プレゼントは
人の悪意と対峙することで子供らは一皮剥けて、裏の人間として新たなスタートを切った。
卒業祝いとこれからの道を激励する意味で祝いをくれてやるのが大人の務めだろう。
ただ、時期がなぁ。もうちょっと早ければ直ぐに祝いにあれこれしたんだが今十一月の半ばぐらいだろ?
あと一ヵ月ちょっとでクリスマスならそれも含めて更に盛大にお祝いした方が良いじゃん?
というわけで子供らには二十四日の予定を空けてもらうよう頼んだ。ちゃんと理由も伝えてな。
二十五日にしなかったのはそっちは表の事情に配慮したからだ。家族、友人、恋人……プライベートで聖夜を祝いたいだろうからな。
「さて、早速本題に入るが卒業祝いどうすんべ?」
つーわけで休日。千佳さん、高橋、鈴木、パイセンを家に招きどうするかを話し合うことに。
パイセンは既にイブの予定も入っているがそれはそれ。
面倒見て来た子供らを祝いたいというので来てもらった。
「うーん……とりあえず料理はどうするか決めようか。外食なら良い店探すし、家でやるなら私が作るけど」
「あの子らの性格的にたっけー店とかだと委縮しちまうから奥多摩島で良いんでね?」
「高橋くんに賛成。梨華は外食でもやったー! だろうけど他の三人は真面目で気にしいだもの」
それな。
俺なら他人の金で高級店とかひゃっほー! 以外にねえが光くん、サーナちゃん、朔ちゃんはな。
自分たちのためにって恐縮しちまうわ。申し訳なさでロクに味も分からないとかなったら目も当てられん。
祝いたいのに気ぃ遣わせてどうすんだっつーね。
「じゃ次、プレゼント……パイパイは何か考えてるんすか?」
「卑猥な呼び方しないで欲しいんだけど……まあうん。四人お揃いのアクセサリーをと考えてる」
「お、良いじゃないっすか」
チームだもんね。そういうのあると嬉しいわ。
無難なとこだとピアスとかそこらかね? わざわざ穴開けんでもつける時だけ穴が開くみたいなんもあるし。
「そういう佐藤さんたちはどうするんだい?」
「あー……それが迷ってまして」
「あたしらん時、卒業祝いとかなかったもんな」
「私たちの教導役とか半分ぐらい敵みたいなものだったし実質、最初から卒業してたっていうか」
「卒業イベントとか強いて言うならお礼参りぐらいだよな」
「おぉ、アイツのマンション忍び込んで色々やったっけ」
「しばらくはご近所さんの目が厳しくなっただろうね……そう言えばアイツ、今どうしてるの?」
「クーデターん時にくたばったよ」
俺が手を下したわけではない。俺の与り知らぬところで改革派とやり合って普通に死んだ。
いやもうビックリ。終わった後に死亡者リスト眺めてたら普通に死んでたんだもん。
「ちな先輩はどうなんすか? 卒業の時、何かお祝いしてもらいました?」
「ああ。私の場合は教導役の方と得物が同じだったからね。お古の武器を貰ったよ」
ルーキーには手が届かないが、そこまで性能の高い物でもない良い塩梅の物だったとか。
「しかしそうか……武器、武器ねえ。どうせあげるなら俺も愛用してたのとかあげたいけど……」
「お前、駆け出しの頃の装備品とか取ってんの?」
「ないな」
簡単に手に入る量産品で、頻繁に装備更新してたから愛着もねえ。
更新の時に下取りに出してたから一つも残っちゃいない。
「そもそも得物も被ってないよね」
「梨華はガトリング、光くんは刀剣、サーナちゃんは大鎌で朔夜くんは杖だものね」
「あたしらも基本、武器は使ってなかったしなあ」
「使ってても当時の装備品の類は表に戻る時に処分しちゃったから今はないしね」
「今度、皆で闇市にでも行って良さそうな新品探す? 正直今の闇市には疎いけどヒロくん居るし」
「それもアリだがいっそ俺がハンドメイドするってのも悪くねえかも」
俺がそう提案すると皆は目を丸くした。
「お前、そんなの出来たっけ?」
「出来るようになったんだよ。ほれ」
俺が今使ってるマジ装備の短刀と拳銃を取り出す。
「こ、これは……神器級? いやそれ以上に……」
「…………君、ホント何でもアリだね」
「まあ、ハンドメイドつっても完全に一からってわけじゃねえよ」
ガワだけは本職に作ってもらってそこに手を加える感じだ。
使われてる素材を置換したり特殊能力付与したり強化したりってな具合でな。
「もし作るならパイセン以外の面子には協力してもらうぜ」
パイセンは既にプレゼント決まってるしな。
「協力? 私たち、そういう技能はないんだけど」
「そこは俺が上手いことやるよ。千佳さんに協力してもらうなら梨華ちゃん専用の装備品だな」
星の巫女としての能力を付与させてもらう。
力を引き出す補助具、もしくは増幅器みたいな機能を備えた武器にするつもりだ。
「あたしと鈴木なら引力と斥力か」
「おう。お前らなら基本、近接の光くんとサーナちゃん用だな」
サーナちゃんは死の権能って特殊能力あるが格下にしか通用しねえからな。
基本は大鎌での近接戦になっちまう。
「近接職にとっちゃ劣化とは言えお前らの能力はありがたいだろ?」
「まあな。遠くに居る敵を引き寄せてバッサリ出来るし」
「斥力なら遠距離攻撃だけじゃなく緊急離脱にも使えるからね」
「性格的には光くんが引力、サーナちゃんが斥力かしら?」
「佐藤さん、綾瀬くんはどうするんだい?」
「そこは俺が担当するさ」
朔ちゃんの場合は魔力の消費を抑えるとか堅実なのが良いだろうな。
今のバトルスタイル的にも性格的にも。
「はい」
「はいパイセン」
「どうせハンドメイドにするなら長く使ってもらった方が良いと思うんだ」
「まあそうねえ」
「ゲームでよくある使用者のレベルと一緒に成長してく武器みたいには出来ないのかな?」
「使用者の強さと連動するような形か……アリだな、多分出来る」
どうせなら熟練度システムとかも導入してえな。
おぉぅ、何か楽しくなって来た。
「もうパイセンはアクセ、俺ら四人は武器ってことで良いんじゃねえの?」
「私はそれで良いけど……高橋くんと鈴木くんは?」
「あたしらも問題ねえ」
「うん。変に考え過ぎた結果、奇を衒って滑るのも嫌だしね」
それな。ホントそれな。
緩い祝いの場なら滑るのもまた一興だが、真面目なヤツでそれやると居た堪れないってレベルじゃないもん。
「って今更だが佐藤と西園寺は当日大丈夫なんか?」
「二人は会社勤めだからね。年末だし忙しいでしょ?」
「そこはほら、私社長だし。何ならイブとクリスマスは特別に早上がり~とかも出来るもの」
まあその方法余裕がないなら後でツケ払うことになるがな。
今忙しいか後でクッソ忙しくなるかの二択だ。とは言え千佳さんの様子を見るに余裕はあるっぽいな。
「俺も問題ねえ。一日休みは難しいが定時上がりぐらいなら出来るよ」
「それなら良いが……他に何か話し合うことあるか?」
「当日のメニューを何にするかは重要だよ。佐藤くん、子供たちの好物聞いておいてよ」
「ああ。梨華ちゃんのは千佳さんが知ってるけど他は俺が聞き出すのが一番だな」
「あ、それなら私が知ってるよ佐藤さん」
「マジか。流石パイセンやな」
あれやこれやと話し合うのがとても楽しい。
それは俺だけじゃない。他の皆もそうだ。顔を見れば分かる。
だが俺だけは少し、言いようのない不安を感じてもいる。
(……なーんか、嫌な予感するんだよなぁ)
漠然とした不安は日々、強くなっていた。




