観光業を憂う男、佐藤
「とりあえずアレだ。カワサキ、お前にご褒美をやろう」
「ご褒美? そんなものを頂く理由はありませんが……むしろ迷惑かけちゃいましたし」
迷惑というのは俺の時間をこんなくだらないことで使わせたことについてだろう。
未然に京都の野望を防いだとかそういうことは一切考えてないあたり、カワサキってばホントにカワサキだわ。
「これでも互助会所属の人間だからな。妙な企てを知れたからそのお礼だよ」
「はあ」
説明してやってもこの調子である。
俺は異空間にストックしてあるアダマンタイトやらヒヒイロカネなどの特級金属を混ぜ合わせ即席で特殊合金を作る。
そしてそれを使いデビルカイザーとシュガーキングの人形を作成し、テーブルの上に取り出す。
「か、カイザー!? それにシュガーキングも!! い、良いんです? こんな、こんな素晴らしい物を……」
「ああ、遠慮なく受け取ってくれ」
「わーい!!」
その場でブンドドし始めたカワサキを見て……何だろう、ちょっと父性が刺激された。
自分でもどうかと思うが、ちょっと分かったかもしれない。手のかかる子ほど可愛いってこういうことなんだな。
「さて」
「!」
一条がビクリと肩を震わせた。
「随分と舐めた真似してくれるじゃねえの」
「あ、あの……いや、それは……」
「ついこないだまで仕事で地獄を見させられた挙句、プライベートでもショックなことがあったこの俺にハニートラップだとぉ?」
「そ、それは関係な」
パチンと指を鳴らす。
【ああ! どうしようどうしよう! やばい、こっからどう挽回すりゃ良いわけ!?】
突然響き渡った自分の声に一条は盛大に顔を引き攣らせた。
「別に良いんだぜ? 話してくれなくても。聞き出す手段は幾らでもあるからな」
心の声を外部に出力する。
「頭を切り開いて脳を弄るってやり方もあるな」
何なら人格を塗り潰して俺に従順な人格に書き換えた上で事情聴取するのもありだ。
俺が各種プランを語ってやると一条の顔色は死人の如きそれに早変わり。
「どれが良い?」
「……しょ、正直に全てを打ち明けますのでどうか、どうかお許しを……」
「OK。そうやって素直になってくれたなら俺も酷いことはしねえよ」
所詮、使い走りだろうしな。
「う、上からは佐藤さんを篭絡して京都側に引き込むよう命令を受けまして」
最悪、引き込めなくても東西の争いが起きた場合中立ぐらいに持ってけるようにしろと言われたらしい。
確かに俺はだらしねえよ? 女遊びも結構してる。
つっても女で決定的に間違いを犯すほど馬鹿に見えたってか? 舐めやがって。
「そっちがその気ならよ~俺の大好きな女遊びで京都を滅茶苦茶にしてやろうか~?」
「め、滅茶苦茶にって……」
「百八はあると言われる俺の必殺技の中にゃ恒久的な性転換を行える技があるのさ」
そいつで京都に属してる裏の人間全てを身体だけを性転換させる。
男は女に。女は男にする。一人残らずだ。
心は元のままで身体はってのは初めての試みだが……まあ上手いことやれるだろ。
「そこにコイツを加える」
「んな!?」
一条の着物が弾け飛び、代わりに外歩いたら一発で通報される痴女コスが姿を現す。
「更に呪術でお前らの行動を強制しようか」
「こ、行動……?」
「金銭を用いた取引を持ちかけられた場合、断れないようにするのさ」
安心しろ。無茶はさせねえ。
百円とかでは買えないようにする。キチンとその人間の容姿に見合った金額でないと成立しないよう設定してやらぁ。
「表の一般的な店で禁止されてるようなことが出来ないようにもしよう」
立場が下だからと客が無体な真似をしようとしたら客にペナルティが行くようにな。
労働環境はキッチリ整えるから安心して業務に励んで欲しい。
「世界中表裏どこを見渡してもないだろうな。都市がまるごと風俗になってるようなとこなんてよ~」
世界中から裏の観光客が押し寄せるんじゃねえか?
そうだ。京都に入る資格として表の交通機関を使うことも条件に入れよう。
「観光業が活性化しちまうな~!!」
どうせ京都に来たんならと表での観光も楽しむはず。勿体ないからね。
裏の人間は稼いでるからな。かなり金を落として行ってくれるだろう。
おいおいおい、京都の財政回復に一役も二役も買っちまうんじゃねえの?
「ついでにノルマも設定しちまおう。一日あたりの設定金額に届かないと一生そのまま!」
そして稼ぎは全部、俺の懐に。佐藤くんの懐はもうびっちゃびちゃ……。
「あれこれ、真面目に良い案なんじゃ」
「勘弁してください! ホント何でもしますんでそれだけは! それだけは!!」
その場でゲザる一条。三下とはかくあるべしってぐらい卑屈な土下座だ。
まあそうだろうとは思ってたが最初の大和撫子ムーブは演技だったのね。
や、ハニトラ要員になれるぐらいだから当然っちゃ当然だけどさ。
ちなみにこんな話してる今もカワサキはぶんどどしてる。まるでこっちの話を聞いてない。
マジかコイツって気持ちとそれでこそカワサキだって気持ちが同居してる。
「ちぇ。んで? 具体的に西の連中は何を企んでるんだ?」
「それは……すいません。具体的なことは私にも」
……まあ期待はしてなかったがやっぱ知らなかったか。
そりゃそうだ。ハニトラ要員とかいざって時、真っ先に切り捨てられる立場だからな。
そんな奴に重要な情報握らせておくわけにゃいかんわ。
「ただ武力的な衝突を伴う計画だとは」
「だろうな」
争いが起きる想定で俺を取り込もうってんだもん。
ただこれ自体はバレたところでさして問題にはならないと思ってんだろうな。
下が勝手に言ってるだけ、証拠はあるのかって言い逃れ出来るもん。
(――――見通しが甘え)
確かに互助会はこの段階では強くは出られないだろう。
精々、西にスパイを送り込むぐらいだ。
しかし互助会=俺と認識するのはあまりにも見通しが甘い。
辞める理由がないから所属してるってだけだぞ? そんな輩が自分に喧嘩売られて黙ってるとでも?
政府や互助会から依頼があれば大人しく動いてるから勘違いしたか?
辞める理由がない、断る理由がない、俺にとっちゃ大体はその程度の軽い認識なんだよ。
何なら京都に乗り込んで偉い奴ら全員、拉致って頭の中の情報を吐き出させた上で互助会に売り渡したって良いんだ。
(ま、今んとこそのつもりはないけどさ)
直近で楽しい予定が入ってるからな。今揉めて裏が荒れるのは困るもん。
「他には何か?」
「……確定ではありませんが、恐らく佐藤さんと親しい方にも何らかのアクションが起きる可能性も」
「ほう?」
なるほどなるほど。
「とりあえずお前は今から俺の犬な。二重スパイだ。出来るな?」
「……やらせて頂きます」
「あれれ~? 嬉しそうじゃないな? ハニトラ要員だからやっぱ水属性の仕事のが良いのかい?」
一人じゃ寂しそうだし西に居る裏の人間全員な。
やれやれ、ワガママな奴だ。しかし京都の財政を救う救世主になるのも吝かじゃないよ俺は。
「喜んでやらせて頂きます! わー! スパイなんてドキドキするなー!!」
それで良いんだ。
「あ、お話終わりました? それなら佐藤さん、これから一緒に遊びましょうよ」
カワサキ……お前って奴は……一条見ろや。死んだ目でお前見てんぞ。




