魔王軍
正直な話、最初は乗り気じゃなかった。単純に面倒だったからな。
敵を消し飛ばすだけなら良いんだが違うじゃん?
手加減しつつも会員の血肉になるよう調整して戦うとか……かったるいにもほどがあるわ。
しかし子供らがハロウィンの討伐イベントに参加するっつーなら、俺としてもスルーするわけにもいかん。
数百人規模の集団戦とか貴重な経験になるだろうからな。
なのでレイドボスを引き受けたわけだが……。
――――あれこれ考えてる内に楽しくなっちゃったんだぜ。
最初は事務的にギミック考えてたんだよ。
でも段々と……こう、俺の中にある少年ハートが疼き出して気付けばもう夢中になっていた。
あれはどうだ? これは良い! いやいや、こうしたら!? ってな具合にね。
「はい皆さん、嫌な顔しないの」
魔城シュガー・ザ・グレートの玉座に腰掛けたまま会員たちに語り掛ける。
まあ気持ちは分かるよ? 今の今まで頑張ってたのに延長戦とか言われたらそりゃうへえってなるよ。
戦力強化とか言われてもそれそっちの都合じゃんってね。
でも彼らにとってもそう悪い話ではないのだ。
「別に強制参加ってわけじゃない。説明終わった後で辞退するってんならバッジ外せば外出られるよ」
だから最後まで話を聞けと言って説明を始める。
「はい皆さん、自分の顔の横見てみ。メーター浮かんでるだろ?」
それはレイドバトルにおける貢献度を示すものだ。
貢献度によって互助会から報酬が出るようになっている。
具体的な金額をつらつら挙げていくと徐々に目の色が変わり始めた。
「言うまでもないが補助もしっかり貢献度にカウントされるようになってるから安心して欲しい」
あと勘違いしてはいけないのはレイドバトルにおいて重要なのは協調性。
貢献度を稼ごうとしてスタンドプレーに出ても貢献度はあまり増えない。
にも関わらずスタンドプレーを続けてちまちま貢献度稼ごうとしてるならマイナスになるので注意して欲しい。
今回の目的は勝算の見えない敵と戦い、経験を積むことだ。
しかしそれは一人でどうにかしろってことではない。
状況的に一人でやらざるを得ない時もあるだろうが今回は味方が居るんだ。
個の力を束ねて上手く立ち回って欲しい。
「効率良く貢献度を稼ぎたいなら足並みを揃えるこった。
お、良いんじゃないの? ってなチームプレーが出た場合は貢献度が特別多く加算されたりするからな」
ちなみにその判断は互助会の職員が担っている。
今回のハロウィンイベでも大活躍だった感知系の職員。
俺が彼らにバフをかけリアルタイムで行動を把握し貢献度を加算していく仕組みだ。
「それとあくまでイベントだからな。この戦い死ぬこたぁねえ」
致死レベルのダメージを負っても死なずその場で動けなくなるだけ。コンティニューも可だ。
とは言えゾンビ戦法やられたら互助会側の目的からズレちまうからな。
「リスポーンまでの時間は五分。その間は指一本動かせないまま致死の傷が齎す痛みを味わうことになる」
とは言えここで心が完全に折れても本末転倒。
ギブアップは受け付けている。頭の中で念じれば外に弾き出されるようになってる。
「ただその場合は貢献度報酬は半分以下になるので注意しな」
<……あの、質問よろしいでしょうか?>
会員の一人が挙手する。お行儀良いなコイツ。
どうぞと促すとそいつは少しばかり顔を引き攣らせながら言った。
<……レイドボスの佐藤さんの姿が近くに見えないのは何故でしょう?>
「そらおめー、魔王がいきなり姿を現したら面白くねえじゃろがい」
城の玉座でどっしり構えてないとな。
<つまり……>
「数多の試練が潜んでいる超佐藤村を抜け魔城シュガー・ザ・グレートまで来いってこと」
勿論道中の戦いでも貢献度は稼げるようになってる。
「だが城に入ったからって安心するなよ? 玉座の間に辿り着くまでが冒険だからな」
当然、城の中にも色々用意してある。
「少しだけチラ見せしてやろう」
パンパン! と俺が手を叩くとご機嫌顔のオカマとうんざりした顔の三人が玉座の間にやって来る。
俺は魔王なのでシルエットだがコイツらは直接、顔を見せてやっても良いだろう。
<うげ!? あ、あれは高橋と鈴木!?>
<正直そんな予感はしてたけどロクでもねえのが来やがった!!>
<……ってかあっちのダンディとオカマは誰?>
<何ッか……見覚えがあるような……ダンディの方は……いやでも奴があんな穏やかな顔のジジイになるとは……>
<オカマの方も……ないない、ありえないもの。そんなの>
ふっふっふ、良い反応だ。
柳と鬼咲は表舞台に復帰したが周知してるわけではないからな。
俺の動向を常に探ってるとかでもない限りは知らんか、知ってても現在の姿は把握してないだろう。
「紹介しよう。四天王の皆さんだ」
「こんばんは~♪」
「「「……」」」
おいおいノリ悪いなァ! それでも四天王かよ。
「ほら自己紹介せんか」
「……柳誠一だ」
「鬼咲乱丸よ。源氏名は蘭だからそっちで呼んでくれると嬉しいわ」
「……高橋だ」
「……鈴木」
愛想のアの字もねえな。鬼咲を見習えや鬼咲を。
<柳に鬼咲!? 佐藤、あんたのかつての宿敵じゃねえかよ!!>
「おう。かつての宿敵を配下にするとか魔王っぽいだろ~?」
<マジか!? 柳はともかく……え、鬼咲!? 鬼咲お前!?>
<何がどうなってやがる……>
俺もそうだが四人にも本気でやらせるつもりはない。
今回、討伐イベントに参加してるのは下位~中堅どころだけだからな。
「次のキャラ紹介といこう。お助けキャラの聖女チカリンだ!!」
俺が指を鳴らすと偽装を解除した千佳さんが会員たちの前に姿を現す。
聖女っぽいコスをしてもらってる。行きがけにディスカウントショップで買った。
「戦いには参加しないが攻略のヒントを教えてくれるぞ」
<武器と防具は装備しないと意味がないから気を付けて!!>
<役に立つのこの人!?>
<ま、ママ……>
「それじゃ三分待つからリタイアする奴は今の内に頼むわ」
スマホのストップウォッチを起動させ三分待つ。離脱者は居なかった。
金目当ての奴、経験を積みたい奴、理由は様々だがそう悪い話ではないと思ったのだろう。
「OK。それじゃあ、レイドバトル開始だ!!」
宣言と同時に無数の墓標が吹っ飛び地中から髑髏の群れが姿を現す。
見た目は雑魚モンスターだが、それなりに工夫は加えてある。
<露骨に墓あるしそうかなって思ってたけどやっぱりか!?>
さあ、お手並み拝見といこうか。




