐行為手当は随時受付中だからしくよろォ!!」
人間の見世物になるなぞ屈辱以外の何ものでもない。
怒りも露わに観客席に攻撃を加える悪役令嬢だが結界に阻まれ攻撃は霧散。
「か、身体が……きさま、なにを……!?」
今度は俺に襲い掛かろうとするも悪役令嬢はその場に崩れ落ちてしまった。
「“禁呪・LD”」
俺は静かに技名を告げた。
LDはこの俺をしてマジにやべえと禁呪指定せざるを得なかった危険極まる呪いだ。
LDは略称で正式名称はLifestyle Disease――――意味は生活習慣病。
「癌・脳卒中・心筋梗塞・高血圧性疾患・糖尿病・肝硬変・慢性腎不全……」
現代社会の豊かさが生んだ人の業、それを一気に叩き込むのが禁呪LD。
今、悪役令嬢の肉体は七つの大罪に蝕まれ立つこともままならない。
ただの生活習慣病ならまだしも呪詛と化した生活習慣病だからな。
でも……嗚呼、まだだ。まだ終わらない。一度世界を滅ぼしておいてこの程度で済ますものか。
コイツのせいで俺含めて多大な迷惑を被ったんだからな。
「全ての佐藤よ! 己が欲望を解き放て!! 全佐藤決議!!!!」
俺の背後から火山の如く闇が噴き出し何千もの腕を形成。
闇の腕には無数の眼球が浮かび上がっており、ギラギラと目を血走らせている。
「う゛……」
不快感に顔を顰める悪役令嬢。そりゃそうだ。
男でも女でも嫌だろう。剥き出しの性欲をぶつけられたらなぁ。
おぉ、我慢だ我慢。確かに奴には人権もなければ同情する要素も皆無の侵略者だがまだ待て佐藤たち。
「持ってくれよテメェの身体……ッ! 感度五億倍だぁああああああああああああああああああ!!!!!」
「!?」
ありとあらゆる感覚が五億倍に。
常人であれば刹那でくたばるだろうが悪役令嬢はそうじゃない。
規格外の生き物だからな。ギリギリで何とかなってる。
ま、ギリギリで何とかなるレベルに抑えたんだがな。
「く、糞がァ!!」
苦痛に顔を歪ませながらも無理矢理身体を癒し続けることでLDに対抗する悪役令嬢。
肉体の主導権を取り戻すや殺到する闇の腕に対処を始めた。
「フハハハハ! つっ立ってるだけでも苦痛だろうに頑張るなァ!!」
「き、貴様ァ……!!」」
「そら、俺に意識向けてて良いのか? スーパーセクハラハンドに捕まると更に恥を晒すことになっちゃうぜ~?」
「ッッッ!!」
はー……便秘明けでもここまでスッキリしねえだろってぐら良い気分だ~。
あの夜から蓄積し続けたストレスがみるみる内に軽減してくぜ~。
「悪魔かな?」
「悪魔に失礼よ。悪魔は私たちと一緒に戦ってくれたんだから」
「力だけじゃなく屑さも規格外なのあの人?」
「いや、まあ……確かに悪役令嬢は同情の余地もない敵だけどさぁ」
「八つ当たりで世界滅ぼしてたらこんなしっぺ返し喰らうとは神様にも予想出来めえよ」
全力で呪詛に抗いながら絶え間なく襲い来る攻撃に対処する。
マラソンで全力疾走しながらアップテンポのハードロックやデスメタルを熱唱するようなもんだ。
二十分ほどで悪役令嬢は体力を使い果たし倒れた。
俺は闇の腕を消し去り、奴の下まで歩み寄る。
「……ころせ」
「お前を造った神に失敗があったとするならそれは力を封じたことだ」
「なに、を」
現時点での力を完全に奪い取っておくべきだった。
その上で年月を経て力を取り戻さぬようコイツの“成長性”を封じるべきだった。
今のコイツならともかくかつてのコイツにはそのやり方が通用したはずだ。
俺みてえなバグならともかくコイツは単に成長の上限が糞高いってだけだしな。
成長性を封じるなり奪うなりしとけば悪役令嬢が力を取り戻すことはなかっただろう。
「だから俺はそうさせてもらおう」
悪役令嬢の力を全て抜き出すと同時に呪詛も解除する。
今のコイツはただの人間と変わらぬスペックだからな。呪詛があったら死んじまう。
そして先ほど言ったようにコイツが年月で成長しないよう可能性を摘む。
「……!」
「遅い。そう警戒するなよ。ある意味じゃ大したことはないんだからさ」
全容は察せずともマズイ流れだと思ったのだろう。
舌を噛み千切ろうとするが俺の方が当然、早い。自殺を禁ずる呪詛を全力でその魂に刻み付ける。
「これからお前には人間に対する嫌悪感そのままに記憶を封じこの世界で人間として生きてもらう。
勿論、一度きりの生じゃない。何度も何度も転生してもらう。お前の創造主がやった罰と似たようなもんだ」
一度死んでも終わらない、永遠に人間として転生し続けてもらう。
俺の宣告に顔を青褪めさせる悪役令嬢。
永遠に生かされる恐怖。死ねない恐怖ゆえではない。
またかつてのように人間として生きねばならぬことに極大の嫌悪を抱いているのだ。
そして記憶を封じると言ってもそれは自分が何者でどうして人間を嫌っていたのかと、あと一つだけ。
つまり転生し続ける間の記憶は保持されるということだ。
奴の創造主と違い、俺の力は圧倒的だ。抜け出せない牢獄と同じだろう。
「だが俺も鬼じゃない。一つだけ永遠を抜け出せる道を作ってやろう」
コイツの創造主は多分、親心だろうな。子供を信じたいという気持ちもあったんだと思う。
何時か分かってくれると、敢えて言葉にしなかった。自分が下手に何か言っても刺激するだけ。
この子なら遠回りはしても何時かきっと、ってな。
だが俺は明確に言葉にするし条件として設定する。
解き放たれるまではその条件も忘れているが解き放たれた時こそ本当の地獄だ。
「――――お前が“心から誰かを愛した”その瞬間に封印の鎖は引き千切れ力と記憶を取り戻す」
「な」
封印が解除されなければ精神的苦痛は終わらない。
しかし封印が解除されても別種の苦痛がコイツを襲うだろう。
もしもコイツが愛を知ったのなら……なあ? 自らの罪業に苦しむのは目に見えている。
ここまで拗らせた奴が愛を知ることがあるとすれば根っこから改心するレベルの出会いがなければ不可能だ。
何せ人類という種そのものを世界を滅ぼすレベルで嫌悪してるわけだからな。
特定の誰かだけを愛してるから他はどうでも良い、なんてことにはならない。
コイツにとっては人を愛せるようになった時=改心の時なのだ。
進むも地獄、逃げるも地獄。これがルシファーが諸手を挙げて賛同した俺なりの仕置きだ。
「い、嫌だ! やめろ! 直ぐに私を殺……」
パチンと指を鳴らすと悪役令嬢は消えた。
俺がコイツのために創り出した専用の輪廻の輪に入ったのだ。
「おやすみ悪役令嬢。良い人生を」




