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【書籍化】主人公になり損ねたオジサン【12/10発売】  作者: カブキマン
本編

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人を殺す嘘、人を生かす嘘

『予想以上に長引いたし今日はもう休みにしちゃおう!』


 という社長の鶴の一声により午後も休みになった。

 まあ今から昼飯食って会社行ってってなればかなり中途半端な時間になるしな。

 そういうわけで三人と一緒に飯を食べて解散と相成ったわけだ。


「このまま家帰ってゴロゴロする……前にちと挨拶に行くか」


 向かったのはデビルプロモーションという芸能事務所。

 誰が所属しているかは一目瞭然だろう。

 チケットを融通してもらったが直接、顔を合わせて礼は言ってなかったからな。

 別にせんでもあっちも気にはしないだろうが時間が出来たんだし暇潰しがてら顔を出すのも悪くねえかなって。


「これは佐藤様。本日は如何なる御用向きで?」


 ふらっと芸能事務所に入るとか普通は無理だがここだけは別だ。

 所属してるアイドルがアイドルだからな。従業員は全員、悪魔なのだ。


「いや何、ライブのチケットを融通してもらったからな。その礼に来たのよ」

「そうですか。ルシファーさ……ルシファーちゃんたちは仕事で居ませんが社長は居りますので」

「おう、邪魔するぜ」


 受付を通って事務所の中へ入ると社長のデビル三太夫が俺を迎えてくれた。

 当然、本名じゃない。裏方でも芸名使ってるのとか居るだろ? それと同じだ。

 ただそういう人種と異なるのは自分で名付けたわけじゃないってこと。

 まあうん、ルシファーたちの仕業だ。悪魔にゃセクハラもパワハラも存在しねーからな。


「よう三太夫。こないだはチケット、ありがとうな」

「いえ。こちらとしてもチケットを融通する程度で佐藤様に借りが作れるわけですし」

「安心しろ。わざわざ言わんでも反故にゃしねーよ」


 俺は基本、約束は守るのだ。

 約束を交わした相手が敵の場合は気分で反故にするけどな。

 なのでルシファーらが俺に喧嘩を売らん限りは一回分の借りはしっかりと履行するつもりだ。


「粗茶ですが」

「悪いな」


 緑茶か……かなり良いのを使ってるな。香りからして違うもん。

 だがこの香りは高いのを使ってるからってだけじゃないと見た。

 茶のスペックを十全に引き出す腕あってのことだろう。三太夫、お前そういう才能あったんだな。


「っかしお前らも大変ねえ。ルシファーたちの世話とか胃がキリキリすんだろ」


 デビプロの従業員は三太夫も含め、下級も下級。最下層の木っ端悪魔たちだ。

 魔王たちのサポートがそんな雑魚ってどうなのよと思うかもしれないが冷静に考えて欲しい。

 既に魔界のトップ陣が入国してんだ。そこに名のある上級悪魔を追加となれば日本としても見過ごせない。諸外国もな。

 だからデビプロの従業員には最下層の悪魔たちを使っているわけだ。


「俺ら人間で言えば内定貰った入社前の新人がいきなり社長、会長の世話しろとか言われるようなもんだし」


 面識もねえ雲の上の人間の世話させられるとかストレスでマッハになるわ。


「……改めて自分の状況を客観的に説明されると凹みますね」


 三太夫は遠い目をした。


「まあはい。色々大変ではありますが甘い蜜も吸わせてもらってますし」


 ストレスは必要経費ですかねと笑う三太夫に俺は言いたい。

 待て、落ち着け、それは彼奴等の罠だぞと。

 悪魔ってのは狡猾だ。魔王ともなればそのレベルは段違いだろう。

 飴と鞭の使い方が抜群に上手いからトータルで見れば損なのに得してるように思わせるとか朝飯前だ。


「三太夫よ」

「? 何でしょう」

「砂漠のど真ん中で極限状態の渇きにある時はただの水ですら天上の美酒のように感じるだろう」

「はあ」

「お前が啜ってる蜜もそれと同じだぞ?」


 そう言うと三太夫はフッ、と笑った。


「だとしても、真実を直視しなければ……嘘が人を殺すこともあれば嘘が人を生かすこともあるんですよ……」

「さ、三太夫ッ」


 その悲しき現実逃避に拙者、社畜の魂を見た。

 目頭を押さえて涙ぐむ俺、仏のような顔で微笑む三太夫。

 何とも言えない空気をぶち壊すように事務所の扉が勢い良く開かれた。


「たっだいまー! っておや? 佐藤きゅん★」

「あらあら、居たの全然気づかなかったわぁ」

「毎度思うがあれだけの力をよくもまあ、ここまで抑えられるものだね」


 パワハラ魔王たちの御帰還である。

 その顔を認識するや即座に茶の準備を始めた三太夫に俺はますます泣きそうになった。


「佐藤きゅん今日はどしたん?」


 ナチュラルに俺の隣に座ったルシファー星野。

 つーか近い。距離が近い。お触りキャバの距離感だろお前。


「いやほら、チケット融通してもらっただろ? その礼に来たんだよ」

「会社はどうしたの~? サボりはぁ、メ! よ?」


 ベルゼブブ安田が軽く俺を咎めるけどそれをお前らが言う?

 大悪魔としての仕事をブン投げてジャパンでアイカツやってるお前らにサボり云々は言われたくねえ。


「人間ドックで今日ぁ休みなの」


 俺がそう言うとルキフグス斎藤は感心したように頷いた。


「人間ドックか。良い心がけだよ。何事も身体が資本だ。

身体が健全ならば必ずしも健全な精神が宿るわけではないが健全な精神を望むなら健全な身体は最低条件だからね」


 これが悪魔の言葉か?


「……お前らさぁ、作ったキャラに引っ張られ過ぎじゃない?」


 アイドルとしてやっていくんだ。属性被りは以ての外。

 三人は事前に別のキャラでやっていこうと取り決めてあったと言う。

 星野が天真爛漫の元気系っ娘王道アイドル。胸のサイズは中。

 安田が大食いおっとり系のお姉さんアイドル。胸のサイズは大。

 斎藤がクール寄りの爽やか系僕っ娘アイドル。胸のサイズは小。

 各層から支持を受けられる考慮したとかしてないとか。


「もう佐藤きゅん、わかってないな~」

「ファンの目がなければ気を抜いて良いとでも?」

「アイドルはぁ、スポットライトが当たっていない時もアイドルなのよぉ」


 意識の高さがムカつく……!!


「……そうかい。そりゃすまんかったな」

「分かればいーの。そいやさ、例の上司さんたちはどう? 良い感じ?」

「チケット確保出来たって伝えた時はめっちゃ嬉しそうにそわそわしてたよ」


 チケットを取れたのは心底、嬉しい。

 が、それはそれとしてライブに行くという現実にまだ腰が引けているのだろう。

 とは言えか~なり心理的な抵抗を削って来たからな。

 ライブを乗り越えたら俺のサポートはもう、要らなくなるだろう。


「そうかそうか。それは何よりだ」

「当日はぁ、楽しんでもらえるようめいっぱい頑張りましょうね~?」

「もち! おじさんたちだけじゃなくファンの皆が良い気分で帰れるよう全力全開!!」


 おー! と気炎を吐く三人。


(……俺は、一体何を見せられてるんだろうなぁ……?)

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主人公になり損ねたオジサン 12月10日発売

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― 新着の感想 ―
[良い点] 名前だけだと毒蝮キャラかと思ったら、デビルなのに仏の三太夫社長。 頑張って。 しかしながら、この借りでオジサンが何させられるのか今から楽しみです
[良い点] 脳がバグりそう。
[一言] それは三太夫さんが一番思ってることbest1 2と3は「自分は一体何をしているんだろう」と「魔王サマカワイイヤッター」だと思う
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