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【書籍化】主人公になり損ねたオジサン【12/10発売】  作者: カブキマン
本編

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199/249

一つ大人に

 子供との関係に悩んでいるパパママに偉そうな講釈垂れた俺だが……。

 まあ、うん。人のことは言えねえっつーか俺は俺で子供関連の悩みを抱えている。

 しかも現在進行形でな。


「……」

「ヒロくん、落ち着こ?」


 部屋の中を忙しなく歩き回る俺を千佳さんが宥める。

 互助会の一室で俺と千佳さんは今か今かと子供たちの帰りを待っていた。

 そう、遂に来た……来てしまったのだ。卒業の時が。

 相応に実力を身に着けはしたが腐った人間を相手取る機会がなく卒業は伸ばし伸ばしになっていた。

 しかし急に――いや違うな。

 ルーキーが受けられる丁度良い塩梅の討伐依頼なんか狙って来るようなものではない。

 偶然にしか頼れないのだ。そして偶然、やって来てしまった。

 そして子供らは俺の息がかかった人間ということで優先的に選択権を与えられ……。


『やります。避けては通れない道だから』


 リーダーの光くんは迷うことなくそう答えたらしい。

 そしてそれは他の子らも同じで流されるのではなく、自らの意思で討伐依頼を受諾し現場に赴いて行った。

 その報告を受けたから俺と千佳さんは互助会へやって来たのだ。


「そうは言ってもだな」

「……勿論、ヒロくんの心配も分かるわよ?」


 討伐対象になったのは人身売買を取り仕切ってる奴らだ。

 と言っても大規模な組織というわけではなく表で言うところの半グレみたいなもの。

 規模も大したことはない。互助会や秩序側の連中に目をつけられないようコソコソやってる小物だ。

 しかし、語るべきことなど何もない雑魚と切り捨てられるのは俺たちがドップリ裏に浸かった人間だから。

 子供たちはどう足掻いても心に傷を負うだろう。それを考えると落ち着いてはいられない。

 かと言って遠ざけることも……光くんが言うように避けては通れない道だから。

 頭では分かっている。分かっていても心が乱されてしまう。


「でも……」

「梨華ちゃんも光くんもサーナちゃんも朔ちゃんも至極真っ当な人間だ」

「それは」

「俺たちとは違うじゃんよ」


 千佳さんは最初から裏の人間だった。

 人を殺めた経験だって俺と出会うずっと前に済ませていた。

 そして俺や高橋、鈴木は……いや二人は違うか。俺はドライな人間だった。

 人の命を軽んじてるつもりはない。

 しかし不快な屑を殺したところでそれが何か? で終わる。そうでない人間もそう。

 互いの利害がぶつかり合った結果、どちらかが死ぬしかないなら受け入れてしまえる。

 高橋と鈴木のように情がある相手なら酷く忌避感を覚えるが敵なら微塵も心は痛まん。


(……いや、仮に高橋と鈴木でも)


 TS神拳が生まれず殺す以外に道はなかったとして、だ。

 そりゃ傷付くだろうが……結局、俺は乗り越えられてしまうんだろうよ。


「千佳さんも見て来ただろ? この手の依頼で心折れたのがどうなるかを」


 死ななければそこで試験は終了。

 表で暮らす選択肢を得られるからそのまま裏を去って行く。

 しかし、人間の闇に触れて裏から逃げたからこそ……表の光が刺さるのだ。

 そこで目を逸らし切れるなら問題はないが、嫌なことから完全に逃げられるってのは一種の才能だ。

 大概は心を病む。純粋な表の人間なら精神科医に頼ることも出来るがそうはいかない。

 裏でのことを表の人間に話すわけにはいかない。じゃあ裏の医者に?

 裏の世界で心を病んだ奴が治療のためとは言え裏に関わろうとするか? それが出来るのは少数だ。


「幸いにしてあの子らの近くには事情を知る大人の俺たちが居る」


 だからまあ、カウンセリングは出来るだろう。

 しかしそれでも心が折れたのなら立ち直るには数年は要すると思う。

 貴重な青春を屑どものせいで浪費させられんのはあまりに忍びない。


「……そうね。ヒロくんの言う通りだわ」

「だろ?」

「でも、その上で敢えて言うわ――――子供たちを信じましょう?」


 かつての世間知らずな子供でもなく、俺に不倫のモーションをかけて来た女のそれでもない。

 俺を諭す千佳さんの顔は“母”のそれだった。そんな顔を見せられたのなら……俺としても何も言えんわな。


「……わーったよ」


 椅子に腰掛け背もたれに身体を預ける。


「まあでも打てるだけの手は打っておくか」

「ちょっとぉ!? この流れで!?」

「違う違う。直接何かするんじゃなくて……帰って来た後のことだよ」


 流石に俺も空気読むわ。

 この流れで今正に戦ってるであろう子供らに何かやったら完全に空気読めない奴じゃん。


「……戻って来たみたいだ」


 一時間ほど経過したところで四人は帰還した。

 吉野さんに俺たちの居る個室に連れて来るよう念話を飛ばすと「よろしく頼む」と返事が来た。

 ……流石にパイセンは話がはえーや。親になったから尚更、分かっちゃうんだろう。


「……あ、ママ」

「おかえりなさい梨華。皆も」


 部屋に来た四人は暗い顔をしていたが折れてはいないようだな。

 各々、感じているところは微妙に違うっぽいが……まあそこは良い。


「えっと、あの……俺たちに何の用でしょうか? まだ報告も済ませてないんですが」

「報告なんぞパイセンがやってくれるよ。だから君らを真っ先にここへ連れて来たんだろう?」

「……正直、私今お喋りする気分じゃないんだけど」


 光くんも朔ちゃんも言葉が刺々しい。

 この子らがそうなるぐらいには心が荒む経験をしたんだろうな。


「俺も長々くっちゃべるつもりはねーよ。さっさと本題に入ろう。これから君らを奥多摩島に飛ばす」

≪は?≫

「そんな顔じゃ日常に帰れねえだろ?」


 一晩泥のように眠ったとしても引き摺る。

 今、必要なのは時間だ。


「奥多摩島の時間を弄っといた。あっちで一年経過してもこっちじゃ明日の明け方ぐらいだ」

≪……≫

「もっと伸ばして欲しけりゃコイツに頼め」


 異空間でさっき作ったアーティファクトをドン! とテーブルに置く。


≪……うん?≫

「延長しくよろって言えば俺に伝わるから。あ、つってもこれの本来の使い方は……」

「ま……待って、待ってください。佐藤さん? え、何ですそれ?」

「福沢諭吉の胸像、ですか?」

「しかもまっ金金……」

「いやほら、俺の秘密基地には飯も娯楽も色々あるけどよ。長いこと過ごすなら足りねえだろ?」


 だからこのスーパー諭吉くんを使うのだ。

 俺との通信手段ではあるが、それはあくまでオマケ。本命の機能は別にある。

 ちなみにTINTIN帝栄一くんにしようかとも思ったんだが馴染みの諭吉くんにさせてもらった。


「金で手に入る物ならコイツにリクエストすれば幾らでも手に入る。

ああ、別にタダで確保するわけじゃねえから安心しな。

ちゃんと俺の口座の金が消費されて売買って結果を押し付けてどっかから商品調達する仕組みだから」


 その分、俺の口座が空になれば何も出来なくなるが……まあ問題ねえだろ。

 あれをたった四人で使い切れるなら逆にすげえわ。


「いや流石にそれは……」

「ただ甘やかすならダメだが、こんな時に何もしねえのはそれはそれでダメだろ? なあ千佳さんよ」

「……そうね。梨華だけだとちょっと不安だけどしっかりした子が三人も居るんだし今回ぐらいは問題ないでしょ」

「つーわけだ。ゆっくり心身を休めな」


 まだ何か言いたげな子供たちだったが無視して奥多摩島の秘密基地へと転移させた。


「さて。そいじゃあ千佳さん、春爛漫にでも行くかい」

「……切り替え早過ぎない?」

「子供たちを信じるんだろ? なら信じて待とうじゃねえの」


 俺がそう言うと千佳さんは仕方なさそうに笑い、頷いた。

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主人公になり損ねたオジサン 12月10日発売

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― 新着の感想 ―
[良い点] 2人以上が大人になって帰ってきてしまう可能性もあるか
[良い点] フォローはするけど直接的なフォローじゃなくて、あくまでも自分達で解決しろってスタンスなところ たしかに「こう考えるんだ」的な他人の考えを言われてもすぐに飲み込めるような問題ではないですもん…
[一言] 精神と時の島を自作したのか……まぁこれで子供達がナニしてもええんやで?
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