夢の守り人
「んでまあ、家帰ったらバニーの千佳さんらが居たわけ」
「あー……滑ってる。完全に滑ってるよママ」
「り、梨華さん……滑ってるとかいうのは可哀そうじゃ……」
三人にボコられた翌日。
ようやっと定時で帰れることになったので最近見れていなかった梨華ちゃんたちの様子を確かめることにした。
んで軽く訓練をつけて今はJC二人とお茶をしているわけだ。
DK二人は今日は用事があって居ないので少し寂しいが……まあ、両手に花ってことで我慢するとしよう。
「いやママってそういうとこあるんだよ。小さい頃の話なんだけどね」
梨華ちゃんが語ったのは千佳さんのサプライズ失敗話だった。
本人の名誉のため詳しくは語らないが……やり過ぎ系のサプライズだ。
彼氏と街を歩いてて個人経営の小さい中華料理屋の前を通りかかって、
『中華良いなぁ』
とか何気なく言ったら数日後にサプライズでゴリッゴリの高級中華料理屋に連れてかれたような感じだ。
「ママさぁ。あんまそういう経験ないから変な方向行っちゃうんだよね~」
「そ、そうなんですか?」
「うん。一応表で暮らし始めて友達とかもそれなりに出来たみたいだけど根っこが真面目だからさ」
はっちゃける機会が殆どないまま大人になってしまったせいでズレているのだと梨華ちゃんは言う。
まんま俺が三人に言ったことでちょっと笑った。
「サーナちゃんもママと似たタイプだから今の内に恥かいても良いから色々経験しとくべきだと思うよ」
「は、はあ」
梨華ちゃんが千佳さんと正反対なのは母親の背中を見て育ったからなんだろうなぁ。
今、何となく分かったわ。千佳さんが悪いわけではないし梨華ちゃんも責めてるわけではないんだけどね。
「ってか高橋さんと鈴木さんもそういうタイプだったんだね」
「アイツらはアイツらで俺とつるんでる時以外は大人しいタイプだからなぁ」
「オジサンは基本、誰とでもはしゃぎまくりだもんね」
「いやいや、自制する時は自制するさ」
子供の前とか部下の前だとな。
何のしがらみもないツレと一緒だと……ふへへ、さーせん! 根がチャラいもんで!
「でもバニー……バニーかぁ……ママ美人だけど自分の母親がバニースーツ着てるの想像したら……うん」
そうね。これはちょっと軽率だったわ。
「男の人的にはやっぱり嬉しいものなのバニー?」
「そりゃまあ、うん」
昨日は最初ローギアだったからアレだけど嬉しいか嬉しくないかで言えば嬉しいよ。
「ふぅん? それじゃ私もオジサンが元気ない時、着てあげよっか?」
「あ、はい。気持ちだけで十分嬉しいよ」
「社交辞令に満ちたその言葉が私を傷つけた!!」
JCのバニーに喜ぶオッサンとかやべえだろ……。
いやだがサーナちゃんほどの暴力ならば或いは……? 踏み外してしまうかもしれんなぁ、道を!!
「まあまあ梨華さん落ち着いて。
それで? 英雄さんはご友人にバニーを着せて接待させたお陰で元気を取り戻したと」
サーナちゃん何か当たりキツクな~い?
「接待っつーかボコられたんだけど俺……」
「え、何で?」
「それがさぁ」
事情を説明すると、
「そりゃ怒りますよ。ねえ梨華さん?」
「いや正直オジサンの気持ちは分からなくもない……ってか異世界!? エルフ!? 何それ初耳なんですけど!!」
んお? 有馬兄弟のことは……ああ、あれは光くんだけだったか。
双子ちゃんも居たし裏の話題はしてなかったもんな。
「会いたい! 会えないかなオジサン!?」
「エルフのセツコちゃんはまだ本部の医療施設に居るから会えねえが勇者と魔王ならまあ」
「勇者と魔王も居んの!?」
「居る居る。有馬兄弟っつーんだが」
軽くプロフィールを教えてやると梨華ちゃんの目がキラキラ輝き出した。
大人として子供の期待に応えないわけにはいくまい。
スマホを取り出し連絡を入れてみると直ぐ、返事が来た。どうやら今日は休みだったようだ。
「今から会えるみたいだけど呼ぶ?」
「呼んで!! ね、サーナちゃんも気になるっしょ!?」
「まあ、はい。異世界の存在というのは興味深いですけど梨華さんは何故そこまで……」
サーナちゃん、サブカルとか詳しくなさそうだもんなぁ。
ともあれGOサインが出たし呼ばせてもらおう。
転移で二人を呼び寄せるや、
「勇者です!」
「魔王です!」
「「二人揃って~有馬兄弟でっす★」」
漫才師か。
「え、チャラ……この人たちが異世界の勇者と魔王なの……?」
ポカンとしてる梨華ちゃんとは対照的にサーナちゃんは実力を感じ取ったらしく顔が若干強張っている。
「おう、そうだぜ。ちなみに俺が勇者で名前が勇一な」
「俺が魔王の真央だ。分かり易くて良い名前だろ?」
「西園寺梨華です……でも、えぇ~? な、何かもっとこうファンタジー感が……」
「日本で暮らし始めてそれなりに時間が経っているようですし馴染んでいるのは仕方ないですよ。あ、私はサーナと申します」
「ぼくはさとうひでおです!」
「「知ってる」」
だよな。
「ま、それはさておくとして……じゃあ梨華ちゃん、勇者っぽいの見せてやんよ」
「勇者っぽいの?」
「はい、聖剣」
亜空間から引き抜いたそれは一目でそうと分かるデザインの聖剣だった。
だが見た目だけじゃない。今の梨華ちゃんなら内包する力を正確には測れずとも膨大であることは察せるはずだ。
それとこの世界の器物ではないことも。これは素人が見ても分かるほどの異質な存在感だからな。
担い手の方は上手いこと馴染んで違和感は殆ど消えたが道具は明らかに世界から浮いてるんだもん。
「じゃあ俺は魔剣」
これまた亜空間から引き抜かれたそいつは一目でそうと分かるデザインの魔剣だった。
どうでも良いけど若干、埃被ってんぞ聖剣と魔剣。
俺とやり合った時に使って以来ずっと放置してたな?
「あと聖なる鎧とかもあるぜ」
「呪われた鎧もな」
ジャージから如何にもファンタジーな出で立ちに変化する二人。
その光景を見ていた梨華ちゃんはわなわなと震え、言った。
「ほ、ホントに勇者と魔王なんだ……あ、あの! サイン貰って良いですか!?」
「「喜んで」」
ファンサバッチリだなオイ。
「オジサン見て! 異世界の勇者と魔王のサインだよ!!」
「現代日本の中年リーマンのサインも一緒にどうだい?」
「そっちは良いかな」
ぴえんだぜ。
「ってどうした有馬兄弟?」
何かぷるぷる感極まったように震えてっけど……。
「いや……何だろ。俺、夢を守れたんだなって」
「ああ。俺たちはダメだったけど……いたいけな少女の幻想に応えてやれたと思うと」
そういう理由か。俺も思わず男泣きしちゃいそうだぜ。
「もっとサービスしてやりてえなぁ……お前もそう思うだろ真央?」
「おうよ。そうだ、折角だから戦ってるとこ見せてやらねえか?」
有馬兄弟が俺を見る。なるほどね、意を汲み取り頷く。
「「地球最強VS異世界最強見たい人ー!!」」
「はい! はい! 見たい! すっごく見たい!!」
「み、見れるのは嬉しいですがテンションが……」
兄弟相手となれば俺もちょいと気合を入れんとな。




