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【書籍化】主人公になり損ねたオジサン【12/10発売】  作者: カブキマン
本編

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いのちのこたえ

「ほへー、ここがラブホテルですかぁ。こんな感じなんですねえ」


 照れや羞恥などなく子供のような好奇心でカワサキはキョロキョロと部屋の中を見渡す。

 今、俺とカワサキはラブホテルに居るが別にエロいことをするためではない。


(いやまあちょっとエロいことはするが)


 成人雑誌ではなく少年誌か青年誌レベルのそれである。

 勿体ぶる理由もないので単刀直入に言うがコスプレショーをするためラブホに来たのだ。

 以前、あの橋の下でホームレスの皆(今は社会復帰してる)と語り合ったが俺はコスプレ好きだ。

 いやさ愛していると言っても良い。3000回愛してると言っても過言ではなかろう。

 とは言えだ。AVやネットに上がってる画像ぐらいでしかコスプレを楽しめない。

 そういうイベントとか行けば眼福もののコスプレを拝めるんだろうが、


(時間がなぁ)


 エロいコスプレ拝みたいから有休取りますってのは良心が咎める。

 休みの日とかにそういうイベントがあっても予定が入ってたりしてな……機会がないんだわ。

 真剣に予定を組み立てれば機会を作れるんだろうが、機会を作る機会さえないっつーね。

 そんなこんなでコスプレと言えば画面の向こうにあるもので楽しむしかなかったわけだが……。


(機会が、訪れちまった)


 カワサキは美人だ。それも特級のな。

 千佳さん、高橋、鈴木、梨華ちゃん、サーナちゃん。俺の知己にも美女美少女は結構居る。

 その中でも容姿だけをピックアップするならカワサキは一番だろう。


(中身がアレだから人間味が出てるけど)


 作り物染みた精緻でどこか現実離れした美しさだ。

 感情の起伏が少ない……いや人並みであっても整い過ぎた容姿のせいで人形のような印象を受けていただろう。

 逆に言うとここまで灰汁の強い性格でなきゃ人間味を感じれないほどの容姿ってのは冷静に考えてやべえ。

 そんな女がだぜ? 何でもしてあげますよ! とか言っちゃうんだぜ?

 そりゃ食いつきますよ。好機とばかりに色々コスプレをお願いしちゃいますよ。


(ふふ、アホほどコス買っちゃったぜ)


 いきなりホテルに直行したわけじゃない。

 アダルトショップを巡って大量にコスを購入して来た。何ならホテルの中でも買った。

 三十五年の人生の中で一、二を争うレベルの無駄遣いをしたが後悔は一切ない。

 とは言えだ。さっきも言ったが18禁いかないぐらいのだ。

 死神連中にやったモザイク必須のエロコスとかじゃないので誤解しないでくれよ。


「じゃ早速始めましょうか」

「待てや!!」

「? 何ですか」

「何ですかじゃなくて……」


 いきなり帯を引き抜いたカワサキに俺は動揺を隠しきれない。

 いや前も一緒に風呂入ったけどさぁ。


「男の前で服を脱ぐとか」

「だって佐藤さんですし」

「え」

「最後まで行っても良いと思ってるぐらい心を許した殿方なわけですし肌を晒すことに抵抗はありませんよ?」


 ……そういや前もそんなこと言ってたな。

 天井知らずに上昇していく好感度に俺は嬉しさよりも戦慄を覚えた。


「ひょっとして私が誰の前でも平気で肌を晒すような女だとでも? 佐藤さんは馬鹿だなぁ」


 ケラケラと笑うカワサキ。今度は苛立ちを覚えた。

 何だろ。馬鹿に馬鹿って言われた時に感じる苛立ちと同じだ。

 小さく溜息を吐き床に陣を刻む。


「着替えるならそのサークルの上でにしろ」

「こうです……おぉ!?」


 陣から即興の更衣室が出現する。カーテンで覆われた簡易のやつだが十分だろう。


「最初はこれで頼む」

「はーい」


 コス一式を渡すとカワサキは更衣室の中に入って行った。

 …………いやこれある意味で生脱ぎよりエロいな。

 着物を脱いでるのがシルエットで見えて……思わず生唾ゴクリである。


「むっ!」


 シャッ、とカーテンが開かれた。


「セーラー服というのは新鮮ですねえ。中学も高校もブレザーでしたし」


 最初のオーダーは王道を往くセーラー服(夏服)だ。

 しかし、ただのセーラー服ではない。


「でもこれ、丈短いですね。上も下も」


 そう、このセーラー服はファンタジーセーラー服なのだ。

 上は普通にしててもちょいお臍が見えるし、下もちょっと動けばパンチらチャンスが訪れる短さ。

 更に言うと通常のものより透けやすくブラ透けの期待値も高い。


「……生きてて良かった」

「え、泣いてます!?」

「カワサキィ……ちょっとこう、くるって回ってくれねえか?」


 この世に生を受けたことへの感謝、生き続けて来たことへの達成感。

 命がくれる喜びを噛み締めながら俺はリクエストを送った。


「こうです?」


 ふわりと長く艶やかな黒髪とスカートが舞い上がる。

 刹那のパンチラ。しかし俺の動体視力を以てすれば永遠に引き延ばすことさえ出来る。

 焼き付けた清楚な白のパンツ。俺はこの先、何があろうと忘れやしねえだろう。


(パンツ、だけじゃねえ)


 ブラもだ。

 ブラ透けじゃねえぞ? ブラチラだ。回る時に腕をちょっと上げてたからな。

 袖口から見えたんだ。ブラチラが。下とお揃いの純白。

 世界に蔓延る憎しみさえも洗い流してしまえそうな白さだぜ。


(こんな世界、守る価値があるのか?)


 何時か誰かが俺に投げた問い。そいつは何もかもを嘲笑っていたように思う。

 その時は晩飯に何を食べるかで頭を悩ませていたからスルーしてぶち殺したっけな。

 名前も覚えてない誰かさん。あの時は答えられなくてごめんよ。でも今なら胸を張って言える。


(あるさ。世界を守る価値はある。守った価値はあった)


 世界を終わらせようとした誰かと世界を継続させようとした俺。

 戦いの意味も意義も、後になってみなきゃ分からねえもんなんだな。

 あの戦いが今の(パンチラ)(ブラチラ)に繋がってるのなら意味はあったんだ。意義はあったんだ。


「鐘を鳴らせ!」

「!?」

「生きとし生ける全ての命に祝福を!!」


 神よ、生まれて初めてあなたに祈ります。

 どうかこの瞬間の幸福を永遠に……。

 祈りと共に俺は自分の構造を弄って生体カメラとしての機能を持たせた。昔取った杵柄だ。

 二十三、四の頃だったかな? 自分の肉体を変化させるタイプのバイオ兵器に憧れてな。

 それで一時期、本気で肉体改造技術の開発に打ち込んでたんだ。


(作り終えたところで飽きて以降は触れてもいなかったが)


 無駄じゃなかった。俺の歩いて来た道のりは全部、無駄じゃなかったんだ。

 繋がっている。過去の俺が今の俺を形作っている。全部、繋がってるんだよ。無駄なことなんて何一つなかった。

 そうか。これが命か。思いを繋げて未来を紡いで――――嗚呼、理解した。何もかもを。


「速ッ! し、質量を持った残像……!?」


 激写激写激写激写激写激写激写激写激写激写!

 ありとあらゆる角度からカワサキの姿を脳裏に焼き付けていく。


「ポーズ! ポーズもよろしく!」

「こ、こうです?」


 一通り撮影し終えたところで停止し、小さめの浴槽を創り出す。

 そして鼻を片方だけ押さえ、


「噴ッッ!!」

「うぇ!?」


 鼻血を放出。


「突然すまんな。ちょっと興奮し過ぎたから血を抜いとこうと思って」


 一発目でここまではしゃいでちゃ身が持たんからな。

 クールダウンの意味で血抜きをしたんだ。


「お風呂いっぱいの血液って……あり得ないでしょう、人体の性質上……」

「フッ、はしゃいでやがるぜ赤血球」

「頭大丈夫です?」

「大丈夫じゃないかもしれん」


 でも、偶にはこんな日があっても良いのさ。男にはな。

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主人公になり損ねたオジサン 12月10日発売

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― 新着の感想 ―
[良い点] 正直カワサキが一番ヒロイン感ある
[良い点] カワサキ [気になる点] カワサキ [一言] カサワキさん、別ストーリーのメインキャラ感がありますね おじさんが居合わせなかったら、モノホンの主人公が生えてきて、ロボアニメか戦隊ものが始ま…
[一言] オジサンに祈られた神さまが卒倒するような気がします。 「あの佐藤が、ワシに祈るじゃと?何かの前触れか?」 「…ギリシャ系の死神達があんな事になってます」 「次はワシらか!?ワシらなのか!!?…
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