チート野郎VS悪役令嬢⑥
悪魔を悪魔と認識した上で付き合っていくコツを教えよう。
そいつは人間と変わらない見た目をしてる? 話をしてみれば気の良い奴だって?
まあそれらの要素を頭から否定する必要はないさ。
そういう人当たりの良さが真実かどうかは人間同士のコミュニケーションでも同じだからな。
ただ、人間とは決定的に異なる部分がある。だからこれだけ常に心得ておけば良い。
――――でもコイツ悪魔なんだよな。
好感を抱く要素を見つけたらその後にこの一言を付け加えておけば良い。
そうすりゃドップリのめり込むことはない。一線を引いて付き合える。
ああ、悪魔との付き合いを否定するわけじゃねえんだ。
悪魔でも楽しくやれる奴とは本当に楽しくやれるからな。
ただ悪魔の生態と言うべきかね。
笑顔で語り合ったその次の瞬間にナイフで刺して来るような危うさがある。
人間だとそういうのはサイコとか呼ばれたりすんのかな?
だが悪魔のそれはサイコとは違う。
人間のサイコはそいつ自身の中のルールに基づいて行動してるから分かり難いが悪魔は分かり易い。
だってそうだろ? 邪悪な魔性って看板をわざわざ掲げてくれてんだから。
つまりはまあ人の物差しのみを使って悪魔を測るべきではないってことだ。
「まず最初に言っときたいんだけどさ。さっきも言ったように協力する気はあるんだよ」
「ああ」
「流石にね、あたしも世界が滅びちゃうのは困るなって」
まあ、嘘だよな。いや半分だけしか本音を晒してないって言うべきか。
世界が滅びて困るのは事実だ。木っ端悪魔は心底からそう思ってるだろう。
だがルシファーに限っては違う。滅びるならそれもそれで面白いと思っている。
契約を遵守するのが悪魔の生態でコイツもそこはしっかりしてる。
ただそれは人間のように損得勘定を重視しているからではない。
契約という行為自体を愉しんでいると言うべきか。コイツの場合はな。だから世界の滅びすらも受け入れてしまえる。
「ただ、あたしにもプライドってもんがあるわけ。人間相手に魔王様が絶対服従なんてどうなのよって話」
これも嘘だ。
プライドはあるが自身の愉悦が最優先だから面白いと判断すりゃ平然とケツを振るだろう。
「あとこれは極々個人的なハナシなんだけど」
「何だよ」
「悪役令嬢、だっけ? 彼女にはシンパシーを抱いてるんだよね」
これは本当。
「似てるでしょ? あたしら」
神に弓を引いた経緯を抜き出せば確かにその通りだ。
「確かにな。名前だって似てる」
「そう! ルシアにルシファー……似たような生い立ちでその上名前までって運命感じちゃうよね」
だから、さとルシファーは照れ臭そうに笑う。
「世界が滅びるのは困るけどぉ、ちょっとさ。彼女を応援したい気持ちもあるっていうか?」
「なるほど」
「分かってくれた?」
「ああ。よくもまあ、心にもねえことをペラペラ並べ立てられるもんだ」
さあ、一つずつ指摘いこう。
それが悪魔との契約ってもんだからな。
「世界が滅びるのは困る? ああ、それもまあ嘘ではないが本音でもないだろ。
滅びるならそれはそれでアリだって思ってるくせにさも味方ヅラしてんじゃねえよ。
理不尽な悪意に成す術なく蹂躙されるなんてのはお前からすれば腹抱えて笑える案件じゃねえか」
コイツも死ぬが死ぬ寸前まで爆笑してんのが悪魔王ルシファーという存在だ。
「協力はしても別にそれは純粋に世界を守りたいからじゃない」
続いても終わってもどちらにせよコイツにとって損がないからだ。
だから最低限の協力という形で世界を守る方に肩入れを。
最低限以上の関与をしないことで世界が滅ぶ方に肩入れをしてるんだ。
「んでプライド? おいおいおい、笑わせるなよ。
そんなもんがあるなら今ここでそいつを守るために死んでなきゃおかしいだろ。
だってお前、俺より弱いんだから。本気でやり合えば傷一つつけられないんだぜ?」
そんな魔王様存在する価値ある?
プライドなんてもんを持ちだすならとっくの昔に腹掻っ捌いてるわ。
もしくは悪魔全てを率いて俺に喧嘩売るとかな。
「じゃあ、その弱い弱いあたしちゃんに協力して欲しいって君は何なのかにゃ?」
「お前、何か勘違いしてねえか?」
「勘違い?」
「お前に協力して欲しいんじゃねえよ。協力させてやるつってんの」
商談の場でこんなやり方すりゃ即破談だ。
しかし、悪魔相手……正確には強い悪魔相手にはこれが正解。
見ろ、ルシファーの口角が更に吊り上がってるしキラキラのエフェクトも強く……眩しいからそれは消せ。
「話を戻そうか。さて次は……そうそう、悪役令嬢へのシンパシーだっけ?」
「うん。佐藤きゅんもそこは同意してくれたよね?」
「似てるって点はな。だが応援したい気持ち? おいおいおい、お前正気か?」
「似た人を応援してあげたいってそんなに不思議なこと?」
「お前、自分の性格がそんなに良いとでも思ってるわけ?」
だとすればおったまげー!
「人間に嫉妬し人間を見下さないと生きていけない女。
数多の世界を滅ぼし奴はますます驕り高ぶったことだろう。やはり人間は劣等だってな。
そんな奴が結局、最後の最後で人間に負けちまうとか……ああ、何て惨めな最期だろうな?」
今の時点でもルシファーはかなり悪役令嬢を見下してるだろう。
悪役令嬢は俺を人間にカウントしていない。
しかしそれは心底からそう思っているわけではなく、そう思わないと冷静で居られないからだ。
虚無の海で仕切り直しを要求した時はさぞや屈辱だっただろう。
けど、そうしなければいけない。人間を否定するために。自分を否定されないためには何が何でも勝たないといけないから。
あの場じゃ俺も動揺してたが冷静になりゃ直ぐに分かったよ。
余裕綽々って態度だったが腹の中はぐつぐつに煮え滾っていたであろうことはな。
「奴の無様が見たい。この世界に生きる者の絶望が見たい。
お前からすりゃどっちに転んでも損はないが……天秤は若干、前者に傾いてるだろ?」
俺がそう告げると、
「――――素晴らしい。花丸をあげようじゃないか」
「アイドルの仮面外れてんぞ」
「おっと★」
こほんと小さく咳払いをしルシファーは続ける。
「確かに佐藤きゅんの言う通りだよ? でもあくまで若干。若干だから。
今以上にこの世界へ肩入れするほどではないかなって。佐藤きゅんはぁ……ここからどうしてくれるのかな?」
天秤の比重を変えるだけのものがあるのか?
嘲りにも似た視線をスルーし、俺はルシファーに告げる。
「温くなっちまったな」
「はい?」
「悪魔王ルシファー様ともあろう御方がさぁ、しょっぱい悪意だなって言ってんの」
アイドル活動なんてやってるせいで人間に絆されちゃったんじゃない?
「悪役令嬢の“どん底”は俺に殺されることじゃねえ」
「へえ?」
「ちょっと耳貸しな」
手招きすると奴は素直に近寄って来たので俺は言ってやる。
「奴に勝ったら俺は……するつもりだ」
「――――」
ルシファーの目が大きく見開かれた。
「…………期限は?」
「奴が……まで。その時、初めて……」
どうだ? 俺が目で問うと奴は、
「――――アッハハハハハハハハ! 良い! それは良い!!
それが見られるなら……なるほど、確かに君に全財産を賭ける価値はある!!」
ルシファーは大笑いした後、涙を浮かべながら言った。
「はぁ……良いよ。明けの明星は君の犬になろう。ついでだ。ベルやルキを含む七十二柱もオマケにつけてやろうとも」
「ほう? そりゃありがたいが隣の奴らマジかコイツって顔してんぞ」
「良いの良いの。だってあたし、ルシファーだもん★」
魔王と書いてパワハラキングと読むわけか。




